最終更新日:2022/6/7
税務調査で個人口座の通帳は見せる必要性は?通帳を見せなければいけないケースと見せなくてよいケース解説
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
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この記事でわかること
- 税務調査で通帳が確認される理由がわかる
- 税務調査における法人口座と個人口座の違いがわかる
- 代表者の個人口座通帳を見せなければならないケースがわかる
報道発表されている国税庁の法人税の調査実績によると、平成30事務年度において、いわゆる税務調査を実施された法人は9万9千件にのぼります。
そのうち、法人税の非違があった法人が7万4千件です。
元々、大口・悪質な不正計算が想定される法人に調査をかけているわけですが、約75%の法人に非違があったわけですから、かなり高い確率といえるのではないでしょうか。
このような状況ですから、税務調査が入るとなると、不正計算について身に覚えがなくても不安になってしまうのは仕方ありません。
本記事では、税務調査が入った場合に資料として口座通帳を提示しなければならない理由と、法人口座だけではなく代表者の個人口座も提示しなければならないケースについて解説していきます。
目次
税務調査で通帳を確認する理由
税務調査において、通帳の提示を求められるケースは多々あります。
理由は、通帳明細が改ざんすることが難しい書類だからです。
法人や個人がつけている帳簿書類と違って、金融機関という第三者が取引に応じて自動的に印字処理するものですので、これを改ざんすることは基本的にできません。
ですから、通帳に記帳された「お支払い金額」「お預り金額」は税務調査においても、証拠として判断されます。
また通帳明細は、資金の流れが分かりやすいため、事業融資を受ける場合でも重要視されており、融資の申請手続きの書類の一つになっています。
では、実際に税務調査官が通帳でどのような内容を確認するかというと、定期的に得ている所得はないか、怪しいお金の動きがないかという点です。
確定申告書の所得金額と、通帳の入金状況に大きな開きがあるときはもちろん、帳簿に基づいた入金、出金に整合性があるかという点も確認されます。
基本的には、調査の対象となる年度内の通帳明細を細かく確認されることとなりますが、場合によっては、過去にさかのぼって通帳の提出を求められることもあります。
税務調査の対象となるのは?
そもそも税務調査に入るのは、脱税が疑われる法人や個人事業者だけとは限りません。
事実、税務調査を行っても25%の法人は問題がありません。
確定申告をしている事業者や法人すべての税務調査を行うことはできませんから、特に申告内容に怪しい要素がなくても、一定数の税務調査を行うことで、全体の正確な納税を促進しているわけです。
税務調査が入る可能性があるとなれば、追徴課税を受けない為にも、事業者が正確な申告を心がけるだろうという期待もあります。
法人口座や事業で使っている通帳は税務調査で見せなければいけない
税務調査の際、法人口座や個人事業であっても屋号の入った事業用の口座の場合、通帳の提示を求められれば、見せなければなりません。
事業に関連した口座の通帳は、国税通則法第74条の「その者の事業に関する帳簿書類その他の物件」の範囲内にあるとされますので、法的根拠に基づいた質問検査等の対象です。
ちなみに、通帳の提示は税務調査が入った後の対処ですが、国税庁ではすべての法人や事業者に税務調査することはできない為、「自発的」な修正申告を促しています。
確定申告を提出後に、提出した金額が間違っていることが分かった場合、自発的に修正版を提出すれば、追徴課税が15%のところ5%に低減されます。
ただし、税務調査の事前通知があった後に、慌てて修正申告しても「自発的」とはみなされず、正規の追徴課税が行われますので、ご注意ください。
社長の個人口座の通帳は基本的に見せる必要がない
法人口座や、事業用口座の通帳は、求められれば提示する必要がありますが、代表者個人の口座の通帳は見せる必要があるでしょうか。
基本的に、個人の通帳は「事業に関する帳簿書類等」に該当しませんので、提示する義務はありません。
しかしながら、たとえ個人口座であっても、事業用の資金の入出金がある場合や、そもそも事業用口座がなく個人口座のみで事業を行っている場合などは、提示する必要があります。
事業用と個人用の口座を明確に線引きしてない場合は、提示を求められるだけでなく、税務調査自体が長くなりますので注意しましょう。
個人口座の通帳を見せなければいけないケース
前述したように、本来は、税務調査において個人口座の通帳を提示する必要はありません。
基本的に、税務調査において通帳明細の提示が必要となる根拠は、国税通則法第74条の「その者の事業に関する帳簿書類その他の物件」に法人口座や事業口座の通帳が該当するからです。
このことを頭に置いて、個人口座の通帳を見せなければならないケースを考えてみましょう。
個人事業主の個人口座の場合
個人事業者に税務調査が入った場合、事業用口座と個人口座が明確に分けられているかどうかで、個人口座の通帳の提示義務があるかどうか判断されます。
提示が必要なのは、あくまでも「事業に関する」ものです。
