最終更新日:2023/12/20
法人化で社会保険に加入するメリット・デメリット【法人成りの負担はいくら?】
この記事の執筆者社会保険労務士 西村兆潔
ベンチャーサポート社労士法人 社会保険労務士。
大学を卒業後に、都内にある社会保険労務士事務所での勤務経験を経て、ベンチャーサポートに入社。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-nishi
この記事でわかること
- 個人事業主と法人の保険の違いがわかる
- 社会保険加入のメリットとデメリット、加入条件がわかる
- 実際の社会保険料の計算方法とシュミレーションができる
法人成りを考えている個人事業主の皆様にとって、法人成りしたときの社会保険料の負担は気になるのではないでしょうか。
また、単なる負担が発生するだけでメリットはないのかという疑問もあります。
実際には良くわからないけれど、なんとなく負担が増えそうだと思っている方は決して少なくはないでしょう。
そこで今回は、法人成りで発生する社会保険料のメリットとデメリット、手続きなどをご紹介します。
目次
個人事業主と法人の社会保険の違い
個人事業主の入る社会保険は、国民健康保険と国民年金です。
労使折半ではないので、個人の負担が大きくなります。
国民健康保険は、地域によって金額が違います。
また、個人事業主であっても、業種によっては健康保険組合などに加入できることもあります。
以下では、国民健康保険と国民年金に加入している個人事業主を仮定します。
国民健康保険は扶養者という制度がない
国民健康保険には、扶養者という制度がありません。
そのため、家族であっても一人ずつ健康保険に加入することになり、国民健康保険料も個人別に発生します。
一方で、会社の社会保険には扶養者という概念があり、条件を満たせば被扶養者になることができます。
被扶養者の保険料負担はありません。
国民健康保険と国民年金の負担は重い
国民健康保険は、所得割、資産割、均等割によって金額が決まります。
各自が加入するので保険料が一人ずつかかり、全額を個人が負担します。
社会保険料は、会社負担と個人負担が半分ずつです。
法人は社会保険に加入しなければならない
法人成りすると、社会保険へ加入することは義務です。
代表取締役1人だけしかいない会社であっても、社会保険に入らなければなりません。
一般に社会保険と言われているものは、健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つを指す場合と、広い意味ではさらに雇用保険と労災保険を加えて5つの保険を指す場合があります。
個人事業主であると、一定の業種で従業員が5人以上いる場合は社会保険に加入しなければなりません。
個人事業の場合は、比較的小規模な事業が多いため、社会保険に加入しないケースが多いです。
法人が加入しなければならない社会保険は、健康保険だけではなく、厚生年金保険、介護保険にも加入しなければなりません。
従業員の有無にかかわらず、社会保険に加入しなければならないので、金額面だけで見ると負担が増えそうだと思う人が多いのではないでしょうか。
法人成りによる社会保険の負担はいくらくらい?
