「うちは大金持ちじゃないから、税務署なんて来ないだろう」 もしそう思っているなら、その認識は、もしかすると将来のリスクになるかもしれません。
2026年2月現在、国税庁の調査方針は大きく変化しています。最新の統計(2024事務年度)によると、相続税の追徴税額は過去最高の962億円を記録しました。
かつてのような、調査官が自宅を訪れる「実地調査」だけではありません。今、増えているのは、ある日ポストに届く一通の手紙や電話による「簡易な接触」です。その数は、なんとコロナ禍前の約2倍に達しています。
なぜ、実地調査を行わなくても、申告漏れを効率的に指摘できるようになったのでしょうか?その背景には、国税庁が進める「AI(人工知能)」と「データ分析」の活用があります。
本記事では、国税庁が公表した以下の統計データを基に、デジタル時代の税務調査の実態と、私たちが備えておくべき対策について解説します。
目次
【ニュース】相続税の追徴税額が過去最高!2024事務年度のデータ
結論から申し上げますと、「相続税の申告漏れ指摘」は、過去もっとも強化されている状況といえます。
国税庁が発表した2024事務年度(2024年7月〜2025年6月)の統計によると、税務調査等による追徴税額の合計は962億円に達しました。これは、現在の統計方式(簡易な接触の公表開始)となった2016年度以降で、過去最高額です。
なぜこれほどまでに追徴額が増えているのか?その背景にある「2つの重要なデータ」を見ていきましょう。
追徴総額962億円の内訳
今回の過去最高額を牽引したのは、従来型の「実地調査」と、新しい手法である「簡易な接触」の両輪です。
- 実地調査(家に来る調査):824億円(前年比12.2%増)
- 簡易な接触(書面・電話):138億円(前年比13.3%増)
特に注目すべきは、調査件数です。実地調査の件数は9,512件ですが、書面や電話で行う「簡易な接触」は21,969件にも上ります。
つまり、「実地調査」の2倍以上の頻度で、「手紙や電話による確認」が行われているのです。
「10人に1人が課税対象」大相続時代の現実
「資産家ではないから関係ない」と思われている方も多いかもしれません。しかし、現実は少し異なります。
2024年分のデータによると、亡くなった人のうち相続税の課税対象となった人の割合(課税割合)は10.4%でした。これはデータが残る1967年以降で初めて1割を超えた数字です。
株高や不動産価格の上昇により、一般的なご家庭でも基礎控除額(3,000万円+600万円×相続人の数)を超えてしまうケースが増えています。
「うっかり準備を怠っていた」という層が、この追徴課税の対象に含まれてしまっているのが現状です。
【理由】なぜ「簡易な接触」がコロナ前の2倍に増えたのか?
これまでの税務調査といえば、調査官が自宅に来て書類を確認する「実地調査」が主流でした。
しかし、2024事務年度のデータは、その傾向が変わったことを示しています。書面や電話で申告漏れを指摘する「簡易な接触」が21,569件と、コロナ禍前の2018年度(10,332件)と比較して約2倍の規模に拡大しているのです。
なぜ、ここまで「簡易な接触」が増えたのでしょうか?理由は大きく2つあります。
調査の「効率化」が進んだ
国税当局は現在、限られた人員で最大限の成果を出すために「効率化」を徹底しています。
- 実地調査:悪質で大口の隠蔽が疑われる事案に絞って、徹底的に行う。
- 簡易な接触:計算ミスや単純な申告漏れは、データ分析で抽出し、書面等で効率的に是正を促す。
この「使い分け」が定着しました。かつては実地調査に行かなければ見逃されていたような「うっかりミス」や「少額の申告漏れ」も、現在は「簡易な接触」によって、広く拾い上げられるようになったのです。
データ分析による精度の向上
「簡易な接触」が増えた要因の一つに、「データ分析の精度向上」があります。
