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会社設立のメリット・デメリットを知ろう【起業の世界Vol.9】
この記事の執筆者 税理士 森健太郎
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
会社を設立する際の3つのポイント
ポイント① 事業資金
事業を起こす際に、まず必要になってくるものは何でしょうか?それは資金です。
どれほど素晴らしいアイデアがあって、人材が豊富に揃っていても、資金がなければ、その事業を動かすことはできません。
その際、法人組織であれば、銀行の融資や共同経営者からの出資を受けやすいというメリットがあります。すべての事業資金を自分で用意することはとても難しいもの。法人化して、資金を集めやすい体制をつくっておきましょう。
ポイント② 事業の拡大
「売上げ規模をもっと大きくしたい」「行っている事業の認知度を高めたい」といった願望は、個人事業主やこれから起業を考えている方の多くが想定することだと思います。
公務員や会社勤めにはないリスクもありますが、自分自身でビジネスを始めるわけですから、成功と大きな発展を想定して動きたいものです。
そう考えるのであれば、融資や税金の面で個人事業主よりもメリットが大きく、事業を拡大しやすい法人形態をとるべきです。そして、より大きなビジネスに発展させていきましょう。
ポイント③ 事業に関して許認可が必要
許認可の関係で、必ず会社を設立しなければならないケースがあります。一例をあげれば、福祉関係のデイサービス事業。この事業を行いたい場合、都道府県の介護事業者の指定申請を取らなければなりません。
そして、その必須条件として、法人組織であることが求められています。つまりは、株式会社などの法人でなければ、デイサービス事業は行えないということです。そのうえで、事業の開始について行政(都道府県)に交渉し、許可が降りてから事業スタートとなります。
個人事業主と法人ではこれだけ違う!
個人事業主 | 法人 | |
---|---|---|
設立の仕方 | 登記不要 | 定款作成と登記が必要。費用は20万円程度 |
事業年度 | 1月から12月の暦年 | 自由に選べる |
代表者の扱い | 自分の給与は経費にならない | 代表取締役となって会社から給与(役員報酬)を受け取ることができる |
対外的信用 | 法人でなければ取引に応じてもらえないこともある | 個人事業主よりも対外的信用度が高く、企業イメージも良い。優秀な人材を確保しやすい |
赤字の繰越控除 | 赤字の金額は翌年以後、3年間の黒字金額から差し引くことができる(青色申告の場合) | 赤字の金額は翌事業年度以後9年間の黒字金額から差し引くことができる |
交際費の取扱い | 業務の遂行上必要と認められるものについては経費計上が可能 | 期末資本金1億円以下の法人は、年間800万円までについては原則損金算入可能 |
社会保険への加入 | 原則として5名までは社会保険の加入は自由 | 社長1人の会社でも社会保険に加入しなければいけ ない |
会社設立5つのメリット
ポイント① 信用力が高まる
個人事業主と比較して、株式会社や合同会社などの法人形態は、社会的信用がかなり高いといえるでしょう。
会社法が改正された2006年より資本金が1円でも株式会社を設立できるようになりましたが、それ以前は自己資本が最低でも1,000万円なければ、株式会社を設立できませんでした。
これだけの大金を事業開始前に自己資金として用意することはとても難しく、それだけで周囲からは「簡単にはつぶれない会社」と見なされ、大きな社会的信用を得られたのです。
