賃貸物件に5年間住むと、水周りや壁紙などが傷んでくるため、引っ越しの際に退去費用がかかる場合があります。
退去費用は原状回復が目的となっており、金額は傷みや汚れ具合で変動しますが、間取りによってある程度の相場が決まっています。
入居から5年目の退去は途中解約になるケースが多いため、違約金の規定なども理解しておくとよいでしょう。
本記事では、退去費用の一般的な相場や、退去費用を抑える方法などをわかりやすく解説します。
目次
賃貸に5年住んでいたときの退去費用相場は、おおよそ6万5,000円〜13万円程度です。
物件によって退去費用は大きく変動します。
ここでは、退去費用に含まれる項目や原状回復費義務の範囲などを解説します。
退去費用は、賃貸物件を退去する際に発生するハウスクリーニング代と原状回復費用を指します。
ハウスクリーニングとは、専門業者が行う物件の清掃サービスです。
水回りの汚れやフローリング、エアコンや換気扇などの掃除が含まれます。
原状回復とは、故意や過失で付けた傷や汚れの修復をする「部屋を入居前の状態に戻す」といった入居者の義務です。
ハウスクリーニングは清掃、原状回復はリフォームをイメージするとわかりやすいでしょう。
原状回復費用は必ず発生するわけではなく、日頃からきれいに使用し、荷物の撤去だけで済む場合もあります。
一方で、ハウスクリーニングはほとんどのケースで行われます。
間取りによって異なりますが、ハウスクリーニング費用はおおよそ1万5,000円〜6万円程度です。
間取り別ハウスクリーニング費用の相場は、以下の表の通りです。
間取り | 費用相場 |
---|---|
1R・1K | 1万5,000円~3万円 |
1DK・2K | 2万円~3万円 |
1LDK・2DK | 3万円~4万円 |
2LDK・3DK | 3万5,000円~4万5,000円 |
3LDK・4DK | 4万円~5万5,000円 |
4LDK・5DK~ | 6万円以上 |
ハウスクリーニング費用は、汚れ具合はもちろん、地域によって業者の単価も異なります。
また、ハウスクリーニング業者が、原状回復も行うケースが多く、まとめた金額で請求される場合も少なくありません。
原状回復しなければいけない範囲は、借主が不注意で付けた傷や汚れなどです。
一方で、経年劣化による損傷や汚れは、貸主が負担します。
日常生活を送る上で、部屋の損傷や劣化は発生するため、すべての損傷を原状回復に含めると、借主の負担が大きくなるでしょう。
原状回復義務の範囲は、国土交通省の原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)で定められています。
参考:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)(国土交通省)
退去費用は、入居時に支払った敷金と相殺されます。
敷金より退去費用の方が高かった場合には、差額分を追加請求されます。
一方で、敷金より退去費用の方が低かった場合、差額分が返還されるしくみです。
敷金 | 退去費用 | 差額分 |
---|---|---|
15万円 | 12万円 | 敷金のうち3万円返還される |
10万円 | 12万円 | 差額の2万円を追加請求される |
一般的に、敷金は家賃の1〜2カ月に設定されている物件が多いです。
敷金0円で賃貸借契約を締結している場合、退去費用だけ請求されます。
一般的な賃貸借契約は2年ごとに更新されるため、途中で退去する場合に違約金が発生する可能性もあります。
5年間入居していた場合、次の更新タイミングは6年目です。
更新前に退去すると、途中解約扱いになるケースが大半です。
途中解約での違約金の金額は、賃貸借契約書に明記されています。
不動産会社が使用する賃貸借契約書のひな形である「国土交通省の定める標準の賃貸借契約書」では、以下のように記載されています。
引用:
前項の規定にかかわらず、乙(借主)は、解約申入れの日から30日分の賃料(本契約の解約後の賃料相当額を含む。)を甲(貸主)に支払うことにより、解約申入れの日から起算して30日を経過する日までの間、随時に本契約を解約することができる。
おおよそ家賃1カ月分の違約金を支払う場合にもなりかねないため、5年目で退去すると退去費用がさらに高くなる点に注意しましょう。
