賃貸物件の貸主が借主に退去を求めるとき、借主の損害を補填する目的で立ち退き料が支払われます。
立ち退き料の金額に相場はないため、具体的な支払い額は貸主と借主の交渉によって決まります。
ただし、弁護士資格を保有していない者が立ち退き交渉を行うと、非弁行為として罪に問われる可能性があるため注意しましょう。
非弁行為とは、弁護士以外の者が行うと違法になってしまう行為であり、紛争の交渉や法律事務などが該当します。
ここでは、非弁行為にあたる行為や、立ち退き料をできるだけ多くもらうための交渉方法などについて解説します。
目次
非弁行為とは、弁護士ではない人が弁護士の専門業務を扱う行為です。
弁護士法第72条では「弁護士資格を持たない人が報酬を得る目的で、弁護士の専門業務を仕事として取り扱ってはいけない」と定められています。
弁護士の専門業務とは、法律事件や法律事務です。
なお、非弁行為をした場合、2年以下の懲役か300万円以下の罰金が科される可能性があります。
非弁行為に該当するのは、依頼人から報酬を得て条件の詳細を交渉したり、相手に行動を求めるよう請求するような行為です。
依頼人の意思をそのまま伝達するだけであれば、非弁行為とはいえないケースもあるでしょう。
ただし、立ち退き交渉は相手に物件からの退去を要求する行為であり、多くの場合は立ち退き料など条件面の交渉も含みます。
条件面の交渉では、退去日の設定や増額分の賃料交渉など、弁護士が代行する必要がある業務として非弁行為に該当するケースがほとんどでしょう。
弁護士法第72条によれば、非弁行為に該当する行為には次の4つの条件が定められています。
ここからは、非弁行為に該当する行為の内容を解説します。
法律事件などを業として報酬を得ている人が、弁護士の資格を保有していないと非弁行為になります。
当たり前ですが、弁護士の仕事を行うには弁護士資格が必要です。
弁護士の資格がなく法律事件などを業とし、報酬をもらう行為は非弁行為です。
この報酬は直接的な報酬だけではなく、間接的な報酬でも非弁行為に該当します。
たとえば、不動産管理会社が立ち退き交渉を行う場合、間接的な報酬を得るため、非弁行為といえるでしょう。
仮に不動産管理会社が立ち退き交渉を無報酬で行ったとしても、管理業務で収入を得ている場合は間接的に報酬を得ているとみなされます。
弁護士の資格なく業として報酬を得ることで非弁行為となる対象は、法律事件や法律事務です。
法律事件とは、法律上の権利や義務に関して争いや疑義があるか、新たな権利や義務が発生する案件を指します。
法律事務とは、上記の法律事件について法律上の効果を発生、変更する事項の処理です。
なお、立ち退き交渉は、判例で法律事件や法律事務に該当すると判断されます。
弁護士資格を持たない人が、報酬を得て法律事件などを「業として行う」と非弁行為になります。
「業として行う」とは、反復継続するもしくはする意思がある行為です。
反復継続して立ち退き交渉を行っていなくても、いつでも立ち退き交渉できる立ち位置にある場合でも業とされます。
そのため、不動産管理会社は立ち退き交渉を常にできる立場にあるため、業としているとみなされます。
ビルの賃借人に対する立ち退き交渉が非弁行為とされた判例があります。
概要は以下の通りです。
事例立ち退き交渉を非弁行為とした判例
B社は無資格にも関わらず、A社から法的な紛争を解決するための報酬を受領し、立ち退き交渉を行ったために非弁行為とされました。
立ち退き交渉は以下の流れで行います。
立ち退き交渉では、貸主に立ち退きを求めるための正当事由があるかどうかが重要です。
貸主に正当事由がある場合、貸主の正当事由の強弱と、借主の退去によって生じる損害を総合的に考慮して立ち退き料は決まります。
立ち退き料をできる限り多くもらう交渉方法は、以下の通りです。
それぞれの方法を詳しく見ていきましょう。
立ち退き料は、貸主と借主の合意によって具体的な金額が決まります。
借主に立ち退く意思がない場合、立ち退き料を多く払ってでも立ち退きに合意してほしいと考える貸主もいるでしょう。
ただし、相場を大きく超える立ち退き料の請求をすると、貸主が交渉を断念するなど今後の交渉が難航する可能性もあるため注意しなければなりません。
