最終更新日:2022/6/13
個人事業主において屋号の必要性とは?屋号のメリットと注意点・届け出の方法について解説
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-tori
この記事でわかること
- 個人事業主は屋号を必ずつけないといけないのかわかる
- 屋号を持った場合のメリットがわかる
- 屋号を決める場合の注意点がわかる
- 登録した屋号は改めて変更可能かわかる
- 屋号の登録方法と必要な書類がわかる
昔からの屋号は、地域で個々の家を特定することなどを目的として、商家や農家などにその特徴を呼び名としてつけたものです。
たとえば、先祖の家系に由来するもの、地形や地名に由来するもの、家の位置に由来するもの、職業に由来するものなどがあります。
一方、時を経た現在でも、同姓の多い地域では個人宅に屋号を併用して、郵便物などの誤配を防ぐ使い方もされています。
また、代々受け継がれた屋号は、昔からの実績や信用の証でもあるため、屋号を商号として利用する会社も少なくありません。
個人事業主に商号はありませんが、自分で決めた屋号を呼び名として使用できるのですから、うまく活用するとお得です。
以下では、個人事業主は屋号を必ずつけなければいけないのか、屋号を持った場合のメリット、屋号を決める場合の注意点を紹介します。
また、登録した屋号は改めて変更できるのか、屋号を登録するにはどうすれば良いか、必要な書類は何かについても合わせて紹介します。
個人事業主は屋号を必ずつけないといけないのか
屋号は、個人事業主の事務所や店舗などに利用できる名称で、法人で言えば会社名に相当します。
たとえば、〇〇屋、〇〇商店、〇〇堂、〇〇オフィス、〇〇事務所、〇〇院、〇〇企画、○○舎、○○デザインなどの名称をよく見かけます。
屋号は法人が登記によってつける商号と異なり、必ずしも必要なわけではなく、なくても問題ありません。
届け出をすれば、個人事業主でも会社名に相当する屋号を利用できるという表現が妥当でしょう。
このため、個人事業主として開業しても、店舗や事業所、事務所などを持たない業種では利用しないケースも多いのが実態です。
このような方の場合は、屋号をつけたとしても年に1回の確定申告用紙で目に触れる程度で、あまり意識する必要もありません。
しかしながら、屋号があると覚えてもらいやすいなどのメリットがあるため、名付けておいて損はありません。
屋号を持った場合のメリットとは
店舗などを構えて開業する場合も、フリーランスとして開業する場合も、屋号は個人事業主にとってメリットがあります。
それぞれのメリットや共通するメリットを確認してみましょう。
店舗経営の場合のメリット
まず、店舗や事務所、事業所などを開設して行う個人事業でのメリットです。
名乗りやすく呼びやすい
取引には欠かせない電話の応対を考えてみましょう。
電話を受けた事業主や電話をかけてきた相手は、事業主をどう呼ぶでしょうか。
「○○ですか?」「はい、○○です」「こちらは○○です」のような応対に、名字の代わりに屋号があるととても便利です。
たとえば、〇〇屋、〇〇商店、〇〇堂、〇〇事務所、〇〇院、〇〇企画などの名称があれば呼びやすく、電話の応対も簡単です。
このように、名乗りやすく呼びやすい屋号があれば、顧客や取引先に覚えてもらいやすいメリットがあります。
法人化した場合にも有利
覚えやすい屋号は評判が広がりやすく、そこに実績や信用が積み重なっていけば、社会的な評価も高まります。
個人事業を発展させて法人化する場合には、個人事業主として社会的な評価を高めた屋号をそのまま法人の商号として使うことができます。
つまり、全くの新規法人とは異なり、それまでの実績や信用をベースに営業を継続できるため、有利に展開することが可能になります。
フリーランスの場合のメリット
フリーランス特有のメリットとしては、個人名を名乗らずに済むということがあります。
ライターやウェブデザイナーのように、ペンネームといった別称を利用して仕事ができる業種の場合、個人名を名乗らなくても事業を進めることができます。
個人情報が気になるような場合にも、気に入った屋号を決めておけば、受発注でも問題なく仕事を進めることができます。
共通のメリット
最後に、個人事業主に共通するメリットを確認しましょう。
口座名義に利用できる
事業用とプライベートでお金の管理を分離させたい場合、金融機関で屋号と氏名を組み合わせた口座を開設することができます。
このような口座があれば、会計処理が単純になり、会計ソフトへのデータ取り込みが可能になるなど、会計処理や税務処理のミス防止に役立ちます。