なお、全国賃貸管理ビジネス協会の「全国平均家賃による間取り別賃料の推移」によると、間取り別の平均家賃は以下の表の通りです。
間取り | 1部屋(1K・1DK・1LDK) | 2部屋(2K・2DK・2LDK) | 3部屋(3K・3DK・3LDK) |
---|---|---|---|
全国平均家賃 | 5万871円 | 5万8,922円 | 6万6,745円 |
参考:「全国平均家賃による間取り別賃料の推移」(全国賃貸管理ビジネス協会)
退去費用は、以下の2つの要素によって左右されます。
それぞれの項目について詳しく解説します。
居住期間が6~8年程度になると、内装や設備が経年劣化によって自然損耗するため、一般的には退去費用が低くなります。
経年劣化による傷みは貸主負担で原状回復するようになっており、以下のようなケースが該当します。
入居から5年目までの退去は経年劣化が認められず、退去費用が高くなる可能性があるでしょう。
賃貸物件に修繕個所があると、以下の修繕費用がかかるため、退去費用が高くなります。
床材や壁紙の材質によっては、高額な修繕費用を請求される場合もあるでしょう。
退去費用に関しては、判例によってさまざまな判断が下されています。ここからは、退去意表に関する判例を解説していきます。
退去費用を争った裁判には以下のような例があり、貸主側の請求が棄却されています。
事例
【裁判の概要】
貸主が借主に対し、原状回復用に退去費用を求めたところ、借主は支払いを拒否。
貸主は裁判所を介して支払督促したが、借主の異議申し立てから訴訟に発展し、通常損耗を超える部分のみ退去費用の請求が認められた。
【判決の詳細】
賃貸借契約において、畳や襖、クロスなどの修繕は双方折半とするが、室内やエアコンのクリーニング、破損個所の修繕は全額借主負担としていた。
契約書に通常損耗の範囲を明記しておらず、借主の合意を得るための口頭説明もなかったため、退去費用は敷金残額との差額分のみ支払えばよいとして結審。
判決には契約内容の詳細や、借主の合意などが考慮されています。
ペット飼育による汚損などについては、以下のように貸主側の請求が棄却された判例もあります。
事例
【裁判の概要】
賃貸借契約書ではペット消毒やクリーニング、汚損個所などの修繕を借主負担とする特約を定めていた。
貸主は特約に従って退去費用約50万円を請求したが、借主は通常損耗の範囲内である旨を主張して訴訟を起こし、敷金全額の返還を求めた。
裁判所は特約を有効と認めつつ、借主の負担額を約6万円として判決を下した。
【判決の詳細】
ペットの飼育期間が短く、ほとんどケージ内の飼育であったため、裁判所は借主の主張を認めている。
クリーニングはペット消毒を兼ねるため、ペットと無関係な過失(タバコの焦げ跡)は借主負担で修繕し、敷金約35万7,000円を返還するとして結審。
賃貸物件の室内が以下の状況だった場合、退去費用が高くなる可能性があります。
基本的には入居当時の状態を維持しなくてはならないため、臭いや傷、汚れが残っている場合は原状回復のコストが高くなります。
紛失による鍵の交換やエアコン内部の著しい汚れ、部屋の広さや間取りも退去費用に影響するでしょう。
アロマ用の線香やキャンドルを使っていた場合も、臭いが染みついた壁や天井を張り替えるケースがあります。
「思ったより退去費用が高かった」「退去費用を抑える方法が知りたい」と考える方もいるでしょう。
ここからは、退去費用を抑える5つの方法を紹介します。
それぞれの方法について見ていきましょう。
最初からあった傷や汚れを記録しておくと、退去する際、貸主負担の費用が含まれにくくなります。
原状回復の範囲は、ガイドラインで明確に定められていても、誤って貸主負担の修理費用が含まれている場合もあります。
自分に原因がないと証明するためには、入居時に傷や汚れの箇所をチェックした書類を管理会社へ提出しなければなりません。
国土交通省の原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)には、「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」が添付されています。
損耗の有無や具体的な状況を記載し、写真などを撮っておけば、自分に原因がない箇所の修理費用を請求される事態を防げます。
