最終更新日:2022/6/6
ホールディングス化(持株会社化)すると節税できる理由とは?メリット・デメリットまとめ
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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この記事でわかること
- ホールディングス(持株会社)とは何かわかる
- ホールディングス化で節税できる理由が理解できる
- ホールディングス化するメリット・デメリットがわかる
- ホールディングス化は事業承継対策にもなることがわかる
- ホールディングス化する流れがわかる
最近では「ホールディングス」の名称がついた会社名を見かける機会が多くなってきました。
これは、ホールディングス化によって、意思決定の迅速化やリスク分散などにつながり、連携納税制度の導入で節税効果も生まれることが主な理由です。
また中小企業においても、事業承継対策としてホールディングス化が有効な対策となり得ることが注目される一因です。
以下では、ホールディングスとは何か、ホールディングス化するメリットやデメリット、ホールディングス化する流れについて紹介します。
また、ホールディングス化で節税できる理由や事業承継対策になる理由についても、詳しく紹介します。
ホールディングス(持株会社)とは
ホールディングスと持株会社は同じ意味で使われ、グループ化して子会社の株式を保有している会社形態を指します。
通常は、グループ会社の株式を保有する親会社を指し、英語ではホールディング・カンパニーと表現されます。
ただし、厳密に言うとホールディングスには2種類のタイプがあります。
一つ目のタイプは、自らの事業を持たずに子会社の管理だけを行う純粋持株会社で、子会社からの配当金が主な収益となります。
二つ目のタイプは、自ら事業を行いながら子会社の管理も行う事業持株会社ですが、日本国内での割合はそれほど大きくありません。
ホールディングス化で節税できる理由
ホールディングスの親会社が得る収益は、株式を保有している子会社からの配当金を得ることによって確保する仕組みとなっています。
また、親会社が保有する特定のブランドの使用料を、子会社に支払わせることによって利益を上げているケースもあります。
ホールディングス化した場合、親会社の所得を子会社の所得と合算して会計処理できる「連結納税制度」を利用できるため、これが節税につながります。
連結納税制度
この納税制度は、ホールディングスに属している会社全体を一つの法人税の課税対象として扱う制度です。
この制度では、ホールディングス内の各会社の黒字と赤字を通算して一つの法人として扱うため、様々なメリットが生まれます。
連結納税制度の仕組みと節税できる理由
ホールディングス化によって導入可能な連結納税制度について、主な仕組みと節税できる理由を確認しましょう。
法人税額を低く抑えることができる
連結納税制度では、親会社と子会社の所得を損益通算できることから、個別で申告する場合よりも法人税額を低く抑えることができる点が最大のメリットです。
たとえば、親会社が2,000万円の黒字で子会社が2,000万円の赤字のケースを考えてみます。
別々に申告する場合、赤字となった子会社に法人税は課されませんが、親会社では23.20%の法人税率で計算して464万円の法人税がかかります。
一方、連結納税制度を利用すると、親会社の黒字額と子会社の赤字額が相殺されるため、課税される所得が消えて法人税が課税されないことになります。
ホールディングス内の利益や損失は繰延できる
ホールディングス内の持株比率100%の子会社からの配当金は益金不算入となるため所得にならず、税金が課されません。
また、ホールディングスに属する会社間の取引によって利益や損失が生じた場合は、それぞれ損金や益金として算入することで課税を繰延できます。
ホールディングス化するメリット・デメリット
前述したように、親会社が子会社の株式を保有してホールディングスとしてグループ化することによって、連結納税制度が導入できて節税効果が得られます。
また、節税面だけではなく、経営や運営上のメリットが生まれる効果もあります。
しかし、連結納税制度にもデメリットがあるとともに、グループ化することによって生じる会社の運営上のデメリットも発生します。
主なメリットとデメリットを確認しましょう。
メリット
節税効果以外にも期待できる、ホールディングス化することによる主なメリットについて確認しましょう。
意思決定が迅速化できる
一人の経営者が複数の事業を展開している場合は、迅速な意思決定を行おうとしても、全ての事業で実現することには限界があります。
優先順位をつけて決定していくにしても、情報の確認や組織への周知徹底などを並行して行うことは難しいため、競合相手に出遅れる恐れもあります。
一方、ホールディングスでは、子会社ではそれぞれ代表取締役を選任して事業を任せることができます。
