

家賃を2カ月間滞納すると、通常は貸主や保証会社から借主に支払いを求める督促状が届きます。
さらに滞納を続けた場合、貸主から明渡し訴訟を提起され、最終的には裁判所の執行手続きで強制退去させられます。
家賃を滞納してしまった場合、段階が進む前であれば訴訟や執行手続きを回避できる可能性もあるため、できるだけ早く弁護士へ相談しましょう。
ここでは、家賃を滞納したときの契約解除から強制退去までの流れや、対処法などを解説します。
目次
家賃を2カ月滞納すると、借主にはさまざまなデメリットが生じます。
新たな物件に転居したくても、賃貸借契約を結べない可能性もあるため、以下のデメリットをよく理解しておきましょう。
個人信用情報機関とは、個人のクレジットカードやローンの利用状況などを管理し、加盟会員からの照会に応じて情報提供する機関です。
家賃滞納や債務整理、保証会社による代位弁済などが行われると、個人信用情報機関へ情報が集約され、事故情報として異動が登録される可能性があります。
特に信販系の家賃保証や口座振替等を利用する場合に異動が登録されやすく、登録要件は「61日以上または3カ月以上の延滞」等とされています。
家賃保証の類型によっても登録の有無は異なり、一旦登録された後の保有期間は、一般的に完済や契約終了から5年ほどです。
事故情報が登録されると、原則として本人名義のクレジットカードが使えなくなり、新たな借入れもできません。
家賃滞納の場合、主に賃貸保証会社が加盟する一般社団法人全国賃貸保証業協会(LICC)に事故情報が登録されるケースが多いでしょう。
事故情報は、債務の完済や契約終了から原則5年間は残るため、引っ越しの際に入居先の審査を通過しない可能性もあります。
全国賃貸保証業協会の場合も、家賃滞納による債務消滅から原則5年は異動登録が残ります。
ローンや分割払いの審査に通らなかった場合、車やスマートフォンは現金一括購入しなければなりません。
事故情報は家賃の滞納から2~3カ月程度で登録されるため、滞納したときは速やかに支払いましょう。
家賃を滞納すると、損害遅延金を請求されるデメリットがあります。
損害遅延金の法定利率は3%ですが、賃貸借契約書に定めがある場合は最大14.6%まで設定可能です。
法定利率が適用される場合、賃貸借契約の締結が2020年4月1日以前のときは、民法改正前の年5%の利率が適用される可能性があります。[注1]
滞納期間が長期化した場合、損害遅延金も高くなるため、家賃は賃貸借契約書の指定日までに支払っておきましょう。
[注1]旧法5%適用には個別の前提があり、実務上は約定利率の有無や債権発生日、原因となる法律行為の成立日などで判断されます。
家賃滞納が2カ月続くと、貸主や保証会社は連帯保証人に家賃を請求する場合があります。
連帯保証人は、滞納家賃を請求された場合、原則として請求に応じなければなりません。
先に主債務者へ請求や財産の差し押さえをするように求める「催告の抗弁権」や「検索の抗弁権」が認められないためです。
一方で、分割払いや支払時期などは交渉できる可能性があります。
家族や親戚などを連帯保証人にしていた場合は、信頼関係が損なわれてしまう可能性があるため注意しましょう。
家賃2カ月分を滞納した場合、強制退去までの流れは以下のようになります。

それぞれの流れについて見ていきましょう。
家賃を滞納すると、通常はまず支払いを催促するための連絡があります。
催促の連絡は、電話や手紙、メールなどで行われます。
初回の滞納であれば、単に支払いを忘れている可能性も考慮されるため、滞納の通知と支払いを促す内容にとどまるケースが多いでしょう。
一方で、貸主や保証会社によっては催告を行わず、いきなり次で解説する督促状が送付されるケースもあります。
貸主や保証会社からの連絡を放置や受取拒否すると、後々賃借人が不利になる可能性もあるため注意しましょう。
賃借人から連絡するときは「●月●日までに●円を一括/分割(●回)で支払います。残額は●月●日に入金します」のように記載します。
督促状は、家賃の滞納が続いており、連絡のとれない借主に対して支払いを強く要求する書面です。
一般的には、督促の段階では電話など口頭の連絡ではなく、書面で正式に通知されるケースが多いでしょう。
通常、督促状には滞納額と支払期日に加え、期日までに支払われない場合の賃貸借契約解除など、法的な手段の予告が記載されます。
家賃を滞納している借主と連絡がとれない場合、保証人にも内容証明郵便で催告や通知が送付されます。
通常、内容証明は借主宛に催告や解除通知として送付されるのが一般的です。
保証人には別途請求の通知として送付されるケースが多いでしょう。
内容証明郵便とは、郵便物の内容や送付日、到達日などを郵便局が記録するサービスであり、通知内容の公的な証明として利用できます。
催告や通知には、借主による家賃滞納と、期日までに支払いがないときは賃貸借契約が解除され、保証人へ請求する旨を記載するのが一般的です。
保証会社が賃借人の代わりに立て替えて支払う行為を代位弁済といい、実行されると異動登録になる可能性があります。
督促状に記載された期日までに延滞家賃の支払いがない場合、賃貸借契約は解除されます。
貸主が家賃の滞納を理由として賃貸借契約を解除する場合、原則として以下の要件を満たさなければなりません。
解除の可否は『信頼関係破壊の法理』で総合判断されるため、2カ月の滞納で必ず解除されるわけではありません。
