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最終更新日:2023/6/29

資本準備金の取り崩しの仕訳例2つ【資本金・資本準備金・資本剰余金の違いと合わせて解説】

税理士 鳥川拓哉
この記事の執筆者 税理士 鳥川拓哉

ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。

PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-tori

この記事でわかること

  • 資本金と資本準備金、資本剰余金の違いを理解することができる
  • 資本準備金を増やしたり減らしたりする際に必要な手続きがわかる
  • 実際に資本準備金を取り崩すのはどのような場合か知ることができる
  • 資本準備金を積み立てることのメリットがわかる

資本準備金という名称で決算書に計上された金額があることをご存知の方もいるかと思います。

しかし、この資本準備金がどのような勘定科目であり、何のために計上されているのかまで理解している人は少ないかもしれません。

この記事では、資本準備金とはどのようなものであり、その金額を増減させるためにはどのような手続きが必要かを解説します。

また、資本準備金を積み立てるメリットについても確認しておきましょう。

【勘定科目での違い】資本金・資本準備金・資本剰余金とは?

資本準備金の金額は、会社の決算書においては貸借対照表の「純資産の部」に計上されます

この純資産とは、会社が獲得した資金で返済義務のないものを言い、おもに、出資者が会社に払い込んだ資金と、会社が税金を支払った後に残った利益からなります。

それぞれの性質に応じて、資本金、資本準備金、資本剰余金という名称がつけられていますが、どのような違いがあるのでしょうか。

これらの違いについて、確認しておきましょう。

資本金とは

資本金とは、会社の設立に際して株主となる者が会社に払い込んだ財産の額を言います。

資本金を計上するのは、一定以上の財産を会社が確保することで、会社に対して債権を有する者を保護するためです。

原則として、株主が会社に払い込んだすべての額が資本金となりますが、全額を資本金としなくてよいとする法律の規定があります。

また、会社の規模が大きくなっても資本金の額を増やす必要はありませんし、逆に規模の縮小にあわせて減らす必要もありません。

実際には、設立時に決めた資本金の額がそのまま決算書の資本金額になっているケースがほとんどです。

資本準備金とは

会社の設立時に出資者が払い込みをする場合、その払い込んだ額の半分までは資本金としなくてもこととされています。

出資者が払い込んだ金額のうち、資本金としなかった金額が資本準備金となります。

出資者が払い込んだ金額のうち、最大2分の1までの金額は、資本金とは分けて会社の将来のリスクに備えることができるのです。

資本金とは別に資本準備金としておくことのメリットについては、後ほどご紹介します。

資本剰余金とは

資本剰余金とは、資本準備金に資本取引から生じた剰余金額を加えた額のことです。

自己株式を処分した際の売却益や、資本が増加した際に資本金・資本準備金に含めなかった金額などがあります。

資本準備金を除く資本剰余金の額は、株主に対する配当の原資とすることができる金額です。

資本金や資本準備金の額は配当金の原資とはならないことから、この点では大きな違いがあります。

資本準備金を増減させるときの手続きについて

資本準備金の額は、増減させることができます。

ただし、株主に対する保護手続きが必要とされているため、いつでも自由に増減できるわけではありません。

そこで、資本準備金を増減させる場合の手続きの方法について確認しておきましょう。

資本準備金を増加させる場合

資本準備金を増加させるためには、次の2つの方法があります。

  • (1)資本金から資本準備金に組み入れる方法
  • (2)資本剰余金から資本準備金に組み入れる方法

このうち、(1)の資本金から資本準備金に組み入れる場合は、株主総会の特別決議が必要となります。

特別決議が成立するためには、議決権の過半数に及ぶ株主が株主総会に出席しなければなりません。

そのうえで、出席した株主の有する議決権の3分の2以上の賛成がなければ成立しないこととされています。

特別決議が要件とされているのは、会社の合併や解散、事業譲渡など、経営の根幹にかかわるような内容です。

資本金を減らして資本準備金とすることも、それくらい会社にとって重要な内容であると言えるのです。

また、資本金額が減少した場合、効力発生日から2週間以内に登記しなければなりません。

一方、(2)の資本剰余金から資本準備金に組み入れる場合は、株主総会の普通決議が必要です。

普通決議が成立するためには、議決権の過半数を有する株主が株主総会に出席しなければなりません。

そのうえで、出席した株主が有する議決権の過半数の賛成が必要とされます。

資本準備金を減少させる場合

資本準備金を減少させる場合も、増加させる場合と逆のパターンで次の2つの方法が考えられます。

  • (1)資本準備金から資本金に組み入れる方法
  • (2)資本準備金から資本剰余金に組み入れる方法

このいずれの方法による場合でも、株主総会の決議は普通決議でよいこととされています。

ただし、資本準備金の減少と同時に資本金の増額手続きを行う場合には、取締役会の決議で済む場合もあります。

また、債権者保護手続きが別に必要となる場合があることには注意が必要です。

債権者保護手続きとして、資本準備金の減少の内容や最新の貸借対照表などを、官報に公告しなければなりません。

あわせて、債権者が異議申し立てをすることができる旨も公告する必要があります。

公告から最低1か月の期間は異議申し立ての期間とされるため、この期間を経過しなければ次の手続きに進むことができません。

なお、減少した資本準備金の全額を資本金に組み入れるのであれば、債権者保護手続きは不要となります。