このため、各事業の展開については、それぞれの代表取締役に権限と責任を持たせ、持株会社の経営者はグループ全体の意思決定だけに専念できます。
つまり、複数の事業を展開する場合でも、意思決定から実行までを同時並行して実現できることになるのです。
リスクを分散できる
一人の経営者が複数の事業を展開している場合は、ある事業で多額の損失が発生すると、全体の収支に影響が及び、他の事業の展開に支障が出るリスクがあります。
一方、ホールディングスでは多額の損失が発生しても、その影響は子会社と持株会社に留めることができます。
他の子会社については損失の影響を及ぼさずにすむため、経営全体としてのリスクを最小限に留めることにつながります。
組織力が活用できる
ホールディングス化して複数の事業で連携を図ることによって、より総合的な経営戦略を展開できるメリットがあります。
また、新規事業を立ち上げる場合も、資金を調達しやすく、子会社間で技術やノウハウを共有できる可能性もあるなど、グループとしての組織力が発揮できます。
子会社ごとに人事制度や給与制度を最適化できる
ひとつの会社で複数の事業を展開する場合は、人事や給与制度は一律のものになりがちです。
一方、ホールディングスの場合は、事業によって異なる人材の条件や給与体系を、子会社それぞれに最適な制度として運用することが可能です。
子会社を売却や買収しやすい
各事業を子会社が行うホールディングスとしてグループ化しておけば、合併や買収など、事業の売却や買収がしやすくなります。
ホールディングスは、事業の整理統合や競争力の強化を図る際にも有効な会社形態と言えます。
デメリット
ホールディングスとしてグループ化した場合に得られるメリットの裏側には、デメリットも存在します。
連結納税制度もデメリットがあるほか、グループ化することによって会社組織の運営上でのデメリットも発生しやすくなります。
連結納税制度は継続適用が不可欠
最大のデメリットは、連結納税制度を利用する場合は継続適用が要件となることです。
いったん導入すると、やむを得ない事情があっても国税庁長官から承認されない限り、適用を止めることができないのです。
連結納税制度は複雑で事務負担が増える
ホールディングスに属する会社内に中小企業がある場合は、親会社の資本金などが特例適用の基準として判断されることがあります。
たとえば、中小企業向けに有利に設定されている交際費の定額控除限度額などは、親会社の資本金などが大きければ特例を受けられないケースもあります。
また、連結納税制度は法人税に関する制度であり、事業税や住民税、消費税については対象外のため、これらはそれぞれ申告と納付が必要です。
こういった細かい事務が増えることにより、そのための人件費がかかる可能性があるということがデメリットと言えます。
子会社の赤字が全体に悪影響を及ぼすリスク
ホールディングスに属する子会社で赤字決算が発生すれば、グループ会社全体のイメージダウンにつながるリスクがあります。
なぜなら、世間一般的にはどの子会社であってもグループの一員としてみなされてしまうからです。
このようなイメージダウンの影響は、会社全体の信用問題に発展するリスクをはらんでいます。
事務的な費用が重複してかかる
ホールディングス内の各社では、それぞれの人事や給与などの独立性を保つことができるメリットがある反面、事務処理費用は余分にかかります。
一つの会社で複数事業を行う場合、事務部門の整理統合などにより費用を削減できるものの、ホールディングスでは重複した費用が発生することになるからです。
ホールディングス化は事業承継対策にもなる
純粋持株会社は、節税や事業承継などにおける株式の分散を防ぐ効果があるため、中小企業での対策としても注目を集めています。
ちなみに、中小企業庁が示すガイドラインでも、持株会社を活用したスキームがとりあげられています
純粋持株会社は以前、事業支配力を過度に集中するものとして設立などが禁止されてきたものの、1997年の独占禁止法改正で解禁されたことが契機となっています。
事業承継での課題
事業を承継する際は、会社の財産や経営を後継者に引き継ぐことになりますが、株式の分散を防ぐ対策、及び相続税や贈与税の対策が大きな課題となります。
引き継ぐことになる会社の財産は、大きく人的資産・物的資産・知的資産の3種類に分けられます。
人的資産としては会社の役職や経営権、物的資産としては会社の株式や事業用資産・資金、知的資産としては信用や人脈、ノウハウなどがあります。
事業を承継するためには、これらを後継者に引き継ぐ必要がありますが、なかでも株式の承継は重要なポイントです。
後継者に株式を集中させることができなければ、後継者は引き継いだ後の経営権を得ることができず、事業が不安定になってしまいます。
したがって、先代経営者が保有していた株式を分散させないよう、後継者にすべて引き継ぐことが重要となるのです。
ホールディングス化が事業承継対策になる理由
最大の理由は、後継者が持株会社を設立して株式を引き継ぐことにより、株式を分散せずに引き継ぐことができることにあります。
自社株式の承継方法
