最終更新日:2022/6/6
税金対策として会社2つを経営するのは有効?別会社設立のメリット・デメリットとは
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 会社2つを経営すると税金対策になるのがわかる
- 会社2つを経営するメリット・デメリットがわかる
- 会社2つを経営して税金対策を行う際の注意点がわかる
会社を経営していると、売上や利益をせっかく増やしても、それにつれて税金もどんどん増えていくのは、分かっていてもあまり面白いものではありません。
そのため、様々な税金対策を行うのですが、会社2つを経営することでも税金対策になる方法があると言われています。
そこで、税金対策として会社2つを経営するのは有効か?そのメリット・デメリットなどについて簡単に解説します。
会社2つを設立・経営するメリット
結論から言って、会社2つを経営することで、税金対策になりますが、それは中小企業に限ります。
内容によって、中小企業を「中小法人」「中小企業者」と異なる名称で定義していますが、その違いについては後で解説します。
ここでは、中小企業なら基本的に会社2つを経営するとメリットがある、と認識していただければ問題ありません。
会社2つを設立・経営するメリットは次の通りです。
- ・法人税の軽減税率が使える
- ・事業税の軽減税率が使える
- ・交際費を使える額が多くなる
- ・少額減価償却資産の特例が使える
- ・退職金が計上できる
- ・新設法人の消費税免税措置が使える
- ・利益の移動とリスクの分散ができる
法人税の軽減税率が使える
現在、普通法人の法人税の税率は、23.2%ですが、資本金1億円以下などの中小法人は、年間所得800万円以下の部分については、15%の軽減税率が適用になっています。
そのため、利益が大きい場合は、2つ目の会社を設立して利益分散を行うことで、各社でこの軽減税率が使えるので、1社で経営している時よりも税金対策になります。
事業税の軽減税率が使える
事業税は各都道府県によって独自のルールがありますが、基本的に資本金1,000万円未満などの法人には軽減税率が適用になります。
東京都23区の例では、所得割の標準税率について、年間所得400万円以下の部分が3.5%、400万円超800万円以下の部分が5.3%、それ以上が普通法人と同じ7.0%となります。
そのため、事業税についても利益分散を行うことで、税金対策になります。
交際費を使える額が多くなる
中小法人は、年間800万円までの交際費について、損金の計上が認められています。
これは大企業には認められていない大きなメリットです。
しかし、年間800万円を超えた場合は、会計上の費用としては計上できるため、利益を減らすことはできても、税務上は損金とはならないため、法人税を安くすることはできません。
会社2つを経営することで、この枠を2つ持つことになりますから、年間合計1,600万円まで交際費を使っても損金として計上でき、税金対策になります。
少額減価償却資産の特例が使える
通常、機械や備品などの固定資産は、取得した事業年度に全て経費として計上できる訳ではなく、法定の耐用年数によって毎年減価償却をしていきます。
しかし、中小企業者に該当する場合、年間合計300万円までは取得金額が30万円未満の減価償却資産については、その事業年度に全額損金として計上することができます。
これも2社分持つことができますので、年間合計600万円分の固定資産を一括損金で取得することが可能となり、それだけ支払う税金を抑えることができます。
退職金が計上できる
設立する別会社に既存の会社の役員や従業員を転籍することにより、退職金を支給することができます。
退職金はその分利益を減らすことができますし、受領した役員や従業員も退職金の優遇措置によって所得税が1/2に軽減されます。
新設法人の消費税免税措置が使える
資本金1,000万円未満の法人は、設立後最大2年間は、消費税が免税になります。
つまり、2つ目に設立する会社の資本金を1,000万円未満とすることで、消費税は最大2年間の免税になりますし、その後も課税売上高が1,000万円未満であれば、ずっと免税になります。
利益の移動とリスクの分散ができる
1社で全てを完結するより、会社2つで製造と販売など業務を分割することで、各社で利益を創出することができます。
また、長く事業を行っていると、特定の業界が不況に陥ることがありますが、異なった業種を経営することで、互いに支え合うことができ、安定した事業運営を行うことができます。
会社2つを設立・経営するデメリット
一方、会社2つを設立・経営するには下記のようなデメリットも存在します。
- ・事業運営の費用が増加する
- ・事業運営の手間が増える
