近年はペット関連市場の拡大もあり、ペットを飼育するためにペット可の賃貸物件を探している方も多いかもしれません。
ペット可物件は、貸主にとってはペットの爪とぎや臭いなどで物件が損傷するリスクがあり、数が少ないのが実情です。
ペット不可物件で隠れてペットを飼育していたのが発覚すると、高額な違約金が発生する可能性があるため避けた方がよいでしょう。
ペット可物件が見つかった場合も、敷金が高めに設定されていたり、退去費用が高額になるケースがあるため注意が必要です。
ペット可の賃貸物件に居住するときは、退去のときに発生する費用も事前に把握しておきましょう。
ここでは、賃貸物件のペット飼育にまつわる退去費用や違約金などを解説します。
目次
ペットを飼っていた賃貸住宅の退去費用は、一般的に「家賃+10万円~20万円」といわれています。
通常の賃貸住宅の退去費用は、一般的に「5万円~9万円」程度です。
そのため、ペット飼育可の賃貸住宅は敷金が高く、多くの物件で家賃3カ月分などの敷金を設定しています。
また、ペット飼育可の賃貸住宅では、敷金のうち家賃1カ月分は償却される場合もあります。
償却とは、敷金のうち退去時に借主へ戻ってこないと定められている分です。
償却が設定されている理由は、ペット飼育可の賃貸住宅の退去費用は高く、償却としておかないと退去時に揉めやすいためです。
敷金償却が定められている場合、退去時には返還されない償却金額分も見越して資金計画を立てておきましょう。
ペットを飼っている賃貸住宅の退去費用の内訳は、次のとおりです。
それぞれの費用を詳しく解説します。
ペットが傷つけてしまった壁紙は、張り替えをしなければなりません。
壁紙の張替え費用は、部屋の広さによって変わります。
費用の目安は、次の表を参考にしてください。
部屋の広さ | 金額 |
---|---|
6畳 | 約50,000円 |
7畳 | 約60,000円 |
8畳 | 約67,000円 |
9畳 | 約72,000円 |
10畳 | 約78,000円 |
傷によって下地やボードを取り換える必要になった場合、壁紙張替え費用に加えて下地補修の工事費用もかかります。
フローリングも壁紙と同様、傷ついた場合は張り替えしなければいけません。
壁紙と比べ、フローリング張替え費用は割高になります。
フローリング張替え費用の目安は、次の表のとおりです。
部屋の広さ | 金額 |
---|---|
6畳 | 約172,000円 |
7畳 | 約200,000円 |
8畳 | 約230,000円 |
9畳 | 約260,000円 |
10畳 | 約286,000円 |
カーペットの場合は、フローリングよりも交換費用は割安になります。
とはいえ、カーペットにはニオイがつきやすく、注意して生活していても交換費用が発生するケースがほとんどでしょう。
カーペット張替え費用は、6畳で約8万円です。
畳はキズなどの度合いにより、表替えするのか取替えするのかを決めます。
畳の表面だけが軽く損傷した程度であれば、畳を裏返してそのまま使用できます。
傷みが激しい場合、畳表と畳縁(布部分)を新しく交換する「畳の表替え」をします。
さらに畳床とよばれる土台まで傷んだときは「畳の取替え」をしなければなりません。
畳の表替え・取替え費用の目安は、次の表のとおりです。
部屋の広さ | 表替え費用 | 取替え費用 |
---|---|---|
6畳 | 約48,000円 | 約80,000円 |
7畳 | 約55,000円 | 約93,000円 |
8畳 | 約62,000円 | 約106,000円 |
9畳 | 約69,000円 | 約119,000円 |
10畳 | 約76,000円 | 約132,000円 |
柱はペットを飼育していると、爪跡や噛み跡がついてしまい、傷つきやすくなります。
柱の修復費用の目安は、次の表のとおりです。
柱の傷の度合い | 補修金額 |
---|---|
浅い傷 | 約20,000円 |
浅くて長い傷 | 約30,000円 |
深い傷 | 約45,000円 |
尿のシミ | 約50,000円 |
なお、柱の状態によっては上記の補修金額よりも高額になるケースがあります。
ふすまや障子は破れやすいため、気を付けなければいけない箇所です。
大きく傷ついている場合は、ふすまや障子自体を交換しなければなりません。
張替え費用と交換費用の目安は、以下の通りです。
張替費用 | 交換費用 | |
---|---|---|
ふすま | 2,000円~8,000円 | 40,000円~50,000円 |
障子 | 1,500円~2,000円 | 45,000円~85,000円 |
賃貸住宅から退去するときは、次の借主のためにハウスクリーニングが行われます。
ハウスクリーニング費用の目安は、次の表のとおりです。
間取り | 施工金額 |
---|---|
1DK・1DK | 26,000円~46,000円 |
2LDK・3DK | 45,000円~91,000円 |