前述した通り、このルールは撤廃されましたが、現在でも、「株式会社は信用できる」と考えている方は少なくありません。事務所を借りる場合や、一般消費者向けに事業を行う場合には、法人であることは有利に働きます。
ポイント② 決算日を自由に設定
毎年の決算日の点においても、法人のほうが有利です。
個人事業主の場合、課税と決算は必ず暦年によって行われるため、年末年始や年度末など多忙を極める期間に、決算作業や納税に関する作業を行わなければなりません。
しかし、法人の場合は異なります。個人事業主とは違い、定款によって決算期を自由に決められるのです。決算期を自由できるメリットは大きく分けて2つあります。
ひとつは、業務が多忙になる繁忙期を避けて決算期を設定できること。多くの個人事業主のように、年末年始に忙殺されることがなくなります。
もうひとつは、利益が出る季節に決算することで納税を先延ばし、課税額を調整できます。また、定款の変更と税務署への届け出によって、決算期を変更することも可能です。
ポイント③ 事業継承がスムーズに
個人事業はその名の通り、あくまで個人が事業の主体です。そのため事業を継承するためには、資産を個別に譲渡し、従業員に関しても再度雇用契約を結ばなければなりません。簡単に言うと、個人事業の継承は、手間がかかるのです。
しかし、法人はこの点がスムーズです。たとえ役員や株主に変更が出たとしても、会社そのものは存続していきます。法人は半永久的に続くことを前提としているからです。また、株券の譲渡によって法人の所有権が遷移され、事業の継承が滑らかに進んでいきます。
さらには、承継の形式にも違いがあります。
個人事業主が事業を継承する場合には個別でしか引き継げません。しかし、法人が事業を引き継ぐ会社分割の場合、吸収分割や新設分割などの包括承継と、営業譲渡などの個別承継の形式を選ぶことができます。
ポイント④ 差し押さえのリスクが低下
あまり想定したくはありませんが、金銭的な面で苦境に陥ったとしましょう。こうした局面においても、法人はリスクヘッジできます。
法人と個人は別人格として捉えられるため、法人が税金を滞納したとしても社長の個人資産が差し押さえられることはありません。また、銀行からの借入金の返済が滞った場合も同様です。
ただし、中小企業が銀行から融資を受ける際は多くの場合、代表者の連帯保証が条件付けされるため、注意してください。
ポイント⑤ 資金調達が有利になる
銀行からの資金の借り入れについても、法人は多くの場合、有利になります。
法人格の事業の主体は個人ではなく法人となり、また、役員や株主を変更しながら半永久的に事業を行うことを前提としているため、銀行から資金調達を受ける際に、個人事業と比較すれば大きな金額の融資を受けることが可能になります。また融資が通る確率も個人より高めになります。
また、資本金の額が大きければ、銀行からの評価も高くなり、有利な条件で融資を受けられるメリットもあります。
さらには共同経営者が途中で脱退する場合にも、その出資額を株式の譲渡によって回収できるため、大きな痛手とはなりません。これは何人いても同じ条件です。
会社設立税金・節税の5つのメリット
具体的な点はこのあとの項目で説明していきますが、節税・税金対策という点においては個人事業主よりも、法人のほうが圧倒的に有利です。
特に利益が大きくなればなるほど、それに乗じて課税の負担が増していきます。だからこそ法人格の企業を設立して上手な節税を行うことが、優秀な経営者の手腕の見せどころといえるでしょう。
では、なぜ、個人事業主と法人で税金の負担にこれほどの差があるのか?その点から説明していきましょう。ポイントは所得税に対する概念の違いです。
個人事業主は事業を行って得た所得を所得税として支払わなければいけません。しかし法人の場合、法人が生み出した利益に対しては法人税が課せられ、社長個人が得た給与所得に対しては所得税が課せられます。