- ・税務調査のリスクが増加する
- ・租税回避と見なされる可能性がある
事業運営の費用が増加する
会社が2つになるのですから、事務作業も2倍になります。
当然、人件費も増加しますし、税理士へ支払う報酬も増えます。
新設した法人の独立性を高める場合は、さらに人手が必要となり、営業経費もかかります。
事業運営の手間が増える
仮に費用の増加を抑えられたとしても、事業運営の手間は間違いなく増加します。
必要書類や会計帳票の備え付け、社会保険の手続きなども必要になります。
煩雑化を避けるために、決算期を分けることで、年中繁忙期となる可能性があります。
税務調査のリスクが増加する
会社の数だけ税務調査の可能性がありますから、会社の数が増えることで当然、税務調査対象に選定される可能性が高くなります。
税務調査に入られれば、2社間の取引に不自然な点がないか詳しく調べられる恐れもあります。
租税回避と見なされる可能性がある
2つ目の会社を設立しても、何もせずに利益や経費の付け替えだけをしていると、租税回避行為とみなされて税務署が否認する可能性があります。
また、会計処理のミスとして、税務申告の修正を命じられたり、場合によっては罰則が課されたりすることもあります。
別会社を持つことで税金対策になるケース
では、別会社を持つことで税金対策になるケースについて実際に計算して見てみましょう。
1社のみ経営の場合と、2社会社を持つ場合で比較してみます。
条件として、以下の法人として計算します。
- ・東京都23区内に事務所1か所だけの普通法人
- ・従業者数50人以下
- ・資本金1,000万円
- ・年間所得1,600万円
1社のみ経営の場合の税金
1社のみ経営している場合、各税額は次の通りとなります。
法人税・地方法人税
法人税の税率は、年間所得800万円以下15%、800万円超23.2%なので、
8,000,000×15%=1,200,000
(16,000,000-8,000,000)×23.2%=1,856,000
1,200,000+1,856,000=3,056,000
したがって、法人税は3,056,000円となります。
地方法人税の税率は、法人税額の4.4%なので、
3,056,000×4.4%=134,464
地方法人税は、百円未満切捨てなので、134,400円となります。
法人事業税・地方法人特別税
法人事業税の現在の税率は、年間所得400万円以下3.5%、400万円超800万円以下5.3%、800万円超7%なので、
4,000,000×3.5%=140,000
(8,000,000-4,000,000)×5.3%=212,000
(16,000,000-8,000,000)×7%=560,000
140,000+212,000+560,000=912,000
したがって、法人事業税は912,000円となります。
地方法人特別税の税率は、法人事業税額の43.2%なので、
912,000×43.2%=393,984
地方法人特別税は、百円未満切捨てなので、393,900円となります。
法人住民税
法人住民税(東京都23区の場合は、法人都民税のみ)の法人税割は、法人税額の7.0%なので、
3,056,000×7%=213,920
百円未満切捨てなので、法人税割は、213,900円となり、均等割は、70,000円なので、
213,900+70,000=283,900
法人住民税額は合計で、283,900円となります。
2社経営する場合の税金
2社経営する場合、年間所得は各社800万円ずつとして、同様に各税額を計算します。
法人税・地方法人税
法人税の税率は、年間所得800万円以下15%、800万円超23.2%ですが、どちらも800万円なので、
8,000,000×15%=1,200,000
1,200,000×2=2,400,000
したがって、法人税は2社合計で2,400,000円となります。
地方法人税の税率は、法人税額の4.4%なので、
1,200,000×4.4%=52,800
52,800×2=105,600
地方法人税は2社合計で、105,600円となります。
法人事業税・地方法人特別税
法人事業税の現在の税率は、年間所得400万円以下3.5%、400万円超800万円以下5.3%、800万円超7%なので、
4,000,000×3.5%=140,000
(8,000,000-4,000,000)×5.3%=212,000
(140,000+212,000)×2=704,000
したがって、法人事業税は2社合計で、704,000円となります。
地方法人特別税の税率は、法人事業税額の43.2%なので、
(140,000+212,000)×43.2%=152,064
地方法人特別税は、百円未満切捨てなので、1社あたり152,000円となり、