また、資本準備金の減少により資本金が増加した場合は、効力発生日から2週間以内に登記する必要があります。

資本準備金の取り崩しの事例2つ

上場企業の中にも、実際に資本準備金を取り崩す処理を行った会社はあります。

ここではそういった事例を元に、2つの振り替えた場合の仕訳例を紹介します。

資本準備金を繰越利益剰余金に振り替えた場合

繰越利益剰余金とは、会社が過去に獲得した利益額の累積に、当期中に発生した利益や損失を加減算した金額をいいます。

単に「繰越利益」と呼ばれることも多く、創立以来の利益の積み重ねとして広く認識されているのです。

また、株主配当を行う際には、この繰越利益剰余金を財源として配当を行うことが多く、多くの株主にも注目される金額です。

繰越利益剰余金は、会社創立以来コツコツと貯めてきた利益からなっています。

しかし、何十年もかけて蓄積してきた繰越利益剰余金が、たった1~2年の赤字により、一気にゼロになることがあります。

そればかりか、過去の繰越利益剰余金を上回る大幅な赤字が発生してしまう場合もあるのです。

しかし、繰越利益剰余金がマイナスになったまま株主や取引先に決算書を公開することは、非常にマイナスイメージを与えてしまいます。

そこで、繰越利益剰余金のマイナスを解消するために資本準備金を減少させることがあります。

ただ、資本準備金を減少させて繰越利益剰余金を増やすことはできないため、以下のような処理を行います。

  • (1)まずは資本準備金を資本剰余金に振り替えます。
    (借方)資本準備金 1,000,000 / (貸方)資本剰余金 1,000,000
  • (2)次に資本剰余金から繰越利益剰余金への振り替えを行います。
    (借方)資本剰余金 1,000,000 / (貸方)繰越利益剰余金 1,000,000

このようにして、マイナスとなっていた繰越利益剰余金をゼロとすることができるのです。

資本準備金と別途積立金を繰越利益剰余金の振り替えた場合

先ほど紹介したように、巨額な損失が生じると、繰越利益剰余金がたった1年でマイナスになってしまう場合があります。

この場合、マイナスとなった繰越利益剰余金を一度にはゼロにすることができなくても、そのマイナス幅を縮小することがあります。

また、繰越利益剰余金の額に振り替えることができるのは、資本準備金だけではありません。

もともと、繰越利益剰余金から積み立てられた別途積立金は、いざというときに繰越利益剰余金に戻すことができるのです。

そこで、巨額な損失が発生した場合に以下のような処理を行いました。

  • (1)資本準備金をすべて資本剰余金に振り替えます。
    (借方)資本準備金 5,000,000 / (貸方)資本剰余金 5,000,000
  • (2)資本剰余金と、別途積立金の残高を繰越利益剰余金に振り替えます。
    (借方)資本剰余金 5,000,000 / (貸方)繰越利益剰余金 5,000,000
        別途積立金 2,000,000 /     繰越利益剰余金 2,000,000

繰越利益剰余金の額を大幅に圧縮すれば、翌期の利益で一気にマイナスを解消できる可能性も出てくるのです。

会社の立て直しを行うためには、必要な処理といえます。

資本準備金を積み立てるメリットとは

最後に、資本準備金を積み立てることのメリットについて確認しておきましょう。

資本準備金として計上されている金額は、通常時は何も意味がないように思えますが、いざというときに大きな役割を果たすのです。

欠損填補を容易に行うことができる

会社が赤字になって、繰越利益剰余金の額がマイナスになると、そのマイナスを穴埋めすることは簡単ではありません。

一番会社にとってよいのは、収益改善を行って黒字化し、繰越利益剰余金のマイナスを解消することですが、時間がかかります。

一方、資本金を取り崩して欠損填補を行うには、株主総会の特別決議や債権者保護手続きなど、多くのハードルがあります。

しかし、資本準備金を取り崩して欠損填補を行う場合、株主総会は普通決議で済むため、手続きが容易になります。

資本金の増額がしやすくなる

資本金の増額をするためには、新たな出資を募る方法があります。

しかし、非上場会社では広く株主を募ることはできず、既存の株主の出資に頼らざるを得ません。

そこで、資本準備金として計上されている金額を資本金に組み入れる方法があります。

この方法をとれば、株主総会の普通決議だけで資本金の額を増やすことができ、手続き面の負担も少なく済みます。

金融機関の評価が高くなる

資本準備金の額は、会社にとっては返済する必要のない金額です、そのため、会社の財務体質の向上に役立つものとして、金融機関から高い信用を得ることができます。

金融機関からの評価が高まれば、融資を受けやすくなり、返済などの条件も有利になるのです。

節税効果が得られる

資本金の額が大きくなると、税金計算上不利になる規定がいくつかあります。

資本金の額が1,000万円以上になると、設立初年度から消費税を納税しなければなりません。

また、資本金の額が1億円を超えると、法人税の軽減税率が適用されなくなり、交際費の定額控除の適用もありません。

そのため、出資を受けた金額の半分については資本準備金とする方が、税負担を減らすことができる可能性が高くなるのです。

まとめ

資本準備金の額は、会社が何事もなく営業できている場合には、ほとんど意識することのない金額です。

しかし、金融機関から融資を受けたいときや、赤字になって繰越利益剰余金のマイナスを圧縮したいときなどに大きな効果を発揮します。

株主から受けた出資金額については、最大半分まで資本準備金とすることができます。

資本準備金としていても、資本金の額と同じように金融機関からの信用を得られるので、資本準備金に多く計上するようにしましょう。

この記事を、あらためて資本準備金の重要性について知るきっかけとしてください。

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