最終更新日:2022/6/13
個人経営(個人事業主)と会社設立はどちらがお得?ケース別にシミュレーションしてみた
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 個人経営と会社設立の違いについて理解できる
- 個人経営と会社設立のどちらが得かケース別に比較できる
- 会社設立に適したのタイミングがわかる
- 会社設立時のポイントがわかる
個人経営を開始して経営が安定してくると、次に気になってくるのが会社設立の問題です。
売上規模が一定以上になると会社を設立して法人格を取得するほうが税金面で有利なため、個人経営者としては会社設立するタイミングの見極めが重要になります。
また、これから開業を予定している人も、個人経営で始めるべきか最初から会社を設立するかで悩むことも多いでしょう。
ここでは、個人経営と会社設立について、それぞれのメリットとデメリットを取り上げて、ケース別にどちらがお得か詳しく解説します。
ケース別に具体的な計算も交えて説明しますので、自分に合うのはどちらかじっくり検討してみてください。
目次
個人経営(個人事業主)とは
個人経営(個人事業主)とは、個人事業主として開業届を提出して自ら事業を営む人をいいます。
会社設立の場合は、株式会社や合同会社といった法人格という個人とは別の人格が事業を経営するのに対し、個人経営は個人事業主本人が個人として事業経営を行います。
このように、個人経営と会社設立ではそれぞれ事業を行う形態が異なります。
個人経営であっても、個人事業の廃業届を提出し、新たに会社を設立して法人として開業届を提出することで、「法人成り」することができます。
また、法人も同様に廃業届を提出し、新たに個人事業主として開業届を提出することで「個人成り」が可能です。
個人経営の売上が一定額以上となり事業が安定してくると法人成りする経営者がいる一方で、決算の手間や社会保険料などの負担が大きく個人成りする会社もあります。
また、個人経営はフリーランスと比較されることもあります。
フリーランスは、企業に雇用されることなく独立した個人として事業を行う点で、個人経営と同じといえます。
ただし、フリーランスは企業に属さず、企業から都度仕事を受託する点で、個人経営と異なります。
個人経営が自ら商談を獲得して様々な取引先や顧客と取引を行ういわゆる「自営業者」であるのに対し、フリーランスは特定の企業から特定の業務を受託するのが通常です。
個人経営(個人事業主)は法人との対比で事業形態を指しますが、フリーランスは働き方に着目したものであるといえるでしょう。
個人経営(個人事業主)のメリット5つ
個人経営と会社設立について、それぞれのメリットとデメリットを比較してみましょう。
まずは、個人経営から説明します。
個人経営のメリットとしては、以下の5つがあげられます。
- ・簡単に開業(廃業)できる
- ・運営上の手間やコストがかからない
- ・税務申告が簡単
- ・売上が少ないと税負担が軽い
- ・自由な意思決定ができる
それぞれのメリットについて、以下に説明します。
簡単に開業(廃業)できる
個人経営を開始する場合、基本的には開業届を提出するだけで開業できます。
開業届には、個人事業の内容や従業員の有無など簡単な事項を記入して、所轄の税務署に提出すれば完了です。
青色申告を選択したり、従業員を雇用する場合はいくつか別の手続が必要になりますが、費用もかからず、簡単な手続きで開業することができます。
法人の場合は、開業届を提出する前に会社設立の複雑な手続にあるのに対し、個人経営の開業は非常に簡単です。
また、廃業する場合も、基本的には廃業届を提出すれば手続きは完了です。
開業と同様、費用負担もなく事業をたたむことができるので、本格的に事業を行う前に市場の感触を知る目的でトライアル的にビジネスに挑戦できます。
コストを抑えてリスクの少ないスモールスタートで事業を行いたい場合は、個人経営がよいでしょう。
運営上の手間やコストがかからない
個人経営では、白色申告を選択して帳簿の記載をごく簡単に済ますこともできます。
複式簿記で一定の経理の知識が必要となる青色申告と比べて、お小遣い帳をつける感覚で記帳できるため、経理担当者を雇うことなく個人経営者自ら行うことできます。
また、個人経営の場合、社会保険へ加入することなく個人経営者が国民年金や国民健康保険へ加入すれば足りますので、社会保険の加入・脱退の手続きや年末調整などの事務手続き上の負担もありません。
