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リスクアセスメントとは?手順や効果、安全配慮義務違反を防ぐポイント

弁護士 福西信文

この記事の執筆者 弁護士 福西信文

大阪弁護士会所属。京都市出身。
労働環境が激変する現代において、企業が直面する労務リスクは経営の根幹を揺るがしかねない重要課題です。私は、大学卒業後のIT企業勤務、経営コンサルタント、企業役員といった10数年のビジネス現場での経験を経て弁護士となりました。
法律はあくまで手段であり、目的は「企業の持続的な成長と安定」であるべきだと考えています。そのため、単に「法的に可能か不可能か」を答えるだけでなく、現場のオペレーションや事業への影響、経営者の想いを汲み取った上での「最適な次の一手」を提示することを最優先しています。
使用者側(企業側)の専門弁護士として、労働紛争の早期解決はもちろん、トラブルを未然に防ぐための強固な労務基盤の構築を支援いたします。経営者の皆様が事業に専念できるよう、法的側面から強力にサポートさせていただきます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/fukunishi/
書籍:「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
監修:プロが教える!失敗しない起業・会社設立のすべて
共著:民事信託 ――組成時の留意点と信託契約後の実務

リスクアセスメントとは?手順や効果、安全配慮義務違反を防ぐポイント

この記事でわかること

  • リスクアセスメントの基本的な考え方や効果、進め方
  • リスクアセスメントシートの書き方
  • 業界別のリスクアセスメントの実施例とポイント

労働災害を防止するためには、事前に危険要素を洗い出し、対策を講じる「リスクアセスメント」が重要です。
労災では企業の安全配慮義務違反が問題となるケースも多く、形式的な安全対策だけでは不十分とされる場面も少なくありません。

企業の過失が大きいと判断された場合、企業には損害賠償請求や行政対応等、多大な負担が生じるため、注意が必要です。
担当者は、リスクアセスメントを通じて危険箇所を共有し、リスク低減措置を継続的に実施する体制づくりを進めましょう。

この記事では、リスクアセスメントの基本から、具体的な実施手順、シートの記入例、業界別の実務対応までを解説します。

リスクアセスメントとは

リスクアセスメントとは、職場に存在する危険・有害性を特定し、その結果に基づいてリスクを見積もり、低減措置を検討・実施する一連の流れです。
機械設備や化学物質、作業行動等に潜む危険を事前に把握して安全対策につなげ、労働災害を未然に防ぐ目的があります。

具体的には、職場や作業場に存在する危険性・有害性を洗い出し、災害の重篤性と発生可能性を踏まえてリスクを評価します。
重要なポイントは、リスク評価に基づいてリスク低減措置の優先順位を設定する点です。

企業の安全配慮義務や化学物質管理とも強く結びついており、単なる安全活動ではなく、法的リスク管理の観点からも重要な取り組みといえます。

リスクアセスメントの法的効果

労働安全衛生法第28条の2[注1]により、事業者に対して危険性・有害性等の調査と必要な措置を講じる努力義務が定められています。
これが、企業がリスクアセスメントを行う法的根拠です。

特に重要なのは、労働災害発生時に、リスクアセスメントの実施状況が「安全配慮義務違反」の判断材料となる点です。
危険の予見が可能であったにもかかわらず調査や対策を怠っていた場合、企業側の過失が認定される可能性が高まります。

重大事故や死亡災害では、損害賠償請求は数千万円規模に発展するケースもあります。
そのため、リスクアセスメントは労災防止だけでなく、企業を守る法的防衛線としても重要な取り組みと言えるでしょう。

企業には自律的管理が求められている

2023年の労働安全衛生規則改正以降、安全衛生管理は「企業が自ら危険を把握し管理する体制」へと大きく転換しています。
特に化学物質管理では、リスクアセスメントを前提とした「自律的管理」が重要です。
自社の作業内容や使用物質に応じて危険性を分析し、継続的に改善するしくみづくりが求められています。

