

大阪弁護士会所属。京都市出身。
労働環境が激変する現代において、企業が直面する労務リスクは経営の根幹を揺るがしかねない重要課題です。私は、大学卒業後のIT企業勤務、経営コンサルタント、企業役員といった10数年のビジネス現場での経験を経て弁護士となりました。
法律はあくまで手段であり、目的は「企業の持続的な成長と安定」であるべきだと考えています。そのため、単に「法的に可能か不可能か」を答えるだけでなく、現場のオペレーションや事業への影響、経営者の想いを汲み取った上での「最適な次の一手」を提示することを最優先しています。
使用者側(企業側)の専門弁護士として、労働紛争の早期解決はもちろん、トラブルを未然に防ぐための強固な労務基盤の構築を支援いたします。経営者の皆様が事業に専念できるよう、法的側面から強力にサポートさせていただきます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/fukunishi/
書籍:「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
監修:プロが教える!失敗しない起業・会社設立のすべて
共著:民事信託 ――組成時の留意点と信託契約後の実務

この記事でわかること
従業員の営業活動の把握や緊急時の安全確認などを目的として、社用携帯の位置情報を取得・管理する企業が増えています。
「会社が支給した携帯だから自由に監視できる」と考えて運用すると、プライバシー権の侵害として違法と判断される恐れがあります。
自分の会社を法的リスクから守るためには、位置情報の取得について業務上の目的を限定し、就業規則の整備と適切な運用を行う点が重要です。
安易な判断は労務トラブルや損害賠償請求につながる可能性もあるため、弁護士の助言を受けながら運用ルールを設計しましょう。
まずは、社用携帯の位置情報取得が違法となるケースについてみていきましょう。
目次
社用携帯の位置情報取得自体は、直ちに違法となるわけではありません。
業務上必要な目的のために、業務時間内で位置情報を取得する運用は、原則として認められます。
一方で、退勤後や休日まで継続して位置情報を取得し、また必要以上に従業員の行動を監視する運用は、プライバシー権の侵害となり得ます。
「会社の貸与物だから自由に監視できる」という考えではなく、取得目的と取得範囲を適切に限定する点が重要です。
社用携帯の位置情報は、業務上の必要性が認められる範囲で取得・利用する場合には、適法と判断されます。
たとえば、急な訪問依頼への対応や訪問ルートの見直し、災害時の安否確認等は、企業活動に必要な利用目的といえます。
外回りが多い従業員については、移動実績を客観的に把握し、労働時間の確認や長時間労働の防止に役立てられます。
取得する目的や対象者、取得時間などが、業務上の必要性に基づいているかが重要なポイントです。
業務上の必要性を超えた位置情報の取得は、プライバシー権を侵害する違法な監視と評価される恐れがあります。
たとえば、退勤後や休日も位置情報を取得し続ける運用は、不法行為として損害賠償を請求されるリスクがあるでしょう。
「会社が購入した携帯だから」という理由だけでは、業務上の必要性は認められにくいのが現実です。
また、常に監視されているという精神的負担から、パワハラを主張される可能性も否定できません。
適法な運用を維持するためには、位置情報の取得は業務時間内に限定し、業務目的との関連性を客観的に説明できる体制の整備が重要です。
社用携帯の位置情報を取得すると、営業活動や現場業務の状況を客観的に確認できるようになります。
また、労働時間の把握や端末管理にも活用でき、従来は担当者の自己申告に頼っていた情報をより正確に管理できる点が特徴です。
位置情報を取得すれば、営業担当者など、外出の多い従業員が現在どこで業務を行っているかを確認できます。
急な顧客対応が必要になった場合には、最も近くにいる担当者への業務依頼が可能です。
また、仕事とは関係のない場所に長時間滞在していないか、勤務実態を確認するための資料として活用される場面もあります。
ただし、GPSの位置情報だけで直ちに「サボっているか」は判断できません。
位置情報は事実確認の重要な資料ですが、懲戒処分を行う場合には、慎重な確認手続きやその他の客観的な証拠が必要です。
位置情報は、現在の業務の進め方を見直すための正確なデータとして活用できる点も重要です。
前述したように、移動履歴が残るため、訪問ルートや移動時間を客観的に分析できるようになり、業務効率化や改善点の検討をする場面で役立ちます。
また、移動にかかる時間や交通費などのコストと照らし合わせれば、より効率的な業務計画の立案が可能です。
位置情報を活用すると、訪問先への到着時刻や出発時刻、現場間の移動時間などを客観的に確認できるため、正確な労働時間の把握が可能です。
特に直行直帰が多い職種や、外回りが中心の従業員については、自己申告だけでは勤務実態を正確に把握できないケースがあります。
位置情報を勤怠管理の参考資料として利用すれば、実際の業務状況と勤怠記録との差異の確認がしやすくなります。
社用携帯の位置情報機能は、端末を紛失した場合の対応にも有効です。
最後に確認できた位置情報から端末の所在を把握できるほか、遠隔ロックや保存データの消去を行えるケースがあります。
営業資料や顧客情報などの重要なデータが保存されている端末では、迅速な初動対応が被害拡大の防止につながります。
位置情報取得のメリットは、従業員の行動把握や業務効率の改善、災害時の迅速な安否確認などです。
また、労務管理や情報セキュリティ対策にも活用できるため、適法なルールのもとで運用すれば、自分の会社を守るための重要な管理手段となります。
位置情報を活用すると、業務時間や交通費などのコスト削減が可能です。
たとえば、訪問先の順番を見直して移動時間を短縮させ、担当エリアを再編して無駄な移動を減らすなどができます。
また、空き時間が発生しやすい業務を把握して業務を再配分する等、人員配置の改善にも有効です。
こうした非効率を継続的に見直せば、限られた人員でもより高い生産性を実現しやすくなります。
位置情報は平常時だけではなく、緊急時の危機管理体制を支えるしくみとしても有効です。
地震や豪雨等の災害が発生した際には、外出中の従業員がどこで業務を行っていたかを速やかに把握できます。
位置情報をもとに連絡や避難支援を行えば、安否確認を効率的に進められます。
また、事故や急病等の緊急事態が発生した場合にも、最後に確認できた位置情報が初動対応の参考となるケースも少なくありません。
これらの対応の記録は、いざというときに「会社は安全配慮義務を尽くした」という重要な証拠となり得ます。
外回りや直行直帰が多い従業員については、勤務実態の把握が難しくなるケースがあります。
勤務実態の把握が十分でない場合、未払い残業代トラブルや労基署からの調査や指導につながりかねません。
位置情報は、勤務実態を客観的に説明できる資料となるため、実際の労働時間管理の精度が向上します。
労働時間の管理を適切に行っていたと評価されやすくなり、労務トラブルの予防にも役立ちます。
位置情報の管理は、自分の会社の情報資産を守るためのリスク管理として活用できる点も大きなメリットです。
端末の紛失や盗難が発生した場合でも、位置情報を確認し、遠隔ロックや保存データの消去を実施できる場合があります。
特に、個人情報や機密情報を取り扱う企業では、端末管理のしくみが情報セキュリティ対策の重要な要素です。
万が一のときに、顧客情報や営業資料、社内データなどの重要な情報が第三者へ流出するリスクを大きく低減できます。
社用携帯の位置情報は業務管理に役立つ一方で、運用方法を誤ると従業員との信頼関係を損ない、労務トラブルへ発展する恐れがあります。
特に以下の要素は、社員感情の反発を招きやすい問題です。
位置情報の取得は、従業員のプライバシーへの十分な配慮と適切な運用ルールが欠かせません。
位置情報の取得に問題がないケースでも、従業員が「常に監視されている」と感じる運用はトラブルの原因です。
業務に支障がない時に頻繁に現在地を確認する、あるいは移動履歴を細かく指摘すると、心理的な負担が蓄積しやすくなります。
また「退勤後や休日まで行動を見られているのではないか」という不安が広がれば、会社への信頼が損なわれます。
従業員のモチベーションや職場への帰属意識が低下する可能性もあるため、注意が必要です。
経営者や人事担当者が陥りやすい誤解が「会社が購入したスマートフォンだから、いつでもGPSを確認できる」という考え方です。
社用携帯であっても、位置情報の取得は業務目的に必要な範囲に限定されなければなりません。
退勤後や休日まで継続して位置情報を取得し、私生活の行動を把握する運用は、プライバシー権の侵害として違法と評価される可能性があります。
結果として、損害賠償請求を受ける、あるいは不当な監視やパワハラを理由に労務トラブルへ発展する恐れがあるため、注意が必要です。
GPSの記録から、営業担当者がパチンコ店など業務と関係のない場所へ長時間滞在していた事実が判明するケースがあります。
会社の担当者は、直ちに懲戒処分を検討したくなるかもしれません。
しかし、位置情報データだけを根拠として懲戒処分を行うのは危険です。
GPSは、業務命令違反や職務放棄まで直ちに証明できません。
実際に処分を検討する場合は、以下のように客観的な証拠を収集する必要があります。
感情的な判断で処分を急ぐと、裁判で手続き違反や証拠不足を理由に不当処分と判断され、自分の会社が大きな法的リスクを負う可能性があります。