従業員を雇うことなく一人で経営する場合であっても、法人であれば社会保険への加入が義務付けられるのに対し、個人経営の場合は事務手続きの手間もなく、費用負担も少なく済みます。
会社設立の場合と比較して、帳簿や社会保険に関する手間やコストがかからないのが、個人経営のメリットです。
税務申告が簡単
個人経営の場合、毎年2月から3月にかけて、前年分の所得について確定申告を行います。
白色申告で簡単な記帳をしておけば、申告書への記入は必要事項を帳簿などから転記する程度で、簡単に申告書類が手書きでも作成できます。
青色申告であっても、経理ソフトやクラウドサービスを活用することで、経理の専門知識がない人でも比較的簡単に記帳から申告書類の作成まで行うことができるようになっています。
経理ソフトなども個人経営の場合は法人よりも安価に導入できますので、経理に苦手意識がある場合でもハードルは高くないといえます。
法人税の申告と比較すると、個人経営の確定申告は、複雑な計算も不要で提出書類も少なく、税理士等の専門家へ依頼することなく自前で済ますことができます。
売上が少ないと税負担が軽い
事業を始めた当初は売上も比較的低いことが多いでしょう。
また、副業などであえてスモールビジネスを行っている場合もあります。
所得税は累進課税制度を取っているため、所得金額(売上から経費を引いた額)が低い場合には、税率も低く所得税が安く済む仕組みになっています。
また、課税対象となる売上が1,000万円以下であれば消費税も課税されません。
売上が低いうちや、あえてスモールビジネスを行うことを目的としている個人経営の場合、税制上も事業継続しやすい制度になっています。
自由な意思決定ができる
株主や融資先などのステークホルダーの意向が経営に反映される法人と比べて、個人経営は経営者の意思決定で自由に経営することができます。
経営方針や事業計画、その他重要な決定事項もスピーディーにできるため、ビジネスチャンスを逃すことなく事業を拡大することも可能です。
せっかくサラリーマンをやめたのだから、やりたいことを自由にやりたいという人には、個人経営があっています。
個人経営(個人事業主)のデメリット5つ
コストや手間がかからず、簡単で自由に事業が行える点が魅力の個人経営ですが、デメリットも当然あります。
個人経営のデメリットとしてあげられるのは、以下の5つです。
- ・責任に制限がない
- ・信用力が低い
- ・売上が多くなると税負担が重い
- ・経理や税制上の制約がある
- ・決算時期を変えられない
責任に制限がない
個人経営の場合、事業の結果に対する責任を経営者個人がすべて負担します。
そのため、多額の負債を負う事態になれば、店舗や機材などの事業用の資産はもちろん、自宅や自家用車などの個人の資産が差し押さえられるリスクがあります。
また、融資を受けている場合は、経営者の個人保証が条件となるケースがほとんどです。
経営者本人の生計が立ち行かなくなるだけでなく、自宅を失ったり、子どもの進学をあきらめなくてはならないなど、ときには家族への影響があることも覚悟しなくてはならないシビアな面もあるのです。
事業を開始するにあたり、事業内容や計画について十分に説明して、家族の理解を得ておくようにしなければなりません。
信用力が低い
簡単に事業を開始できる反面、個人経営は社会的な信用力が低いというデメリットがあります。
個人経営の場合、登記もなく、株主などの第三者による経営方針への影響もありません。
また、決算公告などで開示されている情報も少ないため、経営状況が客観的に分かりにくくなります。
法人と比べて信用力が低くなるため、資金調達が難しい、取引先の開拓が困難、優秀な人材が集まりにくいといったデメリットがあります。
売上が多くなると税負担が重い
所得税は累進課税制なので、売上が多くなって課税対象となる所得も高くなると、当然に高い税率が課税されるようになります。
個人経営のメリットでも説明しましたが、個人経営の場合、最も高い税率は40%と法人税の税率よりはるかに高くなっています。
また、売上から経費を控除した所得額が290万円を超えると、業種に応じて税率3~5%の個人事業税が課税されます。
さらに、売上が1,000万円を超えてくるようになると、消費税も課税されます。
事業で利益があがった分だけ、税負担も重くなるのが個人経営の特徴です。
経費や税制上の制約がある
個人経営では、経費や税制上の優遇を受けられない場面が多くあります。
