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消費税の免税期間を考えて何月決算が一番得?
この記事の執筆者 税理士 森健太郎
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
▼目次
消費税の納税義務が生じるタイミングで個人事業主から法人成りを検討する事業者の方も多いと思います。
法人成りした場合、1期目と2期目の事業年度では消費税を免税としてもらうことができるためです(これを「消費税の免税期間」と呼ぶことがあります)。
会社の決算月を決めるときには、この消費税の免税期間を考慮しておくのが適切です。
今回は、会社の決算月が消費税の免税期間に与える影響について具体的に解説させていただきます。
設立から2期の事業年度は消費税が免除される
会社設立後、最初の事業年度と次の事業年度については、要件を満たせば消費税の納税が免除されます。
1期目の納税義務の免除要件は、資本金が1000万円未満であること、かつ、基準期間における課税売上高が5億円を超える法人が50%超を出資して設立した法人(大企業の子会社)ではないことです。
ここでの資本金とは、その名のとおり純粋な資本金として登記されている金額を意味し、貸借対照表に記載されている貸付金や資本準備金の額ではありません。
2期目は、事業年度の開始日の時点で資本金が1000万円未満であること、かつ、大企業の子会社ではないことに加え、次のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 1.特定期間の課税売上高が1000万円を超えない
- 2.特定期間の給与支払額が1000万円を超えない
ここでの特定期間とは、原則として、1期目の事業年度開始日から6か月の期間のことです。
ただ、事業年度の期間が1年未満の場合、特定期間の判定にいくつかの例外が発生します。
詳細は国税庁のサイトに記載がありますので、参考にしてください。
参考:国税庁ホームページ「特定期間の判定」
この期間の課税売上が1000万円を超えない、または、給与支払額が1000万円を超えなければ、2期目も消費税について免税事業者となります。
なお、1期目の事業年度が7か月以下の場合には、売上額や給与支払額にかかわらず、自動的に免税事業者となります。
この給与支払額が1000万円を超えないという要件は、意外と見落とされがちです。
特定期間の売上高が1000万円を超えており、税務署から中間申告書が届いたので、消費税の課税事業者だと思って納税したところ、特定期間の給与支払額が1,000万円を超えていないことに後で気付いたというようなケースが想定されます。
この場合、本来なら消費税を支払う必要がなかったわけですが、納税後の取消は認められず、納付した税金は返還してもらえません。
これは、売上高が1,000万円超えとして課税事業者となるか、給与支払額が1,000万円を超えない免税事業者となるかは、会社の選択に委ねられているため、消費税の納税は適法になされたものとみなされるためです。
また、上記のケースでは、税務署から送られてきた中間申告書によって、余計に勘違いしやすい状況になっているわけですが、前事業年度の税務申告後に、「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」を提出しておけば、中間申告書は送られてきません。
免税のためとは言え、売上高を低く抑えるというのは、会社という営利を目的とする組織の性質とは相反しますので、積極的に取り組むべきものではありません。
一方、給与支払額を低くするのは、免税のため十分検討に値します。
注目すべきは、給与支払額であって給与発生額ではないという点です。
既に発生している給与であっても、実際に支払わなければ計算に入れる必要はありません。
また、給与の総額を増やさないよう、従業員の雇用を控えたり、必要に応じてアウトソーシングを利用したりするなどの方法も検討しましょう。
設立から2期の事業年度は消費税が免除される
消費税の免税期間を考えた場合、会社の決算月は「1期目と2期目の事業年度が少しでも長くなるように決める」というのが基本になります。
事業年度は1年間なんだから、事業年度が長くなったり短くなったりするようなことはないのでは?と思われた方もひょっとしたら多いかもしれませんが、実はそうではありません。
1期目の事業年度というのは、「法人設立の日~最初の決算日」のことをいうのですが、これは必ずしも1年間(つまり365日間)とは限らないのです。
法人設立の日というのは法務局に対して設立登記申請書を提出した日です。
もし3月31日を決算日にしたい場合に、3月20日に設立登記申請書を提出してしまったりすると1期目の事業年度はたったの12日間(3月20日~3月31日)ということになってしまうわけです。
これでは本来は24ヶ月間の間免税期間を利用できるはずなのに、1期目の12日間と、2期目の12ヶ月間の間しか消費税の免税期間が利用できないことになり、損をしてしまいます。
決算月は「会社を設立する月の前月」にするのが基本
それではどうするのが適切か?ですが、「決算月は会社を設立する月の前月にする」と考えておけばもっともお得であることが多いです。
例えば、3月決算にしたいのであれば、4月を設立月にする(つまり4月に設立登記申請書を提出する)ようにします。
