最終更新日:2021/12/16
節税対策で不動産を活用できる?勧められる理由と注意すべきポイント
この記事でわかること
- 不動産投資が節税になる仕組みついて理解できる
- 不動産投資が自分に合っているかどうかわかる
- 不動産投資でどの税金が安くなるのかについてわかる
不動産を所有していると、節税になると耳にしたことはありますか。
この記事では、不動産を持つことでどのような恩恵があるのか、気をつけるべき点などについてご紹介します。
目次
節税対策としての不動産所有が勧められる理由
不動産を所有することによって、所得税・住民税と贈与税、相続税を節税することが可能な場合があります。
この章では、そもそもどのような仕組みで不動産の所有が節税につながるのか、解説します。
減価償却費と損益通算で所得を減らせる
節税対策として不動産を所有するときのキーワードは減価償却費です。
物件の価値はいつまでも同じではありません。
建物部分については価値がどんどん減って行きます。
そこで、減価償却という仕組みを使って、建物の価値を時間の経過に合わせて減らして行きます。
減価償却費は、考え方として存在する費用です。
実際に減価償却費分のお金が手元から出ていくのではなく、帳簿上の価格を減らしていくことが特徴です。
最終的に一定の年数が経過した建物については、価値がゼロになります。
減価償却費は費用ですので、給与所得など他の所得と損益通算をして総合的に所得を減らすことが可能です。
株やFXは損益通算ができない
株やFXも投資商品として人気ですが、損益通算をすることができません。
損益通算で得られる節税効果は、不動産投資ならではのものといえるでしょう。
他の税制控除枠と組み合わせることが可能
配偶者控除や海外居住の税金など、他の税制控除枠などと組み合わせることで節税できることがあります。
ハイリスク・ハイリターンな投資を避けたい場合にも最適
株式投資など、ハイリスク・ハイリターンな投資は敬遠してしまう、とはいえ銀行預金の利子では物足りないという方の場合、節税しながら着実に稼ぐための不動産投資が最適です。
今の言葉でいえば不動産投資家になるのでしょうが、「大家さん」は昔からあった職業です。
不動産投資は、地道に投資をしたい人にはおすすめの投資方法です。
とはいえ、不動産投資にも注意すべき点はあります。
不動産の節税対策【所得税】
不動産投資をすると、所得税が安くなることがあります。
その仕組みを解説します。
給与所得と不動産所得を損益通算できるから
所得税は累進課税のため、所得が高ければ高いほど税金が上がってしまいます。
サラリーマンなど、雇用されて働く人が受け取る給与所得と、不動産を運用することで得られる不動産所得は損益通算が可能です。
不動産所得=家賃収入―必要経費 という計算式で計算します。
必要経費の中には、外注管理費、修繕積立金、損害保険料、租税公課のほか、減価償却費などが含まれます。
損益通算とは、不動産所得で出てしまった赤字と給与所得を足して、所得税を計算することができるということです。
不動産投資が本質的な赤字になってしまうことは、投資でお金を増やそうと思っている人にとっては不本意なことです。
しかし、不動産投資の赤字が減価償却費によるものであるとしたら、現実にお金は出て行かずに帳簿上の赤字になることになります。
結果として、不動産投資をしなかった場合よりも、損益通算によって所得が減るので、所得税が少なくなります。
住民税は所得税と連動するので安くなる
住民税は、所得税と連動して計算されます。
所得税が安くなるということは、住民税も安くなるということです。
不動産の節税対策【贈与税】
贈与税は贈与をする人ではなく、贈与を受ける人が申告する税金です。
不動産を贈与する場合は、贈与税がかかります。
贈与税を計算するときの財産評価は、相続税評価額を用いて計算します。
相続税評価額は、現金で持っておくよりも2〜3割程度安く評価されます。
資産を贈与したいときは、現金で贈与するよりも不動産を贈与したほうが安くなります。
ただし、不動産を贈与するときには、不動産の名義を変えるための登記が必要です。
登記には登録免許税がかかりますし、登記申請を代理してもらう場合は司法書士報酬がかかります。
これらを総合して、お得になるかどうかを計算しましょう。
数値例
贈与税の速算表は以下の通りです(国税庁ホームページより引用)。
以下は一般用贈与財産用の税率です。
