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最終更新日:2023/5/8

法人が投資信託に投資するメリット・デメリット【会計処理や税務上の扱いは?】

税理士 鳥川拓哉
この記事の執筆者 税理士 鳥川拓哉

ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。

PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-tori

法人が投資信託に投資するメリット・デメリット【会計処理や税務上の扱いは?】

この記事でわかること

  • 法人が投資信託に投資するメリットとデメリットがわかる
  • 投資信託に投資することがおすすめの法人の特徴がわかる
  • 法人が投資信託に投資する際の会計処理や税金がわかる

超低金利時代が長く続き、銀行口座に預け入れても利息がほとんどつかない状況となっています。

そのため、安全な資産の運用が求められる法人においても、預金以外の運用方法がないか検討されることが増えています。

そこで、法人が投資信託を購入して投資することの是非についてご紹介していきます。

投資信託を購入した時の会計処理や、利益が出た場合の税金の計算についても解説していきます。

法人が投資信託に投資するメリット

法人が投資信託を購入して投資を行う場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。

預金でしか資産運用を行っていない場合や、個人で投資信託を購入した場合と比較して、そのメリットを確認していきましょう。

運用益を得ることができる

投資信託を購入して投資することにより、主に2種類の利益を得ることができます。

1つは投資信託自体の価格の上昇によって得られる利益、そしてもう1つは分配金を受け取ることで得られる利益です。

投資信託にはリスクがあり、100%利益が得られる元本保証の商品ではないことから、必ず運用益が得られるわけではありません。

ただ、投資対象となっている商品の構成によっては、かなりリスクを抑えることができます。

投資信託を購入していない場合、預金によって得られる利息とは比較にならない運用益を得ることができるでしょう。

損失が出ても利益と相殺できる

投資信託は価格が下落するリスクがあるため、絶対に利益が出るわけではありません。

場合によっては、投資信託に投資することで損失が発生することもあります。

しかし、投資信託を行うことで発生した損失は、法人が本業で得た利益と相殺することができます

そのため、結果的に本業の利益から計算される法人税の負担を軽減することができます。

個人で投資信託を購入した場合、損失が発生しても給与所得や事業所得と相殺することはできません。

法人の場合は所得の区分がなく、すべての損益をまとめて計算するため、相殺可能となっています。

損失を繰り越すことができる

本業でも利益が出ず投資信託でも損失が発生した場合、税金は発生しませんが、より大きな損失となってしまいます。

ただし、発生した損失は、翌年以降最大10年間繰り越すことができます

損失を繰り越すと、翌年以降に法人で利益が発生しても繰越損失と相殺して、税負担が軽減されます。

個人の場合、投資信託で生じた損失は最長3年まで繰り越すことができます。

しかし、法人の場合はこの期間が10年までとなることから、非常に大きなメリットとすることができます。

借入金でより大きな運用も可能

法人の運営を行う際に、必要な資金を銀行から借り入れることは一般的です。

特に創業間もない会社の場合、自己資金が豊富にあるわけではないため、融資を受けた資金を利用することとなります。

本業で利益が出ている場合や将来性に見込みがある場合、銀行から融資を受けることができます。

この融資された資金の一部を投資に活用することができれば、より大きな利益を得られる可能性があります。

個人で投資信託を購入するために、銀行から融資を受けることはまずできません。

借り入れをすれば、それだけ手元の資金が増え大きな投資も可能となりますが、これは法人でなければ難しいのです。

法人が投資信託に投資するデメリット

法人が投資信託に投資するデメリット

法人が投資信託に投資することにはいくつかのメリットがありましたが、反対にデメリットもあります。

ここでは、そのデメリットについて確認しておきます。

税制上の優遇措置がない

法人で投資信託を購入した場合、発生した運用益はすべて他の利益と同じように課税対象となります

税率の違いもなく、本業から発生する収益とまったく同様の取扱いとなります。

これに対して、個人が投資信託に投資する場合には、様々な税制上の優遇措置を適用することができます。

たとえばNISAの口座を開設すれば、投資金額が年間120万円まで、最大5年間非課税で運用することができます。

また、つみたてNISAを利用すれば、最長20年間にわたり運用益が非課税となります。

法人の場合、このような優遇措置はないため、利益が発生すれば全額課税対象とすることができます。

特定口座が利用できない

法人が証券会社に口座を開設する場合、その口座はすべて一般口座となります

一般口座となる場合、投資信託の売買損益は納税者自身で計算しなければなりません。

一方、個人の方が証券会社に口座を開設する場合、一般口座の他に特定口座を選択することもできます。

特定口座にすると、投資信託を売却した際の損益計算を証券会社でしてくれます。

そのため、納税者は証券会社で作成された書類を使って、簡単に申告することができるようになります。

法人は一般口座しか利用できないことから、投資信託に投資することで、事務処理が増えることとなります。

投資信託への投資がおすすめな法人の特徴

それでは、どのような法人が投資信託に投資するといいのでしょうか。

投資信託には値下がりするリスクがあり、デメリットもあるため、すべての法人がおすすめというわけではありません。

それでは、どのような法人が投資信託への投資を始めるといいのでしょうか。

投資信託への投資をするといい法人には、次のような法人があげられます。

  • 本業で大きな利益を上げている法人