相続時に分散してしまうことがないように円滑な自社株式の承継を行うためには、生前贈与や譲渡、持株会社に譲渡して集約する方法が考えられます。
生前贈与では多額の贈与税が懸念されるものの、後継者への自社株式の売却という形での譲渡では譲渡する相手が明確になるので相続対策となります。
譲渡であれば、現経営者には現金が入るほか、売却された株式は相続財産の対象外になり、承継後に値上がりの心配がありません。
また、譲渡税率は20.315%と一定であり、相続や贈与では発生する相続人の遺留分が発生しないなどのメリットもあります。
ただし、株式を購入する資金を調達しなければならないことがネックになります。
持株会社への自社株式の譲渡
持株会社を利用して自社株式を承継する典型的なやり方は、後継者が持株会社を設立し、株式を買い取ってしまう方法です。
株式の取得後は、既存の会社はグループ傘下の子会社となり、持株会社の経営者となった後継者、既存の事業会社の経営権を引き継ぎます。
手順としては、まず後継者が新しく持株会社を設立したうえで、金融機関から融資を受けて既存の事業会社についての株式を買い取ります。
個人的な譲渡と異なるのは、新しく設立した持株会社は、承継した株式からの配当を原資に、融資を返済できる点にあります。
この方法であれば、譲渡のような多額の資金を準備しなくても、株式を分散させずに後継者への承継が実現可能になるのです。
事業承継時にホールディングス化しておくと節税できる理由
事業を後継者に承継させようと思っても、重い税金負担に二の足を踏むケースも少なくありません。
持株会社に株式を引き継ぐ方法であれば、この際の税負担を軽減することが可能です。
相続税や贈与税を節税
ホールディングスの場合、株式は持株会社へ譲渡されるため、先代の経営者が死亡した場合でも相続財産として残りません。
つまり、先代経営者は、非公開株式の現金化によって引退後の生活資金などを確保でき、株式についての相続税を発生させないことが可能になります。
また、業績が好調で株式の評価額も上がっている場合は、先代経営者が死亡時点まで株式を保有していれば、相続資産額が増加し、相続税が割高になります。
元気なうちに持株会社に譲渡を終えていれば株式は譲渡時点での評価額で済むため、相続税が増加する影響を回避することが可能となるのです。
さらに、後継者に株式を贈与すれば高額な贈与税が発生することになるものの、持株会社へ譲渡することによって回避できます。
このように、持株会社を利用する場合は、後継者に対する負担を避けることができるメリットがあります。
持株会社の株価を低く抑える節税効果
贈与税や相続税を節税できるだけでなく、株式の譲渡にかかる所得税も節税できる効果があります。
いずれの税金も、承継する自社株評価に応じて税金が計算されることになるのですが、ホールディングス化を利用すると節税になります。
なぜなら、株式の買い取りのために、持株会社が金融機関から借り入れを行えば、株式の評価額を低く抑えることができるからです。
株価の価額を算定する際は様々な方法がありますが、基本的に株価は会社の価値から負債額を差し引くことになるため、負債が大きいほど株価を抑える効果があります。
ホールディングス化する流れ
持株会社を設立するには一般的に3種類の方法がありますが、それぞれの流れなどを確認しましょう。
株式移転方式
複数ある既存の会社が新たな会社を設立し、新会社が親会社になる方法です。
この方法は、主に経営統合を目的とするもので、会社同士の経営統合を行ったうえで株式の移転先となる会社を新たに設立して親会社とします。
株主総会での決議が必要なほか、新設した会社では資本金や定款などの手続き以外にも円滑な会計処理も必要です。
なお、許認可の移転手続きは必要ありません。
株価交換方式
既存の会社同士が、相互に株式を交換する方法です。
この方法では、親会社になる会社が子会社となる会社の株式すべてを取得し、親会社はその対価として自社の株式を交付します。
ただし、事前の株価や手順などの打ち合わせが重要です。
抜け殻方式(会社分割方式)
純粋持株会社を設立するために利用される方法です。
親会社は現物出資や事業の譲渡を行って子会社に事業を分割したうえで、事業を行うことなく子会社の管理に専念する手続きを行います。
株主総会での決議が必要で、業種によっては許認可などを承継できないため、該当する場合は認可や免許及び登録手続きが必要です。
なお、株式の移動がないため、株式変更手続きは必要ありません。
まとめ
ホールディングスの会社形態は大企業に限定されたものではありません。
会社の規模には関係なく、中小企業でもメリットを享受できます。
ただし、持株会社に株式を集中させるには、株式取得のために負債を抱えることや株式の譲渡に所得税がかかるなどのデメリットもあります。
また、節税だけが目的となれば、税務署に問題視されるリスクも孕んでいることなどにも注意が必要です。
賢く上手に利用するためには、コンサルティング会社など専門家に相談しながら進めることがおすすめです。