最終更新日:2020/6/18
個人事業主にも納付義務あり?納付の流れから計算方法、注意点まで詳しく解説
この記事でわかること
- 消費税とは何かが分かる
- 消費税の申告から納付までの流れが理解できる
- 原則課税方式と簡易課税方式による消費税納付額の計算方法が分かる
- 消費税の課税事業者と免税事業者の決め方が分かる
- 消費税の納付にあたって気をつけたいことが分かる
商品やサービスを提供すれば、売上には消費者から預かった消費税が、支出には支払った消費税が含まれることになります。
一定の売上が発生すれば、個人事業主にも、所得税だけでなく消費税を納付する義務も生じます。
このため、個人事業主も、消費税の扱いに無関心でいることはできません。
あらかじめ消費税の納付義務が生じる条件や納税方式、納付額を計算方法する方法など、消費税の仕組みを知っておけば、消費税対策も安心です。
以下では、消費税とは何かや、申告から納付までの流れ、消費税の納税方式と納付額の計算方法、納付が義務になる事業者の決め方についてご紹介します。
また、納付にあたって気を付けたいことについても、合わせてご紹介します。
目次
消費税とは何か?
個人事業主と消費税の関係を知る前に、まず消費税とは何かを確認しておきましょう。
消費税は、消費段階で課税することにより、所得税など保有している段階では十分に把握できない所得に対し、間接的に課税するものです。
徴収された消費税は、主に年金や医療、介護、少子化対策などの福祉や社会保障が使途とされています。
日本では、1989(平成元)年4月から導入され、3%から5%、8%、そして10%と、段階的に引き上げが図られてきました。
消費税は、2019年10月には10%に引き上げられるとともに、8%の税率も同時に存在する軽減税率制度が導入されました。
制度導入の前後には、全ての消費に課税されれば低所得者層への負担が増すなど、批判が繰り広げられた経緯もあります。
納付方法は、制度の仕組み上、消費者が事業者に消費税を預け、商品やサービスを提供した事業者がまとめて申告し、税務署へ納付します。
ただし、全ての事業者に納付義務があるわけではなく、売上が一定額以下の事業者は、納付義務が免除されます。
消費税納付までの流れ
消費税を預かった事業者が、申告して税務署へ納付するまでの流れを確認しましょう。
消費者は、購入する商品やサービスに対して、事業者に消費税を含んだ対価を支払います。
また、商品やサービスを提供する事業者も、提供するための資材や材料などの購入や仕入れを行えば、相手の事業者に消費税を含んだ対価を支払います。
このように、消費税は、一つの商品やサービスが発生するまでの流通段階すべてにおいて発生します。
しかしながら、それぞれの段階では、新たに付加された価値に対する部分だけに課税されるため、重複して課されることはありません。
最終的に、それぞれの事業者は、売上分の消費税額から仕入れ分の消費税を差し引いた差額を納付します。
消費税の計算方法
事業者の消費税納税額を計算する方法には、「原則課税方式」か「簡易課税方式」の2種類があります。
一定の売上までは、どちらの方式でも認められます。
原則課税方式
原則課税方式は、基本的な計算方法ですが、1年間の取引すべての消費税について記帳しなければならないため、負担が大きいことがデメリットです。
売上時に預かった消費税から、仕入れなどで支払った消費税を差し引いた差額が納税額となります。
原則課税方式による、税率10%での消費税納付額の計算式は、次のとおりです。
【納付額】 = (課税売上高 × 10%)-(課税仕入高 × 10%)
簡易課税方式
簡易課税方式は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合、納付する消費税額を計算する際に簡易な方法が利用できます。
原則課税方式では、1年間の取引すべてについて消費税を記帳する必要がありますが、簡易課税方式では必要ありません。
この方式では、仕入れに要した消費税額を、売上高に対して一定の率を乗じて求めます。
このため、記帳にかかる時間を短縮することができ、経理事務の負担が軽減されます。
ただし、この方式を選択する場合は、税務署への届け出が必要です。
簡易課税方式による、税率10%での消費税の納付額の計算式は、次のとおりです。
【納付額】 = (課税売上高 × 10%)-(課税売上高 × 10% × みなし仕入率)
一定の率は「みなし仕入率」と呼ばれ、6区分の事業について定めがあります。
第一種事業(卸売業) | 90% |
---|---|
第二種事業(小売業) | 80% |
第三種事業(農業、林業、漁業、建築業、製造業など) | 70% |
第四種事業(飲食店業など) | 60%% |
第五種事業(サービス業) | 50% |
第六種事業(不動産業) | 40% |
消費税の納付義務の決め方
事業者は消費者から消費税を預かりますが、一定の要件に当てはまる場合は消費税の納付が義務となり、当てはまらない場合は免除されます。
納付義務がある事業者は「課税事業者」、免除される事業者は「免税事業者」と呼ばれます。
それぞれについて、詳しく確認しておきましょう。
課税事業者
以下の要件のうち、どちらかに当てはまる場合は課税事業者となり、消費税の納付義務が発生します。
「基準期間の課税売上高が1,000万円超」または「特定期間の課税売上高が1,000万円超」が要件です。
該当する場合は、課税事業者であることを税務署に届け出ます。
要件の定義
ここで、課税事業者となる要件について、定義を押さえておきましょう。