これだけを考えると、「税金が二重に課せられて負担が大きくなるのでは?」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。税金は基本的に所得が小さい人ほど少なくなります。同じ1,000万円の所得があった場合、個人事業主は1人で1,000万円の所得税が課せられますが、法人は会社と社長個人で500万円ずつといったように所得を分配できるため、課税が少なくなるという仕組みです。
また法人の場合、設立から最初の2年間は消費税の納付義務を免除してもらえるというメリットもあります。
ただし、設立時に資本金を1,000万円以上に設定したケースなどは、この免除を受けることができないため注意が必要です。
ポイント① 給与所得控除を利用しよう
法人化の税金におけるメリットのひとつが、給与所得控除です。
法人化した場合、代表者である社長自身に給与を支払うことができ、これを経費で計上しても問題ないため節税できるのです。
その場合、給与から給与所得控除を差し引いた額に所得税が発生するため、その分、節税につながるという仕組みです。
ポイント② 家族に給与を支払って節税を行う
個人事業主が家族を従業員として雇う場合、事前に税務署に申請しなければなりませんが、法人はその必要がありません。
また、所得税は金額が上がるほど増える仕組みになっていて、負担が大きくなります。
そのため、家族をパートタイマーなどで雇って給与を支払えば、世帯収入に対して、税率と税金額が下がるというメリットを享受できます。
ポイント③ 配偶者控除と扶養控除
メリット②ともつながってきますが、家族に支払う年間の給与額が103万円以下であれば、一般的にはそれぞれ38万円の配偶者控除と扶養控除が適用されます。
メリット②の通り、扶養家族に給与を支払った場合はかなりの減税となります。さらに、社長自身に配偶者控除と扶養控除を発生させれば、所得税の減税にもつながっていくのです。
ちなみに個人事業主は、この配偶者控除と扶養控除を利用できないため、節税という意味では非常に不利です。
ポイント④ 退職金がもらえる
退職金は勤続年数20年以下の場合、40万円×勤続年数以内であれば、課税は一切されません。
また、勤続20年を超える場合は、800万円+70万円×(勤続年数-20年)以内なら、課税されない仕組みとなっています。
ポイント⑤ 創業後間もなくでも使える助成金2種
事業をスタートさせて間もないうちでも行政で利用できる助成金があります。
もちろん手続きや審査が必要ですが、国や都道府県から“事業のためにタダで支給されるお金”なので、資金繰りが順調に進んでいたとしても、積極的に利用することをお勧めします。
ここでは2つの助成金を紹介していきましょう。
①創業促進補助金
政府の支援のもとに電通が運営している補助金で、新規で事業を立ち上げた企業を対象としています。
公募の期間は例年、春から初夏です。
資金用途として申請した出費の3分の2の金額が上限となり、外部資金調達がない場合は50~100万円以内、外部資金調達がある場合は50~200万円以内という枠が定められています。
また、新規開拓業者以外でも利用できる場合があるので、検討の余地はあります。
②小規模事業者持続型補助金
経済産業省が実施する、全国各地の商工会議所の管轄地域で経営している小規模事業者向けの補助金です。
ちなみに小規模事業とは従業員数が20名以下、サービス業や小売業、卸売業については5名以下の企業を指します。
ただし、申請には「経営計画書」や「補助事業計画書」、「事業支援計画書」「事業承継診断票」といった複雑な書類が必要なため、税理士などのアドバイスを受けましょう。
また、支給額は原則50万円が上限。補助率として、出費の3分の2の金額が支給される仕組みです。
個人事業主と法人を徹底比較!
税制面では法人が圧倒的に有利!
