最終更新日:2023/5/2
インボイス制度導入で個人事業主はどうなる?制度の影響と対策に
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-tori
この記事でわかること
- インボイス制度とはどのような制度なのか知ることができる
- インボイス制度が個人事業主やフリーランスに与える影響がわかる
- 個人事業主やフリーランスがインボイス制度にどう対応するといいかわかる
消費税の計算に関して、2023年10月1日からインボイス制度が新たに導入されることが決定しています。
これにより、多くの事業者が何らかの対応を必要とされています。
特に規模の小さな個人事業主やフリーランスは、インボイス制度による不利益を被る可能性があるので注意が必要です。
インボイス制度の導入が個人事業主やフリーランスにどう影響するのか、解説していきます。
目次
インボイス制度とは?
インボイス制度は、正式名称を「適格請求書等保存方式」といいます。
日本国内で事業を行い、売上を計上した事業者は、基本的に消費税を納税しなければなりません。
消費税の納税額は、売上時に預かった消費税から、仕入時に支払った消費税を差し引いて計算します。
このうち仕入にかかる消費税額は、仕入先から発行された領収書や請求書、レシートなどを保存しなければなりません。
これが、インボイス制度が開始されると、仕入先から適格請求書(インボイス)を入手し、保存しなければならなくなります。
適格請求書を発行できるのは、税務署に適格請求書発行事業者として登録した事業者に限られます。
仮に消費税の発生する仕入を行ったとしても、適格請求書がなければ仕入れにかかる消費税額を差し引くことはできません。
インボイス制度が開始されるのは2023年10月1日です。
その前に適格請求書発行事業者の登録をしておかないと、インボイス制度導入後すぐにインボイスを発行することができません。
インボイス制度による個人事業主・フリーランスへの影響
インボイス制度が導入されると、個人事業主やフリーランスにはどのような影響があるのでしょうか。
規模の小さな事業者は、インボイス制度にあたって特に注意すべき点が多くあるので、あらかじめ確認しておきましょう。
消費税の納税義務が発生する
個人事業主やフリーランスの中には、売上が年間1,000万円以下である人も多くいます。
売上が1,000万円以下であれば、仮に消費税を受け取っていたとしても、消費税の納税義務はありません。
インボイス制度が開始されてもこのルールは変わらないため、消費税の納税義務が自然に発生することはありません。
ただ、インボイスを発行することができる適格請求書発行事業者の登録をすると、そこから消費税の納税義務が発生します。
新たに消費税の納税義務が発生すると、その負担はかなり大きなものとなります。
本来であれば、消費税の納税を免れるために、適格請求書発行事業者への登録は避けたいと考えるのが普通です。
ただ、その事業者を取り巻く環境によっては、適格請求書発行事業者にならざるを得ないことが考えられます。
取引先が仕入にかかる消費税額を認識するため、適格請求書発行事業者になるように要請された場合です。
適格請求書発行事業者になるかどうかは自身の判断なので、取引先に強制されることはありません。
ただ、「他の登録事業者との取引を増やす」などと言われれば、適格請求書発行事業者への登録をするしかなくなることが考えられます。
課税事業者との取引が減少する
消費税の課税事業者は、売上時に預かった消費税から仕入時に支払った消費税を差し引いて、消費税額を計算します。
インボイス制度が始まると、仕入にかかる消費税額はすべてインボイスから計算することとなります。
そのため、免税事業者から仕入を行うと、免税事業者に対して支払った代金から消費税を認識することはできません。
特殊な商品やサービスを扱っている、特定の建物を借りているといった場合は、免税事業者のままでも影響は少ないでしょう。
一方、他の事業者から購入できる商品やサービスについては、課税事業者との取引に切り替える動きが出てくる可能性があります。
その結果、課税事業者との取引が減少すると考えられます。
売上高が減少する
免税事業者から仕入を行う課税事業者は、これまでと同じように取引しても、消費税の負担が増えてしまいます。
そこで、免税事業者からの取引を取りやめるか、免税事業者からの仕入金額を減らすことが考えられます。
免税事業者からの仕入金額が減れば、インボイス制度による悪影響を最小限に抑えられるのです。
その結果、あおりを受けるのが免税事業者です。
個人事業主やフリーランスで、適格請求書発行事業者にならない人は免税事業者となるため、取引の条件が見直されます。
これまでと同じように取引を継続することができても、単価が引き下げられる可能性があります。
