

大阪弁護士会所属。京都市出身。
労働環境が激変する現代において、企業が直面する労務リスクは経営の根幹を揺るがしかねない重要課題です。私は、大学卒業後のIT企業勤務、経営コンサルタント、企業役員といった10数年のビジネス現場での経験を経て弁護士となりました。
法律はあくまで手段であり、目的は「企業の持続的な成長と安定」であるべきだと考えています。そのため、単に「法的に可能か不可能か」を答えるだけでなく、現場のオペレーションや事業への影響、経営者の想いを汲み取った上での「最適な次の一手」を提示することを最優先しています。
使用者側(企業側)の専門弁護士として、労働紛争の早期解決はもちろん、トラブルを未然に防ぐための強固な労務基盤の構築を支援いたします。経営者の皆様が事業に専念できるよう、法的側面から強力にサポートさせていただきます。
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書籍:「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
監修:プロが教える!失敗しない起業・会社設立のすべて
共著:民事信託 ――組成時の留意点と信託契約後の実務

目次
公益通報者保護法とは、企業や行政機関などにおける不正行為や法令違反を通報した人を保護するための法律です。従業員などが不正を通報したことを理由として、解雇や降格、嫌がらせなどの不利益な扱いを受けないようにすることを目的としています。
企業の不正は内部の人しか把握できないケースも多く、内部からの通報は不祥事の発覚や是正に大きな役割を果たします。一方で、通報者が不利益を受けるおそれがあると、通報が行われず不正が放置される可能性があります。
そこで公益通報者保護法では、一定の要件を満たす通報を「公益通報」として保護し、通報者への解雇や不利益処分を無効とするなどのルールを定めています。
参照:公益通報者保護法が改正。「内部通報制度」で不正をストップ!|政府広報オンライン
公益通報者保護法と密接に関係する仕組みが内部通報制度(公益通報制度)です。内部通報制度とは、従業員や役員などが企業の不正行為や法令違反を発見した場合に、社内または外部の窓口へ通報できる仕組みをいいます。
適切な内部通報制度が整備されている企業では、問題が外部に発覚する前に社内で事実確認や是正措置を行うことができます。これにより、重大な不祥事や企業イメージの低下を防ぐことが期待されています。
一方で、通報制度が整備されていない場合、従業員が直接行政機関や報道機関に通報する可能性が高まり、企業にとって大きなリスクとなる場合もあります。
近年の企業不祥事の多くは、内部通報をきっかけに発覚したケースが少なくありません。政府の調査でも、不正行為の発覚のきっかけとして内部通報が一定の割合を占めていることが示されています。

引用:公益通報者保護法が改正。「内部通報制度」で不正をストップ!|政府広報オンライン
※「令和5年度 民間事業者等における内部通報制度の実態調査報告書」を参考にしたデータです。
たとえば、次のような問題が内部通報によって明らかになるケースがあります。
このように内部通報制度は、企業の不正を早期に発見し、被害の拡大を防ぐための重要な仕組みといえます。
公益通報者保護法では、一定規模以上の事業者に対して内部通報制度の整備を義務付けています。具体的には、従業員が300人(アルバイト・派遣・契約社員等の非正規社員を含む)を超える事業者は、次のような体制を整備しなければなりません。
一方で、労働者300人以下の事業者については努力義務とされています。ただし、コンプライアンス体制の強化や不祥事防止の観点から、中小企業でも内部通報制度を整備する企業が増えています。
なお、制度整備を怠っていると行政指導を受ける可能性があり、場合によっては企業名が公表されることもあります。そのため、対象企業は法令に沿った体制を早めに整備しておくことが重要です。
企業における内部通報制度の運用状況や、国内外での通報者保護の動向などを踏まえ、公益通報者保護法は2025年(令和7年)6月に改正されました。改正法は2026年(令和8年)12月1日に施行予定であり、企業に対する義務や通報者の保護内容がさらに強化されています。
ここでは、企業が特に押さえておくべき4つの主な改正ポイントを解説します。
改正法では、内部通報体制の整備をより実効的なものにするための仕組みが強化されました。従業員が300人を超える事業者などは、内部通報の受付や調査、是正措置などを担当する「公益通報対応業務従事者」を指定する義務があります。
