

大阪弁護士会所属。京都市出身。
労働環境が激変する現代において、企業が直面する労務リスクは経営の根幹を揺るがしかねない重要課題です。私は、大学卒業後のIT企業勤務、経営コンサルタント、企業役員といった10数年のビジネス現場での経験を経て弁護士となりました。
法律はあくまで手段であり、目的は「企業の持続的な成長と安定」であるべきだと考えています。そのため、単に「法的に可能か不可能か」を答えるだけでなく、現場のオペレーションや事業への影響、経営者の想いを汲み取った上での「最適な次の一手」を提示することを最優先しています。
使用者側(企業側)の専門弁護士として、労働紛争の早期解決はもちろん、トラブルを未然に防ぐための強固な労務基盤の構築を支援いたします。経営者の皆様が事業に専念できるよう、法的側面から強力にサポートさせていただきます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/fukunishi/
書籍:「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
監修:プロが教える!失敗しない起業・会社設立のすべて
共著:民事信託 ――組成時の留意点と信託契約後の実務

この記事でわかること
SOGIハラスメントは、性的指向や性自認に関する言動によって相手に精神的・肉体的苦痛を与えるハラスメントです。
パワハラ防止法の指針に位置づけられ、企業には適切な対応が求められます。
SOGIハラを放置すると、職場環境の悪化だけではなく、損害賠償請求等の法的リスクにつながる可能性があります。
相談体制や就業規則の整備、トラブル発生時の対応手順までを含めたしくみを構築し、継続的に運用する点が重要です。
ルール整備や個別事案への対応は、法的判断を伴う場面も少なくありません。
自分の会社に適した対策を講じるためには、どういった注意点があるのかを見ていきましょう。
目次
SOGIハラスメント(SOGIハラ)とは、性的指向や性自認を理由とした差別的な言動や嫌がらせ、不当な扱いを指します。
「ソギハラ」または「ソジハラ」とも呼ばれます。
SOGIハラは、本人の尊厳を傷つけるだけでなく、企業の法的責任にもつながる重大な問題です。
2020年(中小企業は2022年)改正の労働施策総合推進法により、職場のパワハラ防止対策が会社の義務となりました。
パワハラ防止指針では、アウティングを含むSOGIハラやパワハラのひとつとして位置づけています。
たとえば、パワハラ6類型のひとつである「精神的な攻撃」には、性的指向や性自認に関する侮辱的な言動が含まれると明記されています。
会社はSOGIハラ防止を、企業の自主的なCSR活動や道徳的配慮としてではなく、法令に基づく義務として取り組まなければなりません。
相談体制の不整備や対応ミスは、行政指導や企業名の公表、損害賠償請求につながる可能性もある重大な問題です。
SOGIハラは、セクシュアルハラスメントとも密接に関係しています。
男女雇用機会均等法に基づく指針では、セクハラは異性間だけでなく同性間でも成立し、性的指向や性自認に関わらず該当すると明記されています。
そのため、性的指向や性自認に関する言動がSOGIハラだけでなく、セクハラにも該当するケースがある点に留意しましょう。
両者を切り分けて考えるのではなく、ハラスメント全般を防止する体制として一体的に取り組む姿勢が重要です。
SOGIハラは、加害者に悪意がなくても成立する場合があります。
特に「配慮のつもりだった」「冗談のつもりだった」言動が問題となるケースは少なくありません。
職場における代表的な例は、次のとおりです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
性的指向や性自認を理由とした侮辱的な言動や排除する行為は、SOGIハラに該当します。
具体例は、次のとおりです。
「昔からこの程度は冗談だった」という認識は通用しません。
こうした言動が見られた場合、企業には速やかな対応が求められます。
性的指向や性自認を理由とした人事評価や処遇差もSOGIハラのひとつです。
能力や勤務実績ではなく、本人の性的指向や性自認を理由に不利益を与えてはいけません。
該当する具体例は、次のとおりです。
人事評価は客観的な基準に基づいて行い、説明できる状態を整えておく点が重要です。
アウティングとは、本人の許可なく性的指向や性自認を第三者へ伝える行為です。
本人を理解してもらおうという善意から周囲へ話した場合であっても、本人の同意がなければアウティングとなる可能性があります。
該当する具体例は、次のとおりです。
アウティングは被害者に深刻な精神的苦痛を与える恐れがあり、SOGIハラの中でも特に重大な行為として扱われます。
性的指向や性自認を明らかにするかどうかは、本人が決める事項です。
そのため、カミングアウトの強要や一律的な禁止も、本人の意思を尊重しない対応となる可能性があります。
該当する具体例は、次のとおりです。
会社は本人の意思を最優先し、必要な配慮について個別に確認する姿勢が重要です。
本人の性自認を無視し、服装や呼称、身だしなみなどの一方的な強制もSOGIハラに該当する場合があります。
該当する具体例は、次のとおりです。
業務上必要なルールがある場合でも、本人の事情を踏まえ、合理的な配慮が可能かを個別に検討しましょう。
SOGIハラを「個人間のトラブル」「悪気のない言動」と軽く考え、企業が対応を怠ると、大きなリスクが生じるため、注意が必要です。
被害者から損害賠償請求を受ける可能性があるほか、企業の評判や信頼が低下し、取引先との関係や採用活動にも影響が及ぶ恐れがあります。
SOGIハラを放置した場合、企業は損害賠償責任を問われる可能性があります。
企業には、安全配慮義務(労契法第5条[注1])や使用者責任(民法第715条第1項[注2])があるためです。
特に、本人の同意なく性的指向や性自認を第三者へ伝えるアウティングは、深刻な精神的苦痛を与える重大な行為です。
実際に、一橋大学アウティング事件では、アウティングを受けた学生が自死に至るという痛ましい結果が生じました。
このケースでは、最終的に大学側の責任は認められませんでした。
しかし、職場で同様の事態が発生し、企業が適切な対応を怠っていた場合は、損害賠償請求を受ける恐れがあります。
「善意だった」「悪気はなかった」という説明では責任を免れられない可能性がある点に、注意が必要です。
SOGIハラがSNSや報道で拡散されれば、企業イメージは大きく損なわれます。
裁判や行政対応によって社名が公表されるケースもあり、取引先からの信用低下や採用活動への悪影響は避けられません。
自分の会社を守るためにも、問題が起きてから対応するのではなく、日頃から相談体制や社内ルールを整備して未然に防ぐ視点が重要です。
[注1]労働契約法/e-Gov
労働契約法第5条
[注2]民法/e-Gov
民法第715条1項
SOGIハラの相談や報告を受けた場合、企業には、事実関係の丁寧な確認と被害者に配慮した適切な対応が求められます。
基本的な流れは、次のとおりです。
相談を受けたら、速やかに事実関係を確認します。
当事者だけでなく、目撃者や事情を知る従業員がいれば、必要に応じてヒアリングを実施します。
調査の過程で収集したメールやチャットなど客観的な証拠は、この時点から保管しましょう。
調査では、関係者全員のプライバシーを保護し、聞き取った内容は不用意に共有してはいけません。
特にSOGIに関する情報はセンシティブであるため、調査の過程で新たなアウティングが発生しないよう注意しましょう。
事実確認と並行して、被害者が安心して働ける環境を整えます。
加害者との接触を避けるため、一時的な部署変更や勤務時間の調整などを検討します。
ただし、本人が望まない対応は避け、被害者に不利益な扱いにならないよう十分な配慮が必要です。
精神的な負担が大きい場合には、産業医との面談や医療機関の受診につなげる支援も有効です。
SOGIハラの事実が認められた場合は、就業規則に基づいて懲戒処分を検討します。
ただし、就業規則に根拠規定や懲戒事由が定められていなければ、原則として懲戒処分は行えません。
また、被害者感情を意識するあまり、過度に重い処分を下すと加害者とのトラブルや懲戒権の濫用問題に発展する可能性があります。
適法な処分とするためには、事実認定や証拠の整理を慎重に進め、必要に応じて弁護士の助言を受けて対応しましょう。
調査の結果、SOGIハラに該当しないと判断した場合でも、相談が生じた背景を分析し、再発防止策を講じます。
取り組みの具体例は、次のとおりです。
個別事案だけで終わらせず、組織全体の課題として改善につなげれば、職場のハラスメント防止策が強化されます。