  • 余剰資金が豊富にある法人
  • 資産運用に知識や見識のある担当者がいる法人
  • 資金調達能力の高い法人

本業で大きな利益を上げていれば、仮に投資信託で損失が発生しても本業に与える影響は限定的です。

また、余剰資金が豊富にあるものの、金融機関への預金しか利用していない場合、運用益を得ることはほとんどできません。

投資信託への投資は余裕資金で、損益計算上も無理のない範囲で行うようにしましょう。

また、投資信託を購入すればすぐに、必ず利益が得られるわけではありません。

どのような商品を購入するのか、あるいは購入や売却をいつ行うのかといった知識があるかないかで、結果は大きく変わります。

知識や見識のある担当者を置けない場合は、無理に始めてもいい結果が得られない可能性が高いので注意が必要です。

本業の収益力が高い、あるいはこれからの成長性に期待が持てるため、資金調達能力の高い法人があります。

このような法人の場合、手元の資金が増える一方、すぐには資金需要のない場合もあります。

そこで、手元資金を使う時までの間に、投資信託を購入するという選択肢もあります。

法人が投資信託に投資したときの会計処理

法人が投資信託に投資したときの会計処理

法人が投資信託への投資を行うと、様々な会計処理が必要になります。

ここでは、投資信託を行うことにより発生する取引を確認しながら、その会計処理を解説していきます。

投資信託を購入した時

投資信託を購入した時は、その購入目的に応じて「有価証券」または「投資有価証券」の勘定で処理を行います

投資信託を売買目的で購入した場合は、「有価証券」となります。

売買目的とは、時価の変動により短期的に利益を獲得する目的で売買を行うことです。

法人の事業の目的として、有価証券の売買などが定款に記載されている場合などが該当します。

あるいは、法人にトレーディング部門があり、事業の一部となっている会社が該当します。

一方、投資信託を法人の資産形成の一部として購入するなど、売買目的でない場合は「投資有価証券」となります。

売買目的でない投資信託を100万円で購入した場合、以下のような仕訳を行います。

(借方)投資有価証券 1,000,000  (貸方)普通預金 1,000,000

投資信託の分配金を受け取った時

投資信託の分配金を受け取った場合、その分配金は「受取配当金」で計上します

分配金を受け取る際には15.315%の源泉所得税が徴収されており、その金額にあわせた仕訳を行う必要があります。

分配金が1万円発生し、1,531円の源泉所得税が徴収された残額が入金された場合、以下のような仕訳を行います。

(借方)普通預金 8,469    (貸方)受取配当金 10,000
    法人税等 1,531

なお、分配金の中でも特別分配金の場合、その金額は元本の払い戻しに相当します。

そのため、以下のような仕訳になることに注意しましょう。

(借方)普通預金 10,000   (貸方)投資有価証券 10,000

投資信託を時価評価する

決算期には、保有する投資信託を時価評価します。

この時、保有する投資信託の区分に応じて、会計処理が異なります

売買目的有価証券は、期末に発生した時価との差額を損益計上しなければなりません。

100万円で購入した投資信託が期末に110万円になった場合、以下のような仕訳処理を行います。

(借方)有価証券 100,000  (貸方)有価証券評価益 100,000

売買目的でない投資信託の場合は、時価との差額を損益計上しません。

時価との差額は「その他有価証券評価差額金」として、純資産の部に計上します。

100万円で購入した投資信託が期末に95万円になった場合、以下のような仕訳を行います。

(借方)その他有価証券評価差額金 50,000  (貸方)投資有価証券 50,000

投資信託を売却した時

投資有価証券を売却した場合、その売却価格と帳簿価額との差額で損益を計上します

帳簿価額100万円の投資信託を120万円で売却した場合、以下のような仕訳を行います。

(借方)普通預金 1,200,000  (貸方)投資有価証券 1,000,000
                    投資有価証券売却益 200,000

法人が投資信託に投資したときにかかる税金

法人が投資信託の分配金を受け取る、あるいは売却益が発生した場合には、法人税の計算対象となります。

発生した収益に対して、法人税が23.2%(中小法人で年800万円までの所得に対しては15%)が税額となります。

この他、地方法人税や自治体に納付する税額などを含めると、およそ35%程度の実効税率となります

なお、投資信託から発生する運用益に対して、消費税はかかりません。

法人が投資信託に投資した場合、税務上の注意点があります。

1つは受取配当金、もう1つは源泉徴収税額の処理についてです。

法人が受け取る投資有価証券の分配金の中に、「受取配当等の益金不算入」の対象になるものがあります

具体的には、外国株式指数連動型を除く特定株式投資信託がその対象となるものです。

受け取った分配金は、基本的に法人の利益となるものですが、そのうち20%は益金不算入として税金計算の対象になりません。

ただし、残りの80%相当額については、益金として税金計算の対象となるため注意しましょう。

また、受け取った分配金から源泉徴収された所得税は、所得税額控除の対象となります

所得税額控除とは、源泉徴収された所得税額を法人税の前払いとして、決算により発生した法人税額から控除することです。

投資信託の保有期間に応じて、控除額を計算しなければならない場合があるため、注意が必要です。

まとめ

法人の中には、資金が豊富にあるにもかかわらず、その運用方法に困っている法人があります。

そのような法人については、比較的安全に投資できる投資信託を購入することも選択肢となるでしょう。

ただし投資信託を購入しても、絶対に利益が出るとか、元本が保証されているというわけではありません。

リスクも付き物であることから、余裕資金の中で、本業に悪影響のない範囲内で行うようにしましょう。

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