信用を得やすい
屋号を利用するためには税務署への届け出が必要です。
裏返すと、個人事業主として開業することを正式に届け出ている事業者しか屋号を持つことができないため、信用を得やすいメリットがあります。
融資利用にも有利
屋号を持っている個人事業主であれば、税務署に届け出て正式に開業していることが証明できるため、クレジットカードやローンの申請などでも有利と言われています。
また、屋号を含め、個人事業主の社会的な信用度が高まっていけば、金融機関からの融資を受ける際の審査にも有利に働くことは間違いありません。
屋号を決める場合の注意点について
屋号を決めるときには、短く、覚えやすく、事業内容がわかりやすいように意識すると、使いやすい名称になります。
屋号を決める場合は、自分が気に入る名称をつけることができるものの、いくつか注意すべき点があります。
使用する文字
屋号に使用する文字については、法人登記の際に利用可能な文字を利用でき、アルファベットでもかまいません。
漢字やカタカナ、ひらがなのほか、アルファベット、アラビア数字も使用できます。
また、屋号の先頭や末尾を除けば「&」「’」「.」「-」「.」「・」も、区切り文字などとして名称の中に含めることができます。
最近では、海外の商品を扱うことも増えているため、フランス語やフィンランド語など発音が複雑な言語も見かけるようになりました。
しかしながら、発音しにくい文字や馴染みのない外国語文字など、覚えてもらいにくい名称は避ける方が賢明です。
屋号の長さ
どれ程度の長さが良いかの基準はありませんが、短く、覚えやすい点に注意することが大切です。
長くなれば、覚えにくく、電話などでの応対の際にも不便さを感じることになってしまいます。
ホームページのドメイン名
ネットビジネスで開業する方の中には、ホームページのドメイン名をそのまま屋号に利用するケースも増えています。
ドメインは、他の名称と同じものは使えないため、他の事業者と区別できるメリットがあります。
ただし、短く、覚えやすく、事業内容が分かりやすいという基本を外さないように設定することが大切です。
インターネットで検索しやすいか?
屋号を考えたら、実際に検索してみましょう。
似たような名前がないか、検索で発見しやすいのか、などチェックが必要です。
会社の情報を調べるときに、多くの人がインターネットで検索すると思います。
せっかく自社のことを調べてくれているのに、そもそも検索でヒットしなければ、そこで顧客を失うかもしれません。
そのため屋号を考えたら、実際にその名前で検索してみて、似たような他のホームページが出てこないか確認しておきましょう。
誤解させる名称や法律で規制される名称
個人事業主の屋号には、会社名と誤解するような名称を使用することはできません。
たとえば、屋号の中に「会社」「法人」「Co.」といった、会社を表す文字を含めることは禁じられています。
また、「銀行」「証券」「保険会社」などは、法律で使用できる法人が規制されているため、使用することはできません。
既に登録されている名称は使えない
事業内容のわかりやすさを優先すると、類似の事業やサービスと似た名称になってしまうこともよくあります。
たとえば、○○事務所、○○屋、○○院などで、○○を名字にすると、同一の名称が使われていることも珍しくありません。
法人の会社名など、商標登録された会社や商品の名称と同一になってしまえば、トラブルの原因となります。
業種が異なる場合でも、法人の名称と同じ屋号は避けることが賢明です。
また、同一名称の事業者がいる場合は、インタ-ネット検索で上位に表示される可能性が下がる傾向にあるため、この点でも避けることが賢明です。
なお、同一の屋号が存在するかどうかについては、インターネット検索のほか、法務局で提供されている「オンライン登記情報検索サービス」で調べることができます。
事業別の注意点
具体的な屋号のつけ方について、店舗と事務所の場合に分けて注意点を確認しましょう。
店舗経営
個人事業主として店舗を構える場合は、屋号を店舗の名称として使うことが一般的です。
よく使用されている屋号としては、○○屋、○○堂、○○工房、○○商店、○○本舗、○○ベーカリー、○○サロン、○○家などがあります。
ただし、取扱う商品やサービスなど、将来的な経営の多角化や多様化を考えている場合は、イメージが固定しないような配慮が必要です。
事務所や事業所
一定の場所に建物を構えてサービスや技術などを提供する事業を行う場合は、屋号と名字や地名などを組み合わせることが一般的です。
屋号としては、○○事務所、○○院、○○オフィス、○○舎、○○スタジオ、○○企画、○○ラボなどが代表的です。
