最終更新日:2024/11/20
一般社団法人が支払う税金の計算方法【税制上のメリット・デメリットも解説】
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
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この記事でわかること
- 一般社団法人の税制について理解できる
- 非営利型一般社団法人が支払う税金がわかる
- 非営利型一般社団法人のメリット・デメリットがわかる
一般的な株式会社は、営利法人に分類され、営利を上げることを目的とし、株主に対して利益剰余金(配当)等を分配します。
それに対して一般社団法人は、非営利法人に分類され、法人の社員(社団の構成員)や設立者などに剰余金等を分配することは禁止されています。
こう聞くと、一般社団法人は利益を出す事業を行えないのでは?と疑問に思う方もいるかもしれませんが、利益を出すこと自体には全く問題がありません。
ですから、「非営利法人」という意味は「利益を出すことは問題ないけれど、剰余金等の分配はできない」と覚えておいてください。
さて、非営利法人である一般社団法人ですが、所得(利益)がある以上、税金が課税されます。
本記事では、一般社団法人が支払う税金について解説するとともに、特に非営利型の一般社団法人の税制に関するメリット・デメリットについて説明していきます。
目次
一般社団法人の税制は2種類に分けられる
一般社団法人は、税法上の法人区分の違いによって「普通法人型」と「非営利型」の2種類に分けられます。
一般社団法人は、利益剰余金等を分配することはできませんが、収益事業を行うことは可能ですし、問題もありません。
ですから、一般社団法人が行う事業は、収益を生む収益事業と、それ以外の事業に分けられます。
上記2種類の違いは、課税対象が収益事業から生じた所得に限られるか、事業全体の所得となるかです。
- ・普通法人型 全ての所得に対して課税される
- ・非営利型 収益事業のみに課税される
普通法人型は、その名の通り普通の法人(株式会社等)と税制上は変わりませんので、特別な要件は必要ありませんが、非営利型とするためには、法人税法上の要件を満たす必要あります。
ここで非営利型の一般社団法人の要件について詳しく解説しましょう。
非営利型法人の要件
非営利型の一般社団法人には、さらに2つのタイプがあります。
「非営利性が徹底された法人」と「共益的活動を目的とする法人」です。
「非営利性が徹底された法人」は、事業により利益を得ることまたは剰余金や残余財産を分配することを目的としない法人で、NPO法人のような法人です。
一方、「共益的活動を目的とする法人」は、同業者組合や学術団体のような組織で、会員の会費で運営経費などのほとんどを賄う法人です。
それぞれには、法人税法、法人税法施行令で定める要件がありますので、説明します。
非営利性が徹底された法人
- (1) 定款において剰余金の分配を行わない旨の定めがあること
- (2) その定款に、解散したときは、残余財産が国もしくは地方公共団体または公益社団法人等に帰属する旨の定めがあること
- (3) 上記1及び2の定款の定めに反する行為を行うことを決定し、または行ったことがないこと
- (4) 各理事について
その理事及びその理事の配偶者または3親等以内の親族その他のその理事と一定の特別な関係のある者である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること
共益的活動を目的とする法人
- (1) その会員の相互の支援、交流、その他会員に共通する利益を図る活動を行うことを主たる目的としていること
- (2) 定款に、その会員が会費として負担すべき金額の定め又はその金額を社員総会もしくは評議員会の決議により定める旨を定めていること
- (3) 主たる事業として収益事業を行っていないこと
- (4) 定款に特定の個人または団体に剰余金の分配を受ける権利を与える定めのないこと
- (5) 定款において、解散したとき、その残余財産が特定の個人または団体に帰属する旨を定めていないこと
- (6) 1から5まで及び下記7に掲げる要件のすべてに該当していた期間において、特定の個人または団体に剰余金の分配その他の方法によって特別の利益を与えることを決定し、または与えたことがないこと
- (7) 各理事について
その理事及びその理事の配偶者または3親等以内の親族その屋のその理事と一定の特別な関係のある者である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること
収益事業について
普通法人型と非営利型の違いは、課税対象が全ての所得となるか、収益事業の所得に限られるかです。
この収益事業とは、いったいどのようなものを指すのか説明しておきましょう。
税法上では、収益事業を下記の34事業と定義しています。
- (1) 物品販売業
- (2) 不動産販売業
- (3) 金銭貸付業