3LDK・4DK | 58,000円~100,000円 |
4LDK・5DK | 68,000円~115,000円 |
なお、上記の費用は通常のハウスクリーニング費用であり、ペット臭専門のハウスクリーニングをすると倍近くの施工金額になるケースもあります。
退去するとき、借主には原状回復義務があるため、借りた物件を元の状態に戻して貸主に返さなければなりません。
時間の経過で自然と物が劣化する経年劣化は、借主の故意や過失でない限り、貸主が修繕を負担するのが一般的です。
ただしペットによる損壊がある場合、損壊は自然発生したとはいえず、劣化を早めるケースもあるでしょう。
そのため借主に修繕費用の負担が求められるときがあります。
修繕費用の負担割合は、貸主と借主の話し合いで決まります。
特に注意すれば防げた損壊がある場合、故意や過失があるとみなされ、借主が全額を負担するケースもあるため注意しましょう。
修繕費用の負担割合には、経過年数による劣化が考慮されます。
たとえばペットが損傷した物が新品だった場合、経年劣化がないため、修繕負担は借主が負います。
逆に、損傷した物が相当の経過年数を過ぎている場合、借主の負担は残存価値に限定されるでしょう。
物が劣化するのに必要な年数を耐用年数といい、物によって長短が異なります。
なお、物によっては経過年数を考慮しません。
国土交通省のガイドラインで基準が公表されているため、下表で確認しておきましょう。
修繕対象 | 経過年数の考慮 |
---|---|
・壁紙 ・カーペット ・クッションフロア |
6年で残存価値1円 |
・フローリング ・畳 ・柱 ・鍵の交換 ・ふすま |
考慮しない |
・設備機器 | 設備機器の耐用年数で算定 |
たとえば壁紙を損傷した場合、3年経過しているときの借主の負担割合は約半分です。
6年経過すると残存価値がほぼなくなるため、借主の負担もありません。
参照:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(国土交通省資料より抜粋)
ペットを飼育している場合、損壊の状況によっては経年劣化が考慮されにくいケースがあります。
物件の損傷には、通常損傷と特別損傷があります。
ペット可物件であっても、ペットの飼育状況があまりにひどく損傷が激しい場合、特別損耗とみなされる可能性があります。
特別損耗とみなされた場合、原状回復義務を負わなければなりません。
管理や損傷の状況によっては経年劣化が考慮されず原状回復義務が発生する可能性もあるため注意しましょう。
ペットを飼っている賃貸住宅の退去費用が高くなる理由は、次の通りです。
ここからは、それぞれの理由について見ていきましょう。
ペットがドアや壁で爪とぎをしてしまうと、退去費用がかさんでしまいます。
重度の爪とぎでドアの交換や壁紙の下にあるボードの交換も必要になると、10万円以上の費用がかかるケースも珍しくありません。
ドアの交換になると、1枚につき5万円前後かかります。
傷をつけた場所によって大きく費用が変わってくるため、注意しなければいけません。
ペットが壁に穴を空けてしまった場合、壁クロス交換+下地取り換えをしなければいけません。
補修費用は穴の大きさにもよりますが、2万円~4万円程度かかります。
直径15㎝を超えるような穴の補修だと、10万円弱かかってしまうケースもあります。
ペットのニオイが染み込んでしまった場合、ペット臭専門のハウスクリーニングをしなければいけません。
60㎡くらいの室内をペット臭専門のハウスクリーニングをすると、おおよそ15万円弱かかります。
通常のハウスクリーニングであれば60㎡で8万円前後のため、ペットのニオイを取ろうとすると倍の値段がかかってしまいます。
高くなりがちな退去費用を少しでも抑えたいなら、以下のような退去費用を抑える方法を確認しておきましょう。
ここからは、費用を抑える方法について詳しく解説します。
古い爪を新しくし、縄張りを示す爪とぎをやめさせるのは、なかなかできません。
「爪とぎをしてはいけない」としつけようとすると、ペットにストレスを与えて、かえって爪とぎ回数が増えてしまうため注意しましょう。
爪とぎボールやハウスなどを設置して、心地よくできる場所を与えるのが効果的です。
爪とぎする場所が決まれば、他の場所での爪とぎ回数が減るケースもあります。
また、床に専用のマットを敷くと、爪による傷防止だけでなく、足音の抑制にもつながります。
ペットは定期的に体を洗ってあげるとニオイが弱くなるため、物件のニオイ対策になります。
ペットによってはお風呂に入れてはいけない種類や、お風呂ではなくシャワーで洗い流す程度がよい種類もいます。
種類によって対策が変わるため、自分の飼育しているペットに合わせたニオイ対策をしましょう。
毛布や防臭シートなどさまざまな物を置くため、ケージにペットのニオイがついてしまいます。
ケージ自体にニオイがついてしまうと、周辺の壁紙や絨毯、畳などにもニオイが移ります。
