最終更新日:2023/5/8
インボイス制度が飲食店に与える影響とは?準備すべきことも解説
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
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この記事でわかること
- インボイス制度の導入で飲食店がどのような影響を受けるかわかる
- インボイス制度導入にあたって飲食店が準備すべきことがわかる
- 飲食店が発行する適格簡易請求書とはどのようなものかわかる
消費税の計算や書類の保存について、新たに導入されるインボイス制度により大きく変わることが予想されています。
インボイス制度の影響はあらゆる事業者に及ぶため、その事業者の状況に合わせた対応が求められます。
飲食店もまた、インボイス制度の導入による影響を受けるため、事前に準備が必要となります。
飲食店で認められる適格簡易請求書の様式や記載内容は特に重要なため、必ず前もって準備しておきましょう。
目次
インボイス制度とは
インボイス制度とは、消費税の仕入税額控除に関する新しい制度です。
消費税を納税する事業者は、売上時に預かった消費税から仕入時に支払った消費税を差し引いて、その差額を税務署に納付します。
ところが、インボイス制度が開始されると、適格請求書と呼ばれる書類を保管していなければ仕入税額控除ができなくなります。
そのため、事業者が仕入税額控除を受けるためには、仕入時に適格請求書を受け取らなければなりません。
なお、適格請求書を発行することができるのは、あらかじめ税務署に登録された事業者のみとなります。
インボイス制度は2023年10月1日から開始されることが決定しています。
インボイス制度が飲食店に与える影響
インボイス制度が導入されていない段階では、その影響を考えることはできないとお思いの方もいるかもしれません。
しかし、インボイス制度が飲食店に対してどう影響するかについては、ある程度予想されています。
適格請求書発行事業者の登録申請を行う必要がある
消費税の課税事業者として、すでに消費税の申告・納税を行っている事業者も、しなければならないことがあります。
それが、「適格請求書発行事業者の登録申請書」の提出です。
適格請求書発行事業者としての登録を済ませなければ、適格請求書を発行することはできないためです。
適格請求書発行事業者になるための申請は、税務署に書面提出または電子申告により行います。
インボイス制度が開始される2023年10月1日から適格請求書発行事業者となるには、2023年3月31日までに申請しなければなりません。
課税事業者になる必要性がある場合も
課税売上が1,000万円に満たない事業者は、消費税の申告や納税を行っていない方が多いでしょう。
消費税の免税事業者であれば、消費税を受け取っても申告・納税する必要はなく、すべて利益となっていました。
しかし、インボイス制度が開始されると、売上と一緒に消費税を受け取ることができるのは、適格請求書発行事業者だけです。
適格請求書発行事業者にならなければ、消費税を受け取ることはできず、税抜金額で売上を計上することとなります。
また、免税事業者のままである場合、適格請求書発行事業者になることはできません。
これにより、免税事業者に対して支払いを行う事業者は、仕入税額控除ができなくなります。
仕入税額控除ができなくなると、消費税の納税額が増えるため、免税事業者との取引を行わないようにする事業者も現れるでしょう。
一般消費者に対する売上が大きい飲食店であれば、免税事業者のままいくという選択肢もあります。
しかし、事業者に対する売上が大きな飲食店など、課税事業者となって適格請求書発行事業者にならざるを得ない場合もあります。
インボイス制度導入にあたり飲食店が準備すべきこと
インボイス制度が導入されると決定している中で、どのような準備をしておくことができるのでしょうか。
インボイス制度開始まで時間がある中で、できることから順番に準備を進めていきましょう。
課税事業者になるか判断する
免税事業者である場合には、課税事業者になった上で適格請求書発行事業者になるかどうかを決めなければなりません。
法人の得意先がある場合、適格請求書発行事業者にならないことでその売上が無くなる可能性を考えてみます。
また、課税事業者になることで、どれだけの消費税を納税しなければならないかも試算してみましょう。