従来、この義務に違反した場合には消費者庁による指導や勧告などの行政措置が中心でした。しかし改正法では、勧告に従わない場合には命令が出され、命令違反には30万円以下の罰金が科される可能性があります。
なお、労働者300人以下の企業については従事者の指定は努力義務とされていますが、コンプライアンス体制を強化する観点から制度整備が求められています。
改正法では、通報を抑制するような行為を明確に禁止する規定が設けられました。たとえば、企業が従業員に対して「公益通報を行わないといった誓約書を提出させる」「通報者を特定する目的で調査や聞き取りを行う」といった行為は、正当な理由がない限り認められません。
また、このような通報妨害を目的とした誓約書や合意は法的に無効とされます。企業としては、通報者の匿名性や秘密保持を確保し、安心して通報できる環境を整えることが重要です。
通報を行った従業員などに対する解雇や懲戒処分などの不利益な扱いの防止も、今回の改正で強化されています。
従来は、通報後に解雇などの処分を受けた場合でも、それが通報を理由としたものであることを通報者側が立証する必要がありました。改正法では、通報から1年以内に行われた解雇や懲戒処分は、通報を理由としたものと推定される仕組みが導入され、通報者の立証負担が軽減されています。
さらに、通報を理由として解雇や懲戒処分を行った場合には、行為者に対して6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります。加えて、企業に対しても最大3000万円の罰金が科される場合があるため、企業の責任はより重くなっています。
改正法では、公益通報者として保護される対象者の範囲も拡大されています。
改正前の保護対象となる通報者は、以下のとおりです。
改正後は、これらに加えてフリーランスなどの業務委託で働く人も保護対象となります。そのため、通報を理由として業務委託契約を解除するなどの不利益な扱いをすることは認められません。また、現在取引関係にあるフリーランスだけでなく、業務委託関係が終了してから1年以内のフリーランスも保護対象に含まれます。
企業としては、従業員だけでなく、外部の委託先からの通報にも適切に対応できる制度設計を行う必要があります。

引用:公益通報者保護法が改正。「内部通報制度」で不正をストップ!|政府広報オンライン
内部通報制度では、企業内の不正や法令違反などを発見した従業員などが、社内または外部の窓口へ通報することができます。
ただし、すべての問題が公益通報として保護されるわけではなく、公益通報者保護法で定められた一定の要件を満たす行為である必要があります。
公益通報として保護されるためには、通報内容が国民の生命・身体・財産などの利益の保護に関わる法令違反である必要があります。具体的には、約500の法律に規定された犯罪行為や過料の対象となる行為、または刑罰や過料につながる可能性がある行為などが対象とされています。
通報対象となる行為の例としては、次のようなケースが挙げられます。
このように、企業活動の中で行われる法令違反や社会的に重大な不正行為が公益通報の対象となります。
公益通報者保護法では、通報先として社内の内部通報窓口だけでなく、外部機関への通報も認められています。主な通報先は次のとおりです。

引用:公益通報者保護法が改正。「内部通報制度」で不正をストップ!|政府広報オンライン
通報先に形式的な優先順位はありませんが、どこに通報するかによって保護される要件が異なる点には注意が必要です。
たとえば、【行政機関への通報】が保護されるためには、
といった条件を満たす必要があります。
また、【報道機関などへの通報】の場合は、真実相当性に加えて、
といった特別な事情が必要とされます。
なお、役員による通報は一般の従業員とは保護要件が異なる場合があるため、企業としては制度の内容を正確に理解して対応することが重要です。
内部通報制度は、企業の不正行為や法令違反を早期に把握し、適切に是正するための重要な仕組みです。制度を形だけ整えるのではなく、実際に機能する体制を構築することが重要です。
ここでは、企業が内部通報制度を導入する際の基本的な手順を解説します。
まず、内部通報制度を導入する目的や基本方針を明確にする必要があります。
内部通報制度は、不正の発見やコンプライアンスの強化だけでなく、企業の信頼性を高める役割もあります。そのため、制度の目的を「不正の早期発見」「企業倫理の向上」「法令遵守体制の強化」などの観点から整理し、経営層が主体となって導入方針を決定することが重要です。
また、匿名通報の可否や外部窓口の設置など、制度の基本設計についてもこの段階で検討しておくとよいでしょう。
