賃貸住宅の契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」があります。
一般的な賃貸住宅の契約は、普通借家契約で進められているため、定期借家という言葉自体を初めて聞くという人も多いでしょう。
本記事では、改めて普通借家契約の特徴や定期借家契約との違いについて解説します。
普通借家契約のメリットとデメリットを理解しておくことで、賃貸住宅の契約の際に役立つことでしょう。
目次
普通借家契約とは、原則1年以上の期間を設けて賃貸借契約を行い、契約期限が到来すると期間の更新ができる契約形態です。
アパートやマンションなどの賃貸住宅の契約のうち、最もオーソドックスな契約形態となります。
賃借人が更新を拒まない限り原則契約関係を継続できるので、賃借人は長く住めることが特徴です。
本章では、普通借家契約と定期借家契約の違いについて解説します。
普通借家契約の契約方法は、必ずしも書面での契約は義務化されておらず、口頭での契約も有効とされています。
これを諾成契約と言います。
しかし、書面がない状態で契約を締結した場合、契約後にトラブルになるおそれがあります。
たとえば、契約期間や賃料設定金額の思い違いなどが起こりやすいトラブルです。
このため、原則契約書は書面で作成することが多く、双方が保管することでトラブルを防止しています。
一方で、定期借家契約は借地借家法38条3項により、契約書を書面で残すことが義務化されています。
さらに、「契約期間の更新がなく、期間の満了により契約が終了する」ということも書面で説明しなければなりません。
なお、書面には公正証書が用いられるケースもあります。
つまり、契約方法については定期借家契約のほうが、より厳格な方法を取っていることになるでしょう。
普通借家契約と定期借家契約の決定的な違いは、契約期間の更新についてです。
普通借家契約は、賃借人に契約継続の意思があれば期間の更新ができますが、定期借家契約は契約期限の到来で退去することが原則となります。
なぜならば、定期借家契約は貸主側の都合で貸されているケースが多いからです。
たとえば、転勤の期間中だけマイホームを第三者に貸す場合があります。
普通借家契約は更新ができる、定期借家契約は更新ができないことが最も大きな違いです。
前述したように、定期借家契約では期間の更新はできませんが、貸主側の状況次第で再契約を結べるケースがあります。
先ほどの転勤を例にすると、転勤期間が当初より伸びてしまったなどの理由で貸主側が転勤先から戻る時期が遅くなってしまったときです。
双方が再契約に前向きであれば、賃料などの条件交渉を行い再契約となることもあるでしょう。
普通借家契約と定期借家契約では、賃料設定に違いがあります。
普通借家契約の賃料は、原則相場並みの賃料設定です。
一方で、定期借家契約の賃料設定は相場より安くなります。
なぜなら、あらかじめ退去日が決まっている賃貸住宅は、長期間の居住が難しいからです。
また、定期借家契約の期間を満了することを約束して借りてくれるなど、貸主側にとって都合のよい借主がみつかる可能性も低いでしょう。
このため、定期借家契約は賃貸需要が低いために賃料は相場より安く設定され、普通借家契約は賃貸需要が高いために相場並みに設定されます。
普通借家契約は中途解約ができますが、定期借家契約では原則中途解約はできません。
普通借家契約の場合、管理会社や貸主に事前に連絡することで中途解約が可能です。
ただし、契約によっては違約金を請求されるケースや、解約希望日の何日前までに連絡が必要かなどの細かいルールがあるので注意しましょう。
なお、定期借家契約は原則中途解約ができないルールになっていますが、条件を満たせば解約できる場合もあります。
たとえば、定期借家契約の残存期間相当分の賃料を違約金として支払うことです。
また、中途解約権行使に必要な事項を全て満たすことで、解約が可能となります。
必要条件は、以下に挙げたとおりです。