以下のようなケースでは、立ち退きで発生した損害を貸主へ請求できます。
特に法人の場合、新しい物件の改装費や設備費用などを含めると高額な損害となるケースがあります。
立ち退き料には、立ち退きによって発生した実費が含まれます。
たとえば、以下のような費用が該当します。
具体的な実費の額は、業者から取得した見積り額などを提示して貸主と交渉するのが一般的です。
立ち退き交渉は法律事件・事務であり、専門家である弁護士に依頼すべきです。
依頼すべき理由とメリットは、以下の通りです。
ここからは、なぜ立ち退き交渉を弁護士に依頼すべきなのかを紹介します。
賃貸物件から立ち退きをさせるためには正当事由が必要です。
正当事由とは、賃貸借契約の更新を拒絶、あるいは解約を求めるときに必要となる正当な理由を指します。
正当事由が賃貸人にとって重大な理由であれば、賃借人を立ち退きさせられます。
ただ、正当事由があるかどうかは法律知識がなければ、わからない場合もあるでしょう。
立ち退き要求をされた場合、何の疑いもなく立ち退きしてしまうケースがあります。
弁護士に立ち退き交渉を依頼すると、賃貸人に正当事由があるかどうかがわかります。
賃貸人に正当事由がないために、立ち退きをしなくて済む場合も少なくありません。
正当事由があり、立ち退き料を支払うと、賃貸人は賃借人を立ち退きさせられます。
立ち退き料は、正当事由が重大なほど立ち退き料が少なくなり、軽い理由になるほど立ち退き料が増えていく傾向にあります。
ただ、法律の知識がなければ、正当事由がどの程度立ち退き料に影響するのか判断できません。
弁護士に立ち退き交渉の代行を依頼すれば、立ち退き料が正当事由に見合った金額なのか判断できます。
立ち退き料が適正でなければ、交渉して立ち退き料を増やせるでしょう。
弁護士が立ち退き交渉をすれば、賃貸人が再三にわたって交渉をしてこなくなり、交渉がスムーズに終わります。
賃借人が弁護士に依頼していないと、賃貸人はうまく交渉を進められると考え、早くよい結果を手にしようと何度も交渉をしてくる場合も珍しくありません。
賃借人側に弁護士がいれば、賃貸人は頻繁に交渉を入れても仕方がないと判断し、交渉の時間を短縮できます。
立ち退き交渉を弁護士に依頼するときは、以下の費用がかかります。
弁護士報酬は弁護士によって異なるため、具体的な報酬額はHPの料金体系や弁護士との相談時に確認しましょう。
弁護士事務所によっては、初回相談や着手金を無料にしているケースもあります。
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立ち退き交渉と非弁行為に関するよくある質問は、以下の通りです。
それぞれの質問に回答します。
立ち退き交渉が完了し、賃借人が物件から退去するとき、退去の立ち合いを不動産会社だけでなく弁護士が行うケースもあります。
退去の立ち合いについても、依頼人から報酬を得る目的であり、条件面の交渉を含む場合は非弁行為に該当する可能性があるでしょう。
立ち退き交渉は、原則として司法書士には依頼できません。
司法書士の主な業務は、登記や供託に関する手続きの代理や書類作成などです。
依頼者から報酬を得る目的で法律事務を代行できるのは弁護士に限られるため、権限を越える範囲は司法書士も非弁行為に該当します。
法務大臣の認定を受けた司法書士であれば、請求額140万円までの訴訟手続きや法律事務を代行できます。
ただし、認定を受けた司法書士であっても請求額が140万円を超えるときは依頼できなくなるため注意しましょう。
賃貸人から立ち退き請求を受けたときは、まず弁護士に相談しましょう。
賃貸人に退去を求める正当事由がなく、賃借人が住み続けたいと希望する場合、退去の必要はありません。
新しい物件へ引っ越す場合も、立ち退き料を多くもらった方が新しい生活を円滑にスタートできるでしょう。
立ち退きに関する正当事由の有無や損害額の計算には、専門的な知見が必要です。
また、弁護士資格を保有していない者が立ち退き交渉を行うのは非弁行為として罪に問われる可能性があります。
立ち退き交渉の経験が豊富であり、親身になって相談にのってくれる弁護士へ依頼するとよいでしょう。