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最終更新日:2022/6/13

個人事業主における資本金とは「元入金」【仕訳・計算方法は?】

税理士 鳥川拓哉
この記事の執筆者 税理士 鳥川拓哉

ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。

PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-tori

この記事でわかること

  • 個人事業主に発生する元入金とはどのようなものか知ることができる
  • 事業を始める時に元入金がどれくらい必要なのかがわかる
  • 元入金の計算方法や決算書への記載方法を知ることができる

個人で事業を始める際に、どれくらい資金が必要なのか分からないという方が多いかもしれません。

個人事業主には元入金という会計項目があり、その金額が会社の資本金のように事業を行うために必要なものと考えることができます。

ただ、個人事業主の元入金は、会社の資本金とまったく同じものではありません。

そこで、元入金とはどのようなものか、そして元入金の計算方法や確定申告の際に記入する項目について確認していきましょう。

個人事業主の資本金とは元入金を指す

個人事業主が事業を開始する際には、開業資金を自分で調達しなければなりません。

もし他人に出資してもらう場合も、お金をその人から借り入れたうえで、あくまでも自分のお金として事業のために使うこととなります。

このように、個人が自らの事業のために出資する金額を元入金といいます。

会社の場合は、その会社の設立・開業のために出資者が支払う資金を資本金といいます。

会社に直接関係のない人も、出資者となって会社に出資をすることができます。

また、資本金として受け入れた資金は返済義務がないため、会社の純資産を構成する金額となります。

事業開始時に元入金がゼロ円でも問題ない

会社を設立する際には、資本金を必ず用意しなければなりません。

その金額は、以前は株式会社の場合1,000万円とする決まりがありましたが、今ではそのような最低資本金の決まりはありません。

1円以上の資本金があれば、会社を設立することができます。

一方、個人事業主の場合は、以前から最低資本金という考え方はありません

そもそも、個人事業主には資本金という用語すらないのです。

また、個人事業主にある元入金についても、いくら以上なければならないという決まりはありません

それでは、元入金をいくら準備したらいいかわからないという疑問が出るかもしれませんが、極端にいえばゼロでも構いません。

事業を行うための資金は必要ですが、必要な資金はその都度支払うようにすればいいわけです。

会社の場合、出資金は会社のお金となるため、出資者の個人的な財産とは明確に区分されます。

一方、個人で事業を行う場合は、事業用の資金と個人的な資金とに明確に区分できません。

そのため、当初の元入金が少額であっても問題となることはないのです。

その代わり、資金が不足した場合には個人的な資金を事業に投入する必要があるのです。

元入金は経営によって増減する

元入金は、個人事業主が開業資金や事業の運転資金として使うお金です。

ただ、元入金の金額は、開業前に支出した金額だけをいうものではありません。

元入金の金額は、その人の事業上の資産の額から事業上の負債の額を引いた後の額と一致します

そして、事業を行った結果、利益が出た場合には資産が増え、逆に損失が計上された場合には資産が減少し、負債が増えます。

そのため、経営が順調に推移し利益が積み重なると、その分元入金の額も多くなるのです。

一方で、事業がうまくいかない時は元入金の額が減少することとなります。

大きな損失が発生した時には、元入金の額がマイナスになってしまう場合もあります。

元入金がマイナスとなっても問題はありませんが、決算書にマイナスで表示されるため、非常に目立ちます

特に金融機関の担当者に見せるような場合、元入金がマイナスというのは、決していい印象にはならないでしょう。

なお、会社の場合、利益を計上した場合には利益剰余金の額が増えますが、資本金の額が増えるわけではありません。

会社における資本金と、個人事業主における元入金とはその取扱いが異なることに注意が必要です。

元入金の仕訳・計算方法

元入金が発生するのはどのような時なのでしょうか。

また、元入金が発生した場合には、どのような仕訳を行うのでしょうか。

毎年変動する元入金の金額の計算方法もあわせて確認していきます。

開業した時

個人事業を開業した時は、必ずしも開業資金として元入金を用意しなければならないわけではありません。

そのため、元入金の仕訳は必ず発生するというわけではありません

ただ、個人的に保有している現金と、事業のための現金を開業の段階からきちんと分けておきたいという方もいるでしょう。

もし、個人で保有している現金を事業のための資金とする場合には、(借方)現金/(貸方)元入金と仕訳します

ここで元入金とした金額は、事業のためだけに使うことができる資金となります。

事業のために事業資金を使った時

元入金をある程度準備して事業を始めた場合、事業用の資金が手元にある状態となっています。

