

大阪弁護士会所属。京都市出身。
労働環境が激変する現代において、企業が直面する労務リスクは経営の根幹を揺るがしかねない重要課題です。私は、大学卒業後のIT企業勤務、経営コンサルタント、企業役員といった10数年のビジネス現場での経験を経て弁護士となりました。
法律はあくまで手段であり、目的は「企業の持続的な成長と安定」であるべきだと考えています。そのため、単に「法的に可能か不可能か」を答えるだけでなく、現場のオペレーションや事業への影響、経営者の想いを汲み取った上での「最適な次の一手」を提示することを最優先しています。
使用者側(企業側)の専門弁護士として、労働紛争の早期解決はもちろん、トラブルを未然に防ぐための強固な労務基盤の構築を支援いたします。経営者の皆様が事業に専念できるよう、法的側面から強力にサポートさせていただきます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/fukunishi/
書籍:「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
監修:プロが教える!失敗しない起業・会社設立のすべて
共著:民事信託 ――組成時の留意点と信託契約後の実務

この記事でわかること
産前産後休暇は、女性労働者の母体保護を目的として、法律で定められた休暇制度です。
取得の申出があった場合、会社は取得を認めた上で、適切な手続きを進める必要があります。
一方で、制度への理解不足や対応の誤りから、不利益取扱いやハラスメント問題へ発展するケースも少なくありません。
また、産前産後休暇だけでなく、その後の育児休業や復職支援まで見据えた対応も重要です。
この記事では、産前産後休暇の基本的なしくみから実務対応、関連の裁判例や法改正を踏まえ、企業が理解しておきたいポイントを解説します。
目次
産前産後休暇は、妊娠中および出産後の女性労働者が出産予定日の6週間前から、産後8週間まで取得できる休暇です(労基法第65条[注1])。
双子以上の多胎妊娠の場合は、産前休暇は14週間前から取得できます。
産前休暇は、従業員から請求があった場合に取得させる休暇です。
そのため、請求がなければ就業の継続が可能です。
一方、産後休暇中は本人の希望にかかわらず、原則として就業できません。
ここでは、制度の対象者や期間の考え方、育児休業との違いを解説します。
産前産後休暇は、雇用形態にかかわらず取得できます。
正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイトも対象です。
労基法上の制度であるため、従業員の勤続年数や所定労働時間、事業所の規模等によって適用が制限されない点にも注意が必要です。
妊娠した女性労働者から請求があった場合、会社は取得を拒否できません。
違反した場合、6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります(労基法第119条[注2])。
また、対象となるのは妊娠4カ月以上(1カ月28日として計算するため85日以上)の妊婦です。
正常分娩だけでなく、死産や流産、人工妊娠中絶であっても、要件を満たす場合は産後休暇の対象となります。
産前休暇は、出産予定日を基準として計算します。
単胎妊娠は6週間前、多胎妊娠は14週間前から取得可能です。
実際の出産日が予定日より遅れた場合は、その出産日まで産前休暇期間が延長されます。
出産予定日よりも早く産まれた場合は、産前休暇は短縮されますが、産後休暇の日数は変わりません。
なお、出産日は産前休暇に含まれます。
産後休暇の8週間は、出産日の翌日から起算します。
この期間は、多胎妊娠であっても変わりません。
企業が特に注意したいのは、産後8週間は原則として就業禁止である点です。
本人が働きたいと希望しても、会社は就業させられません。
例外として、産後6週間を経過した後、本人が請求し、医師が支障ないと認めた業務に限って就業が可能となります。
育児休業は、産前産後休暇と関連の深い休業制度ですが、法律上は別の法律に基づいた制度です。
産前産後休暇は労働基準法に基づく制度であり、女性労働者の母体保護を目的としています。
特に産後8週間は、本人の意思にかかわらず就業が制限される点が大きな特徴です。
これに対し、育児休業は育児・介護休業法に基づく制度です。
原則として子が1歳になるまでの期間、女性だけではなく男性も休業を取得できます。
育児休業も法律上認められた権利ですが、雇用形態や契約内容によっては、従業員が取得要件を満たさないケースがあります。
企業としては、産休と育休を同じ制度として扱うのではなく、それぞれの根拠法や適用ルールを区別して運用する点が重要です。