社会保険料を負担するのは、会社と従業員の双方です。
各社会保険の種類ごとに会社・従業員の負担割合が定められており、支払は会社がまとめて行う形となります。
社会保険の種類ごとに、会社と従業員の負担割合を確認しておきます。
保険の種類 | 会社の負担割合 | 従業員の負担割合 | 計算式 |
---|---|---|---|
厚生年金保険 | 半分 | 半分 | 標準報酬月額×18.3% |
子ども・子育て拠出金 | 全額負担 | なし | 標準報酬月額×0.36% |
健康保険 | 半分 | 半分 | 標準報酬月額×健康保険料率(都道府県により異なる) |
介護保険 | 半分 | 半分 | 標準報酬月額×1.82%(令和5年3月分より) |
労災保険 | 全額負担 | なし | 従業員の賃金総額×労働保険料率(業種による) |
雇用保険 | 6割程度負担 | 4割程度負担 | 従業員の賃金総額×雇用保険料率(業種による) |
社会保険によって、会社が全額負担するものと従業員と折半して負担するものがあります。
法人成りすると、役員や従業員に対して報酬や給与を支払うこととなり、その金額を基にこれらの社会保険料を計算します。
なお、労災保険や雇用保険は従業員に対する給与のみを対象とし、役員報酬は基本的に計算対象に含まれません。
法人化による社会保険の計算シミュレーション
社会保険料のシミュレーションを、役員報酬月額30万円で行います。
東京都に住んでいて、40歳と仮定します。
30万円の根拠は、スタートアップ企業を想定し、役員報酬が会社の負担にならないようにするためこの金額にしました。
社会保険料 42,300円(=健康保険料14,850円、厚生年金保険料27,450円)
健康保険料 14,850円(=標準月額報酬300,000円×保険料率9.9%÷2)
厚生年金保険料 27,450円(=標準月額報酬300,000円×保険料1.57%÷2)
合計 84,600円(1ヶ月あたり)
もし、国民健康保険と国民年金だった場合は、月々の保険料額は36,334円になります。
国民年金は、月々18,900円でした(終身年金をA型、確定年金を1型と選択)。
合計55,234円(1ヶ月あたり)になります。
その差は月々29,366円です。
保険料負担だけ考えると、社会保険に入らない方がお得に感じるかもしれません。
しかし、将来の年金なども考えると、社会保険に入った方がお得です。
さらに、配偶者や子どもがいて国民健康保険に加入している場合は、配偶者や子どもでもそれぞれに保険料が発生します。
社会保険料に入り、もし配偶者や子どもを扶養に入れた場合も含めて考えてみると、単身で計算したときの月々29,366円の差は、すぐに埋まってしまうでしょう。
法人化で社会保険に加入するメリット
社会保険に加入することのメリットを、従業員と経営者側に分けて考えてみます。
従業員にとっては福利厚生の充実になる
従業員にとって、社会保険への加入は福利厚生の充実になります。
健康保険をはじめ雇用保険など、万が一病気などになってしばらく働けなくても、手当金が出るので安心して働くことができます。
経営者にとっては将来の年金収入が増える
経営者は労働者ではないので、労働保険の加入対象ではありません。
ただし、経営者に万が一のことがあったら遺族年金や加給年金、障害年金などが支払われます。
経営者にとっても福利厚生が充実しますが、それ以外のメリットとしては将来の年金が増えることです。
厚生年金に加入することになるので、積み立てる部分のお金も大きいのですが、その分年金としてもらえるお金が増えることになります。
さらに、配偶者を非常勤役員にし、役員報酬を年収130万円以内に収め、扶養者に入れることで家族全体として健康保険料の負担を減らすことができます。
また、そもそもの仕組みとして国民健康保険の場合は事業主の収入によって国民年金保険料が変わります。
収入が上がっていけば行くほど、負担も大きくなります。
一方で、法人化して社会保険に加入する場合、役員報酬によって保険料負担が決まりますので、会社全体で事業がうまく行っているかどうかは関係ありません。
したがって、例えば事業が好調で、利益がたくさんあがったとしても、役員報酬に特に変更がなければ社会保険料はそのままです。
今後のビジネス展開を考えており、収入が増えそうだというときは法人化して役員報酬をもらう方が、保険料の調整ができていいかもしれません。
法人化で社会保険に加入するデメリット
社会保険にもデメリットはあります。
金銭負担が増える
一番の問題は金銭負担が増えるということでしょう。
社会保険料を支払うことで福利厚生が充実するのはとても良いことですが、その分保険料負担が生じます。
ある程度収益が安定している会社ならば負担にはならないかもしれませんが、本当のスタートアップ企業の場合は収益が安定せず、保険料の支払いが負担になってしまうのではないでしょうか。