このような状態で事業用の経費や資産の購入の支払いをする場合は、手元の現金を使って支払いをすることができます。

たとえば事業用に8万円のパソコンを購入した場合、(借方)消耗品費80,000/(貸方)現金80,000という仕訳をします

この段階では、元入金を使った仕訳を行うことはなく元入金の金額も変動しません。

事業のために個人の資金を使った場合

元入金の金額がゼロのまま開業することもできます。

また、事業を開始する段階では、元入金とする事業資金を十分に準備できず、事業資金が不足する場合もあります。

このような状態で事業用の支払いをする場合、必要に応じてプライベートの資金を使う必要があります。

事業のためにプライベートの資金を使うということは、事業主として個人の資金を借り入れしている状態となります。

そこで、プライベートの資金を事業に使う際には、「事業主借」という科目を使って仕訳を行います

たとえば事業用の資金がない状態で、事業用に8万円のパソコンを購入した場合、(借方)消耗品費80,000/(貸方)事業主借80,000となります。

この段階でも、元入金を使って仕訳をすることはなく、元入金の額も変動しないことに注意しましょう。

また、事業用の現金がない状態で貸方を現金としてしまうと、現金の残高がマイナスとなってしまうため、気をつけなければなりません。

現金で支払っていると、事業資金なのかプライベートのお金なのか、区別がつかないことも考えられます。

しかし、正しく確定申告を行うためには、事業用とプライベートを分けて管理する必要があるため、覚えておきましょう。

事業資金を個人のために使った場合

先ほどのケースとは逆に、事業でたまった資金をプライベートに使うことがあるかもしれません。

個人事業主の場合、個人として給料をもらっているわけではないため、事業用の資金をプライベートに払い出すこともあるのです。

事業用の資金をプライベートに使うということは、事業主から個人に資金を貸し付けしている状態となります。

そのため、事業資金を個人のために払い出す場合は、「事業主貸」という科目を使います

たとえば事業資金10万円をプライベートのために支払った場合には、(借方)事業主貸100,000/(貸方)100,000となります。

ここでも、元入金を使って仕訳処理を行うことはありません。

個人のために事業資金を使ったからといって、元入金がすぐに減ってしまうということはないのです。

決算を迎えた時

1年間の営業活動を終えて、12月31日に1年間の収支状況と損益状況を集計します。

この決算を行う際には、元入金の金額も最終的な計算を行う必要があります

まず、1年間の利益や損失を計算し、その金額を元入金に含めることとなります。

具体的には、年間収益を計算して利益が発生した場合には、その金額を元入金に加えます。

また、年間収益を計算して損失が発生した場合には、その金額を元入金から控除します。

こうして、元入金の額は経営状況に合わせて変動することとなるのです。

また、1年間に発生した事業主借や事業主貸の金額も、元入金の額に加味しなければなりません

事業主借は事業のために事業主個人から借入れた金額であるため、事業用の資金が増加しています。

そのため、事業主借となった金額は、元入金を増加させる形となります。

逆に、事業主貸の金額は、事業資金を個人的に払い出した際の合計金額となっています。

そのため、事業主貸の金額は、元入金を減少させることとなります。

決算の時点では、前期から繰り越されてきた元入金の額はそのままとなっているため、この金額に対して以下の計算を行います。

期首元入金+年間利益-年間損失+事業主借-事業主貸=期末元入金

この期末元入金の額は、翌年にそのまま繰り越して翌年の元入金となります。

個人事業主が確定申告で元入金を記入する箇所

個人事業主が青色申告を行う際には、確定申告書のほかに青色申告決算書を税務署に提出する必要があります。

この青色申告決算書には、損益計算書のほか貸借対照表に金額を記載することとされています。

元入金の金額は、確定申告を行う際に貸借対照表に記載する金額です。

ただし、青色申告決算書に記載する元入金の額は、期首元入金の額をそのまま記載するようになっています。

また、事業主借の額や事業主貸の額も、1年間に発生した金額をそのまま記載するようになっています。

実際には、期末元入金の額は損益や事業主借・事業主貸を加味した金額となるはずです。

しかし、税務署に提出する書類には、期首元入金をそのまま記載し、期末元入金の計算は行わないため注意が必要です。

まとめ

個人で事業を始めるにあたって、資本金となる資金を準備しなければならないと考える方もいるでしょう。

しかし、実際には個人事業主は資本金を準備する必要はありません。

元入金も必ず開業時に必要というわけではなく、必要となった都度、個人の資金を使っても問題ないのです。

ただ、元入金として準備する必要はなくても、開業するためにはまとまった資金が必要となります

資金繰りに窮して事業が停止してしまうことのないよう、資金計画をきちんと作成して開業準備を行うようにしましょう。

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