最終更新日:2024/8/6
資産管理会社設立で節税できる理由【設立の流れやメリット・デメリットを解説】
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 資産管理会社を設立すると節税になる理由を知ることができる
- どのような人が資産管理会社を設立するといいのかがわかる
- 資産管理会社を設立し維持するためにかかる費用がわかる
個人で資産運用を行い、あるいは副業をしている方もいるでしょう。
個人で保有する資産から生ずる所得は、給与所得と合計して所得税が計算されるため、かなりの税負担となることもあります。
そこで、少しでも税負担を軽減するために利用されるのが、資産管理会社です。
ここでは、資産管理会社とはどのような会社で、どうして節税になるのかを説明します。
また、資産管理会社を設立する際の注意点もご紹介していきます。
目次
資産管理会社とは
資産管理会社とは、個人が保有する資産の管理や運用を目的として設立される会社のことです。
一般的な会社は営利事業を行い、利益を獲得してその利益を株主に配当して還元することを目的としています。
しかし、資産管理会社は資産を保有することを目的としています。
そのため、従業員を雇って対外的に営業活動をすることはありません。
資産管理会社で資産を保有するのは、その方が個人で保有するよりメリットがあるためです。
特に節税になることが、資産管理会社を利用する大きな理由となっています。
資産管理会社設立で節税が出来る理由
それでは、資産管理会社を利用するとどうして節税になるのでしょうか。
資産管理会社で節税ができる理由について、実例を紹介しながら確認していきます。
所得税の税率は所得金額が大きくなるほど高くなる
所得税の税率は、所得金額が大きくなるほど高くなるように定められています。
住民税の税率は一律10%とされていますが、所得税の税率は最大で45%とされているのです。
そのため、所得税と住民税をあわせると最大で55%もの税率で課税されるのです。
これに対して法人税は、基本的に所得金額が大きくなっても一律の税率で課税されます。
法人税と地方税をあわせた実効税率は約33.5%のため、個人として課税されるより税負担が少なくなる場合があるのです。
たとえば、所得金額が3,000万円の人が納める所得税と住民税の合計額は、約1,220万円となります。
この場合、所得に対する実際の税負担率は1,220万円÷3,000万円=40.6%となるのです。
これに対して、法人の実効税率は約33.5%であるため、法人税と地方税の税負担は約1,005万円となります。
この場合、同じ所得金額でも個人と法人では税額が200万円以上変わるのです。
所得を分散することができる
個人で資産を保有している場合、その資産を保有している人に所得が発生するため、1人に所得が集中します。
所得が1人に集中すると、適用される所得税率が高くなり、結果的に税負担が大きくなってしまいます。
所得を分散するためには、保有している資産を他の人に贈与したり譲渡したりする必要があるため、簡単なことではありません。
これに対して資産管理会社を設立した場合、その会社から役員や従業員に対して報酬や給料を支払います。
その会社の役員や従業員となった人に対して給料を支払うことができるため、家族が従業員となれば、所得を分散できるのです。
たとえば、1人に2,000万円の所得が発生した場合、所得税と住民税の合計税額は約720万円となります。
これに対して1,000万円の給料を2人が受けた場合、1人あたりの税額は約202万円、2人あわせて404万円となります。
給与所得控除が適用できる上、所得税率が低くなるため、300万円もの税負担の差が生じるのです。
個人事業主では経費にできないものを経費にできる
個人事業主として経費を計上しようとしても、事業に直接関係のない支出は経費とすることができません。
個人事業で経費にできるものはかなり限定されており、それはつまり税負担が大きくなることを意味します。
これに対して、法人が支出をする合理性のあるものは、経費と認められます。
もちろん、私的な経費のつけ込みは一切認められませんが、親族に対する役員退職金や旅費日当なども法人では経費に含まれます。
資産管理会社設立のメリット・デメリット
資産管理会社を設立すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
また、資産管理会社を設立することにデメリットはないのでしょうか。
先ほど紹介した節税以外のメリットや、デメリットについて確認しておきます。
資産管理会社設立のメリット
個人で資産を保有している場合、亡くなるとその資産は相続財産となって相続税の対象になります。
金額の大きな財産を個人で保有している場合、多額の相続税が発生するため、生前に相続対策を考える人もいます。
しかし、財産を他の人の名義に移すためには贈与税が発生する場合や、変更登記をする必要がある場合があります。
つまり金銭的な負担も大きく、手続きも複雑になってしまうのです。
これに対して資産管理会社を設立した場合、相続人がその会社の株主になることで、相続財産を分散することができます。
また、資産管理会社の株式を子どもや孫に贈与することは、不動産を贈与するより手続きが簡単で、費用もかかりません。
そのため、生前に110万円の基礎控除を超えないように、贈与を行うことができるのです。
さらに、相続人が会社から給料等の支給を受ければ、相続税の納税資金を確保することもできます。
このように、相続対策として資産管理会社を利用することができるのです。
資産管理会社設立のデメリット
資産管理会社を設立するデメリットは、設立費用や維持費がかかることです。
合同会社を設立するためには最低でも10万円はかかりますし、株式会社を設立するのであれば25万円程度かかります。
また、会社の決算や法人税申告書の作成は、自分で行うことは難しいため、税理士に依頼することとなります。
そのため、税理士に対する報酬が毎年数十万円かかります。
さらに、会社は利益が出なくても、最低7万円程度の税負担が発生します。
このように、個人事業を行う場合と比較すると、様々な負担が発生することとなるのです。
