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最終更新日:2026/3/16

【相続判例】預金は「自動的に分割」されない?実務を激変させた決定的判決(最高裁大法廷 H28.12.19決定)

判決の要約

「預貯金」は、相続開始と同時に法定相続分に従って当然に分割されるのか、それとも遺産分割協議の対象となるのかが争われた事例です。
最高裁判所大法廷は、これまでの判例(昭和29年判決など)を変更し、「預貯金債権は、相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となる」という画期的な判断を下しました。
これにより、現在は原則として「話し合い(遺産分割協議)がまとまらない限り、被相続人の預貯金は相続人全員の共有財産であり(準共有)相続人単独では口座の解約もできない」というルールが法的に確定しています。

事件についての情報

裁判所
最高裁判所大法廷
判決日(決定日)
平成28年12月19日
事件番号
平成28年(受)第579号
判決全文
PDFファイルを開く(裁判所ウェブサイト)

本件の経緯

本件は、多額の「特別受益(生前贈与)」を受けた相続人と、受けていない相続人の間の不公平をめぐる争いです。

  1. 相続財産:預貯金が約3,800万円。
  2. 特別受益の問題:相続人の一人(A)は、生前に被相続人から約5,500万円もの贈与を受けていました。
    もう一人の相続人(B)は、贈与を受けていませんでした。
  3. 従来のルールでの計算(Bの不満):当時の判例ルールでは「預金は死亡と同時に、法定相続分(1/2)で自動的に分割される」とされていました。
    これに従うと、Aは生前に5,500万円をもらった上に、残った預金の半分(1,900万円)も持っていくことになります。
  4. Bの主張:「Aは財産をもらいすぎだ。預金3,800万円はすべて私がもらって調整しないと、不公平すぎる(計算上の不公平を是正したい)」として、預金を遺産分割のテーブルに乗せるよう求めました。

争点

最大の争点は、「預貯金は『現金』のように自動的に分けられるのか、それとも『不動産』のように話し合いで分けるべき財産なのか?」という点です。

従来の判例(「最高裁昭和29年判決」など)

「預金は可分債権(分けられる権利)なので、相続開始と同時に法律上当然に分割され、各相続人に帰属する。(=遺産分割の対象ではない)」

今回の争点

「預金が勝手に分割されてしまうと、特別受益(生前贈与)の持ち戻し計算など、相続人間の公平を図る調整ができなくなる。これはおかしいのではないか?」

最終的な判決

最高裁判所大法廷(裁判官15名全員一致)は、これまでの判例を変更し、「預貯金は遺産分割の対象となる」と判断しました。

判断の理由

最高裁は、現代において預貯金が「現金」に近い機能を果たしていること、そして何より「相続人間の公平」を重視しました。

「もし預金が自動的に分割されるとすると、生前贈与を多く受けた者がさらに預金まで受け取ることになり、不公平を是正できなくなる。遺産分割手続の中で、預貯金を含めて調整を行うことが、憲法や民法の理念に合致する」と結論づけました。

本事例から学ぶ教訓と対策(税理士からのアドバイス)

この判決は、法律家だけでなく一般の方の相続手続きにも、以下の3つの大きな影響を与えました。

1. 銀行が口座を凍結するのは「正解」になった

昔は「銀行が勝手に口座を凍結するのはけしからん、私の法定相続分だけ払え」と窓口で揉めるケースがありましたが、この判決により、遺言書がある場合などの例外を除き、「遺産分割協議書(全員の実印)がないと払わない」という銀行の対応は正当ということになりました。

つまり、「遺産分割で揉めている間は、預金を引き出せない」というリスクが格段に高まったと言えます。

2. 「預貯金の仮払い制度」の活用(法改正の知識)

この判決で預金がロックされることによる生活費不足を防ぐため、その後の法改正(2019年)で「預貯金の仮払い制度」が創設されました。

遺産分割協議がまとまる前でも、一定額(各相続人の法定相続分に相当する額のかつ上限150万円まで)であれば、相続人が単独で預貯金を引き出せる制度です。困った時はこの制度を活用しましょう。

3. 相続税申告への影響(未分割申告)

預貯金が「遺産分割の対象」となったことで、話し合いが長引くと、預貯金も含めてすべての財産が「未分割(誰のものか決まっていない)」状態となります。

相続税の申告期限(10カ月)までに話がまとまらないと、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった大幅な節税特例が一旦使えない状態で申告(未分割申告)をしなければなりません。

なお、未分割申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくことで、申告期限から3年以内に遺産が分割された場合に、税額軽減の制度を適用できるようになります。
ただし、一時的に多くの相続税を納付する必要があるため、相続人にとっては資金繰りなどの負担が生じる可能性があります。

「とりあえず法定相続分で申告しておけばいいや」と安易に考えず、早期に遺産分割協議が成立するよう努力し、揉めそうな場合は早めに税理士に相談し、「3年以内の分割見込書」を提出するなどの保全措置をとる必要があります。

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