これまで家賃を滞納してこなかった方でも、病気やケガ、勤務先の倒産などによる収入減で、家賃の支払が困難になるケースもあるでしょう。
通常、賃貸借契約書には家賃の支払を滞納すると契約解除になる旨が記載されています。
では、家賃を滞納した後に貸主から退去を求められたら、すぐに出ていかなくてはならないのでしょうか。
結論として、家賃を滞納してもすぐに退去する必要はありません。
家賃の滞納後、支払の督促、賃貸借契約の解除、裁判所の手続きなどのステップを経て、指定された期日に強制退去が行われます。
家賃滞納から強制退去までは、5〜7カ月ほどかかるケースが一般的です。
家賃の支払を滞納してしまった場合、まずは強制退去までの流れや対処法を確認しておきましょう。
目次
大家からの督促があっても家賃を滞納し続けると、以下のような状況になります。
それぞれを詳しく解説します。
家賃を滞納すると、賃貸契約が解除される場合があります。
とはいえ大家でも、自己都合による一方的な賃借人との賃貸借契約解除は認められません。
大家に契約を解除する正当事由があり、大家と賃借人の信頼関係が崩れていると認められる場合に解除できます。
家賃の滞納が続いた場合、この「信頼関係が崩れている」と認められる原因です。
ただし、家賃が滞ったとしても通常はすぐには賃貸借契約を解除できません。
目安として3カ月以上の滞納があり、支払の催告をしても借主が応じなかった事実が必要です。
催告とは、1~2週間ほどの期間を設定し、賃貸人は賃借人へ期間内に滞納した賃料を支払うよう促す通知です。
3カ月以上の家賃滞納があると、大家や管理会社は賃貸の継続が難しいと判断して解除にむけた催告などを行う可能性が高くなります。
逆に家賃を滞納しても、3カ月以内に支払えば賃貸借契約が解除される可能性は低いです。
賃貸借契約の締結時に連帯保証人を設定している場合、家賃を滞納すると貸主は連帯保証人に支払いを要求できます。
一般的に、家賃滞納があって督促をしても連絡がとれないまま1カ月以上経過すると、連帯保証人への連絡や督促が始まるケースが多いです。
大家や管理会社にとっても、賃借人から家賃を回収できないリスクが高まっているため、連帯保証人への連絡は支払いを強く求める厳しいものになります。
連帯保証人にとっては、契約後何年も経ってからの突然の連絡となるケースも多く、大家からの督促に驚き戸惑う方がほとんどでしょう。
法律上、連帯保証人はたとえ借主に支払いができる資力がある場合でも、貸主から請求があったときは支払いを拒否できません。
連帯保証人に親族などを設定している場合、人間関係が悪化してしまう恐れがあるでしょう。
大家から支払いの督促があった後、滞納を続けると賃貸借契約が解除されます。
賃貸借契約が解除された後もさらに居座り続けると、入居物件の明け渡し訴訟を提起されるでしょう。
最終的には指定された期日に裁判所の執行官から退去の強制執行が実施されます。
強制退去の時点で入居物件に残っていた家財などは運び出され、裁判所の指定する保管業者に預けられます。
この時点で、周囲の人や関係者に強制退去の旨が知られてしまう可能性が高いでしょう。
預貯金や給与なども差し押さえの対象となるため、勤務先にも家賃滞納や強制退去の事実が知られてしまいます。
賃貸借契約に特約があったとしても、大家自身の手で借主を強制退去させたり、室内の物品を処分できません。
また、強制退去にかかる費用は大家から裁判所へ支払いますが、後に大家から賃借人にその費用を請求できます。
入居物件を借りるとき、最近では家賃保証会社の利用を求められるケースが増えています。
家賃保証会社は、賃借人からの家賃の支払が滞ったときに大家へ相当額を肩代わりし、後に賃借人へ請求します。
家賃保証会社が家賃の支払を立て替えると、賃借人の事故情報が信用情報機関に登録されるでしょう。
これがいわゆる「ブラックリストに載った」といわれる状態で、事故情報が登録されると、原則としてローンやクレジットカードの作成などができません。
引っ越しなどで入居物件を探すときに、入居審査が通らない可能性も高くなります。
信用情報機関に登録された事故情報が抹消されるまで、一般的に5年〜10年ほどの期間経過が必要といわれています。
期間が経過し、事故情報がまだ残っているかを調べたい場合、信用情報機関の本人開示制度を利用するとよいでしょう。
賃貸の家賃を滞納した場合でも、すぐに立ち退きや強制退去にはなりません。
家賃滞納後の期間や、大家の対応によって、家賃滞納~強制退去までの期間は異なります。
ここからは、賃貸の家賃を滞納してから立ち退き・強制退去までの流れを解説します。
家賃の滞納を行うと、まず大家や管理会社から賃貸人へ電話や手紙が届きます。
一般的には、滞納からおおよそ1週間以内に電話や手紙による通知があるでしょう。
この段階では、すぐに退去は求められず「いつまでに支払いが遅れた家賃を振り込んでください」といった内容に留まるケースが多いです。
家賃を滞納してから1~2カ月経過すると、大家や管理会社は連帯保証人へ賃借人の家賃滞納を通知します。
この通知方法は、通常、内容証明郵便です。
連帯保証人への通知を行う時点で、大家や管理会社が賃借人から家賃回収できないリスクを考慮しているため、単なる通知に留まらず家賃の支払いを強く求める内容になります。
連帯保証人に迷惑を掛けたくない場合、家賃滞納から1カ月以内に滞納分を支払いましょう。