次に、内部通報制度を運用するための責任者や窓口を決定します。
内部通報の受付窓口は、社内のコンプライアンス部門や監査部門などに設置することが一般的ですが、弁護士事務所などの外部機関を窓口とするケースもあります。社内窓口だけでは通報しにくい場合もあるため、社内窓口と外部窓口を併設することで通報しやすい環境を整えることが望ましいとされています。
また、通報対応の最終的な責任者を明確にしておくことで、制度運用の透明性や公平性を確保できます。
公益通報者保護法では、内部通報に関する業務を担当する「公益通報対応業務従事者」を指定することが求められています。
従事者は、通報内容の受付や事実確認、関係部署との連携、調査の進行管理などを担当します。そのため、法令の内容や調査手続き、秘密保持の重要性などについて理解しておく必要があります。
適切な対応ができるように、従事者に対しては専門的な研修や教育を実施することが重要です。
内部通報制度を適切に運用するためには、社内規程やマニュアルを整備しておくことが必要です。たとえば、次のような書類を用意しておくと運用が円滑になります。
これらを整備しておくことで、通報があった場合にも統一した手続きで対応することができ、対応のばらつきやトラブルを防ぐことができます。
内部通報制度を機能させるためには、通報があった場合の対応手順をあらかじめ明確にしておく必要があります。一般的には、次のような流れで対応します。
このような対応フローを事前に定めておくことで、通報があった際にも迅速かつ適切に対応することが可能になります。
内部通報制度は、従業員が制度の存在や利用方法を理解していなければ機能しません。そのため、制度を導入した後は、従業員や役員に対して十分な周知を行うことが重要です。
具体的には、次のような方法が考えられます。
このような取り組みにより、従業員が安心して通報できる環境を整え、企業のコンプライアンス体制の強化につなげることができます。
内部通報制度は、企業の不正や法令違反を早期に発見し、適切に是正するための重要な仕組みです。制度を整備していない場合、企業は不正の発見が遅れたり、社会的信用を失ったりするなど、さまざまなリスクを抱えることになります。
ここでは、内部通報制度を導入していない場合に考えられる主なリスクを解説します。
内部通報制度がない企業では、従業員が不正行為や法令違反を発見しても、どこに相談すればよいのか分からず問題が表面化しにくくなります。
その結果、会計不正や労働法違反、品質不正などの問題が長期間放置される可能性があります。不正が発覚したときにはすでに被害が拡大しており、企業にとって大きな損失につながるケースも少なくありません。
内部通報制度は、不正を早期に把握し迅速に是正するための重要な手段といえます。
企業の不祥事が外部に公表されると、社会的信用やブランドイメージが大きく損なわれる可能性があります。
特に近年は、SNSやインターネットメディアの影響により、不祥事に関する情報が短時間で広く拡散される傾向があります。その結果、顧客離れや取引停止、株価の下落など、経営への影響が広がることもあります。
内部通報制度を整備しておけば、問題が外部に発覚する前に社内で把握し、適切な対応を取ることができる場合があります。
社内に通報窓口がない場合や、通報しても適切に対応してもらえないと感じた場合、従業員は行政機関や報道機関などの外部機関へ直接通報する可能性があります。その結果、企業として事実関係を確認する前に不正が外部へ公表され、企業の信用が大きく損なわれるおそれがあります。
内部通報制度を整備し、安心して通報できる環境を整えることは、企業にとってもリスク管理の観点から重要です。
一定規模以上の企業には、公益通報者保護法に基づき内部通報体制の整備が求められています。必要な体制を整備していない場合、消費者庁から行政指導や勧告を受ける可能性があります。さらに、勧告に従わない場合には命令が出され、命令違反には30万円以下の罰金が科されるおそれもあります。
企業としては、法令に沿った制度を整備し、適切に運用することが重要です。
内部通報制度が整備されていない企業では、不正行為が見逃されやすくなり、組織全体のコンプライアンス意識が低下する可能性があります。「不正をしても発覚しない」という意識が広がると、不正行為が繰り返されるなど、組織文化そのものが悪化するおそれがあります。
内部通報制度は、不正の抑止や企業倫理の向上にもつながるため、健全な企業経営を維持するための重要な仕組みといえるでしょう。
公益通報者保護法への対応や内部通報制度の整備は、企業のコンプライアンス体制を構築するうえで重要な課題です。しかし、制度設計や通報対応を誤ると、通報者とのトラブルや法的リスクにつながる可能性があります。