今後の参考のために、ここでは年間所得の金額別に、法人と個人事業主の税額を比較してみました。税制面、節税という意味では、やはり法人が圧倒的に有利です。
年間所得(売上-経費)が600万円の場合
個人の場合 | |
---|---|
所得税 | 約43万円 |
住民税 | 約43万円 |
事業税 | 約16万円 |
合計 | 約101万円 |
法人の場合 | |
---|---|
法人税等 | 約7万円 |
所得税(2人分) | 約19万円 |
住民税(2人分) | 約37万円 |
合計 | 約62万円 |
年間所得(売上-経費)が1,000万円の場合
個人の場合 | |
---|---|
所得税 | 約118万円 |
住民税 | 約78万円 |
事業税 | 約36万円 |
合計 | 約232万円 |
法人の場合 | |
---|---|
法人税等 | 約7万円 |
所得税(2人分) | 約36万円 |
住民税(2人分) | 約65万円 |
合計 | 約108万円 |
年間所得(売上-経費)が1,500万円の場合
個人の場合 | |
---|---|
所得税 | 約274万円 |
住民税 | 約128万円 |
事業税 | 約61万円 |
合計 | 約463万円 |
法人の場合 | |
---|---|
法人税等 | 約7万円 |
所得税(2人分) | 約81万円 |
住民税(2人分) | 約104万円 |
合計 | 約192万円 |
年間所得(売上-経費)が2,000万円の場合
個人の場合 | |
---|---|
所得税 | 約443万円 |
住民税 | 約178万円 |
事業税 | 約86万円 |
合計 | 約706万円 |
法人の場合 | |
---|---|
法人税等 | 約7万円 |
所得税(2人分) | 約163万円 |
住民税(2人分) | 約144万円 |
合計 | 約314万円 |
ベンチャーサポート税理士法人
「個人法人税金比較シュミレーション」
起業家の皆さんを支援する「ベンチャーサポート税理士法人」では、法人にした場合の節税の具体的な金額を把握できるシミュレーションページをHP上で展開しています。ぜひ、試してみてください。
「個人法人税金比較シュミレーション」
①金額を入力する
①まずは1年間の課税所得金額を入力します。わからない場合には、金額入力枠の下に課税所得金額の確認ができるページのリンクを貼っていますので、利用してみてください。
②続いて、「代表者以外で役員報酬を支給する親族の人数」を入力します。 “代表者以外”なので、社長と妻であれば「1」、社長と妻と子どもであれば「2」と入力してください。
③STEP1の「1年間の課税所得金額」、 STEP2の「代表者以外で役員報酬を支給する親族の人数」を入力し終えたら、こちらの「シミュレーションする」をクリックしてください。
②計算結果が表示される
「シミュレーションする」をクリックすると、個人事業主と法人それぞれの場合の税額の合計が弾き出されます。1年間の課税所得金額が高ければ高いほど、代表者以外で役員報酬を支給する人数が多ければ多いほど、法人化の節税のメリットが増します。
会社設立にはこんなデメリットも……。
社会的信用や収益の大きさ、節税面での優位性など、法人化のメリットは非常にたくさんあります。しかし、いいことばかりではないのも事実です。会社を設立することで伴うデメリットにも目を向けなければいけません。
設立費用が発生
個人事業の場合、特に込み入った手続きを行うことなく、すぐにでも着手したい事業をスタートできます。
しかし、法人化の場合はそうはいきません。その筆頭が設立登記。株式会社設立にはおよそ25万円の費用が発生し、それを公証役場や法務局などに支払わなければなりません。さらには書類も複雑で、それらを専門家に発注した場合には代行手数料が発生し、頭を悩ませることになります。
社会保険を負担しなければならない
法人化した場合、役員報酬はもちろんのこと、自身への役員報酬まで含めて社会保険に加入しなければなりません。
社会保険は事業主と従業員が折半する仕組みになっていて、事業主は自身の給与のおよそ12%を負担します。利益があまりあがっていない内はかなりの負担です。また、設立費用同様、専門家(※この場合は社会保険労務士)へ業務を委託した場合には、その代行手数料も発生します。
会社のお金を自由に使えない
法人と個人事業主では、“納税後に残った金額”に対する取扱いが違います。個人事業主の場合は、そのお金を自由に扱えますが、法人の場合は社長のお金ではなく会社の所有となるため、自由にはできないのです。
また、こうしたリスクを避けるため、そもそも役員報酬を高めに設定したとしても、そこには所得税などが発生する関係で、手取りでは思うような金額を得られないことがほとんどです。
税金が増える可能性も
個人の所得税は、所得が増えれば増えるほど高くなる仕組みですが、法人税は一定です。そのため、利益が小さいうちは税負担が増すことになり、法人化の節税メリットを享受できません。
事務負担が増える
法人の決算と法人税等の確定申告は仕組みが複雑なため、多くの企業がかなりの手数料を支払って専門家に依頼しています。比較的簡易なシステムである個人の確定申告とは異なり、負担のひとつとなりがちです。
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