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最終更新日:2026/3/16

【相続判例】「遺産ゼロ」の相続人は、介護の対価(特別寄与料)を払わなくていい?最新の最高裁決定(最高裁 R5.10.26決定)

判決の要約

被相続人の介護に尽力した親族(長男の妻など)が請求できる「特別の寄与(特別寄与料)」について、「遺言ですべての財産を他の兄弟に奪われ、相続分がゼロになった相続人」は、この寄与料を負担する義務があるかが争われた事例です。
最高裁判所は、「遺言により相続分がないと指定された相続人は、たとえ遺留分(最低限の取り分)を請求していたとしても、特別寄与料を負担しないと解するのが相当」という初判断を下しました。
これにより、特別寄与者が寄与に応じた対価を請求できる相手は「実際に遺産を受け取った人」に限られることが確定しました。

事件についての情報

裁判所
最高裁判所第一小法廷
判決日(決定日)
令和5年10月26日
事件番号
令和4年(許)第14号
判決全文
PDFファイルを開く(裁判所ウェブサイト)

本件の経緯

この事件は、亡くなったAさん(被相続人)を介護した「特別寄与者:長男の妻(X)」が、遺言により相続分がゼロとなった「二男(Y)」に対し、特別寄与料の支払いを求めた事案です。

「相続分を全く受けていない相続人であっても、特別寄与料の支払い義務を負うのか」という点が問われました。

  1. 登場人物
    • 被相続人:A
    • 相続人:長男(B)、二男(Y)
    • 特別寄与者(請求者):長男の妻(X)
  2. 遺言の内容:被相続人Aは生前、「全財産を長男Bに相続させる」という遺言を残していました。これにより、二男Yの相続分はゼロとなりました。
  3. 特別寄与料の請求:長男の妻Xは、Aの生前に献身的な介護を行い、Aの財産の維持に寄与したとして、民法1050条に基づき特別寄与料を請求。
    その際、法律上の「相続人」であるYに対しても、法定相続分に応じた支払いを求めました。
  4. Yの反論:「私は遺言により、相続財産を一切承継していない。すべての財産を相続した兄(長男B)のみが、特別寄与料の義務を負うべきだ」

争点

2019年(令和元年)施行の民法改正で新設された「特別の寄与」制度(民法1050条)では、特別寄与料は「各相続人が、その法定相続分等に応じて負担する」と規定されています。

本件における最大の争点は、「遺言により『相続分ゼロ』とされた相続人が遺留分侵害額請求を行使した場合、特別寄与料を負担すべき『相続人』に含まれるのか?」という点でした。

具体的には、同条5項が定める負担割合の基準が、遺留分侵害額請求という後発的な事情によって修正されるのか、それとも遺言による指定相続分という形式的な基準によって画一的に定まるのかが問われました。

X(特別寄与料を請求した側)の主張

Yは遺留分侵害額請求権(最低限の遺産取得分を取り戻す権利)を持っているのだから、実質的には相続人だ。その取り分の中から特別寄与料を分担すべきだ。

Y(特別寄与料を請求された側)の主張

遺留分はあくまで金銭請求権にすぎない。私は遺産そのものを承継していないのだから、負担義務はない。

最終的な判決

最高裁判所は、Yの主張を認め、「Yは特別寄与料を負担しなくてよい(支払義務なし)」と判断しました。

判断の理由

最高裁は、「特別寄与料の負担者は、原則として『相続人』であるが、遺言によって『相続分も遺贈もなし』とされた者は、ここに含まれない」と解釈しました。

たとえその者が「遺留分侵害額請求」を行っていたとしても、それはあくまで「侵害された分の金銭を請求する」という別の権利行使であり、「遺産を承継した受益者」としての性質を持つわけではないため、介護料を負担させるのは不当であると結論づけました。

本事例から学ぶ教訓と対策(税理士からのアドバイス)

この判例は、介護を担った親族が特別寄与料を請求する際、「誰に対して請求を立てるべきか」を明確にした重要な指針となります。

1. 介護の対価は「財産を引き継いだ相続人」に請求する

この判決により、「遺産をもらっていない相続人(相続分ゼロの人)」への請求は否定されました。

本件のように、長男が遺産のすべてを相続したケースにおいて、長男の妻は自分の夫に対し、特別寄与料を請求することになります。

「同じ家計内で請求しても意味がない」と思われるかもしれませんが、税務上のメリットは無視できません。

支払った寄与料は、夫(長男)の相続税の課税価格から差し引くことができ、一方で妻は贈与税ではなく、相続税の枠組みの中で(遺贈とみなされて)財産を取得できます。
家庭内での適切な「資産移転」の手段として有効です。

2. 遺留分と寄与料の「計算の切り分け」が可能に

もし二男が介護料を負担することになると、「遺留分の計算」と「寄与料の分担」という、2つの異なる仕組みが絡み合い、計算式が極めて複雑になるところでした。
最高裁が両者を切り離したことで、実務上の計算はシンプルになりました。

  • 二男:長男に対して、純粋に遺留分だけを請求すればよい。
  • 長男の妻:長男(夫)に対して、寄与料を請求すればよい。

3. 特別の寄与に確実に報いるなら「遺言」を残すこと

「特別の寄与」制度は、貢献に報いるための救済策ですが、家庭裁判所でその額を認めてもらうには、詳細な介護記録や証拠を揃える必要です。

たとえば、「介護してくれた長男の妻に報いたい」と願うなら、遺言書に「長男の妻に〇〇万円を遺贈する」と明記しておくことが、最も確実で負担の少ない対策といえます。

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