最低限度の生活の保障を目的とした生活保護受給の状態で家賃滞納すると、どのようなリスクがあるのでしょうか。
「生活保護だから家賃滞納をしても大丈夫」と勘違いされている方も多いですが、結論から言うと、強制退去させられる可能性があります。
生活保護に関係なく、家賃を滞納しそうな時は、即座に対処が必要です。
この記事では、生活保護を受給していた場合でも家賃滞納した場合のリスクと、強制退去までの流れ、家賃滞納時の対処法を紹介します。
目次
生活保護受給者が家賃滞納すると、以下の3つのリスクにつながります。
家賃を滞納した場合、福祉事務所に住宅扶助の返還が必要です。
生活保護には、8つの扶助があります。
上記の項目の中で、住宅扶助は家賃や敷金、維持費などに対する給付が対象です。
毎月生活保護費に含めて支給されますが、家賃滞納をするという方は家賃以外に使用しているということになります。
そのため、生活保護の趣旨に反したとみなされ、住宅扶助分は福祉事務所に返還しなければなりません。
つまり、これまでの住宅扶助は打ち切りとなり、自分で滞納分の家賃と返還分の家賃を二重で支払うリスクが伴います。
家賃滞納を行ってしまうと、財産の差押さえや遅延損害金などのペナルティが発生します。
預金や給与、貴金属類や家具など、換金価値のある財産が差し押さえられ、滞納分の家賃に充てられる可能性があります。
また、滞納日数に応じて遅延損害金が請求される恐れもあるため、注意が必要です。
遅延損害金利率は最大14.6%ですが、契約で特に定められていなければ、利率は年3%と設定されています。
たとえば利率3%で家賃10万円を2カ月滞納した場合、遅延損害金は986円と計算されます。
遅延損害金は、延滞日数が長くなるほど金額も大きくなるため、注意しましょう。
家賃滞納による最大のリスクは、強制退去させられる可能性がある点です。
賃貸人から再三の督促を無視し、家賃を3カ月以上滞納すると、賃貸人は明け渡し訴訟を行えます。
さらに期日までに明け渡しをしなかった場合、法的な措置を取った後に強制退去させられます。
ただ、家賃滞納が1カ月、2カ月では退去させられる恐れはありません。
しかし3カ月を過ぎると賃貸人と賃借人の信頼関係が崩れたとみなされ、契約の解除ができます。
生活保護受給者であっても、家賃滞納を行うと非受給者と同じ扱いになるため、注意しましょう。
ここでは、受給者が家賃滞納を行い、強制退去になるまでの流れを解説します。
強制退去が実行されるのは、家賃滞納をしてからおおよそ6カ月ほどとなります。
既に滞納している方や、今月の家賃の支払いが難しいという方は、自分がどの段階にあるのかチェックしておきましょう。
家賃を滞納すると、大家や管理会社から賃借人へ、電話や手紙により督促の連絡が届きます。
督促の連絡時期は賃貸人によって異なりますが、おおよそ滞納日の翌日から1週間以内に来るケースが多いです。
もちろん、すぐに退去の話ではなく、期日までに滞納分の家賃を支払ってほしいという旨を伝えられます。
すぐに支払えば督促が来ませんが、3カ月以上家賃滞納をすると、強制退去の手続きに移行されるケースが高まります。
家賃滞納を3か月以上すると、内容証明郵便で賃貸借契約解除や物件の明け渡し請求が届きます。
この時期には、すでに賃貸人と賃借人の信頼関係は崩壊しているとみなされるため、賃貸人は法的手段を行うことができるためです。
さらに期日を設定して、賃借人に退去してもらう明け渡し請求ができます。
それでも賃借人が退去しなかった場合、裁判所に明け渡し訴訟を行い、最終的には強制退去となります。
この時期になると、賃貸人は裁判を見据えて弁護士と打ち合わせを行っています。
内容証明郵便で賃貸借契約解除や物件の明け渡し請求が来てしまったら、お金を工面するか、自主的に退去に向けて生活保護のケースワーカーへの相談を検討した方がよいでしょう。