事業で使った経費のうち交際費だけは全額経費として算入することが認められていますが、法人であれば損金として差し引くことが認められている退職金や生命保険などは、個人経営の場合は経費として認められません。
また、経営者の給与所得控除や配偶者控除などの節税手段が多い法人に対して、個人経営では青色申告の場合を除き、節税メリットがありません。
決算時期を変えられない
個人経営の場合、毎年1月1日から12月31日を会計期間とする暦年課税と決められています。
業種にもよりますが、売上が年間を通じてほぼ同額という場合は少なく、繁忙期や閑散期などの季節変動があるのが通常です。
決算日を基準に確定申告の時期が決まりますが、記帳や申告書類の作成など決算の準備に時間や手間を要するため、決算時期はできれば繁忙期を避けたいところです。
しかし、個人経営の場合は暦年課税で決算日は12月31日と決められていますから、繁忙期にあたってしまうと業務が回らなくなるおそれもあります。
会社設立の7つのメリット
個人経営と比較して、会社設立の場合メリットはどこにあるのでしょうか。
会社設立には、以下のとおり多くのメリットがあります。
- ・一定範囲で責任を負えばよい
- ・信用力が高い
- ・優秀な人材を採用できる
- ・経費算入できる対象が広い
- ・税制上の優遇措置がある
- ・決算時期を自由に設定できる
- ・事業承継の手続きが簡単
では、ひとつずつ見ていきましょう。
一定範囲で責任を負えばよい
無限責任を負う個人経営に対し、出資の範囲で責任を負うのが法人の特徴です。
これは、会社設立の最大のメリットといっても過言ではありません。
経営が上手くいかずに負債を抱えてしまった場合、最悪のケースでは会社が倒産しますが、経営者個人の資産には影響がありません。
自宅を失い家族を路頭に迷わすリスクがないという点で、非常に安心感があります。
ただし、融資を受けたり事業所を借りたりする場合には経営者の個人保証が必要になるケースがほとんどですので、連帯保証人として個人の資産が差し押さえられるリスクは残ります。
信用力が高い
法人の場合、会社設立時に登記を行います。
登記簿謄本には会社の資本金の額や役員の構成などが記載されており、誰でもその内容を閲覧することができるため、登記のない個人経営と比較して対外的な信用力が高いといえます。
また、ほとんどの会社が青色申告で複式簿記に基づく記帳を行っており、確定申告などに備えて決算書も作成しているため、貸借対照表などの財務諸表で財務状況の確認がしやすくなっています。
そのため、融資先からの資金調達がしやすく、事業の拡大にもつなげやすいのも法人のメリットです。
優秀な人材を採用できる
信用力が高い法人は、個人経営と比較して人材の採用にも差が出ます。
個人経営では法人より一般的に社会的な信用力が低いため、資金調達が難しく、また、社会保険に未加入のため安定志向の人材には敬遠されがちです。
一方、資金調達して事業を拡大し、将来的な発展が見込まれる会社には優秀な人材が集まりやすいのは当然といえるでしょう。
信用力の差が大きな違いを生むといえます。
経費算入できる対象が広い
法人の場合、経費として算入できる範囲が広くなっています。
例えば、個人経営では1台の自家用車をプライベートと事業の両方に使用している場合、使用頻度に応じて事業として使用した割合だけが経費として認められます。
これに対し、法人の場合は会社という個人とは別人格が事業用に購入した車両となりますので、購入費と維持費の全額が経費として認められるのです。
また、自宅兼事務所の場合、個人経営では事務所として使用している部分だけが経費として算入可能です。
法人の場合は、自宅として使用している部分も社宅とすることで経費として認められる範囲が広くなります。
このほか、一定の条件を満たすことで、退職金や生命保険の保険料も経費として算入することが認められています。
一方で、交際費については、個人経営では全額経費となるのに対し、法人の場合は一定金額までしか損金歳入が認められていないことに注意が必要です。
税制上の優遇措置がある
会社設立の場合、経営者であっても法人から役員報酬という形で給与の支払いを受けることになります。
そのため、法人に課される法人税だけでなく、役員報酬に課される経営者の所得税との両方で節税対策が可能になります。
つまり、会社は、経営者に支払った役員報酬を所得から控除できます。
これに加え、経営者個人の所得からも給与所得控除することができるのです。
さらに、経営者一人に高額な役員報酬を支払うより、配偶者など家族へも給与を払うことによって、より節税効果が高まります。