ですから、事業用と個人口座がしっかりと分けられていれば、個人口座の通帳は見せる必要はありません。
ですが、注意いただきたいのは、明確に分けられているかどうかです。
たとえば、個人事務所を自宅内に設置している場合、家賃や水道光熱費を生活費と事業用経費に分けて帳簿付けしているケースが多いです。
そのような場合で、家賃や水道光熱費を個人口座で引き落としている場合、個人口座を事業用にも使用していることになりますので、明確に事業用と分けているとは言えません。
また当然ですが、取引先が振込手数料の問題で個人口座の金融機関に振り込みしている場合も、事業用とみなされます。
ですから、個人口座のプライベート性を担保したいのであれば、事業用の金銭のやり取りは個人口座では一切行わないようにしましょう。
法人の代表者個人口座の場合
税務調査官は、当然のように法人に対する税務調査でも、代表者の個人口座の通帳を見せろと要請してきます。
ですが法人に税務調査が入って、代表者の個人口座の通帳提示を求められた場合、原則として見せる義務はありません。
原則としてというのは、個人の場合と同様ですが、代表者の個人口座と法人で金銭のやりとりなど事業に関係した取引を行っている場合は、提示義務があるということです。
一般的に、代表者の個人口座と法人口座が個人事業の場合のように混同されていることはありません。
個人口座の提示を求められる場合は、法人と金銭のやりとりをしている該当部分のみが対象となります。
これは、代表者個人が反面調査されるという意味です。
よって、法人からの金銭の流れを確認するために、個人口座の該当部分のみを提示すれば事足りるということです。
一方、税務調査官は銀行などの金融機関に照会を行い、独自に通帳明細を調査することができます。
にもかかわらず、通帳の提示を求めるのは何故でしょうか。
それは単純ですが、銀行への照会請求は、手続きが大変で時間もかかるからです。
数多くの調査をこなさなければならない調査官にとっては、時間短縮になりますから、直接通帳の提示を求めるわけです。
事業との関連性を疑う根拠がなければ、代表者の個人口座の通帳を提示する法的義務はありませんが、スムーズに調査を終わらせるためには、見せてしまうというのも得策です。
ただし、もちろん通帳の中身には問題がないという前提です。
通常の法人の場合、代表者個人の口座を調べられることは多くはありません。
個人事業から法人成りしたばかりの頃など、個人口座へ入金されているのではないかと疑いをもたれる場合には、提示を求められます。
事業関連性の疑いがなければ提示義務はない
個人事業の場合でも、法人の場合でも個人口座の通帳を見せる必要があるかどうかは、事業との関連性の有無によります。
ですが、税務調査官が「個人口座の通帳明細を見てみないと事業との関連性の有無が判断できない」と主張してくることがあります。
このような主張は、一見すると卵が先か鶏が先かという水掛け論になりますが、国税庁では「税務調査手続に関するFAQ」において、以下のような回答をしています。
問7 法人税の調査の過程で帳簿書類等の提示・提出を求められることがありますが、対象となる帳簿書類等が私物である場合には求めを断ることができますか。
法令上、調査担当者は、調査について必要があるときは、帳簿書類等の提示・提出を求め、これを検査することができるものとされています。
この場合に、例えば、法人税の調査において、その法人の代表者名義の個人預金について事業関連性が疑われる場合にその通帳の提示・提出を求めることは、法令上認められた質問検査等の範囲に含まれるものと考えられます。
調査担当者は、その帳簿書類等の提示・提出が必要とされる趣旨を説明し、ご理解を得られるよう努めることとしていますので、調査へのご協力をお願いします。
この回答を見ると、個人預金については、事業関連性が疑われる場合には個人口座の通帳を見せなければならないとなっています。
すなわち個人口座の通帳の提示を求めるためには、事業関連性を疑う根拠が必要ということになります。
事業関連性を疑う根拠もなしに、見てみないと分からないという理由で提示を求めることはできません。
ですから、先程の税務調査官の「個人口座の通帳明細を見てみないと事業との関連性の有無が判断できない」という主張に対しては、「事業関連性を疑う根拠を提示してください」と切り返すことができます。
税務調査に入られると緊張してしまって、何でも「はい、はい」と指示に従ってしまいますが、調査官の質問検査権の範囲を超えた要請については、反論することも検討しましょう。
ただ、あまりに提示を拒むと「怪しい、何か隠している」と勘繰られることもありますので、顧問税理士がいる場合は、よく相談してください。
まとめ
通帳は、金融機関が第三者となる信ぴょう性の担保された帳簿書類です。
ですから税務調査が入る場合、基本的に通帳の提示を求められますが、事業用の口座や法人口座の通帳の提示は義務です。
ですが、個人口座の通帳に関しては、事業関連性の疑いの根拠がない場合は、提示を拒むことができます。
また、必要な場合でも、事業と関連した通帳明細部分のみを提示すればよく、生活費などのプライベートに関わる部分の提示は行わなくても大丈夫です。
ただ、特に個人口座の通帳明細の開示が問題ないようであれば、調査官の指示に従って提示する方がスムーズに税務調査が終了することもありますので、よく検討してください。