家賃を滞納してから3~6カ月ほど経過すると、賃貸借契約の解除や強制執行のための手続きが行われます。
家賃滞納してから3カ月経過すると、法的に大家から賃貸借契約を解除できる状態になるためです。
大家や管理会社は、賃借人を積極的に退去をさせる動きを取りはじめます。
この時期にさしかかると、弁護士や裁判所を巻き込んだ争いに発展します。
内容証明郵便で賃貸借契約解除通知が来てしまったら、自主的に退去するのが望ましいでしょう。
家賃を滞納し、大家が裁判所に強制執行の手続きを取った後も賃貸物件に居座っていると、裁判所の命令で強制退去させられます。
なお、裁判所の強制執行で掛かった退去費用は、退去させられた賃借人が支払わなければなりません。
強制退去のしくみ上、大家が強制執行の費用を立て替えた後に、賃借人がその費用を支払います。
賃貸の家賃が払えなくなったときは、以下の対処をしましょう。
それぞれの方法について詳しく解説します。
大家や管理会社へ連絡する場合、できるだけ早くした方が良い結果になるケースが多いです。
家賃を滞納した場合でも、大家はすぐに賃貸借契約を解除できません。
3カ月以上の滞納があり、内容証明郵便などの書面で予告通知した場合に、大家から賃貸借契約の解除ができます。
そのため、家賃の滞納期間が3カ月未満の場合、大家は退去を求めるより滞納分を回収する方向で考えている場合が多いでしょう。
早めに大家や管理会社へ連絡すれば、滞納分の分割返済を認めてくれるケースがあります。
また、返済計画まで伝えれば、連帯保証人への通知を取りやめてくれるケースもあります。
賃借人が家賃を支払えなくなった場合、大家は連帯保証人に支払いを求めます。
連絡を受けた連帯保証人は驚き、賃借人に事情の説明を求めるでしょう。
連帯保証人は親族など賃借人の人間関係をもとに引き受けているケースが多く、場合によっては支払いを巡ってトラブルになりかねません。
連帯保証人から大家に滞納家賃分を支払った場合、本来家賃の支払い義務がある賃借人に弁済を請求できます。
すでに大家から連帯保証人に連絡があった場合でも、できる限り早く賃借人自身から連帯保証人へ事情を説明しておくのが望ましいといえるでしょう。
賃借人からの連絡があった場合となかった場合では、一般的に連帯保証人が受ける印象も全く異なってくるからです。
強制執行が行われてしまうと、強制的に家の鍵を取り替えられ、室内に入れなくなります。
しかも、家具撤去などに掛かった費用は後で全額請求されます。
次の引っ越し先を決める時間もなく、強制執行の費用も支払わなければなりません。
ある程度強制執行をされそうな状況になったら、自主退去をしましょう。
自主退去をすれば、次の引っ越し先もある程度選択する時間を確保し、自身で家具をリサイクルセンターに持ち込み、撤去費用を圧縮できます。
ここからは、賃貸の家賃滞納に関してよくある質問を紹介していきます。
敷金は滞納・未払いの家賃に当てられません。
敷金は、賃借人が退去したときの室内を原状回復するために預けた金銭であるためです。
原状回復とは、賃貸物件を借りた当時の状態に戻して賃貸物件を返却する行為を指します。
経年劣化による傷や汚れは、修復する必要はありません。
ただし、何かをこぼした染みやたばこのヤニで汚くなったクロスなどは、張替えなどして返却する必要があるため、その費用に敷金が使用されます。
家賃滞納の時効は5年ですが、家賃滞納を時効で消滅させるのは、まずできないと考える方がよいでしょう。
時効によって家賃滞納がなくなるのは、大家が5年間そのまま放置したときです。
ただし、この5年の間に大家が家賃支払いの督促状を送付し、裁判所に強制執行の手続きを取ったら放置していないとみなされます。
上記のケースでは、督促状を送付した日や強制執行の手続きをした日から5年間経過しなければ、時効にはなりません。
つまり、大家が家賃滞納に対して何かしらの行動を起こした時点で、時効はリセットされます。
退去の強制執行が実施されると、裁判所の執行官や荷物の搬出業者が入居物件にきて残っている家財などの荷物を運び出します。
運び出された荷物は、裁判所の指定する保管業者が一時的に預かります。
保管業者に預けられた後、1カ月ほどの期限が定められ、期限を過ぎると荷物は自動的に処分されてしまうのが一般的です。
もし処分されたくない荷物がある場合は、強制退去の期日前に賃借人自身の手で運び出すか、処分期日前に保管業者まで取りに来るようにしましょう。
なお、保管費用はいったん大家が立て替えていますが、後に滞納家賃分とあわせて請求される可能性があります。
処分された荷物は、執行官によって廃棄または競売手続きで換金され、貸主への弁済に充当されます。
住居は生活の基盤となる大切なもののため、事情により家賃を滞納してしまった場合でも、すぐに退去する必要はありません。
まずはできるだけ早く大家や管理会社、連帯保証人に連絡した上で、今後の支払いが難しい場合、強制退去が行われる前に自主退去を検討するのが望ましいでしょう。
対応を先延ばしにすると、大家や管理会社にとても不誠実な印象を与えてしまい、和解や裁判によらない方法での解決が困難になるため、できるだけ早期に対処するのが最善といえます。
弁護士事務所によっては、初回無料相談を行っています。
もし家賃を滞納してしまい、今後どう対処してよいか不安がある場合は、初回無料相談を利用して弁護士に対処方法などを確認しておくとよいでしょう。