- (4) 物品貸付業
- (5) 不動産貸付業
- (6) 製造業
- (7) 通信業
- (8) 運送業
- (9) 倉庫業
- (10) 請負業
- (11) 印刷業
- (12) 出版業
- (13) 写真業
- (14) 席貸業
- (15) 旅館業
- (16) 料理店業・その他の飲食店業
- (17) 周旋業
- (18) 代理業
- (19) 仲立業
- (20) 問屋業
- (21) 鉱業
- (22) 土石採取業
- (23) 浴場業
- (24) 理容業
- (25) 美容業
- (26) 興行業
- (27) 遊技所業
- (28) 遊覧所業
- (29) 医療保健業
- (30) 技芸教授事業
- (31) 駐車場業
- (32) 信用保証業
- (33) 無体財産権の提供等を行う事業
- (34) 労働者派遣業
また事業が上記の法人税法上の収益事業と定義されていても、以下のような場合は収益事業として扱われません。
それは次に該当する者が、その事業に従事する者の総数の半数以上を占めており、かつ、その事業が該当者の生活の保護に寄与しているようなときです。
- ・身体障害者福祉法に規定されている身体障害者にあたる者
- ・生活保護法によって生活保護を受けている者
- ・児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター等により知的障害者と判定された者
- ・精神障害福祉に関する法律等の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者
- ・年齢65歳以上の者
- ・母子家庭の母
さらに、一般社団法人の活動として多く実施されているセミナーについては、基本的に収益事業とはみなされませんが、セミナー会場で書籍を販売したり、専門家やコンサルティング会社を斡旋したりするような場合は、収益事業とみなされることもあります。
収益事業にあたるかどうか判断に困るような場合は、税務署もしくは税理士などの専門家にご相談ください。
普通法人型一般社団法人の税率は株式会社と同じ
普通法人型の一般社団法人は、株式会社と同じく全ての所得に対して課税されます。
また、株式会社と同じく、法人税、法人事業税、法人住民税が必要となります。
普通法人型の法人税の税率は、株式会社の場合と同じで、下記の通りとなります。
- ・年間800万円以下の所得部分に対して 15%
- ・年間800万円超の所得部分に対して 23.2%
この税率は、一般社団法人の非営利型でも同じです。
ですが、法人税の計算の元になる課税所得の対象が異なりますので、ご注意ください。
非営利型一般社団法人が支払う税金
非営利型法人の要件を満たす一般社団法人の場合、「収益事業がすべて課税対象となる一般社団法人」として、各事業年度の所得金額のうち、収益事業から生じた所得に関してのみ、法人税が課税されます。
ですから、非営利型の一般社団法人が行っている事業に対して課税される対象は以下のようになります。
- ・収益事業以外の所得=非課税
- ・収益事業から生じた所得=課税(法人税・法人事業税・法人住民税)
さらに、収益事業から生じた所得に対して課税される法人税、法人事業税、法人住民税について詳しく解説します。
法人税について
非営利型の一般社団法人の法人税に関しては、以下の計算式で算出されます。
- ・法人税=「収益事業より生じた所得」×法人税率
法人税率は、所得金額に応じて異なりますが、下記のような税率となります。
- ・年間800万円以下の部分に対しての税率 15%
- ・年間800万円超の部分に対しての税率 23.2%
法人税率自体は、普通法人型の一般社団法人と変わりませんが、課税対象となる所得が「収益事業より生じた所得」に限定されます。
たとえば、非営利型の一般社団法人が、収益事業で1,000万円の所得、収益事業以外で200万円の所得があったとします。
この場合、収益事業の1,000万円の所得に関してのみ法人税が課税されることになります。
また、年間の課税所得金額によって法人税率が異なりますから、計算式は下記のようになります。
所得金額1,000万円なので
- ・1000万円×税率15%=150万円
- ・200万円×税率23.2%=46万4,000円
となり、合計税額は196万4,000円ということになります。
課税所得金額が1,000万円ですから、
- ・まず800万円以下の部分には税率15%が適用され、
800万円×税率15%=120万円 - ・さらに800万円を超える200万円の部分に対しては税率23.2%が適用され、
200万円×税率23.2%=46万4,000円
となり、これらを合計した166万4,000円が法人税となります。
法人事業税について
法人事業税は地方公共団体によって課税されるものですから、事業所がある場所によって、税率は変わってきますのでご注意ください。
法人事業税の計算式は下記の通りです。
- ・法人事業税=「収益事業より生じた所得」×法人事業税率
