最終更新日:2022/6/9
定義は?収入は?個人事業主になるために必要な手続きとメリット・デメリット
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-tori
この記事でわかること
- 個人事業主とは何か。フリーランストの違い
- 個人事業主の収入はどのようになるのか
- 個人事業主として事業を行うにはどのような手続きが必要か
- 個人事業主のメリット、デメリット
個人で何らかの事業を始めるときは、一般に「個人事業主」という呼ばれ方をされます。
一方で「フリーランス」という表現も使われることがあります。
そこで、この個人事業主とフリーランスは同じなのか違うのか、違うとするとなにが違うのかを確認していきたいと思います。
その上で、個人事業主の収入はどのような構造になっているのか、そして、実際に個人事業主として事業を行うにはどのような手続きが必要になるのか、さらには、個人事業主のメリット、デメリットについても確認していきましょう。
個人事業主の定義
そもそも、個人事業主とはどのような人のことをいうのでしょうか?
個人事業主の定義
個人で事業を行っている人のことを一般に「個人事業主」といいます。
しかし、その定義については今ひとつ明確ではありません。
まず、「個人事業主」という言葉には、広義と狭義の2つの意味があると考えられます。
広義においては、対価を得て行われる資産の譲渡等を繰り返し、継続、かつ独立して行う個人をいいます。
ここでのポイントは、「対価を得て行われる取引」を「繰り返し、継続、かつ独立」して行っていることです。
たとえば、対価を得る行為を行っていても、フリーマーケットで物を売る場合などのように単発的に行っているにすぎない場合には、繰り返し、継続して行っている(これを「反復・継続」という言い方をします)わけではないため、個人事業主にはあたりません。
また、継続的に一定の行為を行っている場合であっても、対価を伴わない行為の場合も個人事業主にはあたらないことになります。
一方で、広義の個人事業主のうち、税務署に開業届を提出した者を狭義の個人事業主と考えることができるでしょう。
所得税法第229条は、個人として事業を開始した者については、その住所地の税務署に開業届を提出しなければならないと定めています。
ただ、この規定に対する違反については罰則が定められていないため、実際には、個人として事業活動を開始しているにもかかわらず、開業届の提出を行っていない広義の個人事業主も少なからずいるのが実情です。
ただし、開業届を提出していない場合には、後に述べるとおり、青色申告ができない等、実務上の不便が生じます。
フリーランスとの関係
個人事業主という表現とは別に、「フリーランス」という表現が使われる場合があります。
フリーランスも、会社等の組織に属しないで個人として活動して、収入を得ているという点では広義の個人事業主に含まれると考えられます。
フリーランスについては、法律上の明確な定義というのはありません。
ただ、一般的な用語例としては、事業主個人として主体的に特定の事業を継続的に行うというよりも、クライアントとの間で個別に業務委託契約などを締結して、その契約に基づいて業務を行い、報酬を得るという働き方のスタイル、または、契約の仕方をさして使われる場合が多いようです。
その意味で、個人事業主にあたるか否かという問題とは違う側面からの区分と考えられます。
したがって、フリーランスとして仕事をしている個人でも、開業届を提出している人は、同時に協議の個人事業主でもあると言えるでしょう。
一方、開業届を提出していないフリーランスは、広義の個人事業主には含まれますが、狭義の個人事業主には含まれないと考えられます。
個人事業主になったら収入はどうなる?
つぎに、個人事業主における収入と費用の関係を見ていきましょう。
個人事業主の収支
個人事業主の場合、その事業による売上げから、事業にかかった経費を除いたものが、基本的に個人事業主の収入となります。
つまり、事業による収入(利益)と、事業主個人の所得がイコールとなるわけです。
その結果、売上等から控除されるべきものを控除し、かつ、事業のための経費を引いた金額が事業主個人の所得となり、それに対して「所得税」が課せられることになります。
事業主への給与は?