家族に給与を支払っている場合、個人経営の青色事業専業者は配偶者控除や扶養控除の対象となりません。
これに対して法人の場合は、法人が家族に給与を支払っていても、経営者個人は配偶者控除や扶養控除を使うことができます。
また、会社が赤字の場合、損失分を次年度以降に繰越せる期間が7年と、繰越期間が3年しか認められない個人経営よりも長い期間が設定されている点もメリットです。
このほか、資本金1,000万円未満の小規模事業者であれば、設立から2年度に渡って消費税は課税されません。
決算時期を自由に設定できる
暦年課税が決められている個人経営とは異なり、会社経営の場合は自由に決算時期を設定することができます。
多くの日本企業では、事業年度を4月1日から3月31日としていますが、あくまでも商慣習上4月はじまりの会社が多いだけで、「会社=3月決算」と決められているわけではありません。
そのため、決算時期が繁忙期にあたらないように設定することで、余裕をもって確定申告の準備に時間をあてることができます。
また、事業が回らなくなって、商談を失うリスクも回避できます。
事業承継の手続が簡単
経営者の高齢化に伴い、最近大きな課題となっているのが事業承継の問題です。
後継ぎ不足から、現在、多くの中小企業が事業継続の危機に直面しています。
個人経営の場合、経営者が死亡すると金融機関の口座が凍結され、事業用資金が引き出せなくなります。
また、後継者が引き継ぐ場合も、後継者の名目で新たに開業届を提出するところからはじまり、金融機関の口座を開設し、取引先との契約を後継者の名前で締結し直すという膨大な手続きが発生します。
個人経営の場合は、事業を引き継ぐ場合であっても新たに事業を開始するのと手続き上は同じです。
これに対し、会社であれば、株主総会を開催して新たな代表者を決定して変更登記を行うことで、金融機関の口座は引き続き使用することができ、取引先との契約も締結し直す必要はありません。
このように、会社設立の場合は、事業承継の手続が簡単に行えます。
会社設立の5つのデメリット
税制面を中心にメリットが多い会社設立ですが、どのようなデメリットがあるのでしょう。
ここでも、個人経営の場合と比較して詳しく解説していきます。
会社設立のデメリットとして、以下の5つが考えられます。
- ・開業(廃業)の手続が複雑
- ・社会保険に加入しなくてはならない
- ・経理上の手間がかかる
- ・税務申告が難しい
- ・自由に経営できない
開業(廃業)の手続が複雑
事業を開始するには、開業届を提出する前に定款を作成のうえ会社を設立し、登記を行わなくてはなりません。
また、年金事務所や労働基準監督署、ハローワークなどに複数の届出を行う必要があります。
会社設立後も、役員や社名、本店所在地等の登記事項に変更が生じた場合は、都度遅滞なく登記の変更手続きが発生します。
最終的に廃業する場合は、廃業届を提出するだけでなく、会社を解散して清算する必要があります。
これらの手続きには手間がかかることに加え、専門的な知識が必要となるため、司法書士や税理士などの専門家へ依頼する費用も負担することになります。
社会保険に加入しなくてはならない
会社経営で大きな負担となるのが、社会保険です。
個人経営の場合、従業員が5名以下であれば原則として健康保険や厚生年金などの社会保険に加入する義務はありません。
一方、法人であれば経営者一人の会社であっても社会保険は強制加入となっています。
個人経営の場合、経営者は国民健康保険と国民年金に加入していますが、会社設立の場合は健康保険と厚生年金に加入することになります。
社会保険料は、健康保険や厚生年金のほうが高額になります。
具体的な金額は役員報酬によって変わってきますが、例えば役員報酬400万円、配偶者の年収100万円、子どもなしのケースでは、年間120万円近くの社会保険料が発生するとの試算があります。
従業員がいれば従業員の社会保険料も発生します。
会社は、社会保険料の半額を負担することになります。
また、従業員が入社または退職する都度、年金事務所への手続が発生します。
社会保険料は給与の額に応じて算出されますので、昇給のタイミングでも手続きが必要です。
社会保険料は給与から控除するので、料率の変更もにらみつつ給与計算をしなくてはなりません。
このように、社会保険はコストも手間もかかります。
経理上の手間がかかる
手間がかかるのは、社会保険だけではありません。
日常業務のお金の使い道についてお小遣い帳程度の記録でも済む個人経営とは異なり、青色申告が原則の法人は複式簿記の原則に従って記帳を行った帳簿を整備する必要があります。