そして、課税事業者になるメリットと免税事業者のままでいるメリットを比較し、いずれが大きいのか検討する必要があります。
適格請求書発行事業者の申請を行う
課税事業者となる場合、あるいはもとからの課税事業者は適格請求書発行事業者になるための申請を行う必要があります。
適格請求書発行事業者になるためには、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出しなければなりません。
税務署に書類を持参または郵送するか、電子申告により提出することができます。
なお、インボイス制度開始の日である2023年10月1日より適格請求書発行事業者になるには、2023年3月31日までに申請が必要です。
また、免税事業者であった者が、インボイス制度開始の日から課税事業者となる場合は、課税事業者選択届出書の提出が必要です。
ただし、2023年10月を含む課税期間中に登録を行う場合には、課税事業者選択届出書の提出は不要とされています。
適格簡易請求書に対応するレシートを準備する
適格請求書発行事業者が売上を計上した場合、取引相手が事業者かどうかにかかわらず、適格請求書を発行しなければなりません。
ただし、飲食店のように不特定多数の人に対して売上が発生する業種については、適格簡易請求書の発行が認められます。
適格簡易請求書は、これまでのレシートに代わって作成されるものです。
ただ、適格簡易請求書には、これまでのレシートにはない記載事項もあるため、あらかじめその内容を確認しておかなくてはなりません。
また、記載事項を確認するだけでなく、レシートを発行するレジから見直さなければならない場合もあります。
適格簡易請求書をスムーズに発行できるようになるには、時間がかかることも考えられるため、早めに準備が必要です。
インボイス制度対応の会計システムを準備する
インボイス制度が始まると、自身が仕入れを行った時には適格請求書を受け取り、保管しておかなければなりません。
また、その適格請求書に記載された内容に従って会計処理を行い、消費税額を計算しなければなりません。
特に飲食店の場合は、軽減税率が適用される仕入れも多くあるため、会計処理には気を配る必要があります。
これまで会計システムを導入していなかった人は、これを機に会計システムの導入を検討してみましょう。
また、会計システムをすでに利用している方も、これまでのシステムで問題がないか、確認しておく必要があります。
適格簡易請求書として認められるレシート
飲食店の場合、取引ごとに請求書を発行することはなく、その代わりに代金の受取時にレシートや領収書を発行します。
インボイス制度が開始された後は、レシートや領収書を発行する場合、適格簡易請求書としての要件を満たさなければなりません。
適格簡易請求書として認められるためには、どのような内容を記載する必要があるのでしょうか。
インボイス発行事業者の氏名または名称および登録番号
適格簡易請求書を発行する事業者の、氏名(個人事業者の場合)または名称(法人の場合)を記載します。
また、適格請求書を発行することができる適格請求書発行事業者としての番号も記載しなければなりません。
「T+13桁の番号」が登録番号となり、適格請求書発行事業者の申請を行うと税務署から番号が指定されます。
取引年月日
売り上げが発生した年月日を、簡易適格請求書に記載しなければなりません。
取引の内容
どのような取引によって売り上げが発生したのか、その内容がわかるように記載します。
また軽減税率が適用される取引を、※などで区分できるようにしておきます。
飲食店の場合、店内での飲食は10%、テイクアウトや食材の販売は8%となるため注意しましょう。
税率ごとに区分して合計した対価の額
消費税率が10%になる取引と8%になる取引がある場合、その税率ごとに対価の額を合計して記載します。
税率ごとに区分した消費税の合計額または適用税率
税率ごとの消費税額の合計額を記載します。
税率ごとに区分した消費税額と、適用税率の両方を記載することも認められます。
まとめ
インボイス制度が始まると、事業者は適格請求書を発行しなければならず、また、受け取った適格請求書を保管しなければなりません。
適格請求書が適切に発行されていなければ、消費税の計算に大きな影響が出てしまいます。
そのため、インボイス制度が始まる前に、適切に対処しなければなりません。
また、飲食店の中には免税事業者も多くいるため、インボイス制度にどのように対応するのか、考えておく必要があります。