税務署は、銀行の預金データ、不動産登記、過去の所得税申告データなどを統合した「KSK(国税総合管理)システム」を運用しています。これにより、「この収入規模なら、これくらいの預金があるはずだ」という予測と、実際の申告内容とのズレを、あらかじめ把握しやすくなっています。
【実態】AI時代の調査と「現金・預金」のゆくえ
「現金で持っていれば分からない」「家族名義の口座に移しておけば大丈夫」
そう思われる方もいらっしゃいますが、実はこれこそが、現在の税務調査で最も確認されるポイントです。
ターゲットは「現金・預貯金」
最新の申告事績によると、相続財産の中で最も多くの割合を占めるのが「現金・預貯金等(34.9%)」です。土地や建物よりも、動かしやすい現金こそが、申告漏れが生じやすい領域です。
資金の動きは「見えている」と考える
国税当局はAIを活用して調査対象を選定する仕組みを本格化させています。特に、以下のような「資金の動き」は、KSKシステムとAIの連携によって検知される傾向にあります。
- 亡くなる直前に引き出された多額の現金(手元現金の計上漏れ)
- 収入のないお孫様や奥様の口座へ、不自然な入金がある(名義預金の疑い)
税務署からの「お尋ね」が届いた時点で、当局はすでに銀行データなどから「申告内容と実態にズレがある可能性」を把握しているケースが多いと考えられます。
【対策】税務署から『お尋ね』が来る前にやるべき3つのこと
ここまで解説した通り、2026年現在の税務調査は、データ活用による「網羅的なチェック」が基本です。私たちがとるべき行動は以下の3つです。
「名義預金」のセルフチェック(過去10年分)
もっとも指摘されやすいのが「名義預金」です。 これは、口座の名義は妻や子供・孫であっても、贈与が成立しておらず、実質的に亡くなった方(被相続人)が管理していた預金のことを指します。
- 通帳や印鑑を、亡くなった方が保管していなかったか?
- 贈与契約書なしに、毎年決まった額を移動させていなかったか?
- 収入のないお孫様の口座に、多額の預金が入っていないか?
税務署のシステムは、過去の所得データと照らし合わせ、家族名義の口座への不自然な入金をチェックしています。「名義が違うから」と安易に判断せず、実態に即して相続財産として計上する必要があります。
「お尋ね」が届く前の「自主修正」
もし申告漏れに気づいたら、税務署から指摘される前に自分から修正申告(自主申告)してください。
これには大きなメリットがあります。税務署の調査通知(お尋ね含む)が来る前に自主的に修正すれば、ペナルティである「過少申告加算税」がかからないからです。また、無申告であった場合、税務調査に行きたいと税務署から調査通知を受ける前に自主的に申告をすることで、「無申告加算税」が軽減されます。
逆に、指摘を受けてからでは、本来の税金に加え、延滞税や加算税を支払うことになります。
「簡易な接触」が届いたら、回答前に専門家へ
万が一、税務署から「相続税についてのお尋ね」や「照会文書」が届いた場合、自己判断での回答は慎重に行う必要があります。
記憶に頼って曖昧な回答をしたり、事実と異なる内容を伝えてしまったりすると、後々大きなリスクとなります。文書が届いた時点で、当局は何らかの根拠を持っていることが一般的です。
ここで矛盾した回答をしてしまうと、本格的な実地調査へ移行したり、場合によっては重加算税が課されたりする可能性もあります。
届いた文書の内容を正確に理解し、適切に対応するためにも、まずは相続税に詳しい税理士への相談をおすすめします。
まとめ:AI時代の相続税対策は「適正な申告」が第一
2024事務年度のデータが示す通り、追徴税額は過去最高となり、税務調査の環境は変化しています。
- 「簡易な接触」の増加
- データ活用による現預金の把握
- 無申告への対応強化
これらに対抗する最良の手段は、「正しい知識を持ち、適正に申告すること」です。デジタル化された調査体制の前では、誠実な申告こそが、追徴課税というリスクを防ぐ最大の防衛策となります。
「うちは大丈夫かな?」と少しでも不安を感じた方は、税務署から連絡が来る前に、一度専門家のチェックを受けることを強くおすすめします。