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 500万円以下 | 1,100万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | - | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
ちなみに、直系尊属(祖父母や父母)から、その年の1月1日において20歳以上の子や孫へ贈与する場合は、特例贈与財産用の税率を用います。
特例贈与財産用の税率の方が低めに設定されています。
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | - | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
以下では、一般贈与財産用の税率を用いて計算します。
現金3,000万円をそのまま贈与すると、贈与税は以下の通りに計算できます。
(3,000万円-控除額250万円)×50%=1,375万円 1,375万円の贈与税がかかります。
一方で、3,000万円相当の不動産が2,100万円と評価された場合の贈与税は、以下の通りです。
(2,100万円-控除額250万円)×50%=925万円 この場合は、925万円の贈与税で済みます。
1,375万円-925万円=450万円なので、現金をそのまま贈与する場合に比べて、不動産を活用すれば450万円節税できたことになります。
このケースでは、登記にかかる手数料などを考慮しても、節税のメリットがあります。
不動産の節税対策【相続税】
不動産を所有することで、相続税を減らすこともできます。
相続税の計算方法
ここで簡単に、相続税の計算方法についてご紹介します。
まずは、遺産の総額を把握し、課税遺産総額を計算します。
次に相続税の総額を計算し、遺産分割の割合に応じて按分することで各相続人にかかる税額を計算します。
相続税の税率
以下は、相続税の税率です。
国税庁ホームページで公開されています。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
1億円を子ども2人で相続するパターンを考えてみます。
現金そのままの場合
遺産総額は、現金1億円の場合は、1億円のままです。
基礎控除額は、3,000万円+600万円×2人=4,200万円になります。
課税対象額は、1億円-4,200万円=5,800万円です。
子ども2人の法定相続分は、それぞれ2分の1です。
法定相続分に応ずる取得金額は、2,900万円なので、速算表の3,000万円以下の行の税率と控除額を利用します。
子ども1人あたりの相続税は以下のように計算されます。
2,900万円×15%-50万円=385万円
法定相続人2人の相続税を合計すると、770万円になります。
不動産の場合
不動産1億円相当分の場合、相続税評価額を用いて計算するので、現金と比較して2〜3割程度安くなります。
仮に、2割安くなったとしましょう。
遺産総額は8,000万円になります。
基礎控除額は、3,000万円+600万円×2人=4,200万円のままで、変わりません。
課税対象額は、8,000万円-4,200万円=3,800万円です。
子ども2人の法定相続分は、それぞれ2分の1ですので、法定相続分に応ずる取得金額は1,900万円になります。
速算表の3,000万円以下の行の税率と控除額を利用し、以下のように計算できます。
子ども1人あたりの相続税:1,900万円×15%-50万円=235万円
子ども2人分の相続税を合計して、470万円になります。
現金でそのまま1億円相続するよりも、300万円相続税が安くなりました。
実際には、資産全部を現金のままとか、不動産にするといった極端な選択肢は考えづらいですが、節税になる仕組みと、節税のイメージがつきやすくなったのではないかと思われます。
不動産の評価は現金に比較して2〜3割安い
相続財産を評価する場合、贈与税の計算と同様に不動産については相続税評価額を用いて計算します。
したがって、現金で相続した場合よりも不動産として相続した方が、相続税が安くなります。
今回の計算例でも相続税評価額は現金よりも割安になると仮定しました。
相続税評価額に使用する路線価は毎年1月1日に改定されます。