特に産後休暇中は絶対的就業禁止である点を、管理職まで含めて周知しておく必要があります。
[注1]労働基準法/e-Gov
労働基準法第65条
[注2]労働基準法/e-Gov
労働基準法第119条
従業員が産前産後休暇を取得する際は、取得前から取得・復職まで各段階で対応が必要です。
出産手当金の申請や社会保険料免除など、従業員の生活に直結する手続きも少なくありません。
また、休暇に入ると連絡が取りづらくなるため、事前に必要事項や本人の意向を整理しておく点も重要です。
制度説明から業務引継ぎまでを含めて、計画的に進める体制を整えましょう。
ここでは、産前産後休暇における企業対応の基本について解説します。
妊娠の報告を受けたら、まず今後の手続きや制度について説明し、従業員本人の意向を確認します。
産休終了後の育児休業についても、この段階での制度説明や取得意向を確認しておくと、その後の対応がスムーズです。
主な確認事項は、次のとおりです。
制度を十分に理解していない従業員も多いため、会社側から丁寧に案内する姿勢を心がけましょう。
特に、休業中の賃金や給付金の取扱いは、従業員の生活に直結するため、正確な説明が求められます。
産前産後休暇中は、産休取得者が一定の要件を満たした場合、加入する健康保険から生活補償として出産手当金が支給されます。
特に、出産手当金は一般的に産休終了後に申請するため、出産から入金まで約3カ月程度かかる点に注意が必要です。
休業中の収入を補う重要な手当であるため、対象者への漏れのない案内と手続きが重要です。
また、産前産後休暇期間中は社会保険料が免除されます。
免除の対象は従業員負担分だけでなく、会社負担分も含まれるため、企業側にとっても影響の大きい手続きです。
いずれの制度も、必要な届出が行われなければ、適切な給付や免除を受けられません。
社内担当者は、申請漏れが生じないように管理体制を整備しましょう。
産前産後休暇への対応は、休業開始前後だけでなく、妊娠中から始まります。
業務引継ぎや代替要員の確保を進める際も、対象者へ過度な負担をかけないよう注意が必要です。
特に妊娠中は、つわりや切迫流産・切迫早産のリスク等により、就業上の配慮が必要になる場合があります。
医師が作成する「母性健康管理指導事項連絡カード」に、通勤緩和や勤務時間短縮、休業等の措置が記載されるケースもあります。
これは、診断書と同等の効果を持つため、会社は記載内容に応じた適切な措置を講じなければなりません。
企業としては、その都度個別対応するだけでなく、日頃から業務の属人化を防ぐしくみづくりも重要です。
マニュアル整備や業務共有、リモートワークの活用などを進め、本人の負担軽減と業務継続の両立につなげる体制を、積極的に整えましょう。
妊娠や産前産後休暇、育児休業を取得した従業員に対する会社の配置転換や降格は、違法となる可能性があります。
広島中央保健生活協同組合事件は、妊娠・出産に関連する制度利用と降格について、最高裁が重要な判断を示した事案です。
病院に勤務していた副主任の従業員が、妊娠中に労基法第65条3項[注3]に基づく「軽易業務への転換」を申し出ました。
会社は配置換えを行うとともに、副主任の地位を免じました。
その後、産休・育休を取得した従業員が復職しましたが、副主任には戻されなかったため、女性従業員が損害賠償を請求しました。
最高裁は、本事案の降格が、男女雇用機会均等法が禁止する不利益取扱いに該当すると判断しています。
その上で、本人が自由な意思に基づいて降格を承諾したと認められる特段の事情があるかが、適法性の判断ポイントであるとしました。
本件では、降格について、本人に一応の同意がありましたが、降格や復職後の待遇について十分な説明が行われていませんでした。
また、差し戻審の広島高裁では、業務負担の軽減措置が、降格による不利益を補っていない点も重要視しています。
結果として降格は違法と判断され、従業員の損害賠償請求が一部認められました。
企業が妊娠中の従業員の業務軽減や配置変更を行う場合、慎重な対応が求められます。
特に、役職や賃金、評価に影響が及ぶ場合は、休業取得後の待遇も併せて、十分な説明と本人の意思確認を丁寧に行いましょう。
事例事件名:広島中央保健生活協同組合事件
[注3]労働基準法/e-Gov
労働基準法第65条3項
産前産後休暇に関連する育児・介護休業等の法制度は、近年頻繁に見直されています。
2022年10月1日から施行された「産後パパ育休(出生時育児休業)」は企業のコンプライアンス評価においても、重要な内容です。
また、育児休業の取得を促進するための個別周知や雇用環境整備も義務化されています。
ここでは、企業が押さえておきたい産前産後休暇に関連する法改正について解説します。
産後パパ育休(出生時育児休業)は、産後休暇期間中にあたる、子の出生後8週間以内に最大4週間まで男性従業員が取得できる休業です。