SOGIハラは、問題が起きてから対応するだけでは十分ではありません。
自分の会社を守るためには、パワハラ防止法の指針を踏まえ、就業規則の整備や社内教育を継続的に実施する運用の整備が重要です。
SOGIハラは、本人に加害の自覚がないケースも少なくありません。
特にベテラン社員が冗談のつもりで発言しても、現在ではハラスメントと判断される可能性があります。
また、SOGIハラ防止をダイバーシティ推進や道徳的配慮として捉えており「法律による義務」という意識が低いケースもあります。
企業は管理職を含む全従業員に対し、SOGIに関する正しい知識や対応方法を教育し、過去の価値観や慣習を見直す機会を設けましょう。
パワハラ防止法において明確に指針が示されている「法的義務」である点を強調するのも重要です。
相談窓口の周知とあわせて継続的な研修を行い、ハラスメントを起こさない職場風土を醸成しましょう。
SOGIハラを防止するには、就業規則やハラスメント規程の懲戒事由にSOGIハラを明記し、社内ルールとして明確化する点が重要です。
しかし、ネット上の雛形をそのまま利用しただけでは、実際にトラブルが発生した際、適法な懲戒処分の根拠として十分に機能しない恐れがあります。
また、ハラスメント規程の整備や事実認定、懲戒処分の判断は高度な法的判断を伴います。
未然のルール整備から有事の対応まで、弁護士のリーガルチェックを受けて進めれば、自分の会社の法的リスクを大きく軽減できるでしょう。
SOGIハラは、企業の姿勢や職場環境だけでなく、法的責任にも直結する重要な労務問題です。
自分の会社を守るためには、相談窓口の整備や社内教育の実施、就業規則の見直しなどを平時から進めておく必要があります。
ハラスメント規程の整備や個別事案への対応は専門的な法的判断を伴うため、事前段階からの弁護士相談をおすすめします。
労働問題やハラスメント対応について相談するなら、企業法務に精通した弁護士へ相談し、自分の会社に適した体制を構築しましょう。