路線価は売買価格を元にしているので、その土地の人気が出るなどの事情があって、土地の取引価格相場が高騰した場合は、現金で相続する場合よりも相続税が高くなることがあります。
借地借家の場合はさらに評価減
借地や借家の場合には、相続税評価額がさらに安くなります。
たとえば、土地を貸している場合について考えてみます。
貸している土地ですので、地主といえども自由に使うことができません。
したがって、自分で自由に使える土地よりも低く評価されます。
具体的には、
自用地の評価額-借地権の価格=貸地の評価額
になります。
不動産投資で注意したい具体的な5つのポイント
不動産投資で注意したいポイントをご紹介します。
そもそも投資ですので、タイミングによっては思うように収益が上がらずに失敗することもありますし、節税の方法を間違うと脱税になってしまうので注意してください。
土地の価格は変動するもの
大前提として、土地の価格は変動するものだということです。
相続税の対策として物件を購入したものの、後から値上がりしてしまって思うように相続税を節税できなかったというケースがあります。
さらにその前の段階で、投資用物件として売られていた物件の値段が評価額よりも高い値段で売られており、節税ができたとしても損をしてしまうということもあり得ます。
投資用物件として不動産を購入する際は、今後運用していく中で本当に節税になるのかよく試算してみてください。
賃貸経営がうまくいかないこともある
不動産投資は、賃貸経営とセットです。
賃貸経営が様々な事情によってうまくいかなくなることはあります。
たとえば、空室が多く予想よりも家賃収入が上がらないとか、入居者の事情で物件の借り手がいなくなる(孤独死など)などのリスクがあります。
相続税対策として物件を購入したものの、そもそも不動産ビジネスとして失敗していれば節税効果は薄れてしまいます。
入居者のないアパートがあっても節税にはなりません。
不動産投資うまくいきすぎて節税にならない可能性
不動産投資がうまく行くことは良いのですが、所得税の節税を目指している場合、不動産所得が多くなって所得税率が上がってしまうと節税にならない可能性があります。
とはいえ、不動産投資がうまく行くことは良いことです。
この場合は、個人の所得税を節税する方法ではなく、不動産投資事業を法人化して法人として不動産を所有するという対策があります。
物件の修繕費などの負担が重い
建物は随時修繕をしていかなければなりません。
修繕費用は時間をかけて積み立てるべきなのですが、修繕費用がこれまできちんと積み立てられていなかったなどのトラブルがあり得ます。
結果として、修繕費の負担が大きすぎて節税どころではなくなってしまうことがあります。
相続の場合は遺産分割に注意
相続税が安く済むことはメリットです。
一方で、不動産は分割しづらい財産です。
不動産をめぐる争いが起こってしまい、遺産分割トラブルに発展するかもしれません。
パターン別の不動産節税事例
パターン別に、不動産投資を通じた節税事例(案)をご紹介します。
これから節税を考えている場合の参考にしてください。
妻や子どもがいる場合
妻や子どもがいる場合について考えます。
不動産を購入し、不動産の賃貸管理を家族に任せると、家族に支払った給与を経費として参入できます。
単に不動産投資を個人でしている状態というよりは、家族で不動産投資と不動産の賃貸管理事業を経営しているといったほうが正確です。
確定申告で家族への給与を経費として計上するためには、青色申告をする必要があります。
子育てがひと段落した妻がもし就職先を探しているなら、給与を払った上で、不動産の管理をしてもらっても良いでしょう。
子どもについても同様です。
大人になったらお小遣いをあげるのははばかられますが、給与を払って不動産を管理してもらえば良いのです。
給与をもらう側の妻や子どもは手元にお金が入るというメリットがありますし、不動産投資をする側にとっては経費が増えるので所得を抑えることが可能です。
投資のタイミング
次に、投資のタイミング別に節税案をご紹介します。
20代〜40代の働き盛りは将来への備えとして
働き盛りの世代は仕事の合間に不動産投資をして、将来に備えることができます。
20代はまだお金があまりない人が多いと思われますが、コツコツと働いて貯めたお金を30代や40代で不動産購入資金にあて、不動産を所有することは不可能ではありません。