リスクアセスメントが義務化される化学物質

国は化学物質について、危険・有害性の分類(GHS分類)を行います。
この結果、危険・有害性区分が付与された物質については、ラベル表示、SDS交付、リスクアセスメントを行わなければなりません。
具体的な対象化学物質は、労働安全衛生法第57条の2[注2]および労働安全衛生法施行令第18条[注3]で定められています。

各事業場は、この情報を基にリスクアセスメントを実施し、従業員のばく露濃度が基準を超えないよう管理しなければなりません。
GHS分類が未実施であっても、危険・有害性がある物質は、同様の措置が努力義務となっています。
また、健康影響が明らかにない物質を除き、保護メガネ・保護手袋・保護衣等の使用が必要です。

リスクアセスメント義務対象物質は、改正前の約700種類から、2026年4月時点で約2,300種類まで拡大しています。
今後も対象物質は増加する見込みであるため「以前は対象外だったから問題ない」という考え方は危険です。
自社で使用している化学物質は定期的に棚卸しし、SDSの更新確認や管理台帳整備を行う運用体制が求められます。

化学物質管理者等の選任義務

リスクアセスメント対象物を製造・取扱い・譲渡提供する事業場では「化学物質管理者」の選任が義務付けられています。
また、保護具によるばく露防止対策を行う事業場では「保護具着用管理責任者」の選任も必要です。保護具着用管理責任者は形式的な役職ではなく、実際にリスク評価や教育、保護具管理を担う役割として位置づけられています。

リスクマネジメントとの違い

リスクマネジメントとは、リスクの特定・分析・評価だけではなく、その後の対策実施や効果検証、継続的改善までを含めた管理全体を指します。

一方、リスクアセスメントは、その中核となる「危険・有害性の特定」「リスクの見積もり」「優先順位付け」を担うプロセスです。
つまり、リスクアセスメントは、リスクマネジメントの一部でありながら、最も重要な基礎部分ともいえます。

適切なリスクマネジメントを実行するためにも、その前提となるリスクアセスメントを適正に行うことが求められます。

[注1]労働安全衛生法/e-Gov
労働安全衛生法第28条の2

[注2]労働安全衛生法/e-Gov
労働安全衛生法第57条の2

[注3]労働安全衛生法施行令/e-Gov
労働安全衛生法施行令第18条

リスクアセスメントの効果

リスクアセスメントに期待できる効果は、次のとおりです。

  • 全社的なリスク共有が可能になる
  • 企業イメージが向上する
  • 労災防止策の優先順位が決まる

ここでは、それぞれの効果について詳しく解説します。

全社的なリスク共有が可能になる

リスクアセスメントの実施により、現場や担当者個人の経験や勘に依存しない、危険情報の共有が可能です。
「どこに危険があるのか」「どの作業が高リスクなのか」が具体化されるため、社内共有の精度や実効性が高まります。

また、ヒヤリハット事例や過去の災害情報を整理し、リスク評価シートとして記録すれば、新任者教育や作業手順の見直しにも有効です。

企業イメージが向上する

会社が安全対策に継続的に取り組む姿勢は、従業員の安心感や取引先・元請企業からの評価につながります。
近年は、コンプライアンス違反に対する社会的な視線も厳しく、安全管理体制は企業信用の一部として見られる要素です。
そのため「従業員の安全を考えている会社」という認識は、職場満足度や定着率の向上だけでなく、取引先との信頼関係にもプラスの効果が期待できます。

労災防止策の優先順位が決まる

リスクアセスメントにより労災防止策の優先順位が決まれば、効率的な危険・有害因子の低減が可能です。
企業の限られたリソースで、重大な労災事故の発生率低下を早期に実現できます。

労災が発生すると、被災労働者への休業補償や業務停止、行政対応や損害賠償等多方面に影響が及びます。
結果として人材流出、業務停止等、企業運営にとって大きなダメージとなるケースも少なくありません。
対策の優先順位がわかれば、こういったリスクを早期に最小化できる可能性が高まります。