裁判所に明け渡しを命じられていたのにも関わらず、賃貸物件に居座っていると、賃貸人は強制執行の手続きへ移行します。
裁判所が強制執行を認めると、執行官が室内の家具などを強制的に運び出し、部屋の鍵も強制的に取り換えます。
賃借人は、部屋の中へ入れず、なおかつ強制執行の費用も後ほど請求される流れとなります。
また、搬出した荷物の運搬費用と、1カ月の保管費用も請求され、非受給者と同様の対応となるため注意しましょう。
生活保護を受給している状態で家賃滞納したときの対処法を3つ紹介します。
家賃が支払えない状態となった際は、大家へ分割支払いができないか相談してみましょう。
理由をしっかり説明すれば、交渉に応じてくれる場合もあります。
事後相談より、滞納しそうとわかった時点で相談した方が、賃貸人への印象はよいです。
まずは、いつまでに滞納分を支払えるのかを、賃貸物件を管理している不動産会社へ伝え、大家に交渉してもらいましょう。
住居確保給付金制度とは、離職や廃業などで家賃の支払いが困難となってしまった方を対象とした家賃助成制度です。
生活保護制度の住宅扶助額を上限に、原則3カ月分の家賃が給付されます。
さらに延長を繰り返せば最大12カ月の給付を受けとれます。
住居確保給付金制度は、大家に直接支払われるため、家賃滞納をしそうな方におすすめです。
ただし、本制度を利用できるのは、以下の条件に当てはまる方に限られます。
受給者でも、要件を満たせば利用できます。
家賃滞納する前に本制度を利用しておけば、大家に迷惑をかけずに済むでしょう。
住居確保給付金制度の利用を検討している方は、厚生労働省の住居確保給付金のホームページを確認しておくことをおすすめします。
家族や親族、友人などからお金を借りて支払う方法も考えましょう。
「身内だからこそ相談しにくい」と考える人もいらっしゃるかもしれません。
しかし、強制退去になる場合の損失とストレスを鑑みて、近しい人に頼る方が安心な対策と言えます。
家賃1カ月程度であれば、身内の方が助けてくれる場合もあるため、思い切って相談してみるのも選択肢の一つです。
受給者が家賃滞納を防ぐ方法を2つ紹介します。
代理納付制度とは、生活保護受給者が住む自治体が生活保護受給者に代わって家賃を支払う制度です。
毎月の住宅扶助の給付は受給者に支払われますが、代理納付制度を利用すれば住宅扶助は直接賃貸人に支払ってくれるため、家賃滞納をする心配がありません。
代理納付制度は、光熱費や滞納分の家賃などは対象外ですが、福祉事務所の窓口に行き、委任状を提出するだけで手続きが完了します。
印鑑を持って申請すれば、早ければ次回の支払いから代理納付がスタートするため、ぜひ活用してみましょう。
家賃保証会社とは、賃借人が家賃を滞納したときに、賃借人に代わって家賃を立て替え払いしてくれる会社です。
近年では保証会社との契約を条件に、入居審査をクリアさせている賃貸人も多いです。
あらかじめ保証会社利用が条件である物件を借りておけば、滞納しても賃貸人から督促の連絡が届きません。
ただし、立て替えなので、後ほど保証会社に支払う必要があります。
家賃保証会社を利用するためには、賃借人は入居時に保証会社へ家賃の0.5カ月分〜1カ月分ほどの保証料を支払います。
保証料は住宅扶助費の支給対象となるため、受給者は支払う必要はありません。
あらかじめ家賃保証会社を利用する物件を選んでおけば、家賃滞納時の保険としても役立つでしょう。
生活保護受給者が家賃滞納すると、住宅扶助の返還をしなければならず、さらに生活が困難となります。
万が一家賃滞納を行った際は、大家への分割支払いの交渉や、住居確保給付金制度が利用できます。
しかし、交渉や申請に応じてもらえない場合も考えられるため、事前に家賃滞納を防ぐ工夫をしておいた方がよいでしょう。