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【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第5回「有給休暇・退職金」
この記事の執筆者 税理士 森健太郎
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
今回の労務編は「有給休暇」と「退職金」の2本立てでお伝えします。
まずは「有給休暇」から行きましょう。
有給休暇
有給休暇の制度はご存知ですね。
お給料はキチンと支払うけれど、ゆっくり休暇を取ってもらうという制度です。
経営者としては、ちょっと嬉しくないかもしれない制度ですが、実は「有給休暇」も労働基準法では義務なのです。
「うちの会社は起業したところだから、有給休暇の制度はまだないよ」というのは、法的にはアウトなのです。
まず基本的なところからですが、「どうなれば有給休暇が発生するか」についてから見ていきましょう。
有給休暇は
- 6ヶ月以上勤務している
- 全労働日の8割以上出勤している
この要件はパートやアルバイトの人にも適用されてしまいます。
たとえばアルバイトで働いていた人を正社員に登用した場合。
アルバイトのときに全労働日の8割以上出勤していたのであれば、通算して6ヶ月目の時点で有給休暇が発生してしまうのです。
次は「何日有給を取ることができるか」についてです。
入社後6ヶ月間継続して勤務し、かつ全労働日の8割以上出勤した人には「年間10日」の有給が発生します。
その後1年を経過したとき、つまり入社から1年6ヶ月後にはさらに追加で11日。
さらにその1年後、つまり入社してから2年6ヶ月後には追加で12日が与えられます。
3年経過以後からは2日ずつ増え、3年で14日、4年で16日、5年で18日、6年で20日になります。
それ以降はずっと20日のままです。
有給休暇を取る権利は、権利が発生した日から2年間有効です。
2年間までは使っていない有給を繰越ができますが、2年以内に使わないと、時効により消滅します。
有給休暇は原則的には、従業員さんが取りたい日に自由に取ることができるのですが、会社から計画的に有給を取る日を指定することもできます。
この制度は「計画年休」と呼ばれます。
計画年休を導入するためには、労使協定が必要です。
労使協定で休暇日とされた日については、従業員さんがその日に休暇を取る意思のあるなしにかかわらず年休日とされます。
ただし、労働者が自由に指定できる休暇日数として最低5日は残しておかなければなりません。
最後に「有給の買い上げ」についてお伝えします。
「業務が忙しいので有給は会社が買い上げる」という「有給買い上げ」は法的にはアウトです。
ですが、退職する人が残った有給を買い取ってもらうのは法的には認められています。
会社にとっては義務ではありませんので、買取りをしないことも可能です。
ここまでは「有給休暇」について考えてきました。
さてここからは話を変えて「退職金」について考えていきましょう!
退職金
退職金という言葉自体はよく耳にするかと思います。
ですが、この「退職金」、法的には絶対支払わなければいけないものなのでしょうか?
または問題を起こした社員にも支払わなければいけないものなのでしょうか?
国が補助をしてくれる制度があるのはご存知でしょうか?
今日はこういったテーマで進めていきたいと思います。
まず退職金は労働基準法ではどのように規定されているかを考えてみます。
実は退職金については労働基準法では特別な定めはないのです。
退職金は社長の裁量に委ねられることになります。
つまり出すも出さないも社長の気持ち次第、ということなのです。
ですが就業規則に定めた場合は別です。
就業規則に退職金を支給する旨の記載があるのに支給しなかった場合は、労働基準法の賃金を支払わなかったのと同じで問題になります。
この点は知っておいて下さい。
では円満退社以外の人にも支給をしないといけないのでしょうか?
就業規則に退職事由に応じて退職金を減額する旨の規定を載せておくことがよくあります。
例えば「会社の承諾なしに退職した者には支給しない」「退職後6ヶ月以内に同業他社へ転職する場合には支給しない」といった感じです。
ですが、実は就業規則に減額の規定を載せていても、実際に裁判になると負ける事例も出ています。
ケースバイケースですが、減額をするのも難しいようです。
このような退職金ですが、やはり金額も大きくなりますので一時に支払うことができるかどうか不安もあると思います。
そこで政府が中小企業の従業員のための退職金制度を用意しています。
「中小企業退職金共済(中退共)」と言います。
この制度は会社が従業員一人毎に月額の掛金を決定し、従業員の退職時に積み立てていたお金が戻ってくるという制度です。
積立をしたお金は利回りが確定しています。
いわゆる「確定拠出型年金」と言われるタイプのものです。
ですので将来に受け取る金額は基本的には減りません。(制度上は利回りの改訂を想定してます)
こう考えると銀行の積立貯金と同じように聞こえますが、メリットがあります。
まず「掛金が経費になる」ということです。
銀行への積立はもちろん経費になりません。
それに対して中退共の掛金は経費になります。
また掛金は月額5000円から最高3万円までで、1年間の間は国が半額を負担してくれます。(上限は5000円)
この2点は銀行積立と比較するとメリットがある点です。
特にデメリットがあるわけではありませんが、いくつか注意点はあります。
まず掛金を減らしたいと思ったときは、本人の同意が必要となります。
社長が一人で減額を決定することができないのです。
また中退共に加入してすぐに従業員さんが退職をしてしまうと、場合によっては掛金が戻らないことがあります。
- 掛金の納付期間が1年未満のときは中退共からの給付はゼロ
- 1年以上2年未満のときは掛金の総額を下回る給付
- 2年以上3年6カ月までは掛金総額と同額の給付
この3点は注意をしておいてください。
中退共は、社員さんの転職先が中退共に加入している場合は、必要な要件を満たしていれば、前の企業での掛金納付実績をそのまま新しい契約に通算することもできます。
もしずっと一緒に仕事をしてくれる従業員さんがいらっしゃるのであれば、中退共を検討するのも一つかと思います。
今回は従業員さんの退職金だけしか話をしておりませんが、社長自身の退職金は節税上大きなメリットがあります。
目次
- 【税理士が作った経営者の教科書】 会計編 第1回「貸借対照表って何?」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 会計編 第2回「利益があるのにお金がない理由」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 会計編 第3回「キャッシュフローについて」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第1回「社会保険の基礎知識」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第2回「給料計算の仕方(前編)」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第3回「給料計算の仕方(後編)」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第4回「就業規則と36協定」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第5回「有給休暇・退職金」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 労務編 第6回「従業員を採用したら・・」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 節税編 第1回「役員報酬・社宅」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 節税編 第2回「社用車・年払い」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 節税編 第3回「生命保険・小規模企業共済」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 税務調査編 「税務調査で見られるポイント」
- 【税理士が作った経営者の教科書】 税務編 「経費になるもの、ならないもの」
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