弁護士に相談することで、法令や実務に基づいた適切な制度整備や運用を進めることができます。
内部通報制度を導入する際には、公益通報者保護法や関連法令に適合した制度設計が必要です。制度の設計が不十分な場合、通報者保護が適切に行われず、法的トラブルにつながるおそれがあります。
弁護士に相談することで、最新の法改正や実務を踏まえた内部通報制度を設計することができます。企業の規模や組織体制に応じた制度を構築することで、実効性の高いコンプライアンス体制を整えることが可能になります。
内部通報を受けた場合には、事実関係の調査や関係者への聞き取りなど、慎重な対応が求められます。対応を誤ると、通報者への不利益取扱いと評価されたり、労務トラブルに発展したりする可能性があります。
弁護士に相談することで、調査の進め方や証拠の収集方法、関係者への対応などについて法的観点から助言を受けることができます。これにより、公平で適切な調査を進めやすくなります。
内部通報制度を適切に運用するためには、就業規則や内部規程を整備しておくことが重要です。通報対応のルールや守秘義務、不利益取扱いの禁止などを明確に定めておく必要があります。
弁護士に依頼すれば、公益通報者保護法に対応した社内規程の作成や見直しについてサポートを受けることができます。法令との整合性を確保することで、制度運用に関するトラブルを防ぐことにもつながります。
内部通報をきっかけに不正行為が発覚した場合には、社内調査や関係者への処分、再発防止策の検討などを適切に行う必要があります。
弁護士に相談することで、法的リスクを踏まえた対応方針について助言を受けることができます。
また、再発防止策やコンプライアンス体制の見直しについてもアドバイスを受けることができるため、企業のリスク管理体制を強化することにつながります。
内部通報を受けた場合は、まず通報内容を記録し、事実関係の確認に向けた初期対応を行うことが重要です。その際、通報者の秘密を厳格に管理し、通報したことを理由に不利益な扱いをしないよう注意する必要があります。
通報内容の信頼性や緊急性を確認したうえで、関係部署と連携して適切な調査を進めることが望ましいでしょう。
パワハラやセクハラは、必ずしもすべてが公益通報者保護法の対象になるわけではありません。
ただし、労働関係法令違反や刑事事件に該当するような重大なケースであれば、公益通報として保護される可能性があります。
企業としては、公益通報の対象に当たるかどうかにかかわらず、ハラスメントに関する通報には適切に対応することが重要です。
通報内容が結果的に誤っていた場合でも、通報者が不正の存在を合理的に信じて通報したのであれば、原則として不利益な扱いをすることは適切ではありません。
一方で、虚偽であることを認識しながら通報した場合や、特定の人物を誹謗中傷する目的で通報した場合には、社内規程に基づいて懲戒処分の対象となる可能性があります。
内部通報を受けた事実を社内に広く公表する義務はありません。むしろ、通報者の秘密を守る観点から、通報内容や通報者の情報は必要最小限の範囲で共有することが求められます。
ただし、調査のために関係部署へ情報を共有する必要がある場合には、通報者が特定されないよう配慮しながら対応することが重要です。
内部通報制度の整備は、労働者300人以下の企業では努力義務とされていますが、中小企業であっても導入するメリットは大きいといえます。通報窓口を設けておくことで、不正行為や法令違反を早期に把握し、問題が拡大する前に対応できる可能性が高まります。
企業のコンプライアンス体制を強化するためにも、制度の導入を検討することが望ましいでしょう。
公益通報者保護法は、企業の不正や法令違反を早期に発見し是正するための重要な法律です。2025年の法改正では、内部通報体制の整備義務の強化や通報者保護の拡充などが行われ、企業に求められる対応もより厳格になりました。
内部通報制度を適切に整備しておくことで、不正行為を早期に把握し、企業の信用低下や法的リスクを防ぐことにつながります。一方で、制度が不十分な場合には行政指導や罰則の対象となる可能性もあります。
公益通報者保護法への対応や内部通報制度の整備に不安がある場合には、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。法改正の内容を踏まえて制度を見直し、企業のコンプライアンス体制を早めに整備しておくことが重要です。
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