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団体交渉で企業がやってはいけないこと10選|不当労働行為のリスクと正しい対応法

弁護士 福西信文

この記事の執筆者 弁護士 福西信文

大阪弁護士会所属。京都市出身。
労働環境が激変する現代において、企業が直面する労務リスクは経営の根幹を揺るがしかねない重要課題です。私は、大学卒業後のIT企業勤務、経営コンサルタント、企業役員といった10数年のビジネス現場での経験を経て弁護士となりました。
法律はあくまで手段であり、目的は「企業の持続的な成長と安定」であるべきだと考えています。そのため、単に「法的に可能か不可能か」を答えるだけでなく、現場のオペレーションや事業への影響、経営者の想いを汲み取った上での「最適な次の一手」を提示することを最優先しています。
使用者側(企業側)の専門弁護士として、労働紛争の早期解決はもちろん、トラブルを未然に防ぐための強固な労務基盤の構築を支援いたします。経営者の皆様が事業に専念できるよう、法的側面から強力にサポートさせていただきます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/fukunishi/
書籍:「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
監修:プロが教える!失敗しない起業・会社設立のすべて
共著:民事信託 ――組成時の留意点と信託契約後の実務

団体交渉で企業がやってはいけないこと10選|不当労働行為のリスクと正しい対応法

この記事でわかること

  • 団体交渉で問題となる企業の10のNG行動
  • 団体交渉における企業側の不適切対応が争われた判例
  • 団体交渉の拒否の可否や回数、適切な相談相手

団体交渉では、会社側の対応が不適切であると、労働組合法上の不当労働行為に該当する可能性があります。
たとえば、正当な理由のない団体交渉の拒否や、組合員に対する不利益な取扱いなどは、企業にとってリスクとなるNG行動です。
不当労働行為と認定された場合、労働委員会による救済命令を受けるなど、企業側に一定の対応が求められるため、慎重に対応しましょう。

実際に、団体交渉において不適切な対応が問題となった判例を踏まえ、企業がやってはいけないNG行動を具体的に整理します。
あわせて、団体交渉を拒否できるケースや交渉回数、対応に困った場合の相談先についても確認しましょう。

団体交渉で企業がやってはいけないNG行動とは?不当労働行為となる10の事例

団体交渉では、会社側の対応が不適切であると、労働組合法第7条[注1]に定められる不当労働行為に該当する可能性があります。
不当労働行為と認められた場合、労働委員会から救済命令が出され、会社にはポストノーティスやバックペイの支払いなどの対応が求められます。

「交渉を早く終わらせたい」「要求を受け入れたくない」といった気持ちから、申入れを無視、あるいは威圧的な態度を取る行為は危険です。

ここでは、企業がやってはいけない10のNG行動と、適切な対応を解説します。

団体交渉の申入れを無視・拒否する

組合からの団体交渉の申入れを、正当な理由なく無視・拒否する行為は禁止されています(労組法第7条第2号[注2])。
そのため、団体交渉の申入れを受けた場合は、誠実に応じるのが基本です。
ただし申入れを受けた担当者が、その場で安易に拒否や交渉を行うのは避けましょう。

拒否する場合は、まず申入れの内容を確認し、拒否する理由が正当であるかを慎重に判断する必要があります。
「正当な理由」には、組合側が威圧的な言動をとっており、安全が確保できないなどがあります。
「忙しいから」という理由だけでは正当性が認められにくいため、注意が必要です。

申入れを受けた場合は、まずは社内で対応方針を検討してから、組合へ回答するという流れが重要です。

団体交渉を理由なく長期間放置・引き延ばしする

「団体交渉を拒否しているわけではないから問題ない」と考え、日程調整や回答を何度も先延ばしにする対応は避けましょう。
申入れを受けたにも関わらず、正当な理由なく回答を遅らせると、実質的な団交拒否と評価される可能性があります。