こうしておくと、単純に1期目と2期目の合計日数が長くなりますから、消費税の免税期間をもっとも長く設定できるというわけです(事業年度は1年間を超えては設定できないので)
決算月は後から変更することも可能
設立時に決めた決算月は、後から変更することも可能です。
実際に事業をスタートしてみると、売上が上がる月とそうでない月に大きな差がある…という形になることは少なくありません(季節変動によって売上高が影響を受けやすい事業の場合)
法人化すると色々な形で節税対策を行うことができるようになりますから、事業年度の最初の方に売上高が多く上がる月をもってくることができれば、その事業年度の利益額を予想しやすくなり、節税対策もやりやすくなります。
決算月は登記事項には含まれませんから、決算月の変更は株主総会を通して定款を変更し、税務署に届出を出すだけで完了することができます。
法務局に支払う登録免許税を負担する必要がありませんから、コストをかけることなく変更手続きを行うことが可能です。
会社の設立を行ってから事業年度を変更した方が良いかも…となった場合には顧問税理士に相談してみることをおすすめします。
1期目の事業年度売上が少なくなるように設定すると良い場合も
月によって売上高に大幅な違いがあることが予想される場合、1期目の事業年度に上がる売上高を少なくなるように決算月を定めるのもメリットがある場合があります。
というのも設立してから3期目以降は「2事業年度前の売上高が1000万円を超えるか?」で消費税の課税、免税を判断することになるからです。
具体的には、設立から3期目の消費税の課税、免税は、1期目の売上高が1000万円を超えるかどうかで判断することになります。
たとえば「12月は大幅な売上増加が見込める」というような場合には、1期目の事業年度に12月が含まれるのを避けておくと、1期目の売上高が1000万円を超えず、3期目も免税となれる可能性があるのです。
年間を通した売上高が1000万円前後である事業者の方は、売上が多く上がる月を最初の事業年度から外すことも検討してみると良いでしょう。
ただ、ここで注意しなければいけない点が2つあります。
1つは、売上高の計算に関して、1期目が1年未満の場合には、1年に換算し直す必要があるという点です。
例えば、1期目の事業年度が4月1から12月末日までの9か月で、その間の売上高が900万円だったとします。
こういう場合、3期目の消費税につき、課税か免税かを判断するには、次のような計算が必要です。
900万円÷9か月×12か月=1200万円
1期目の実際の売上高は900万円ですが、1年換算すると1200万円となるため、3期目は消費税について課税が必要となります。
なお、1期目の事業年度の期間に1か月未満の端数が出る場合は、切り上げて計算します。
例えば、1期目の事業年度が4月12日から12月31日までであれば、4月から12月までの9か月と考えます。
もう1つの注意点は、特定期間の課税売上高及び給与支払額による判定は、3期目以降についても適用されるというものです。
つまり、3期目も消費税が免除されるためには、1期目の課税売上高が1000万円を超えていないだけではなく、2期目の前半6か月の売上高もしくは給与支払額が1000万円を超えていないという点もクリアする必要があります。
消費税の還付
事業者は消費税を受け取りますが、当然、支払うこともあります。
消費税は、事業者が受け取った消費税から支払った消費税を控除した金額について納税することになります。
もし、受け取った消費税より支払った消費税が多い場合には、その差額を還付してもらうことができます。
したがって、消費税の節税対策としては、免税事業者になる他にも、還付を受けるという方法もあります。
還付を受けられるのかどうかをしっかりと計算して、有利な方を選択するようにしてください。
なお、消費税の納税額を計算する方法には、原則課税と簡易課税の2種類ありますが、還付を受けることができるのは、原則課税で計算した場合だけですので、注意が必要です。
「月の1日」を設立日にするのは避ける
なお、設立日は月の1日(例えば4月1日)を避けるのが一般的です。
なぜかというと、1日にしてしまうと、法人地方税の均等割が最初の月から課税されてしまい、損をするためです。
法人地方税の均等割というのは、会社が黒字であっても赤字であっても負担しなくてはならない税金(税額は年間7万円なので、1ヶ月にすると7万円÷12ヶ月=5833円)で、納税義務は「毎月1日にその地域に事業所があるかどうか?」で判断されるのです。
ですから、例えば3月決算の会社を設立するとして、4月1日を設立日にすると4月~翌年3月までの12ヶ月分の法人住民税の均等割を負担しなくてはなりませんが、4月2日を設立日にしておくと4月分の税金は発生しないので5月~翌年3月の11ヶ月分だけを負担すれば良いことになり、1ヶ月分(5833円)だけ得をするというわけです。
まとめ
以上、消費税の免税期間から会社の決算月を決める考え方について解説させていただきました。
法人の決算日や設立日をいつにするかによって、税金の負担が微妙に変わってくることがあります。
事業をスタートした当初はこうした細かなコストについてもしっかりと把握しておくのは大切ですから、実際に設立手続きを行う時には専門家のアドバイスを受けるようにするのが安心です。
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