ただし「やむを得ない事情」については、貸主からの申し出や裁判の場合は裁判所が判断するため、認められるかは当事者により異なります。
中途解約権を行使しての解約は、ハードルが高いと考えておきましょう。
普通借家契約には、メリットとデメリットがあります。
本章では、賃貸住宅の一般的な契約形態である普通借家契約のメリットとデメリットについて理解していきましょう。
はじめに普通借家契約のメリットは、以下のようなものが挙げられます。
普通借家契約のメリットは、契約の更新ができることで長く住めることです。
一般的にアパートやマンションなどの賃貸住宅の契約期間は、ほとんどのケースで2年間に設定されています。
契約期間満了後は、借主が退去の意思を示さない限り、自動で契約の更新ができます。
このように、借主に長く住む意思があれば、その意向を反映できるのが普通借家契約となります。
なお、借主主導で契約更新できるルールになっているのは、借地借家法により借主が守られることが基本的な考えであるからです。
仮に賃貸住宅で2年間の契約期間満了後に貸主に契約解除できる権利があったら、借主にとっては不都合となります。
借地借家法は、借主の不都合や経済的損失を被ることを防止しています。
これらが要因で、賃貸借契約は原則借主の意向で更新できるルールとなっています。
中途解約ができることも普通借家契約のメリットです。
普通借家契約では、借主が希望すれば契約期間の更新ができ、さらに契約期間中の解約も可能となります。
つまり、長く住むこと若しくは長く住む予定でも事情が変われば解約もできるので、自由度が高いと言えるでしょう。
また、貸主の都合で契約期間中に立ち退きをさせられることは、原則ありません。
なぜなら、立ち退きには正当事由が必要だからです。
なお正当事由の認否は、裁判所の判断となります。
同じような事象でも判例により、正当事由の認否には違いがあります。
たとえば、建物の老朽化を理由とした立ち退きでも、建物のメンテナンス状況により正当事由の認否が変わります。
一方で、正当事由を補完するものとして立ち退き料を貸主が提示し、借主が合意して退去するケースはあります。
他にも借主の明らかな契約違反(賃料の未納や滞納、居住のルール違反など)では、強制退去となることもあります。
一般的に賃貸住宅の契約は、普通借家契約が多いため物件の選択肢が定期借家契約より広がります。
多種多様な条件や希望に応えられる可能性が高いのが、普通借家契約です。
立地、広さ、間取り、家賃などの条件を細かく設定することで、条件に合致する物件が見つかる可能性が高いでしょう。
一方で普通借家契約のデメリットは、以下のようなものがあげられます。
まずは、更新時の賃料交渉が難しいことです。
普通借家契約は、借主に有益な契約形態ですが、賃料交渉においては賃主が前向きに応じてくれるケースはほぼないでしょう。
なぜなら、賃料を下げることで賃料収入が下がるからです。
貸主側には賃貸住宅経営の収支計画があり、賃料交渉に応じると資金をストックする計画や修繕計画にも影響が出ます。
築年数が古く全体の稼働率が下降しているなど、賃主側に不都合な特段の事情がない限り、賃料交渉は難しいと考えておきましょう。
一方で、契約更新時に物価高や経済情勢などを理由に、家賃が値上げされるケースは少なくありません。
普通借家契約の賃料は、定期借家契約より高いこともデメリットとなります。
一等地のマンションやタワーマンションの最上階など、プレミア感があれば、相場より割高になるケースもあるでしょう。
普通借家契約は、原則契約期間の更新が可能な契約形態です。
また、途中解約もできるので、居住期間については借主側の自由度が高いことがメリットと言えます。
他にも普通借家契約は、一般的な賃貸住宅の契約に用いられているので、物件の選択肢が多いこともメリットです。
普通借家契約は借主の都合で進められる契約、定期借家契約は貸主の都合で進められる契約ということができます。
普通借家契約は、借主に有益な契約形態であるので、一方で更新時の賃料交渉は難しくなると思っておきましょう。