申入れ書を受けたら、まずは受領した旨を速やかに組合側に伝えます。
具体的な日時や場所などの調整に時間がかかる場合は、検討状況や回答予定日を示し、組合側に見通しを伝える姿勢が重要です。

不誠実な団体交渉をする

「団体交渉には応じているから問題ない」と安易に結びつけるのは危険です。
組合の要求を受け入れられない場合でも、その根拠を説明し、必要に応じて資料を提示するなど、誠実に交渉する姿勢が会社には求められます。

たとえば、以下の言動は、実質的な団体交渉拒否と評価される可能性があります。

  • 形式的に席につくだけで、交渉する意思がない
  • 要求に対して「受け入れられない」と繰り返すだけで根拠を説明しない
  • 必要な資料を示さない

組合の要求をすべて受け入れる義務はありません。
要求に対して譲歩できない場合は、その理由を説明した上で、必要に応じて対案を検討しましょう。

団体交渉の日時・場所を一方的に決めない・受け入れない

団体交渉の日時や場所は、組合側から指定された条件を会社がそのまま受け入れる必要はありません。
組合が設定した日時に応じると、会社側の準備が間に合わない可能性があります。
一方で、会社側の一方的な日時や場所の指定も避けなくてはなりません。
双方が合理的な条件を示しながら、調整しましょう。

なお、団体交渉は、就業時間外に設定するのが原則です。
就業中に実施する場合、その時間について賃金の支払いが必要となる可能性があります。

場所についても、原則として会社施設外での実施を検討しましょう。
会社施設内で行うと、交渉が長引きやすく、また交渉に参加しない他の従業員の業務を妨げる可能性があるためです。

団体交渉の出席者を不当に制限する

団体交渉では、自分の会社とは直接関係がない上部団体やユニオンの役員が出席するケースもあります。
こういったケースで、会社側が組合側の出席者を一方的に制限するのは避けましょう。
組合の代表者または組合の委任を受けた者には、組合に代わって交渉する権限が認められています(労組法第6条[注3])。

会社が独自の基準で参加者を排除すると、団体交渉拒否と評価される可能性があります。
「特定の人物が参加する場合は団体交渉に応じない」といった対応には注意しましょう。

組合員の特定や脱退勧奨をする

組合や組合員に対するネガティブな感情があっても、組合員を特定する、あるいは脱退を促す行為は避けましょう。
たとえば、団交の条件として組合員名簿の提出を求める行為が該当します。

また、組合活動を理由とし、不利益な扱いを示唆しながら脱退を促す行為も、会社側に重大なリスクとなります。
これらの行為は、不当労働行為として禁止されている組合活動への支配介入や組合員への不利益扱いにつながる可能性があるためです。

子会社からの団体交渉を一律に拒否する

子会社の従業員から団体交渉を申し入れられても、親会社が当然に応じる義務を負うわけではありません。
親会社と子会社は別法人であり、直接の雇用関係がなければ、原則として親会社が団体交渉に応じる立場にないためです。

しかし「子会社だから」と、一律に拒否する対応は避ける必要があります。
交渉の内容や子会社の労働条件について、親会社が実質的に関与している場合は、団交拒否が認められない可能性があります。
関与の実態を確認した上で、対応を慎重に判断しましょう。

労働組合の要求を何でも受け入れる

団体交渉では、組合から出された要求をすべて受け入れなければならないわけではありません。
会社として受け入れられない要求については、拒否や反論が認められています。
重要なのは「要求の拒否」と「団体交渉自体の拒否」を混同しない点です。

たとえば賃上げ要求を受け入れられない場合は、会社の経営状況や人件費の状況など、判断の根拠について資料を用いて説明する対応が求められます。
会社としての譲れない条件を整理した上で、団体交渉に臨みましょう。