ただし、店舗でも同様ですが、屋号と名字や地名を組み合わせる場合は、同一の名称が生じやすくなります。
このような場合は、業種名を組み合わせる方法や、広域な地域名を使用する方法、順序を入れ替える方法などがあります。
登録した屋号は改めて変更可能か
開業当初に決めた屋号も、後になってもっと気に入る名称を思いつくことや、時間の経過とともにそぐわなくなるケースもあります。
事業を展開しているうちに、ニーズに応じて事業内容が変化することも珍しくはありません。
そのような場合も、屋号は簡単に変更できるため心配いりません。
途中で変更する場合に届け出のための特別な書類はなく、毎年の確定申告書に、変更後の屋号を記載するだけで変えることができます。
ただし、顧客や取引先に混乱を招く恐れもあるため、事前に周知を図り、信頼を損なわないよう配慮しなければなりません。
たとえば、会社の合併などで名称を変えるときには、期間の余裕をもって変更し、その期間には様々なアプローチで事前の周知徹底が行われます。
経営に責任を持つ、事業主としての行動が求められることに注意が必要です。
開業時に、将来的な多角化や多様化を考えているような場合は、特定の業種などをイメージするような屋号は避けることが得策です。
屋号の登録方法と必要な書類とは
開業当初から屋号を登録するには、納税地の税務署に開業届を提出します。
正式には「個人事業の開廃業届出書」と呼ばれる書類で、最寄りの税務署で入手できるほか、国税庁のホームページからダウンロードすることもできます。
この開業届は、基本的に開業日から1カ月以内に、管轄する税務署に提出することが求められています。
提出方法は、持参する方法と郵送による方法の2種類ありますが、いずれでもかまいません。
会社設立では、設立登記で商号を登録する必要があるのに対して、個人事業主は税務署に届け出るだけで登録できます。
また、開業届を提出すると、税務上も社会的にも個人事業主として認められることになり、様々なメリットを受ける立場になることもできます。
なお、開業届けを未提出の方でも、確定申告書に屋号を記入すれば、新たに登録することが可能です。
屋号で悩んだら?
ここからは屋号について悩んだときに、知っておきたいことを紹介します。
屋号をつけずに開業してもいい
どうしても屋号で悩んで、決められそうにないなら、屋号はつけなくてもいいです。
後からでも屋号はつけられるし、屋号はなくても仕事ができます。
屋号をつけることは開業の義務ではないため、なかなか屋号が決まらないなら、そのまま開業してもいいでしょう。
私は個人事業主を5年ほどやっていますが、屋号を付けないまま開業して、困ったことはありません。
屋号について悩むよりも、自分の事業を軌道に乗せる方が大事なので、他のことに時間を使いましょう。
個人事業主なら屋号を使うタイミングは少ない
業種・事業内容によって異なりますが、個人の名前で仕事をすることが多いなら、そもそも屋号を使うタイミングは少ないでしょう。
私は5年ほど個人事業主をやっていますが、屋号を1回も使ったことはありません。
そもそも開業時に屋号をつけていないですが、全然困ったことはないです。
どうしても必要になれば、自分で屋号を名乗って、確定申告の際に記入すれば問題ないです。
使うタイミングも少なく、後からでも屋号は付けられるので、開業時は屋号について気にしなくてもいいでしょう。
恥ずかしくない屋号をつけよう
個人事業主の中には「屋号で変な名前をつけてしまい恥ずかしい思いをしている」という人もいます。
読みにくい屋号や、ふざけた屋号を付けてしまうと、ビジネスシーンで恥をかく可能性もあります。
例えば仕事用の銀行口座を開設するときに、銀行で屋号を呼ばれることもあります。
一般的な屋号であれば問題ありませんが、変な屋号を付けていると、周りの人から白い目で見られるかもしれないです。
特に気にしたい人はいいですが、ビジネスでは仕事相手からの印象も大切になります。
自分はいいと思ってつけた屋号でも、相手から見て「変な名前だな」と思われると、それだけでマイナスになるかもしれません。
できるだけ恥ずかしくない名前をつけるようにしましょう。
まとめ
個人事業主にとっての屋号は、法人で言えば会社名に相当する名称です。
法人と違って、税務署に開業届を提出するだけの簡単な手続きで利用でき、変更する場合も確定申告書に記載するだけで済みます。
屋号は、このように手間や費用も不要で気軽に名乗ることができ、しかも登録しても必ずしも使う必要がありません。
登録して上手に利用すれば、様々なメリットを受けることができるわけですから、登録しておくことがおすすめです。