双方の事情や他の違反の有無などで異なりますが、3カ月の滞納が目安であり、解除通知後も合意に至らないときは明け渡し訴訟へ進みます。
明け渡し訴訟に敗訴した後も物件に居座ると不法占拠として扱われるため、最終的には裁判所の執行で強制退去させられます。
強制退去とは、賃貸借契約の解除後も借主が退去しないときに、裁判所の執行で家財を強制的に搬出し、退去させる手続きです。
貸主は、賃貸借契約の解除を通知した後、以下の流れで強制執行を実施します。
強制退去の流れ明渡し訴訟の提起
明渡しを命じる判決の確定(申立後、約2~3カ月)
退去の強制執行の申立て
退去の強制執行の実施(申立後、約6週間)
退去の強制執行の実施後、搬出された家財などは業者に預けられるため、回収するには保管料を支払う必要があります。
執行費用は借主の負担とされており、立替払いをしている貸主から請求があったときは支払わなければなりません。
家賃2カ月分の滞納を契約解除の理由とする「明け渡し条項」を認めず、原告側の消費者団体が勝訴した裁判例があります。
事例
事件名:消費者契約法12条に基づく差止等請求事件
裁判所・部:最高裁判所 第一小法廷判決
判決日:2022年12月12日
要旨:家賃保証会社の保証委託契約に定められた明け渡し条項が争点。賃借人の賃料不払等により家賃保証会社に賃貸借契約の解除や建物明渡しを認める条項について、消費者の利益を害するとして、原告の差止め請求が一部容認された。
出典:裁判所判例検索(最高裁判所 2022/12/12 判決)
争点となった明け渡し条項は、以下の要件を満たした場合に、部屋の明渡しがあったとみなして家賃保証会社から契約解除できる内容です。
本件は、家賃保証会社の賃貸借契約の解除について、一方的かつ消費者契約法に違反するため、最高裁が明け渡し条項の差し止めを命じた判例です。
前述の裁判例では、以下のポイントが判決に影響しています。
賃貸借契約の当事者はあくまでも貸主と借主であり、家賃保証会社の判断で賃貸借契約を解除した場合、貸主の意思が反映していません。
借主への催告(家賃の督促)についても、あらゆる手段で連絡を試みたかどうかが重視されます。
貸主が相当期間を定めて催告したにも関わらず、借主が滞納家賃の支払いに応じていなかった場合は、裁判に敗訴する可能性があるでしょう。
家賃を滞納しそうなときは、以下の対処をしましょう。
それぞれの対処法について詳しく解説します。
家賃を滞納しそうなときは、できるだけ早く管理会社や大家に相談しましょう。
相談するときは、家賃を支払えない事情だけでなく、今後の収入を得る見込みや、滞納分の支払期日も伝えます。
滞納が一時的な事情であり、今後の支払能力と支払意思に問題がないと判断されれば、分割払いに応じてもらえる可能性もあるでしょう。
連絡せずに家賃を滞納した場合や、滞納後に送付される支払督促を放置した場合は、支払いの意思がないとみなされる可能性が高くなります。
家賃を滞納する前に、一時的な資金を親族や知人からお金を借りるのも一つの方法です。
高金利の借入は返済不能リスクが高まります。
対して親族や知人からであれば、金融機関から借り入れる場合よりも利息や返済条件などを柔軟に相談できるケースもあるでしょう。
お金を借りるときは、口頭のみでなく、借用書などを作成しておくと返済条件にまつわるトラブルなどを防げるため安心です。
親族や知人からの借入れは個人的な信頼関係に基づくケースが多く、返済が滞ると信頼関係が壊れてしまう可能性があるため注意しましょう。
公的な支援制度である住宅確保給付金を利用すると、以下のように家賃や転居費用の補助が受けられます。
<家賃の補助>
| 支給額 | 現住居の家賃相当額(上限あり) |
| 支給期間 | 原則3カ月(最長9カ月) |
| 支給方法 | 自治体が貸主の口座へ直接振込 |
| 主な要件 | ・収入や資産が一定の基準以下 ・自己の責任や都合ではない休職や事業廃止から2年以内 ・求職活動などに取り組んでいる |
<転居費用の補助>
| 支給額 | 転居に要する費用(上限や対象外の経費もあり) |
| 主な要件 | ・収入や資産が一定の基準以下 ・転居によって家計が改善すると認められる |
貸主との交渉や訴訟対応が必要なときは、弁護士に相談しましょう。
貸主から解除通知が届いた段階であれば、分割払いなどの交渉により訴訟を回避できる可能性があります。
明渡し訴訟が提起された後でも、貸主との和解が成立すれば執行を回避できるケースもあるでしょう。
早い段階で弁護士に相談できれば、より良い条件での解決方法を提案してもらえる可能性も高くなります。
VSG弁護士法人では初回無料相談を実施しており、経験豊富な弁護士が親身になってサポートします。
2カ月の家賃滞納では、借主と貸主の信頼関係が破壊されたとまでは言えず、即時退去を求められるケースはほとんどありません。
一方で、滞納から2~3カ月以上経つと保証会社による代位弁済が行われ、信用情報機関に事故情報が登録されるリスクも高まります。
家賃を滞納したときは、放置せずに管理会社や大家に連絡し、支払期日の猶予や分割払いなどを相談しましょう。
住宅確保給付金など、公的な支援制度を利用するのも有効な方法です。
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