資産管理会社設立が向いている人の特徴
資産管理会社設立が向いている人は、資産管理会社を設立した際のメリットをより受けられる人です。
具体的にはまず、個人で不動産を所有し、そこから発生する所得金額が大きい人が該当します。
目安として、不動産所得の金額が900万円を超える場合、あるいは給与所得などが毎年900万円を超える人は、検討の余地があります。
次に、相続税の負担が大きくなることを心配し、相続対策が必要な人が該当します。
推定相続人が多くいる場合には、相続対策と所得の分散の両方ができるため、より効果的と言えます。
逆に、不動産所得があってもその金額が少ない人や相続対策が必要ない人は、資産管理会社を設立するのには向いていません。
そればかりか、資産管理会社を設立することでかえってコストがかさんでしまい、デメリットとなるケースもあるのです。
資産管理会社を設立するときの流れ・必要書類
資産管理会社を設立するためには、どのような手続きが必要となるのでしょうか。
ここではその流れや、必要となる書類を確認していきます。
会社の基本事項を決めておく
会社設立にあたって、決めなければならないことがいくつかあります。
- (1)会社名
会社名を決めるにあたって、細かい決まりはありませんが、他に存在する会社と混同しないような名前にしましょう。
また、株式会社や合同会社といった会社の種類を表す名称は、必ず入れなければなりません。 - (2)本店所在地
会社の本店を決めますが、事務所などを借りる予定がないのであれば自宅にするのがいいでしょう。 - (3)出資者
会社を設立する際に金銭などの財産を出資する人を決めます。
相続対策を考えるのであれば、子どもや孫を出資者に含めるべきと言えます。 - (4)資本金額
以前は株式会社について1,000万円の最低資本金制度がありましたが、現在は1円から会社を設立できます。
大きな金額にしてもメリットはないため、手ごろな資本金額で設立しても問題ありません。 - (5)決算期
個人事業者は暦年で確定申告を行う必要がありますが、会社の場合は決算期を自由に決めることができます。
この他にも決めなければならない事項はありますが、司法書士などに依頼する場合はそのアドバイスに従って進めましょう。
必要なものを準備する
会社を設立する際、どのような場合でも必要になるものがあります。
- (1)社印、代表者印、銀行印、ゴム印
会社の名称が入った印鑑が必要になります。
通常、会社の設立に際して印鑑を作成する際には、これらの印鑑をまとめて作成できます。
作成には時間がかかるため、会社名などを決めたらすぐに作成するといいでしょう。 - (2)定款
会社のルールとして定めるものであり、事業の内容などを定める必要があります。
作成方法や記載例はインターネットで入手することもできますが、すべて自分で作成するのは難しいかもしれません。
そのような場合は、司法書士に依頼して作成してもらうといいでしょう。 - (3)登記に必要な書類
会社を設立する際には、法務局で設立登記を行う必要があります。
法務局で定める書類を作成しなければなりませんが、定款と一緒に司法書士に依頼するのもおすすめです。 - (4)資本金などの資金
資本金や会社設立に必要な登記費用など、必要となる資金を準備しておきます。
会社の設立とその後の届出
会社の設立登記は、最寄りの法務局で行う必要があります。
司法書士に依頼している場合は、司法書士がすべて手続きを進めてくれるため安心です。
一方、自分で手続きをする場合は、書類の不備がないように準備しておく必要があります。
会社を設立したら、税務署や都道府県、市町村に開業届を提出する必要があります。
税務署には青色申告承認申請書も提出して、青色申告ができるようにしておきましょう。
資産管理会社設立・維持にかかる費用相場
資産管理会社を設立し、あるいは維持していくためにはどれくらいの費用がかかるのでしょうか。
資産管理会社を設立してから後悔することのないよう、あらかじめその内容を確認しておきましょう。
資産管理会社の設立にかかる費用
設立登記の際の登録免許税や定款の認証手数料・収入印紙代などがかかる上、司法書士に依頼する場合の報酬も必要です。
資産管理会社の設立にかかる費用は、株式会社と合同会社では違いがあり、合同会社の方が安く済みます。
一般的に、株式会社の場合は30万円~、合同会社の場合は15万円~と考えておきましょう。
資産管理会社の維持にかかる費用
資産管理会社を維持していくためには、会社の決算を行い、毎年申告をしなければなりません。
小さな会社であっても、税理士に決算などを依頼する場合、20~30万円程度の報酬が発生します。
報酬を抑えるためには、自分で記帳を行うなど、税理士に依頼する内容を少なくするしかありません。
資産管理会社を設立するときの注意点
資産管理会社を設立する際に注意点があります。
それは、海外に不動産などの資産を保有している人が資産管理会社を設立する場合です。
海外の不動産を相続したり、資産管理会社に移転したりする際の手続きは、国内で行う手続きより複雑です。
また、海外の不動産を保有している場合には、現地での申告が必要となることも考えられます。
そのため、現地の専門家に様々な手続きを依頼しなければならず、思わぬ費用が発生する可能性があるのです。
また、会社を設立する際に作成する定款にも注意点があります。
資産運用の一環として資産管理会社で有価証券を保有する可能性があるため、そのことを定款に記載すべきです。
有価証券の投資を定款に記載すると、融資を受けにくくなるとも言われることもあります。
しかし、定款に記載していない業務を行うことはできないため、最初から記載しておく方がいいのです。
まとめ
資産管理会社を設立して資産管理を行うことには、節税や相続対策などの面で大きなメリットがあります。
そのため、資産が沢山あって所得金額が大きくなる人ほど、資産管理会社を作る意味があるのです。
逆に、資産がそれほどない場合や所得金額が大きくない場合は、資産管理会社を作るとかえって負担が増えてしまうこともあります。
会社の設立や維持にかかる費用を計算しておき、資産管理会社を設立するかどうかを決めるようにしましょう。