以上のように説明すると、事業主に対する「給与は?」という疑問を持つ人がいるかもしれません。
しかし、個人事業主の場合、事業主自身が営業主体ですので、自身から自身への給与の支払ということは生じ得ません。
ここが会社組織での事業と根本的に異なる箇所となります。
会社組織の場合には、会社と社長とは別の「法人格」を有しており、社長=会社とはならないのです。
したがって、会社から社長に対して役員報酬なり給与が支払われ、社長個人はその給与について所得税を納めることになります。
そして、この社長の所得税とは別に、会社は会社で、売上から社長への給与などの人件費やその他の経費を差し引いた額(利益)対して、法人税という税金を社長の所得税とは別に支払うことになるのです。
個人事業主の場合、事業主個人の所得と、事業としての利益が一致することから、事業主個人がプライベートで使うお金はどこから出ていくのかが問題となります。
これについては、事業による利益から「事業主貸し」という名目で支出することになります。
個人事業主になるために必要な手続き
ここでは、個人事業主になるために必要な手続きについて解説していきます。
広義の個人事業主になるための手続き
広義の個人事業主になるためには、法律上、特別な手続きは必要ありません。
単に個人として何らかの事業を開始するなど、クライアントとの間で何らかの業務委託契約などを締結する形で仕事を受注等して、その対価を受け取ればいいだけです。
開業届の提出
これに対して、狭義の個人事業主として認められるためには、所得税法第229条に従って、税務署に開業届を提出する必要があります。
これによって、税務署に対して個人事業主としての収入があることを報告・宣言することになります。
そして、この開業届を出して初めて、個人事業主としての収入について青色申告をする事が可能となり、青色申告による税法上のメリットを受けることができるのです。
特別控除とし65万円の控除が認められたり、赤字繰り延べができたり、青色事業専従者給与の経費算入が認められるなどの税金上のメリットを受けることが可能になるのです。
青色申告承認申請書、および、その他の青色申告に関する書類の提出
開業届を出しただけでは、当然に青色申告ができるわけではありません。
実際に青色申告をすることを認めてもらうためには、開業届を提出した上で、さらに、青色申告承認申請書を提出する必要があります。
さらに、同居の親族を青色事業専従者として、その人への給与を経費とするためには、青色事業専従者給与に関する届出書を提出する必要があります。
また、従業員を雇って給与を支払う場合には、給与支払事務所の開設届、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を提出することになるでしょう。
社会保険関係
個人事業主の場合には、国民年金および国民健康保険に加入することになります。
たとえば、それまで企業に勤めていた人が、会社を辞めて個人事業主として起業する場合は、ご自身で、その加入手続きをとらなければなりません。
企業に勤めている間は、社会保険料の半分を会社が負担してくれていたわけですが、個人事業主となった場合には、そのような企業による負担はなくなります。
つまり、その全額を自身で負担することになるので、注意が必要です。
その他
上記の他に、当該事業のために新たに事務所などを借りる場合には、その事務所の賃貸借契約書を締結したり、名刺を作成したり、スタンプ印を作成したり、パソコンやコピー機等の機器を導入したりと、様々な作業が必要となるのです。
また、屋号をつける場合には、その屋号も考えなければなりませんし、場合によってはロゴやサービスマークの作成や、他社の登録商標等との抵触を調査しなければならない場合も考えられます。
個人事業主のメリット6つとデメリット4つ
最後に、個人事業主として事業を行うことのメリットとデメリットについて確認しておきましょう。
ここでの、メリット、デメリットは、なにと比較してなのかを明確に考える必要があります。
起業をする上で法人化することとの比較として考えるのか、それとも、起業しないで会社勤務を続ける場合との比較を考えるのかによって、メリット・デメリットとしてなにが考えられるかは変わってくるからです。
メリット
個人事業主のメリットとしては、次のようなものが考えられます。
本人の実力次第で収入を増やすことが可能
会社勤めをしている会社員との比較において、個人事業主のメリットとしては、本人の実力次第でいくらでも収入を増やす余地があるということが挙げられます。
会社員の場合には、給与体系などによってある程度給与は決められており、また、何らかの成果を上げたとしても、昇級時期までは給与は変わらないでしょう。
しかし、個人事業主の場合には、実際に仕事をとってきてその仕事を完成させれば、その分だけ自身の収入に反映されます。
その意味では、実力や実際の仕事の成果が、すぐに収入に反映されるという大きなメリットがあるでしょう。
業務時間を自分で調整できる
同様に、会社勤めの会社員との比較におけるメリットとして、時間を自分のペースで有効活用することができるということが言えます。
会社勤めの場合には、会社の就業規則などで定められている勤務時間に拘束される場合があります。