最近では便利な経理ソフトやクラウドサービスがありますが、会社経営者としてある程度の経理の知識があるに越したことはありません。
また、個人経営の場合「事業主貸し」や「事業主借り」という費目で個人資産との貸付や借入れが簡単に行えますが、法人でこれをやると「社長貸付金」や「役員賞与」として扱われ、融資先の信用失墜にもつながりかねません。
法人という別人格で事業を運営している以上、個人のお金の線引きはしっかりしておく必要があります。
税務申告が難しい
さらに、会社の場合、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表を作成して申告を行う必要があります。
法人税や消費税の申告期限は決算日から2か月以内と、短期間で準備しなくてはなりません。
そのため、申告作業を税理士に依頼するのが一般的です。
また、国税と地方税を別々に申告しなくてはなりませんので、税務署だけでなく都道府県税事務所や市区町村など複数の窓口への申告が必要になります。
あわせて、経営者個人の所得税の申告も忘れてはなりません。
自由に経営できない
株式会社は、株主が会社を所有しています。
そのため、会社の経営には株主の意向を反映しなくてはならないこともあります。
役員や定款の変更などの重要事項については、株主総会を開催して株主の承認を得る手続が不可欠となります。
また融資を受けている場合は、融資先の意向にも配慮が必要です。
法人である以上、すべてを経営者一人で決められる個人経営のような自由な経営は難しいのです。
個人経営(個人事業主)と会社設立の税金を計算
個人経営と会社設立では、それぞれのメリットとデメリットがあるため、どちらがお得とは一概にいえません。
ここでは、ケース毎に個人経営と会社設立でそれぞれ課税される税金を比較してみます。
自分に合うのはどちらか、より具体的に検討してみましょう。
所得税と法人税ではどちらが高い?
個人経営の場合、売上に課税されるのは所得税です。
これに対し、会社設立の場合は法人税が課税されます。
まずは、所得税と法人税の税率を比較してみましょう。
所得税の税率
課税される所得金額 | 税率 |
---|---|
195万円以下 | 5% |
195万円超330万円以下 | 10% |
330万円超695万円以下 | 20% |
695万円超900万円以下 | 23% |
900万円超1800万円以下 | 33% |
1800万円超 | 40% |
法人税の税率※
課税される所得金額 | 税率 |
---|---|
800万円以下の部分 | 15% |
800万円超の部分 | 23.20% |
※資本金1億円以下の普通法人(特定の医療法人や公益法人、協同組合等を除く)で、直近3年以内の事業年度における所得金額の平均が15億円を超えない場合
上記の表から明らかなように、所得税と法人税の税率を単純に比較した場合は、売上が低い場合は法人税のほうが税率が高いため、個人経営のほうが有利に見えます。
一方、課税所得(売上から経費や控除額を差し引いた金額)が900万円を超えてくると、所得税の税率が高くなりますので、会社設立して法人成りを検討してもよさそうです。
ただし、所得税・法人税の国税だけでなく、地方税も考慮する必要があります。
個人経営の場合、個人事業税と住民税があります。
所得が290万円を超えると、事業内容に応じて3~5%の個人事業税が課税されます。
また、会社設立では、法人住民税が課税されます。
少し複雑ですが、法人住民税は「法人税割」と「均等割」の2種類の課税方法で税額が決まります。
このうち法人住民税の均等割は、所得に関係なく資本金や従業員数に応じて一律の金額が課税されます。
赤字であっても課税されるため、会社にとって負担になります。
さらに、会社の場合は経営者個人の所得税と住民税も含めて検討することになります。
そのため、実際には、どちらの節税効果が高いかは一概にはいえません。
消費税について気になる方もいるかと思いますが、消費税に関しては個人経営、会社設立いずれの場合も売上が1,000万円を超えると課税されるため、ここでは考慮しません。
ケース別シミュレーション
上記を踏まえて、課税所得の金額に応じた課税額を算出してみます。
役員報酬や家族への給与の支払いによる節税効果も含め、以下では、支給対象となる家族がいる場合といない場合でシミュレーションします。
課税所得500万円、家族なしの場合