社用携帯の位置情報は、ルールを整備しないまま運用すると、プライバシー権侵害や労務トラブルにつながる恐れがあります。
違法性が認められた場合には、損害賠償請求や企業の信用低下を招く可能性も否定できません。
自分の会社を守るためには、取得方法だけではなく、取得目的や運用方法を明文化した社内ルールを構築し、適切に運用する点が重要です。
位置情報を取得する場合は、口頭のみでの説明や、端末の利用開始時に同意ボタンを押してもらうだけでは十分とはいえません。
会社が位置情報を取得する目的や範囲を、社内制度として客観的に説明できるかが重要です。
就業規則には、以下の項目を具体的に定めておく必要があります。
また、入社時や端末貸与時には、これらの内容を記載した個別の同意書を取得し、後日の紛争に備えた証拠を残しておく運用の整備が不可欠です。
社内規程を整備しただけでは、適切な運用とはいえません。
従業員へ事前に丁寧な説明を行い、十分に理解してもらう手続きも重要です。
個別の同意書を取得し、説明を行った上で同意を得た事実を記録として残しておきましょう。
しかし、法的要件を満たす就業規則や同意書の作成は、条文の表現や運用方法までを含めた慎重な検討が求められます。
インターネット上のひな形をそのまま利用すると、自分の会社の実態に合わず、かえって紛争の原因となるケースも少なくありません。
後日の労務トラブルを防ぐためには、弁護士によるリーガルチェックを受け、自社に適したルールを設計しておく点が重要です。
社用携帯の位置情報取得は、それ自体が違法なのではなく「業務上の必要性」と「適切なルールに基づいた運用であるか」が重要です。
就業規則や社内規程を整備せず、業務時間外まで位置情報を取得するような運用は、プライバシー権侵害として違法となる可能性が高まります。
労務トラブルや損害賠償請求につながる恐れもあるため、いますぐ自社に適したルールを整備しましょう。
自分の会社を守るためには、問題が起きて対応するのではなく、事前にVSG弁護士法人のリーガルチェックを受けてください。
法的リスクを洗い出した上で、就業規則や同意書、運用体制まで含めた体制整備のサポートを受けられます。