リスクアセスメントの手順

リスクアセスメントを行う基本的な流れは、次の4ステップです。

  • リスクの特定
  • リスクの見積もり
  • 優先順位の決定
  • 対策の実施

ここでは、それぞれの手順について詳しく解説します。

リスクの特定

まず、職場内の生産工程や作業内容を洗い出し、危険・有害性を具体的に特定します。
機械設備の取り扱い説明書や化学物質のSDS、過去の災害事例の情報の収集も重要です。

具体的なリスク特定のために、次の観点で整理します。

  • 危険性・有害性のある物質や作業
  • 対象者
  • 危険性・有害性に近づく状況
  • 安全対策の不備
  • 想定される負傷や疾病の内容

たとえば「高速回転する切断機に、作業者が材料調整のため手を近づけた際、安全カバーが不十分で、指を切断する」といった形で具体化します。
危険を抽象的に捉えるのではなく「誰が・いつ・どう危険に至るか・結果どうなるか」まで整理する点が重要です。

リスクの見積もり

次に、特定した危険についてリスクを見積もります。
定められた形式はありませんが、一般的には「重篤度」「発生可能性」等の観点から、点数化やランク分けを行い、総合的に評価します。

区分の具体例は、次のとおりです。

【重篤度】

  • 致命傷:死亡や永久損傷
  • 重大:休業1カ月以上、被災者多数
  • 中程度:休業1カ月未満、被災者少数
  • 軽度:休業不要、軽微な負傷

【発生可能性】

  • 極めて高い:日常的かつ長時間行われ、回避困難な業務
  • 比較的高い:日常的に行われるが、回避可能な業務
  • 可能性あり:非日常的であり、回避可能な業務
  • ほとんどない:まれにしか行わない作業であり、回避可能な業務

担当者個人だけでなく、現場責任者や実作業者等、複数視点から評価すれば、見落としや過小評価を防ぎやすくなります。

優先順位の決定

見積もり結果を踏まえ、リスク対応の優先順位を決定します。
「高い」「中程度」「低い」など、3~5段階程度で整理するのが一般的です。

特に、死亡災害や重大事故につながるリスクについては、直ちに対策を講じる必要があります。
場合によっては、改善完了まで作業停止を行う判断も必要です。

また、高リスクへの対応では、設備更新や人員配置の見直し等、十分な経営資源を投入する視点も求められます。
危険性を把握していたにもかかわらず対策を放置した場合、安全配慮義務違反として企業責任が重く評価される可能性があるため、注意が必要です。

対策の実施

優先順位を決定した後は、具体的なリスク低減措置を実施します。
法令で定められた安全措置がある場合は、原則としてその内容に従うのが原則です。
具体的には、以下のものが挙げられます。

  • 安全カバー設置
  • 換気設備の改善
  • 低毒性物質への変更
  • 作業手順の変更
  • 保護具の使用
  • 立入制限等

また、実施前には「どの程度リスクが低減できるか」を予測し、実施後に残留リスクを確認する流れが重要です。
対策の実施だけで終わらせず、現場で実際に機能しているかの点検や改善の繰り返しが、実効性のある安全管理につながります。

【記入例あり】リスクアセスメントシートの書き方

リスクアセスメントシートは、労働災害発生時に、会社の安全対策を示す重要な証拠資料です。
リスク低減の実効性や法的有効性を高めるためには、作業内容や対象物質、具体的な危険や対策内容、実施状況までを追跡できる形で記録します。

主な記載項目は、次のとおりです。

  • リスク特定
  • リスクの見積り
  • 低減措置の具体的内容
  • リスク低減措置後のリスク見積り
  • 実施状況

ここでは「化学物質を一定期間使用する作業」を想定し、リスクアセスメントシートの書き方を詳しく解説します。

リスク特定

リスク特定では、対象となる作業内容と危険性・有害性について具体的に記載します。

対象物質・製品名作業工程作業の順序危険性又は有害性のリスク
洗浄剤A洗浄作業洗浄液を槽へ投入皮膚刺激性、吸入による健康有害性
硬化剤B塗布作業薬剤を手作業で塗布急性毒性、皮膚炎リスク

