最終更新日:2023/2/7
個人事業主が開業届を出すメリット・デメリット、提出方法をわかりやすく解説
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-tori
この記事でわかること
- 開業届を出すメリット・デメリットがわかる
- 開業届の書き方や提出方法がわかる
個人事業主として新しく事業を始める場合、開業届を提出する必要があります。
この開業届は、自身の所在地もしくは事業所等がある場合は、その住所を管轄する税務署に個人事業を開業したことを知らせる届出です。
基本的に、事業を開始してから1ヵ月以内に提出することが推奨されていますが、この書類の提出を怠っても罰則等はありません。
では、届出を行わなくても全く問題ないかといえば、そうではありません。
本記事では、個人事業主の開業届について、提出するメリット・デメリットから、書類の書き方や提出先まで詳しく解説していきます。
目次
開業届の提出は義務だが罰則規定はない
基本的に開業届というと、「個人事業の開業・廃業等届出書」のことを指します。
個人事業主として事業を新しく始める場合、1年間(1月1日から12月31日)の所得税を計算し、確定申告を行って、税金を納付しなければなりません。
開業届とは、「個人事業を開業し確定申告します」と税務署に申告するための書類で、税務署によって定められている届出書の1つです。
また、都道府県宛に開業届を提出しなければならない場合もありますが、こちらはすべての事業者に関係するわけではありません。
開業届を提出しなくても、何らかの罰則が科されるわけではありません。
そのため、開業届は出さなくてもいいと言われることがあります。
しかし、原則として、個人事業を開業したら1か月以内に開業届を提出しなければならないとされています。
開業届を提出しないことで得られるメリットはなく、逆に不利益になることもあるため、開業届の提出は義務となっているのです。
開業届を出すメリット
個人事業主が税務署へ開業届を提出しなくても、罰則等の規定はありませんが、提出を行うメリットがいくつかあります。
ここでは、開業届を提出することのメリットについて説明します。
青色申告の申請ができる・最大65万円の控除が受けられる
節税効果の高い青色申告で確定申告するためには、「青色申告承認申請書」の提出が必要ですが、この提出には「開業届」の提出が必要です。
開業届を提出することで、青色申告ができるようになります。
なお青色申告を行うと、最大65万円の青色申告特別控除が適用できるため、大きな節税となります。
また、事業所得がマイナスとなった場合には、そのマイナスを翌年以降に最大3年間繰り越すことができ、翌年の税金の負担を軽減できます。
事業用口座を開設できる
個人事業を新しく始める場合、名義を屋号とした銀行口座を開設する方も多いのではないでしょうか。
事業用口座の開設にあたっては、口座が悪用されないように個人の身分確認と合わせて開業届の控えを求められることがあります。
提出書類は金融機関によって異なりますから、口座を開設する際には金融機関に問い合わせをしておきましょう。
社会的な信用が増す
新たに始める事業によって、店舗や事務所のために不動産契約を締結したり、創業融資の申し込みを行ったりする場合があります。
そのような場合、申し込みの段階や審査の過程で、開業届の控えの提出を求められることがあります。
開業届は、一種の信用対策でもありますので、忘れずに税務署へ提出しましょう。
開業届を出すデメリット
開業届は、新しく事業を始めるときに税務署へ提出しなければならないものですが、提出するタイミングによっては、以下のデメリットが発生する場合があります。
- ・失業手当を受給できなくなる
- ・扶養から外れてしまう場合もある
- ・確定申告が必須となる
ここでは、開業届を提出するにあたって注意すべきタイミングや注意点について解説します。
失業手当を受給できなくなる
開業するにあたって会社を退職した場合、失業手当を受給することができます。
失業手当の受給は、基本的に次の仕事を見つけるまでの生活費の安定のために支給されるものです。
実際の失業手当は、退職理由(自己都合や整理解雇など)によって支給を受ける開始時期が異なりますが、次の職に就いて失業状態から脱すると支給は終了します。
ですから、開業届を提出すると失業状態ではないと判断され、失業手当の支給対象外となります。
事業開始にもタイミングがありますので、失業手当のために開始時期を遅らせることはおすすめしませんが、失業手当の受給時期を考慮して開業届を提出することを検討してもよいかもしれません。
扶養から外れてしまう場合もある
配偶者の扶養に入っている場合、開業届を提出することで、扶養から外れてしまう場合があります。
会社の健康保険組合によって、以下のような規定を設けているケースがありますので、事前に確認しておきましょう。
- ・自営業として起業した(開業届を提出)時点で扶養対象外となる
- ・個人事業主として開業届を提出しても一定の所得額までは扶養に入れる
扶養から外れてしまった場合は、自身で健康保険料を支払う必要がありますので、ご注意ください。
確定申告が必須となる
会社員をしながら副業で収入を得た場合、その年間所得が20万円以上となるときは、確定申告が必要となります。
所得額は、副業で得た収入額から経費を差し引いた金額です。
例えば、副業で25万円の収入額があったとして、経費が3万円だった場合、所得額は22万円となりますので、確定申告の必要があります。
ですから、会社員の副業の場合、所得額によって確定申告が必要な年度と、必要ない年度があることになりますが、開業届を提出した場合は、毎年度確定申告しなければなりません。
申告しなかった場合、追徴課税を受ける場合などもありますので、ご注意ください。
開業届の書き方・提出方法
次に、「個人事業の開業・廃業届出書」の記入方法について説明しましょう。
開業届の書式は、国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
PDF書類ですが、そのまま入力することも出来ますし、控えも同時に印刷可能となっていますので、おすすめです。
開業届の上半分には、届を提出する人の個人情報に関する記載を行います。
納税地、氏名、生年月日、個人番号(マイナンバー)、職業などを記載しますが特に難しい項目はありません。
ただ、管轄の税務署名は、納税地の住所から調べて記載する必要があります。
国税庁のホームページ(https://www.nta.go.jp/)には、「税務署を検索」というコーナーがあるため、こちらから正確な税務署名を確認しておきましょう。
下半分は、届出の区分や所得の種類、事業の状況などを記載します。
青色申告を行う人は、開業した日が重要になるので、実態に合わせて正確に記載しましょう。
こちらは、聞き慣れない言葉もあると思いますが、作成上の細かい注意点は、以下のページを参考にしてください。
開業届の提出先は所在地管轄の税務署
開業届を提出するのは、開業届に記載した納税地を管轄する税務署です。
納税地とは、個人事業主の住所地あるいは事務所や店舗の所在地を指します。
このいずれかを納税者自身が納税地として定め、開業届に記載します。
納税地を管轄する税務署は、国税庁のホームページで確認できるため、確認のうえ、間違えないようにしましょう。
まとめ
開業届は、個人事業主が新しく事業を始めることを税務署へ申告するためのものです。
提出しなくても罰則等があるわけではありませんが、確定申告をメリットの多い青色申告で行うためには必要な書類です。
また、事業用の銀行口座を開設する際に開業届の控えを求められたりしますし、融資の際の信用度向上にも役立ちます。
開業届は色々な場面で役立ち、1枚の書類で記載内容も簡単なものですので、開業時に忘れずに提出しましょう。