最近では、会社勤めをしていても在宅ワークや、フレックスタイム等が導入されている場合もありますが、それでも、一定の範囲での拘束は生じると言えるでしょう。
これに対して、個人事業主の場合、その事業を行う日や業務時間を自身で決定でき、他人が決めた時間に拘束されることはありません。
もちろん、取引先との関係で、相手の時間にあわせなければならない場合はありますが、それも、相手方の時間にあわせる選択を自身で行ったものですので、最終的には本人が決定したものと言えるでしょう。
好きなときに開始できて、好きなときにやめることができる
会社を設立して起業する場合との比較におけるメリットとしては、簡単に事業を始めることができ、また、やめるときにもその手続きが簡易であるということが言えます。
会社を設立する場合には、相応の費用と手間をかけて会社設立の手続きをする必要がありますが、個人事業主として事業を始めるのには、特別な手続きは必要ありません。
狭義の個人事業主となるためには税務署に開業届を提出する必要がありますが、その際も特に費用はかからず、また、開業届を出さなかったとしても罰則等はありません。
青色申告をするためには、いくつか書類を提出する必要はありますが、それもそれほど大きな手間ではありません。
また、事業を廃止する場合でも、廃業届の提出は必要になりますが、これも特別の費用が生じるものではありません。
その意味では、本人の意思で自由に決定できると言えるでしょう。
事業の内容の変更についても柔軟に対応できる
会社組織の場合には、その会社の事業目的を定款に定める必要があります。
そして、その目的を変更するには、株主総会を開催して特別決議による定款変更をしなければならないなど、煩雑な手続きをしなければなりません。
これに対して、個人事業主の場合には、開業届に事業の概要を記載することにはなっていますが、その後は事業の目的を追加したり変更したりしたとしても、特別な手続きをする必要はないため、臨機応変に事業内容を変更等することが可能となります。
手続きが簡易
上記とも関連しますが、会社組織の場合には、会社法に従った各種の手続きを行う必要があります。
たとえば、年1回の定時株主総会の開催であるとか、総会議事録の作成であるとか、決算だとか、様々な手続きが必要となります。
これに対して、個人事業主の場合には、年1回の確定申告などは必要ですが、それ以外はそれほど厳格な手続きは要請されていないため、経営自体が容易に可能というメリットがあると言えるでしょう。
青色申告による利益を享受できる
これは、開業届を提出した狭義の個人事業主の、開業届を提出していない個人事業主に対する関係でのメリットとなりますが、開業届を提出することによって、会社組織ではなくても青色申告による各種のメリットを享受できます。
具体的には最大65万円の青色申告特別控除を受けたり、赤字を3年まで繰り越せたり、同居の親族に対する給与を青色事業専従者控除として費用化することができるなどの、メリットを享受することが可能です。
デメリット
個人事業主のデメリットとしては、次のようなものが考えられます。
自己責任
会社勤務者との比較でのデメリットになりますが、メリットとして挙げた実力次第で収入を増やすことができることの反面として、自身が成果を残せなかった場合には、それが直ちに収入等に影響するという点が挙げられます。
一般論として対外的な信用が低い
会社勤務者、および、会社組織で起業している場合には、取引先や周囲の人も、一定の信用をおいてくれると考えられます。
それに対して、個人事業主の場合には、どうしても、よほどの実績等がなければ、対外的な信用度合いは会社組織に比べると劣ると言わざるを得ません。
実在性の証明において苦労する
会社組織の場合には登記によってその実態が保証されます。
これに対して、個人事業主の場合には、その営業の実態等を証明する制度が存在しません。
そのため、開業届の控えを提示する方法で、正式に開業届を提出して事業を行っていることを証明する手続きをとらなければならないなどの手間がかかることになります。
また、クレジットカードを作成したり、金融機関からの融資を受けたりする場合でも、会社組織の場合に比べるとハードルが高いと一般に言われています。
節税できる範囲が限定されている
個人事業主も青色申告が可能となっていますが、その控除額は最大でも65万円に限定されていたり、赤字についても繰り越しが会社の場合には9年であるのに対して3年に留まったりするなど、節税できる範囲が狭くなっていることは否定できません。
とくに、売上が増加してきた場合には、会社組織とした方が大きな節税効果を期待できることになります。
まとめ
以上、個人事業主として事業を行う場合の収入の取り扱い、さらに、実際に個人事業主として事業を行う場合の手続き、メリット・デメリットについて見てきました。
基本的に、個人事業主として事業を行うことは、手続き的に簡易であり、また、目的の変更・開業・廃業といった対応を含めて、臨機応変に対応できるでしょう。
その意味では、事業を始める段階では、個人事業主として開始することがやりやすいと言えると思います。
ただ、ある程度継続的に行うことを考えた場合には、対外的な信用という面、節税という面等からも会社組織に転換することが大きなメリットがあると考えられるでしょう。