課税対象となる所得が500万円で、家族への給与支払いが発生しないケースでは、個人経営の場合72万円、法人の場合69万円となります。
法人にすれば、4万円の節税効果があることになります。
法人の利益が出ないように経営者の役員報酬を取っているため、個人経営と会社設立とで所得税は同額ですが、会社の場合法人にかかる税金は法人住民税の均等割りのみの7万円となります。
経営者個人に課税される所得税と住民税についてはそれぞれ同額ですので、個人事業税が課税される分、個人経営のほうが税額が高くなっています。
[個人経営の場合]
- ・所得税 27万円
- ・住民税 35万円
- ・個人事業税 11万円
- 合計 72万円
[会社設立の場合]
- ・所得税 27万円万円
- ・住民税 35万円
- ・法人税・法人住民税 7万円
- 合計 69万円
課税所得500万円、家族一人の場合
上記と同じ所得額でも、家族に給与を支払うと、個人経営で72万円、法人で54万円となります。
法人の利益が出ないように役員報酬を経営者と家族の2人に分けることでさらに節税効果が高まり、個人経営と比較して18万円も安くなります。
[個人経営の場合]
- ・所得税 27万円
- ・住民税 35万円
- ・個人事業税 11万円
- 合計 72万円
[会社設立の場合]
- ・所得税 16万円
- ・住民税 31万円
- ・法人税・法人住民税 7万円
- 合計 54万円
課税所得350万円、家族なしの場合
一方、課税所得が350万円で経営者が一人で事業を行う場合、課税額は個人経営で39万円、会社設立で43万円と逆転します。
この段階で法人成りすると、かえって税金の負担が4万円増えてしまうことが分かります。
売上が小さく課税所得も低い場合、個人経営に対する税金の負担は軽くなる一方、法人の場合は法人住民税の均等割の負担が大きくなります。
[個人経営の場合]
- ・所得税 13万円
- ・住民税 23万円
- ・個人事業税 3万円
- 合計 39万円
[会社設立の場合]
- ・所得税 13万円
- ・住民税 23万円
- ・法人税・法人住民税 7万円
- 合計 43万円
課税所得350万円、家族一人の場合
課税所得が同じ350万円でも、家族に給与を支払うと、個人経営、会社設立共に課税額が39万円程度となります。
売上が小さい段階から法人成りして信用力を上げ、事業を拡大したい場合は、家族に対する役員報酬を支払うことで個人経営並みの課税額に節税できます。
[個人経営の場合]
- ・所得税 13万円
- ・住民税 23万円
- ・個人事業税 3万円
- 合計 39万円
[会社設立の場合]
- ・所得税 11万円
- ・住民税 21万円
- ・法人税・法人住民税 7万円
- 合計 39万円
個人事業主か会社設立で悩んだら
これから個人事業主としてやっていくのか、会社を設立するのか、悩んでいる人もいるでしょう。
そこで下記では、個人事業主と会社設立を悩んでいる人が確認すべきポイントを紹介します。
「自分の事業はどれに当てはまるのか?」をチェックしながら、参考にしてみてくださいね。
想定の利益が800万円以上出るのか?
まずは自分の事業がどれぐらいの利益を出せるのか?を想定してください。
その想定利益の金額によって、個人事業主か法人設立のどちかがいいかは異なります。
会社設立の大きなメリットは、節税効果の大きさです。
そもそも利益が少ないようであれば、わざわざ手間のかかる会社設立をせずに、個人事業主として始めた方がいいです。
なぜなら会社設立のメリットである節税を充分に活用するためには、500~800万円程度の利益が出ることが条件になります。
利益が500万円未満なら、個人事業主としてスタートしても、節税面において損することはありません。
取引先が個人事業でも受け入れてくれるのか?
事業を運営していくうえで、取引先との関係性は重要になります。
例えば役所や公的機関などと仕事する場合は、会社の方が有利です。
なぜなら会社と個人では信用度合いが全く違うため、そもそも個人だと取引さえできない可能性があるから。
私は個人事業主として働いていますが、周りには「役所と仕事するために法人を設立した」という人もいます。
思っている以上に個人事業主の社会的信用は低いため、信用面で失敗をしたくない人は、会社設立がおすすめです。
しかし、会社や業界によって相手が個人事業主か法人かを意識しないケースもあります。
あくまで取引先や業界によって異なるため、自分の取引先はどういった判断を下すのか考えてみましょう。
融資や出資を受ける予定はあるか?