ケージの中をこまめに清掃し、天日干しをするとよいでしょう。
ペットを飼育している場所に空気清浄機を置く、消臭剤を使うなど常にニオイ対策をしましょう。
対策をしていれば、壁やフローリングなどにペットのニオイがつきにくくなります。
なお、消臭剤には消臭効果が高い商品や、ペットの排泄物のニオイに特化した商品などがあります。
ペットの種類に合った消臭剤を利用すれば、より一層対策できるでしょう。
ペット可物件の賃貸住宅の退去費用が相場より高い場合、以下のような対処が有効です。
ここからは、詳しい対処法について見ていきましょう。
退去費用が高いと感じたら、自分でリフォーム見積もりを取得してみましょう。
相場より高い退去費用を提示されているかどうかは、自分で見積もりを取得してみないと判断できません。
リフォーム見積もりを取得した結果、家主が提示してきた退去費用は相場に近かったケースもあります。
自分でリフォーム見積もりを取得したら、家主へ退去費用の内訳を書類で提出してもらいましょう。
家主からもらった内訳書と、自分で取得したリフォーム見積もりを比較してください。
不当に高い清掃費用や不必要な修繕などがあった場合、家主に確認しましょう。
退去費用の内訳におかしな項目があるにもかかわらず、家主が耳をかさないときには、賃貸物件退去の専門家に相談しましょう。
退去費用の相談に乗ってくれる代表的な機関は、次のとおりです。
「ペット飼育可賃貸住宅から退去するときに高額な退去費用を請求されている」と伝えれば、すぐに状況を理解した上でアドバイスをもらえるでしょう。
消費者ホットラインなどと連携して家主と交渉しても話がまとまらない場合は、民事調停を起こして解決に導く方法があります。
民事調停は、裁判所で調停委員2名と裁判官が当事者の間に入った上で、当事者の話し合いにより、紛争解決を図る手続きです。
簡易裁判所で手数料1,000円を払えば、民事調停を行えます。
訴訟よりも簡単な手続きで済み、解決までの時間が短い特徴があります。
ペット可賃貸物件の退去費用に関するよくある質問は、以下の通りです。
それぞれの質問に回答します。
退去費用は変わりませんが、退去時に返還される敷金がなくなるため負担は重くなります。
敷金は、主に家賃を滞納した場合や退去時の原状回復費用にあてられる目的で入居時に貸主へ預けておくお金です。
礼金は、契約時に貸主へ支払う謝礼であり、退去時に返還はされません。
敷金・礼金がないからといって、原状回復に必要な退去費用の金額は変わりません。
ただし、退去費用から差し引かれる敷金がないため、高額となるケースもあるでしょう。
ペットによる損壊が非常に大きく、大掛かりな修繕が必要になる場合は100万円を超える可能性もあるでしょう。
通常のハウスクリーニング代や壁紙の張替え費用などの場合、退去費用で100万円を超えるケースはほとんどありません。
ペットを買っていたとしても、損壊が小さい場合は数万円~数十万円の退去費用で済むケースが一般的です。
ただし、管理状況が非常に悪かったり、物件に大きな損傷を与えてしまった場合は修繕費用が高額になるケースもあります。
違約金の相場は、家賃の1~2カ月分が目安です。
物件によっては、より高額な違約金を設定しているケースもあります。
契約書で「ペット不可」と定めてある場合、基本的にペットの種類によらず違約金が発生します。
たとえばハムスターなどの小動物であっても、回し車の音やトイレによる臭いがついてしまう可能性があるためです。
観賞用の魚も、水槽からの水漏れで床に臭いがついてしまう場合があり、違約金を支払わなければならない可能性があるでしょう。
前述の違約金とあわせて、家賃3~5カ月分は請求される可能性があるでしょう。
たとえば、家賃10万円であれば30万円~50万円の請求となります。
退去費用として請求されるのは、ハウスクリーニング代、損傷部分の補修費用、違約金などです。
これらの費用は、修繕の規模や物件の価値に応じて高額になります。
無断で飼育していた場合、貸主の心情から高額な請求を求めるケースもあります。
もし退去費用でお互いに納得ができない場合、最終的には裁判で判断を求めます。
ペット可の賃貸物件に居住する場合、敷金や退去費用など通常よりも費用がかかるケースがあるため注意しましょう。
原則として、ペットを飼育している場合でも退去費用からは経年劣化による損耗が考慮されます。
ただし、通常考えられる程度を超えて損傷させた場合には原状回復義務が残ります。
ペットだけでなく、家主から借りている物件自体もきちんと管理しておくよう心掛けておきましょう。
一方、退去費用が不当に高額な場合、本来不要な項目まで含めて請求されている可能性があります。
まずは請求の内訳を確認し、不自然な項目は家主に説明を求めましょう。
退去費用を巡るトラブルは当事者間で解決が難しいケースもありますが、弁護士の介入によりスムーズに解決する可能性が高くなります。
家主との話し合いが難しい場合、紛争解決の専門家である弁護士に相談するのも有効な方法でしょう。