団体交渉の場で暴言・威圧的な言動をする

組合側から挑発されたとしても、経営者や担当者が交渉の場で暴言を吐く、また威圧的な態度を取るのは避けなければなりません。
感情的な発言は、記録や証言によって後から問題化し、組合が救済申立てを行う可能性も高まります。
さらに、パワハラ発言として組合による街宣やビラ配布などが行われ、企業の社会的信用に影響する恐れもあります。

組合側の対応に問題があっても、感情で応酬せず、交渉を中断して事実を記録するなど、冷静に対応しましょう。

議事録・合意書などにその場で安易にサインする

緊迫した交渉の場で「サインすれば終わる」と考えて、議事録や合意書に署名するのは危険です。
組合が用意した書類の内容を十分に確認せずにサインすると、組合に有利な内容で労働協約が結ばれる可能性があります。

サインをすれば、民法695条[注4]の和解契約が成立したとみなされ、法的拘束力が生じる可能性があります。
後から合意内容を取り消すのは困難になるため、注意が必要です。

組合からその場で判断やサインを求められても、必ず持ち帰って内容を確認する対応を基本としましょう。

[注1]労働組合法/e-Gov
労働組合法第7条

[注2]労働組合法/e-Gov
労働組合法第7条2号

[注3]労働組合法/e-Gov
労働組合法第6条

[注4]民法/e-Gov
民法695条

団体交渉における企業側の不適切な対応が裁判になった判例はありますか?

団体交渉では、交渉の席につくだけでは誠実に対応したとはいえないケースがあります。
会社には、組合の要求に対し、会社側の主張や根拠を示し、合意形成に向けて交渉する対応が求められます。
「長澤運輸事件」は、定年後再雇用者の労働条件等をめぐる団体交渉における、会社側の対応が問題となった事案です。

【判例】長澤運輸事件|形式的な団体交渉では不十分とされたケース

定年退職後の再雇用者の労働条件や賃上げ等をめぐり、会社と労働組合が団体交渉を行った事案です。

会社側は代表取締役を出席させず、交渉担当者にも十分な権限を与えないまま、組合の要求に対して具体的な理由や根拠を説明しませんでした。
また、組合が求めた資料も提示せず「世間水準である」といった抽象的な説明を繰り返しました。

東京都労働委員会は、会社側の対応は「誠実交渉義務を果たしていない」と判断しました。
特に、資料の提出については、提示しない理由や根拠も組合へ示す必要があるとしています。

会社には、団体交渉への誠実な応諾だけでなく、組合へ「今後はこういった行為を繰り返さない」といった趣旨の文書交付が命じられています。
会社はこれらの決定を不服として、再審査、行政訴訟へ進みましたが、東京地裁は請求を棄却し、東京高裁も控訴を棄却しました。

最終的に最高裁も上告受理申立てを不受理としています。

事例事件名:長澤運輸不当労働行為審査事件

  • 裁判所・部:東京都労働委員会
  • 命令日:2017年11月7日
  • 事件番号:都労委平成27年(不)第100号
  • 要旨:団体交渉には実質的な交渉権限を有する担当者が出席し、会社の主張とその根拠を具体的に説明する必要があるとされた事案。
    また、会社側には、必要な資料を提示するなどして、見解の対立の解消を目指す対応も求められた。
  • 出典:厚生労働省:労働委員会命令データベース

不当労働行為が認定された場合の企業のリスク

不当労働行為が認定された場合、企業には労働委員会から救済命令が出される可能性があります。
救済命令とは、労働委員会が下す「不当労働行為による被害を元の正しい状態に戻しなさい」という命令です。
救済命令の内容は、不当労働行為によって生じた問題や事案の内容によって異なります。

しかし、不当労働行為によって労働者に具体的な損害が生じている場合は、注意が必要です。
たとえば、組合加入を理由とした解雇が不当労働行為と認定された場合、救済命令としてバックペイの支払いが命じられる可能性があります。
会社には巨額の損害賠償責任が問われるケースもあるため、不当労働行為となる言動を避け、慎重に対応しましょう。

なお、不当労働行為の認定と損害賠償がそのまま同じ命令となるわけではありません。
長澤運輸事件では、不当労働行為の認定に対する救済として、誠実な団体交渉への応諾や文書交付などが命じられています。
定年後再雇用者の賃金条件は、別の訴訟で争われています。

[注5]労働組合法/e-Gov
労働組合法第7条2号

団体交渉に関する企業側によくある質問(拒否の可否や平均回数)への回答は?