「何が危険か」だけでなく「どの作業時に」「どういった健康被害が想定されるか」まで具体化する点がポイントです。

リスクの見積り

リスクの見積りでは、重篤度や発生可能性から、リスクの優先度を評価します。

対象物質・製品名重篤度発生可能性リスク(優先度)
洗浄剤A中程度(皮膚炎・1週間程度の休業見込み)高い優先対応
硬化剤B重度(急性中毒・1カ月以上の休業見込み)中程度即時対応

評価基準は複数人で評価し、会社で基準を統一する点が重要です。
特に、重大事故につながる可能性があるリスクを過小評価していた場合、安全配慮義務違反の判断に影響する可能性があります。

低減措置の具体的内容

優先度が高いリスクから、具体的な低減措置を記載します。

対象物質・製品名対象リスク低減措置
洗浄剤A吸入局所排気装置を設置
皮膚刺激耐薬品手袋・保護衣を使用
硬化剤B急性毒性低毒性製品へ変更
飛散リスク保護メガネを着用

対象となるリスクや行為に対して、実行性の高い低減措置を講じる点が重要です。

リスク低減措置後のリスク見積り

対策後に残留リスクを再評価する点も重要です。

対象物質・製品名重篤度発生可能性リスク(優先度)
洗浄剤A軽度(休業不要の皮膚炎)中程度管理継続
硬化剤B中程度(急性中毒・1週間程度の休業見込み)中程度管理継続

あわせて、実施状況も記録します。

対象物質・製品名実施責任者実施年月日備考
洗浄剤A課長 C〇年〇月〇日排気装置の設置により吸引リスクが大幅に低減した

残留リスクへの管理体制までを記録し、継続的に更新する運用体制が重要です。

【業界別】リスクアセスメントの実施例

リスクアセスメントは、現場実態に即した危険特定が重要です。
ここでは、特に労災発生の可能性が高い製造業や建築業、運送業の実施例について紹介します。

製造業

製造業では、化学物質や機械設備を反復使用するケースが多く、化学物質の吸入や皮膚接触、巻き込まれや挟まれ事故に注意が必要です。
また、有機溶剤や可燃性物質による引火リスクも検討対象となります。

対策としては、低毒性物質への変更、自動化による接触機会の削減、排気装置の設置等が挙げられます。
さらに、プレス機等の大型機材には、安全装置や立入管理が効果的です。

建設業

建設業は、現場ごとに作業環境が変化する点が特徴です。
屋外作業だけでなく、地下や密閉空間など、通風が不十分な環境での塗料や粉じんによる健康障害が想定されます。
また、電動工具や重機の誤使用による事故リスクも高く、労災発生時の重症度も高くなります。

作業開始前の安全確認や立入区域管理、保護具使用ルール等を、現場ごとに見直す運用が重要です。

運送業

運送業では、荷下ろし時の転倒・墜落や、倉庫内でのフォークリフト接触事故等が代表的なリスクです。
さらに、長距離運転や夜間走行による疲労蓄積も、重大交通事故や健康障害につながる危険有害要因となります。

特に、物流の2024・2026年問題に関連して、ドライバー不足や拘束時間管理への対応が業界全体の課題となっています。
ドライバーの運転時間や休憩取得状況、深夜運行頻度などもリスクアセスメント対象として管理し、健康管理データと連動させる点が重要です。

まとめ

リスクアセスメントは、従業員の命や健康を守るだけでなく、企業を労災発生時の法的リスクから守るための不可欠なプロセスです。

現場の安全衛生管理体制が法的要求水準を満たしているかを、VSG弁護士法人によるリーガルチェックで確認するようおすすめします。
実効性のある運用体制を構築するためにも、トラブル発生前の段階からの専門家への相談が重要です。

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