インボイス制度による個人事業主・フリーランスの対策
インボイス制度が導入されると、個人事業主やフリーランスの中には、大きな影響を受けるケースがあります。
そこで、その影響を最小限に抑えるために様々な対策を行うことができます。
具体的にどのような対策をとることができるのか、確認しておきましょう。
適格請求書発行事業者になるか検討する
インボイス制度が始まっても、これまで消費税の納税義務者であった人は、税負担の増加などの影響はまったくありません。
しかし、これまで消費税の納税義務者でなかった人が適格請求書発行事業者になると、新たに消費税の納税義務が発生します。
そこで、インボイス制度の開始にあわせて、適格請求書発行事業者になるかどうかを検討する必要があります。
自身の消費税の負担を考えれば、適格請求書発行事業者にならない方がメリットとなります。
一方、適格請求書発行事業者にならないと、取引先が仕入にかかる消費税を認識できなくなります。
そのため、取引停止や取引金額の減少といった影響が生じることが考えられます。
そこで、適格請求書発行事業者に登録した場合の影響と、登録しなかった場合の影響を比較しましょう。
ここでポイントとなるのは、取引先が消費税の納税義務者かどうかです。
もし取引先が消費税の納税をしていないのであれば、免税事業者のままであっても取引金額への影響はありません。
取引先は、消費税の計算を行うためにインボイスを受領する必要はないからです。
取引先も免税事業者である場合、あるいは一般消費者である場合がこれにあたります。
一方、取引先が消費税の納税義務者であれば、免税事業者のままであることで、売上高減少などの影響は確実に生じます。
納税義務者との取引がすべてなくなるわけでなくても、1割減った場合、3割減った場合という形でシミュレーションしましょう。
そして、納税義務者になったことで生じる消費税の負担と、どちらにメリットがあるかを考えます。
適格請求書発行事業者に登録する
適格請求書発行事業者になる場合、まずは税務署に「適格請求書発行事業者登録申請書」を提出します。
これまで免税事業者であった事業者だけでなく、納税義務者であった人も登録申請しなければならないため、注意しましょう。
インボイス制度の開始と同時に適格請求書発行事業者への登録を行う場合は、提出時期に注意が必要です。
当初は、インボイス制度開始と同時に適格請求書発行事業者になるには、2023年3月31日までに申請することとされていました。
しかしその後の改正により、2023年10月1日のインボイス制度開始までに申請すればいいこととされました。
しかし、登録番号が通知されるまでは時間がかかります。
取引先などから事前に登録番号を確認されることがありますが、早めに申請していないと対応が遅れてしまいます。
そのため、できるだけ早く適格請求書発行事業者になるための申請を行いましょう。
免税事業者のままいく場合は取引先と話し合う
様々な検討を行った結果、免税事業者のままでいくという選択をすることもできます。
この場合、適格請求書発行事業者にならない選択をしたことを、取引先に前もって伝えておくといいでしょう。
適格請求書発行事業者になるかどうかは、事業者本人の判断であるため、たとえ大口の取引先であっても強制はできません。
ただ、適格請求書発行事業者にならなかった場合に、これまでと同じように取引するかどうかは取引先が決定できます。
そこで、適格請求書発行事業者にならないことを伝えた上で、今後の取引条件について話し合いを行いましょう。
取引先の消費税の負担が増える分、単価の見直しを求められることも考えられます。
現在の単価が適正なのか、あるいは見直しの余地があるのか、状況を丁寧に説明する必要があります。
インボイス制度に対応する準備を行う
適格請求書発行事業者になる場合、そのための準備も必要となります。
適格請求書発行事業者になると、取引の都度インボイスを発行しなければなりません。
インボイスへの記載事項が細かく定められているので、記載漏れがないように準備しなければなりません。
また、新たに消費税の納税義務者となるのであれば、消費税の計算が行えるような準備も必要です。
消費税に対応した会計システムや、消費税の確定申告などの準備が必要になるため、事前に確認しておきましょう。
また、納税資金の確保が課題になるため、計画的に資金繰りを行いましょう。
まとめ
インボイス制度が導入されると、多くの事業者にその影響が生じることが見込まれます。
中でも、これまで免税事業者だった個人事業主やフリーランスが適格請求書発行事業者になると、大きな影響があります。
免税事業者である人は、インボイス制度の開始と同時に適格請求書発行事業者になるかどうか、よく考えましょう。
また、適格請求書発行事業者になった場合は、様々な準備が必要になるので、そのことも確認しておきましょう。