団体交渉を申し入れられた企業からは「拒否できるのか」「何回くらい行うのか」といった疑問が多く聞かれます。

ここでは、一般的な目安を回答しますが、実務では個別事情を踏まえた判断が必要です。

団体交渉は平均して何回くらい行われますか?

団体交渉は、3~4回の交渉で終結するケースが一般的です。
2週間~1カ月に1回程度のペースで行われ、全体で1~6カ月程度の期間を要します。
なお、以下のような要素によって、必要な回数は変わります。

  • 賃金や労働条件など争点の内容
  • 労使双方の主張
  • 会社側からの説明
  • 交渉の進捗など

組合の団体交渉を拒否できますか?

正当な理由のない団体交渉の拒否は、原則として認められません。
労働組合から申入れを受けた場合は、まず要求事項や背景を確認し、交渉に応じる姿勢を示しましょう。

しかし、次のケースでは、団交を拒否できるケースがあります。

  • 義務的団交事項ではない(会社の経営方針などに関する要求など)
  • 既に合意済みの事項
  • 議論が膠着状態にある事項
  • 組合側から暴力や威嚇行為が示唆されている

拒否する場合でもあっても、拒否が正当な理由に該当するかは、専門家と一緒に慎重に判断しましょう。

団体交渉と労使協議の違いは何ですか?

会社と労働者が話し合う場として、団体交渉の他に「労使協議」があります。

団体交渉は、労働組合が会社に対して賃金などの労働条件について要求を伝え、交渉する場です。
会社側は、正当な理由なく申し入れを拒否できないなど、労働組合法による制約を受けます。
また、交渉の結果、労使間で合意した内容は「労働協約」として、一定の法的効力を持ちます。

一方労使協議は、労使間で情報共有や意見交換などの協議を行う場です。
原則として、会社側の拒否や合意内容に、法的拘束力は伴いません。

しかし「労使協議」とされていても、実際の目的や内容によって団体交渉と判断されるケースもあるため、注意しましょう。

団体交渉は社労士に任せればよいですか?

社労士は、会社の労務管理や社会保険の手続きなどを行う専門家です。
労働・社会保険関連の法律に基づき、労働条件や就業規則についてアドバイスができます。

一方、社労士を含む弁護士以外の士業は、労働組合との団体交渉において、会社の代理人として直接交渉できません。
弁護士法第72条[注6]では、弁護士または弁護士法人以外の者が報酬を得て、相手方と交渉する業務に制限を設けています。

「労務の専門家である社労士だから団体交渉も依頼できる」と考えるのではなく、交渉の代理や方針の検討は、弁護士に相談しましょう。

[注6]弁護士法/e-Gov
弁護士法第72条

まとめ|団体交渉のトラブルを防ぎ企業を守るためには弁護士への相談が不可欠

団体交渉では、拒否の可否や交渉方法、資料の提示など、状況に応じた法的判断が必要です。
ネット上の一般論や雛形の書式だけでは、個別の事実関係に応じた判断に対応できない可能性があります。

労働組合との団体交渉を代理人として行えるのは、弁護士のみです。
早期から法的論点と会社側の対応方針を整理しておけば、不要な対立や法的リスクを防ぎやすくなります。
団体交渉の申入れを受けた、あるいは労使トラブルの兆候がある企業は、VSG弁護士法人へ相談し、個別事情を踏まえた対応方針を検討しましょう。

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