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【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第3回「給料計算の仕方(後編)」
この記事の執筆者 税理士 森健太郎
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
今回の労務編は「残業代」と「休日手当」についてお伝えしていきます。
ここ数年、「未払残業代」などが社会問題になっています。
ベンチャー企業や中小企業も他人事ではありません。
というか、逆に狙われている感じもあります。
ぜひ正しい知識を身につけておいてください!
まずはよくある誤解から。
「うちは残業代込みで○○万円だから」とか「役職が付いているから残業代はないよ」という考えを持っている社長さんがいらっしゃいます。
これ、非常に危険です。
労働基準監督署が来たら、完全にアウトです!
いくら約束で「残業代込み」としていても、労務上は残業代を支払ったことにならないのです。
また役職者で残業代を支払わなくても良いのは、次のような要件を満たす人だけです。
- 経営者と一体的な立場である
- その地位に見合った報酬を得ている
- 勤務時間に自由裁量がある
この3要件を満たして初めて「管理監督者」となります。
「経営者と一体的な立場」というのは、法的に決まりがあるわけではないのですが、だいたい次のような場合を指します。
- 正社員の採用などの人事権を持っている
- 給与が管理監督者に相応しい待遇がされている
- 企業全体の事業経営に関する重要事項に関与している
経営者が考える「役職者」と、労働基準監督署が考える「役職者」は違うということを知っておいてくださいね。
では残業代が発生するということをご理解いただいた次は、「残業代はどのように計算するのか」についてご説明します。
まず残業代は1日8時間以上労働をさせたときに発生します。
または「1週間で40時間」を超えた場合も残業代を支払わなくてはいけなくなります。
この「1日8時間」「1週40時間」という時間は「法定労働時間」と言われます。
この考え方で行くと、例えば月曜から土曜まで毎日7時間働けば、1日の労働時間は8時間以下ですが、1週間の合計労働時間が42時間となって、40時間を超えてしまいます。
よって42時間-40時間=2時間の残業代の支払いが発生するのです。
残業代は基本的には「時間給×1.25」を支払うことになります。
つまり25%の割増賃金を支払うことになるのです。
「時間給」というのは、「月給÷所定労働時間」で計算します。
要は月給を残業0の場合の労働時間で割り算して計算するということです。
この「月給」には「通勤手当」や「住宅手当」「家族手当」などは除きますが、「職務手当」や「精勤手当」などの名目のものは全て含まれてきます。
また実際には名目ではなく、実質によって取り扱われますので、名目だけ「家族手当」などのように変えても意味はありません。
このような仕組みで残業代は計算されますので、知らないうちにドンドン発生していることがあります。
頑張って働く従業員さんは会社の宝ですが、その反面、こういったリスクがあることも重々承知しておいてください。
また効率良く、残業が少なく仕事が廻るようにマネジメントすることも社長の重要な職務です。
ちなみに未払い残業代は2年間遡って請求することができます。
飲食業やシステム制作会社、ソフトウェア制作会社などの人を雇用して、かつ残業が多くなりがちなビジネスの人には特に重要です。
訴えられると屋台骨が傾くほどの金額になることがありますので、残業代対策はしっかりと行って下さい。
次は休日手当などの割増賃金についてお伝えします。
まずはどういった場合に割増賃金が発生するかを見てみましょう。
- 休日労働をした場合
- 深夜労働をした場合
- 休日労働でかつ、残業をした場合
- 休日労働でかつ、深夜労働をした場合
- 深夜労働でかつ、残業をした場合
つまり「休日」「深夜」「残業」の組み合わせで割増賃金を考える、ということなのです。
では一つずつ見ていきましょう。
まず「休日(休日労働をした場合)」の場合です。
そもそもですが、「休日」は労働基準法では「毎週少なくとも1回」与えなければいけないことになっています。
これを「法定休日」と言います。
「毎週1回」ですので、日曜である必要はありません。
よく世間である「土日完全週休二日制」は労働基準法の定めではなく、会社独自の決め事なのです。
この「法定休日」に出勤をした場合は割増賃金を支払わなければいけません。
割増率は「時間給×1.35」となります。
つまり35%増しです。
次は「深夜(深夜労働をした場合)」です。
深夜労働とは午後10時から午前5時までの間に働くことを言います。
この深夜労働をした場合は、「時間給×1.25」、つまり25%増しです。
ここまでは割増の要件が一つのときを見てきましたが、ここからは2つ以上の組み合わせを考えていきます。
まずは「休日」+「残業」の場合です。
この場合は「時間給×1.35」、つまり35%増しになります。
考え方は簡単です。
法定休日に残業をした場合は,残業手当が発生せず,休日手当しか発生しないものとされています。
ですので、休日手当の35%増しと同じなのです。
では「休日」+「深夜」はどうでしょうか?
この場合は「時間給×1.6」、60%の割増になります。
これは「休日」が35%増し、「深夜」が25%増しなので、合計して60%増しになるという考え方です。
「深夜」+「残業」の場合も同じ考え方で、「深夜」が25%増し、「残業」が25%増しなので、合計して「時間給×1.5」つまり50%増しになります。
では「休日労働」「残業」「深夜」の全てを兼ね備えてしまった場合はどうなるのでしょうか?
この場合、「休日」+「深夜」で「時間給×1.6」の60%割増の計算をするだけなのです。
「残業」が付かないのです。
先程もご説明しましたが、法定休日に時間外労働をした場合は,時間外手当が発生せず,休日手当しか発生しないものとされています。
つまり,法定休日に8時間を超えて労働したとしても,その8時間を超える部分についても35%増の割増しか付かないということです。
ですが法定休日に深夜労働した場合には,深夜手当も発生するとされています。
つまり,休日の午後10時以降に労働した場合には,休日手当の35パーセント割増と深夜手当の25パーセント割増との合算である60パーセント増の割増賃金が発生するということになります。
そのため,休日の深夜に時間外労働をした場合は,時間外手当は発生しないので,休日手当+深夜手当の60%増の割増賃金だけが発生するということになるのです。
今回は残業以外の割増賃金の規定について見てきました。
いろいろなケースがあるのですが、基本的には「残業」「深夜」「休日」の組み合わせで割増率が決定すると考えて下さい。
まとめますと
- 「残業」→25%増、「深夜」→25%増、「休日」→35%増
- 組み合わせた場合は合計するが、「休日」+「残業」は「残業」が付かない
今回は残業代や休日手当など、社長からすると出来れば避けて通りたい話をさせていただきました。
耳に痛い話ですが、知っておかないと大変な目に遭います。
目次
- 【税理士が作った経営者の教科書】 会計編 第1回「貸借対照表って何?」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 会計編 第2回「利益があるのにお金がない理由」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 会計編 第3回「キャッシュフローについて」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第1回「社会保険の基礎知識」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第2回「給料計算の仕方(前編)」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第3回「給料計算の仕方(後編)」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第4回「就業規則と36協定」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第5回「有給休暇・退職金」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第6回「従業員を採用したら・・」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 節税編 第1回「役員報酬・社宅」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 節税編 第2回「社用車・年払い」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 節税編 第3回「生命保険・小規模企業共済」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 税務調査編 「税務調査で見られるポイント」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 税務編 「経費になるもの、ならないもの」
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