生活費やレジャー費を節約して、投資用の代金に回し、物件から発生する減価償却費を用いて損益通算します。
こうすることで、所得税を減らすことができます。
減らした分のお金はまた投資用に貯金しておきましょう。
シニア世代は退職金の運用として
シニア世代は、退職金の運用方法として不動産投資を始めることが可能です。
まとまった現金を持つ時期は、退職金が入った後を除くとなかなかないでしょう。
投資を始めるには最適の時期です。
退職金をそのまま預金しておくよりは、退職金を元手にして不動産を購入し、家賃収入を得つつ、老後の生活の足しにするほうが、資産が増えるかもしれません。
さらに今後の相続を視野に入れて、相続税対策として不動産を所有しましょう。
現時点での財産を一旦棚卸しし、預金が多すぎるようであれば不動産を購入し、相続に備えます。
相続では争いが起こると困ると考える場合は、生前贈与をすることもできます。
節税対策だけではない不動産投資のメリットとは
不動産投資のメリットは、節税になるだけではありません。
自分で自由に貸したり売ったりできる資産を持っておくことで、人生に広がりが出ます。
独身者の場合、将来に備えて資産をきちんと作りたいと思うでしょう。
不動産投資を通じて賃料を確保し、年金がわりにするという使い方もできます。
さらに、自分で事業をしている人の場合は不動産を持っておくことで、銀行から融資を受けやすくなります。
銀行としては、万が一返済が滞った場合の担保として不動産を押さえておくことが可能だからです。
シニア世代なら、不動産投資を通じて不動産管理業を始めると考えれば、再就職するのと似たような状況になります。
不動産投資と不動産の活用は、新たな生きがいとなるでしょう。
不労所得を得られる
不動産の購入は節税にもなりますが、賃貸物件として活用できれば家賃収入が得られます。
家賃収入があれば、自分が働かなくても毎月お金が入ってきます。
例えば会社を退職したり、病気・怪我で働けなくなったりしても、家賃収入は変わりません。
毎月一定の収入があるため、生活にゆとりがでたり、将来の蓄えになったりします。
不動産以外の節税方法もありますが、不動産だと不労所得を得られるという他にはないメリットがあります。
入居者が決まれば手間がかからない
不動産は賃貸物件で入居者が決まれば、そこまでやることはありません。
定期的なメンテナンス・入居者の対応がたまにあるぐらいで、自分の時間をがっつり使わなくも事業として継続できます。
不動産の管理・入居者の対応が面倒であれば、管理会社に委託も可能です。
すべて任せてしまえば自分が対応する必要がないため、手間はかかりません。
「忙しくて新規事業ができない」「なるべく手間の必要ない事業をしたい」という人には、不動産が向いています。
知っておきたい不動産のデメリット
節税のために不動産購入を検討している人が知っておくべきデメリットを紹介します。
売却までに時間がかかる
もし不動産を売って現金を手にしたいと思ったときに、3〜6ヶ月ぐらいの時間がかかります。
なぜなら不動産は売りたいと思っても、すぐには売れないからです。
不動産査定をして、不動産会社に売却活動をしてもらい、購入者を探します。
購入者が運よく見つかった場合でも、そこから売買契約を結び、ようやく支払いが始まります。
売買契約によって違いますが、購入金額の半分を先に支払って、契約が完了するときに残りの半分を払うケースもあります。
これが不動産ではなく株であれば、売買が成立した瞬間に現金が手に入ります。
不動産を売って現金を手に入れたいときに、時間がかかるのはデメリットでしょう。
災害のリスクがある
不動産は他の事業に比べて、災害のリスクが高いです。
なぜなら災害があると、土地・建物自体が壊れる可能性があるからです。
もちろん保険に入っていれば、ある程度は補償されますが、壊れた家を完全に復元させるのは難しいでしょう。
ローンを組んで購入した物件が災害によって壊れた場合には、ローンだけ残ってしまうかもしれません。
購入する不動産は震災のリスクがどれだけあるのか?をハザードマップ見て確認したり、なるべくリスクの低い物件を選ぶのが重要になります。
まとめ
今回は、不動産投資と節税の関係をご紹介しました。
働き盛りの年代には所得税、シニア世代には相続税や贈与税の節税がおすすめです。
不動産投資は節税以外の魅力がある事業でもあります。
まずは自分の土地勘が働くところで、身近な物件から運用を始めてみてはいかがでしょうか。