銀行・金融機関から融資を受ける予定があったり、他社から出資をしてもらうつもりなら、法人設立した方がいいです。
なぜなら融資を受ける際には、登記簿謄本が必要になるケースが多いからです。
登記簿謄本とは、法人として登録をしていないと提出ができません。
個人事業主は登記してないため、それだけで融資の機会がグッと減ってしまいます。
もちろん個人事業主でも受けられる融資はありますが、法人の比べるとかなり数が少なくなります。
資金調達の面で万全の対策をしておきたいなら、個人事業主ではなく会社設立がおすすめです。
会社を設立するときのポイント
最後に、個人経営から会社設立して法人成りする際のポイントや注意点を解説します。
これまでの説明とあわせて、会社設立するべきか、設立するタイミングはいつかなど、具体的に検討してみてください。
事業内容や経営方針から検討する
商売の方法は、事業を大きくすることばかりではありません。
一人カフェや独立系のコンサルタントなど、あえて一人で全体が見渡せる範囲で行うことが向いているビジネスもあります。
また、同じ飲食店の経営でも、地元に根付いた経営をしたいのか、フライチャイズ化して全国展開や海外進出を目標としたいのか、経営方針によってどんな経営形態が向いているのかが変わってきます。
多額の出資金を準備することなく誰でも会社設立ができるような時代ですので、以前ほど個人経営と信用力に差もなくなっています。
結局、法人化する理由や目的によって、それぞれのタイミングで会社設立を決定するのが正解といえます。
所得額500万円以上が目安
次に、会社設立のタイミングを節税の観点から検討してみましょう。
先ほどのシミュレーションでも明らかなように、所得額が300万円や400万円代ではあまり課税額に差がなく、法人化による節税のメリットはありません。
会社設立したために、かえって運営上の手間やコストがかさむなど、会社設立のデメリットが生じる可能性もあります。
一般的には、所得額が500万円から800万円くらいになった段階で法人成りすることによって、節税効果が高くなるといわれています。
売上が低い段階で会社設立したい場合は、家族を役員や従業員にして役員報酬や給与支払いで節税効果を狙う方法もあります。
ただし、会社の株式が経営者一人に集中せず家族に分散すると、事業承継や相続の際に思わぬ足かせとなることもありますので、注意が必要です。
消費税非課税のメリットを活かす
もうひとつ、節税の観点から会社設立のタイミングを計る方法があります。
売上が1,000万円を超えると消費税が課税されることは、すでに説明したとおりです。
また、資本金の額が1,000万円未満の会社は、設立後2年間は消費税が非課税になります。
この消費税非課税のメリットを活かし、会社設立のタイミングは売上1,000万円を超えたころがよいともいわれています。
ただし、所得税と比較して法人税の税率が安いため、切り替えのタイミングはケースバイケースで見極める必要があります。
会社設立の注意点
会社設立時の注意点として、許認可があります。
個人経営から会社設立して法人成りする場合であっても、個人事業と法人は全く別の事業者になります。
そのため、個人経営のときに取得済みの許認可を法人でも必ず取得できるとは限らないのです。
再度許認可を取得し直す必要がある場合が多いので、会社設立後に許認可が取得できないと大変です。
この場合、事業が行えなくなりますので、くれぐれも事前に十分な確認を行うようにしてください。
また、会社設立後は、個人事業の廃業手続きが必要です。
この場合、廃業の手続は会社設立日(登記申請日)の前でなくても大丈夫です。
会社の営業開始日の前日や事業用資産の譲渡が終わった段階で、廃業届を提出します。
なお、廃業届は廃業日から1か月以内に提出することになっていますので、忘れないようにしましょう。
まとめ
会社を設立すべきかという問題は、突き詰めれば、事業の目的や働き方をどうしたいかという問題に行きつきます。
個人経営と会社設立とでそれぞれメリット・デメリットを踏まえ、一人で特定の事業に特化した独自のビジネスを追求する、家族と協力して組織強化のうえ事業拡大する、など自分に合った手段を選びましょう。
サラリーマンとして企業に雇用される以外の生き方を選択したのですから、会社を設立する場合は目先の節税だけで判断するのではなく、5年後、10年後の事業計画をしっかり立ててベストなタイミングを計りましょう。