賃貸物件を退去する時は、室内を入居前のキレイな状態に戻さなくてはなりません。
これを原状回復と言います。
原状回復にかかる費用は、入居時に支払った敷金から差し引かれるのが一般的です。
しかし、退去時の費用は全額借主が負担しなくてはいけないのでしょうか。
退去時の費用負担については、貸主と借主の間でトラブルに発展しやすいため、それぞれの義務と役割をしっかり理解しておくことが大切です。
ここでは、貸主や貸主負担について、クリーニング費用はだれが負担するのか、退去費用を抑えるポイントなどについて解説します。
目次
貸主は、物件の所有者いわゆるオーナーのことです。
貸主の他にも、「賃貸人」「大家」と呼ばれることもありますが、貸主と同じ意味を表しているため役割は同じです。
また、物件を借りる人のことを「借主」と言います。
他にも「賃借人」や「入居者」と呼ばれることもあります。
貸主と借主は、賃貸借契約を締結するとそれぞれに義務が発生します。
たとえば、貸主は家賃を受け取る代わりに、物件を使わせる義務や物件を修繕する義務があります。また、物件に何らかの故障が生じて借主が費用を支払った場合、貸主は借主に対してその費用を償還する義務があります。
一方、借主の場合は、以下の義務があります。
また、借主が持つのはあくまでも「借りる権利」です。
貸主の承諾なく第三者へ転貸することや、建て替えや増改築をすることはできません。
なお、建物賃貸借契約では、貸主の身勝手な都合で借主の住む権利が奪われないよう、借地借家法という法律によって貸主が保護されています。
そのため、「家賃の減額請求不可」や「貸主都合でいつでも契約解除できる」などの借主に不利益になるような特約は無効となります。
前述したように賃貸物件を退去するときは、物件を入居前の状態に戻す「原状回復の義務」があります。
この原状回復義務費用の中で、経年劣化による消耗の修復費用については原則貸主が負担します。
これを貸主負担(かしぬしふたん)と言います。
一方、借主の故意によって汚損や破損が生じた場合は、借主に修復義務があるとされ、借主が費用を負担します。
この費用を借主負担(かりぬしふたん)と言います。
ここでは、貸主負担の概要や原状回復のガイドラインを理解するとともに、貸主負担と借主負担の具体例について見ていきましょう。
本来であれば、経年劣化による消耗は貸主負担、借主の故意や過失による汚損、破損は借主負担と分けて考えなければなりません。
しかし、貸主負担と借主負担の線引きは非常に難しく、トラブルに発展することも決して珍しくはありませんでした。
このような背景から、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表しました。
このガイドラインでは、原状回復にかかる契約関係、費用負担のルール等が明確になりました。
また、原状回復をめぐるトラブルの未然防止と円滑な解決のために貸主・借主双方が理解しておかなければならない内容について記されています。
ただし、このガイドラインには法的な拘束力はありません。
あくまでも、トラブル未然防止の観点から妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとしてまとめたものです。
したがって、最終的には原状回復の内容、方法等については最終的に契約内容や物件の使用状況によって個別に判断されます。
原状回復をめぐるガイドラインを参考に、貸主負担の具体例を見ていきましょう。
一方、借主の故意や過失による汚損、破損は、原状回復義務の対象となるため、追加のクリーニング費用が請求される可能性があります。
具体例は以下の通りです。
原状回復はトラブルに発展しやすい事案であるため、借主も自らの義務を理解し、日常生活で汚損、破損をしないよう意識することが大切です。
結論からお伝えすると、クリーニング費用は原則貸主負担です。
しかし、以下に該当する場合は、借主がクリーニング費用を負担するケースもあります。
国土交通省のガイドラインには、原状回復に関する原則が示されているものの、法的な拘束力はありません。
したがって、賃貸借契約書に「クリーニング費用は借主負担とする。」等の記載があれば借主負担となることがあります。
また借主には、善管注意義務があるため、以下のように定められています。
借主がこれらの義務を果たしていない場合は、借主負担となり退去時に請求される可能性もあるでしょう。
ただし、借主に対して不利益な特約を設けることは借地借家法で禁止されています。
つまり、特約の内容を借主が理解して、負担にも同意している場合に限り、クリーニング費用を借主負担にすることが可能です。
退去費用は全額借主が負担する必要はありません。
しかし、入居するときから退去時の原状回復費用を想定しておくことで、退去費用を抑えることができます。
ここでは、退去費用を抑えるための3つのポイントを解説します。
身に覚えのない傷や汚れの修復費用が請求されないよう、入居前からあった傷や汚れは写真に撮って管理会社へ報告しましょう。
たとえば、タバコのヤニで壁紙が汚れていないか、床に傷がついていないか、カビやシミはないかなどを確認してください。
物があると壁や床の傷が見つけにくくなるため、家具や家電を運び入れる前に確認するのがおすすめです。
物件が決まったら、貸主と賃貸借契約を締結します。
賃貸借契約書の中には、借主に不利益な特約が設けられているケースがあるため、重要書類には必ず目を通し、気になる点があればその場で確認しましょう。
なお、借主に不利益な特約は無効であるため、気になる点があれば国土交通省のガイドラインと照らし合わせて確認することをおすすめします。
また、賃貸物件では物件特有の決まり事やルールが設けられていることがあります。
たとえば、ペットの飼育についてや共用部分の利用方法、ゴミ出しの仕方などです。
万が一、禁止事項を破ってしまうと高額な退去費用を請求される可能性があるため、事前に確認しておきましょう。
汚れを放置すると、頑固な汚れとなり自分で除去するのが困難になります。
汚れが広範囲に渡れば、退去時に追加のハウスクリーニング費用を請求される可能性もあるでしょう。
日頃から小まめな清掃を心がけ、部屋をきれいに保つことでカビやシミなどの発生を防ぐことができます。
特に冬場は結露が発生しやすいため、小まめに換気をし、サーキュレーターで空気を循環させるなど工夫すると良いでしょう。
退去費用は、居住年数や間取り、補修箇所などによって大きく変動します。
高額な退去費用が請求されて納得できない場合には、管理会社へ相談、あるいは貸主に交渉するのも有効な手段です。
また、これから物件探しを行う方は、入居する段階で退去時のことを想定しておくことで退去費用が抑えられる可能性があります。
物件は借りているものという意識を持ち、日頃から丁寧に扱うことで、貸主も借主も気持ちよく退去の日を迎えることができるでしょう。