複雑な社会保険制度を勉強しなければならない
日本の社会保険制度はかなり複雑ですので、自分で勉強し、理解しようとすると大変です。
とはいえ、全く何も知らないのも良くないので、多少は経営者自身で勉強するでしょう。
さらに、社会保険関係の制度や法律は頻繁に変わります。
法改正について行くのも大変です。
一旦社会保険に加入したら、途中でやめるというわけにも行きません。
自分の事業については、法人成りしたほうがいいのか、法人成りしたとして社会保険料の負担ができるのかどうかをきちんと考える必要があります。
社会保険に加入した方がメリットが大きいケース
社会保険に加入した方が、メリットが大きいケースをご紹介します。
扶養家族が複数人いる場合
まず、扶養家族が複数人いる場合です。
国民健康保険の場合は、収入のない赤ちゃんや専業主婦であっても保険料がかかります。
社会保険の健康保険の場合は被扶養者になれば保険料の負担はゼロになります。
昨今は共働きが多いので、夫婦ともに働いているケースが多いでしょう。
例えば自営業の夫婦の場合、それぞれに国民健康保険に加入していたところ、夫が会社を作って社会保険適用になったとします。
妻は国民健康保険に加入し続けても良いですが、年収が130万円以下ならば妻を役員とし、社会保険の健康保険の被扶養者とすれば保険料負担が減ります。
さらに、子どももいる場合は、子どもを被扶養者としましょう。
そうすれば子どもの保険料もかかりません。
退職後の両親と同居している場合についても同様です。
両親を被扶養者とすれば、両親の健康保険料負担はありません。
ただし、両親が75歳以上であり、後期高齢者医療制度の被保険者になっている場合は被扶養者になれません。
被扶養者になれるのは会社を退職してから75歳になるまでの間です。
65歳に会社を退職するとして、被扶養者になるのはだいたい10年くらいですが、それでも保険料の負担が浮くメリットは大きいです。
事業の収益が上がりそうだと思われる場合
今後、事業の収益が上がりそうだというときも、法人成りして社会保険を適用したほうがお得になります。
前述の通り、社会保険料は役員報酬の金額によって変わるものです。
会社の収益がたくさん出ても、役員報酬が変わらなければ社会保険料は特に変わらないという仕組みです。
したがって、今後事業の収益が上がりそうだという時は、社会保険に入った方がお得になることがあります。
社会保険の手続き方法
社会保険に加入するにはどうしたらいいのでしょうか。
自分でできる方法をご紹介します。
健康保険は協会けんぽか組合を選ぶ
健康保険の加入手続きは、全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合を選んで加入します。
健康保険組合は、業界団体や企業によって設立されている組合です。
健康保険組合に入りたい場合は、加入条件についてよく検討してください。
一例として、同業者ではないと加入できないなどの制限がついている場合もあります。
協会けんぽに入る場合は年金事務所で手続きをします。
厚生年金は年金事務所で加入
厚生年金に加入するときは、各地の年金事務所で新規適用届(健康保険・厚生年金保険新規適用届)を提出します。
介護保険も年金事務所で加入
健康保険の加入手続きをすれば介護保険も手続きできます。
こちらも年金事務所で取り扱っています。
雇用保険は公共職業安定所(ハローワーク)で加入
雇用保険は、労働者を一人でも雇っていれば適用事業者の対象になります。
一人だけで会社を運営する場合はあまり気にならないかもしれませんが、誰かを雇って仕事を手伝ってもらうことを考えている場合は、雇用保険に入りましょう。
パートタイム労働者の一部も雇用保険の加入対象になりました。
パートだから雇用保険はいらないだろうと勘違いしがちですが、パートタイマーでも条件に合えば加入できます。
労災保険は労働基準監督署で加入
労災保険は、労働基準監督署で加入します。
労働関係成立届、労働保険概算保険料申込書、履歴事項全部証明書が必要です。
従業員を雇用している事業所は、法人か個人かを問わず対象になります。
社会保険に加入できないケース
法人が社会保険へ加入することは義務です。
法人ではない団体の場合、加入は任意というところもあります。
現時点で社会保険に入る義務があるかどうかで判断が分かれているのは、宗教法人の場合です。
宗教法人の修行が労働に当たるのかどうかで、判断が分かれてしまっています。
まとめ
今回は、法人成りで社会保険に加入するメリット・デメリットや社会保険料、社会保険の手続き方法などについてご紹介しました。
メリットとデメリットの両方を比べながら、事業の展望やもらえる年金などを考慮したうえで法人成りをするかどうか判断されると良いでしょう。