キーワードは、「基準期間」、「特定期間」、「課税売上高」の3つです。
基準期間は、消費税の納税義務があるかどうかを判定する年の前前年、つまり2年前を指します。
特定期間は、前年の上半期、1月1日から6月30日までの半年間です。
課税売上高は、基本的に、消費税が含まれない税抜の売上高です。
たとえば、2020年分の消費税を納付すべきかどうかを考える場合、
「2年前の2018年の税抜き売上高」 ≧ 1,000万円
または
「2019年1月から6月までの税抜き売上高」 ≧ 1,000万円
の要件に当てはまれば、納付が必要な課税事業者です。
免税事業者
課税事業者の要件に当てはまならければ、納付義務が免除される免税事業者です。
つまり、2年前の基準期間と前年上半期の課税売上高が、ともに1,000万円未満の場合は、免税事業者となります。
また、開業1年目の個人事業主は、要件に該当する売上高がないため、やはり免税事業者となります。
さらに、開業2年目の個人事業主も、基準期間の課税売上高はないので、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えなければ、免税事業者のままです。
なお、前年まで課税事業者の場合、要件に当てはまらなくなれば、届出書を提出して免税事業者になることができます。
納付にあたって気をつけたいこと
免税事業者が課税事業者になれば、消費税額を申告して納付しますが、その際に気を付けたいことをご紹介します。
基準期間の売上高、免税事業者は税込みで計算
基準期間の課税売上高は、基本的に税抜金額で計算しますが、基準期間に免税事業者であった場合は、消費税を含めた税込金額で計算しなければなりません。
つまり、基準期間に免税事業者であった個人事業主は、その期間の税抜の売上高が1,000万円未満でも、税込売上高が1,000万円を超えれば課税事業者です。
免税事業者は、税込み売上高が1,000万円を超えれば、2年後には申告と納付義務が発生します。
課税売上高が5,000万円を超えた場合は原則課税方式
簡易課税方式は、事務処理の手間が省けるため、個人事業主に好まれる傾向にありますが、基準期間となる2年前の課税売上高が、5,000万円を超えた場合は利用できません。
この場合は、すべての取引について消費税を記帳する原則課税方式で申告する必要があります。
なお、基準期間の課税売上高が5,000万円以下になると、簡易課税方式に戻ります。
簡易課税方式で消費税が減ると所得が増える
簡易課税方式では、節税できるケースもあります。
みなし仕入れ率を適用して仕入れ分の消費税を計算する際、実際の仕入れで支払った消費税額より少なくなった場合です。
しかしながら、節税できた消費税額は、収益に計上されることになるため所得額が増えることに注意が必要です。
たとえば、簡易課税方式で、売上の消費税が90万円、みなし仕入れ率80%の場合、納付する消費税額は18万円となります。
納付する消費税額
= 売上の消費税 - 仕入れの消費税(売上の消費税 × みなし仕入れ率)
= 90 - 90 × 80%
= 90 - 72
= 18
この際、実際には仕入れの消費税が60万円だとすれば、消費税額は12万円少なくて済むことになりますが、逆に所得が増えることになります。
消費税の納付額が増えると中間申告が必要
直前の課税期間の消費税額が48万円を超えた場合、年に1回の申告に加え、中間申告と納付が必要になります。
中間申告の回数は、直前の確定消費税額によって異なり、「48万円超から400万円以下」では年1回の中間申告と納付を行う必要があります。
また、「400万円超から4,800万円以下」では年3回、「4,800万円超」なら年11回の中間申告が必要になります。
払いすぎた消費税を還付してもらうには原則課税方式
設備投資などで支払った消費税額が、売上の消費税額より多い場合、払いすぎた分を還付してもらうことが可能です。
ただし、消費税の還付を受けることができるのは、原則課税方式で納付する課税事業者だけですので注意が必要です。
簡易課税方式を選択している場合でも、税務署に課税事業者を選択することを届け出れば、翌年から原則課税方式を適用できます。
免税事業者が消費税を請求できるか
個人事業を始めたばかりなどの免税事業者であっても、商品やサービスを提供する際に消費税を請求できます。
なぜなら、消費税法や国税庁の通達には、免税事業者が消費税を請求できないとは記載されていません。
また、消費税を請求しなければ仕入れの消費税が自己負担になってしまうからです。
また、免税事業者の利益になる消費税分は、収益となって所得税の対象になるため、すべて免税事業者の儲けになるわけではありません。
消費税を納付しないのに消費税を請求してよいのか、気になるところですが、問題ありません。
まとめ
個人事業主は、一般的に、開業から2年目までは免税事業者です。
その後は、2年前の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかで、課税事業者になるか、それとも免税事業者のままかが決まります。
しかしながら、免税事業者であっても、支出する消費税が売上の消費税より大きい場合は、課税事業者を選択すれば消費税の還付を受けることができるメリットがあります。
また、課税事業者になった際は、事業の成長度合いにもよりますが、課税方式を上手に選択すれば節税につながります。
このように、消費税と個人事業主の関係を把握しておけば、中長期的な事業計画を、より適切に立案できることにもつながります。