期間中は2回まで分割して取得できます。
女性の産後休暇期間中における男性の育児参加促進を目的とし、2022年10月1日から開始されました。
「男性版産休」と呼ばれる場合もありますが、女性労働者が取得する労基法の産休とは異なり、育児・介護休業法に定められる制度です。
近年は一定規模以上の会社に対して、男性育休取得率の公表義務も導入されています。
そのため、男性の育休取得促進は、企業のコンプライアンスや人的資本経営、人材確保の観点からも重要なテーマとなっています。
2022年4月から、従業員から妊娠・出産の申出があった場合、育児休業制度についての個別周知、取得意向の確認が企業の義務となりました。
対象は女性従業員だけではありません。
配偶者の妊娠・出産を申し出た男性従業員についても、同様の対応が必要です。
制度内容や社内の手続き申出先、給付金の概要等を説明し、取得するかどうかの意向を確認します。
面談記録や説明資料を整備し、今後の予定や流れについて整理された説明を心がけましょう。
なお、取得を控えるよう働きかける内容は、制度の趣旨に反するため、行ってはいけません。
2022年4月から、企業には、従業員が育児休業を申し出やすい環境を整備する義務があります。
次の4つの措置のうち、いずれかを実施しなければなりません。
法令上はいずれか1つでも足りますが、実務上は複数の施策を組み合わせた運用が望ましいとされています。
制度があっても利用しづらい職場環境を、改善するための取り組みです。
産前産後休暇期間中および育児休業期間中は、健康保険料と厚生年金保険料が、従業員負担分だけでなく会社負担分も免除されます。
2022年10月以降は、育児休業期間中の社会保険料免除についてのルールが変わりました。
同一月内で育児休業を開始・終了した場合でも、育休取得日数が14日以上あれば月額保険料の免除対象となります。
一方、賞与に係る社会保険料については、連続して1カ月を超える育児休業を取得した場合に限り、免除対象となります。
ただし、休業しただけで自動的に免除されるわけではありません。
所定の届出が必要であり、手続き漏れには注意が必要です。

産前産後休暇への対応では、従業員の健康状態や業務負担への配慮が求められます。
一方で、会社が配慮のつもりで行った措置であっても、本人の意向を無視した配置転換や降格は、マタニティハラスメントと評価される可能性があります。
法令違反が認定された場合には、損害賠償や罰則だけでなく企業イメージの低下にもつながるため、制度の趣旨を正しく理解した運用が重要です。
ここでは、産前産後休暇に関する企業がおさえておきたい注意点について解説します。
産前産後休暇期間中およびその後30日間の解雇は、原則として法律で禁止されています(労基法第19条[注4])。
例外的に解雇が認められるのは、天災事変その他やむを得ない事由により事業継続が困難となった場合など、極めて限定的なケースです。
この場合においても、産前産後休暇の取得を理由とした解雇ではない事実について、労基署の認定を受けなければなりません。
雇止めや退職勧奨についても、実質的には解雇と見なされる可能性があり、トラブルの原因となるため、注意が必要です。
妊娠・出産を理由とした、解雇や降格等の不利益な取り扱いは、法律により禁止されています(男女雇用機会均等法第9条[注5])。
特に注意したいのは、会社側に悪意がなくても違法となる場合がある点です。
「体調を考慮して責任の軽い部署へ異動させた」「本人の負担軽減のため役職を外した」といった事情であっても、注意が必要です。
本人の意向確認や十分な説明を欠いた場合、マタニティハラスメントと評価される可能性があります。
不利益取扱いが認定された場合、損害賠償請求だけでなく、SNS等による風評拡散や採用活動への影響といったレピュテーションリスクも生じます。
現場で面談や配置調整を行う管理職への教育を含め、組織として適切な運用体制を整備する視点が重要です。
[注4]労働基準法/e-Gov
労働基準法第19条
[注5]男女雇用機会均等法/e-Gov
男女雇用機会均等法第9条
産前産後休暇は、単なる福利厚生ではありません。
労基法をはじめとする法令によって強く保護された労働者の権利であり、企業には適切な制度運用が求められます。
取得手続きの漏れや不用意な配置転換、不利益取扱いは、マタニティハラスメントや解雇トラブルへ発展する可能性があります。
規程整備や実務対応に不安がある場合は、トラブル発生後ではなく、事前に弁護士へ相談し、リーガルチェックを受けてください。
適法な職場環境の構築は、企業のリスク管理にも直結します。
なお、労働問題や立退き問題の解決には、実績豊富なVSG弁護士法人がおすすめです。