なお、不動産会社から「入居時チェックリスト」を渡されるケースもあるため、その書類を使って記録しましょう。
退去時だけでなく日常的にも掃除しておけば、退去費用を抑えられます。
汚れを放置すると、より悪化して退去時に掃除しても汚れが落ちない場合も珍しくありません。
特にカビやサビは時間が経つにつれて落ちにくくなるため、原状回復費に含まれる可能性も高まります。
日常的に掃除を行い、常にきれいな部屋を保つように心がけましょう。
ただし、落ちにくい汚れを無理に落とそうとすると、余計悪化させてしまうため、注意が必要です。
賃貸を退去する際、退去立会いを怠らないようにしましょう。
立会いは、自分の故意や過失で付けた傷ではない事実を証明する機会です。
賃貸物件の解約は、解約の申入れと物件の明け渡しで成立するため、立会いをしない人も多いです。
実際に不動産会社でも、「都合が合わなければ立会いしなくてもよい」と定めている会社もあります。
しかし、退去立ち会いを怠ると、貸主負担の修理項目が退去費用に計上される恐れがあります。
借主は部屋の状態を確認できていないため、どこに傷があるのかわからず、請求された費用が本当に正しいかわかりません。
金銭トラブルにも発展しかねないため、必ず退去立会いをするようにしましょう。
退去費用の見積もりが届いたら、原状回復のガイドラインと照らし合わせ、経年劣化部分を不動産会社に価格交渉してみましょう。
経年劣化による修繕費用は、貸主の負担となります。
しかし、原状回復費用に含まれている場合もあるため、不動産会社に伝えるのも大切です。
他にも自然損耗などの修理費用が含まれているのであれば、管理会社に相談してみましょう。
高額な退去費用を請求された場合、支払えないからといって無視すると、訴訟などにも発展しかねません。
しっかり対応するためにも、ここでは退去費用が高すぎる場合の対処法を3つ紹介します。
それぞれの対処法について詳しく解説します。
高額な退去費用が請求された際は、不動産会社に交渉してみましょう。
場合によっては、不動産会社から貸主へ相談し、退去費用を安くしてくれる場合もあります。
ただし、「金額が高い」だけでは貸主側も納得しないため、明確な理由と証拠を伝えましょう。
不動産会社へ交渉しても、退去費用が安くならない場合、専門家に相談するのも一つの方法です。
以下の窓口では、退去費用について無料で相談できます。
相談先 | 連絡先 |
---|---|
国民生活センター | 03-3446-1623 |
日本消費者協会 | 03-5282-5319 |
不動産適正取引推進機構 | 0570-021-030 |
消費者ホットライン | 188 |
日本賃貸住宅管理協会 | WEBフォームまたはFAXか郵便 |
退去費用に困っている旨を伝えれば、的確なアドバイスをもらえます。
民事調停とは、裁判官と2名の調停委員が話し合いに参加し、問題解決に向けて話し合いを進める手続きです。
ただし、調停を申立てる場合は、退去費用が明確に誤っているときのみです。
単純に退去費用が高い点を理由に調停を行っても、安くなる可能性は非常に低いでしょう。
さらに、調停を行うためには弁護士への相談費用が発生するため、退去費用以上に費用がかかる恐れがあります。
賃貸借契約を解約する場合、基本的には引っ越しの1~2カ月前に貸主へ予告しなければなりません。
予告通知から解約日までの家賃については、以下のいずれかで計算されます。
日割計算は「家賃÷月の日数×入居日数」になるため、家賃8万円で最終月が31日の場合、10日目に引っ越ししたときは以下の家賃を負担します。
月割計算の場合は月末、日割計算は月初のタイミングで引っ越しすると、家賃の負担額を抑えられます。
退去費用の相場はある程度決まっていますが、契約途中の解約や、修繕個所が多いときは借主負担が重くなります。
修繕に関する特約は明確化されていない場合があるため、貸主と借主の主張が食い違い、トラブルになってしまうケースも少なくありません。
貸主とのトラブルは国民生活センターなどに相談できますが、訴訟のサポートは受けられないため、裁判に発展したときは自分で対処する必要があります。
退去費用の請求額に納得できないときは、ぜひ弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所の無料相談をご活用ください。