152,000×2=304,000
2社合計で304,000円となります。
法人住民税
法人住民税(東京都23区の場合は、法人都民税のみ)の法人税割は、法人税額の7.0%、均等割は70,000円なので、
1,200,000×7%=84,000
84,000+70,000=154,000
154,000×2=308,000
法人住民税額は2社合計で、308,000円となります。
2つの場合を表で比較
上記の試算を表にまとめてみました。
税目 | 1社のみ経営 | 2社経営 |
---|---|---|
法人税 | 3,056,000円 | 2,400,000円 |
地方法人税 | 134,400円 | 105,600円 |
法人事業税 | 912,000円 | 704,000円 |
地方法人特別税 | 393,900円 | 304,000円 |
法人住民税 | 283,900円 | 308,000円 |
合計 | 4,780,200円 | 3,821,600円 |
法人住民税は会社の数だけ均等割が課されるため、若干高くなりますが、他の税目に関しては大きく下がり、会社2つを経営することで、年間100万円近く税金が安くなることがわかります。
「中小法人」と「中小企業者」の違い
次に、冒頭で少し紹介した「中小法人」と「中小企業者」について解説します。
中小企業にすればよいからと、資本金さえが少なくすることで、上記全てのメリットが受けられる訳ではありませんので、この点をきちんと理解する必要があります。
中小法人
中小法人とは、特に法律に規定されたものではないのですが、通常は下記のものを中小法人と便宜的に呼びます。
- ・資本金が1億円以下
- ・資本金が5億円以上などの大法人による完全支配関係がない
つまり、親会社の資本金が5億円以上ある場合に、自社の全ての株式を保有するなど、完全な支配関係にあれば、子会社でも孫会社でも、資本金が1億円未満でも中小法人にはなりません。
中小法人でない場合、メリットの所で解説した、法人税や交際費の特例が認められなくなります。
中小企業者
中小企業者とは、中小法人に似ているのですが、租税特別措置法に規定された下記のものを中小企業者といいます。
- ・資本金が1億円以下
- ・発行済株式の1/2以上を1社の大規模法人が所有していない
- ・発行済株式の2/3以上を複数の大規模法人が所有していない
ここでいう大規模法人とは次のものをいいます。
- ・資本金が1億円を超える法人
- ・資本金が5億円以上などの大法人による完全支配関係にある法人(資本金の額は関係ない)
つまり、資本金が1億円超の法人や、資本金が5億円以上の法人に完全支配関係にある会社(資本金の額は関係ない)に株式を50%以上保有されていれば、資本金が1億円未満でも中小企業者にはなりません。
中小企業者でない場合、メリットの所で解説した、少額減価償却資産の特例が認められなくなります。
中小法人と中小企業者はこうした違いがあるため、中小法人であっても中小企業者ではないという法人が存在してしまいます。
会社2つを設立・経営する場合は、そのメリットを最大限に受けるために、1つ目の会社の資本金や株式の保有状況をきちんと確認するようにしましょう。
会社2つを設立・経営する際の注意点
会社2つを設立・経営する際は、下記のような点に注意して、租税回避と見なされない工夫をする必要があります。
- ・役割ではなく業務を分割する
- ・他社との取引を増やす
役割ではなく業務を分割する
会社2つを設立・経営する際に、事務の担当や営業の目的を分けるなど、1つ目の会社で行っている業務の内容をただ分割しただけでは、事業の入口と出口が同じになってしまい、税務署に単なる税金対策だと見なされてしまいます。
たとえば、メーカーであれば、製造と販売を分けて2社を設立しても各々で利益を出すポイントを作るなど、別会社であることが客観的にわかるようにする必要があります。
不動産会社などでも、建築設計、住宅販売、保険、ローン金融など、全体としては一つの事業でも、個々の会社が完全に独立しています。
他社との取引を増やす
会社2つを設立・経営する際は、各々の会社が積極的に他社との取引を増やすように努力しましょう。
本来の目的は税金対策であったとしても、各社の事業が発展拡大することで利益が飛躍的に増大していきますし、2社間の取引も相対的に減少していきます。
まとめ
ここまで、会社2つを経営するのは税金対策としては有効か、またそのメリット・デメリットなどについて解説してきました。
きちんと設計をすることで、大きなメリットが得られることが分かっていただけたのではないでしょうか。
せっかくの大切な利益を守るためにも、会社2つを設立・経営することを検討してみてはいかがでしょう。