法人事業税率は、地方公共団体によって個別に設定されていますので、該当する地方公共団体に確認が必要ですが、ここでは参考に東京都(23区内)の場合をご紹介しましょう。
こちらの情報は、東京都主税局が公表しているものですが、時期により変更になる場合もありますので、ご了承ください。
- ・年間400万円以下の所得の場合 3.5%
- ・年間400万円超800万円以下の所得の場合 5.3%
- ・年間800万円超の所得の場合 7.0%
こちらは、令和2年4月1日以降に開始する事業年度に適用される税率となっています。
法人住民税について
法人住民税も、地方公共団体によって課税されるものですから、該当する地方公共団体への確認が必要ですが、ここでも東京都の例をご紹介します(東京都の場合は法人都民税といいます)。
法人住民税の計算式は下記の通りです。
- ・法人住民税=所得割(「収益事業より生じた所得」×法人住民税率)+均等割
法人住民税は、課税所得から計算した「所得割」と「均等割」の2つを合算した金額となります。
「所得割」の税率は、東京都の場合、下記の税率となります。
- ・都民税法人税割(23区内) 7%(道府県税相当分1.0%+市町村民税相当分6.0%)
「均等割」に関しては、資本金額や従業者数によって変わりますが、一般社団法人の場合は一律で7万円となっています。
均等割の7万円は、たとえ収益事業から利益が出ずに所得ゼロとなった場合でも発生する税金ですから、ご注意ください。
たとえば非営利型の一般社団法人で、収益事業を全く行わない場合、発生する税金は法人住民税の均等割(約7万円)のみとなります。
非営利型一般社団法人のメリット
非営利型の一般社団法人の税制上のメリットについて説明しましょう。
収益事業以外の所得には課税されない
普通法人型の一般社団法人の場合は、すべての所得に対して課税されますが、非営利型の場合は、収益事業から生じた所得以外には課税されません。
たとえば、一般社団法人の会員から会費を得ている場合、普通法人型は会費収入にも課税されますが、非営利型であれば、この会費収入は収益事業から得たものではありませんので、課税対象となりません。
組織変更等により累積赤字の損金算入ができる
非営利型の一般社団法人の場合、収益事業以外の事業で赤字が出ても、元々課税対象とならない事業ですから、損金算入することはできません。
ですが、非営利型から普通法人型へ変更した場合は、全所得に対して課税されることになりますので、収益事業以外から生じた累積赤字を損金に算入することができます。
たとえば、非営利型の一般社団法人が、収益事業で500万円の所得、収益事業以外の収支が赤字でマイナス500万円となっている場合で考えてみましょう。
非営利型のままで、確定申告する場合、収益事業の500万円に課税されます。
ですが、普通法人型に変更すると、全所得に対して課税されることになりますから、所得収支はプラスとマイナスでゼロとなりますので、税金が課税されないということになるわけです。
ですから、非営利型の一般社団法人は、収益事業、収益事業以外の所得のバランスを見て、普通法人型への変更を検討できるということです。
非営利型一般社団法人のデメリット
続いて、非営利型の一般社団法人の税制上のデメリットです。
収益事業以外の赤字は損益通算できない
たとえば収益事業以外でボランティア事業を行っている場合、会費等だけでは賄えず赤字となっていても、その赤字額を収益事業の所得から差し引くことはできません。
収益事業とそれ以外の事業の損益通算ができませんので、収益事業以外の赤字額が多い場合はデメリットとなります。
法人型の変更等により累積所得が加算される
メリットの逆パターンです。
収益事業以外の事業で、会費や寄付金などの収入が多く所得が黒字となっている場合、非営利型の一般社団法人が普通法人型へ変更すると、収益事業以外の事業の黒字額が益金として課税所得に加算されることになります。
今まで課税所得に加算せずに別勘定となっていた黒字額が、普通法人型への変更で、全体所得に入るということです。
課税所得が増えれば、当然税金も増えることになります。
まとめ
一般社団法人は非営利法人ですから、株式会社等の営利法人と違って、利益の分配を行うことはできませんが、収益事業を行うことはできます。
また一般社団法人も法人ですから所得があれば、法人税、法人事業税、法人住民税が課税されます。
しかし、課税対象となる所得は、一般社団法人の中でも「普通法人型」と「非営利型」で異なります。
「普通法人型」の場合は、全所得に対して課税されますが、「非営利型」の要件を満たす場合は、課税対象となるのは収益事業のみとなります。
ですから「非営利型」の場合、収益事業を行わなければ、法人税と法人事業税は一切かからないということになります。
法人住民税については、全く収益事業を行わないとか、赤字で所得額がゼロという場合でも、均等割の税額(約7万円)は課税されます。
言い換えれば、収益事業を行わない「非営利型」の一般社団法人の場合は、年間約7万円しか税金はかからないということになります。