突然の出費や収入減などの不測の事態により、一時的に家賃の支払いが難しくなることは珍しいことではありません。
しかし「来月には払える」と思いながら滞納が続いてしまうと、家を失うだけでなく、その後の生活に大きなマイナスの影響を与える事態にもなりかねません。
本記事では、家賃を支払わなくてよい方法はあるのか、家賃の支払いが難しい場合の相談先、具体的な対処法について解説します。
目次
家賃滞納は刑事罰の対象ではなく民事上の問題のため、罪に問われることはありません。
しかし家賃の支払いは賃貸借契約に基づくものであり、契約である以上基本的に支払い義務は残り続けます。
ただし、例外として家賃の支払い義務がなくなるケースがいくつかあります。
ここでは、例外となるケースについて解説します。
滞納した家賃の支払いがなくなるケースは、主に以下の4つです。
自己破産や個人再生などの債務整理での免責 | 自己破産手続きの開始決定前に発生した滞納家賃は原則として免責の対象となり、支払い義務がなくなる(手続き後の家賃の支払い義務は残る) |
オーナーとの和解や合意による免除 | 裁判や交渉の結果、退去と引き換えに滞納分の家賃を免除してもらうなど、貸主と借主の合意で支払いが免除される |
特別な事情による減免 | コロナ禍のような社会状況による失業や災害の被災などの特別な事情がある場合、オーナーが自主的に家賃の減額や免除に応じるケースもある(貸主の判断による) |
消滅時効の成立 | 滞納家賃について5年以上賃貸人から請求や法的手続きがなく、かつ借主が「時効の援用(時効の完成の主張)」を行えば支払い義務が消滅する |
ただしいずれも条件や手続きがあり、誰もが当てはまるわけではありません。
また、それまでの支払い義務が消滅したとしても退去する事態になる可能性が高く、根本的な解決にはならないでしょう。
家賃滞納をそのままにしておくと、段階に沿って次のようなリスクが発生します。
連帯保証人や保証会社への請求 | 連帯保証人や保証会社に請求が及び、家族などの近しい人に迷惑がかかる |
強制退去の可能性 | 滞納が続くと賃貸人から契約解除や強制退去手続きが進められる |
信用情報への影響 | 家賃の支払いに保証会社やクレジットカードを利用している場合、滞納情報が信用情報機関に登録される いわゆる「ブラックリスト」に載った状態となり、今後5~10年程度賃貸契約やローン審査が困難になり、生活全般に制約がかかる |
財産差し押さえのリスク | 滞納が続き裁判になった結果、支払い命令が出ると給与・預金などが差し押さえられる可能性がある |
また、それらのリスクとは別に、家賃と別途で遅延損害金を請求される可能性があります。
金額の目安は年利の上限である14.6%の場合、日割り計算すると家賃10万円で1カ月約1,200円です。
「1カ月滞納してしまった。契約解除されたらどうしよう」
「1カ月支払っていなかったけれど何も言われなかったから来月も大丈夫?」
こんな風に思っている方もいるかもしれません。
関連する法律で、何カ月滞納したら契約解除できるという規定はありません。
しかし、一般的には以下のようなものが契約解除の条件とされています。
そのため、「たまたま支払い忘れた」という理由で即座に契約解除になることはありません。
過去の判例から、滞納による強制退去が認められる目安は「3カ月」とされています。
家賃が支払えなくなった場合に、最も避けなければならないのが「誰にも相談しないまま気がついたら状況がどんどん悪化していた」という事態です。
まずは、以下のいずれかに早めに相談しましょう。
賃貸人賃貸人や管理会社 | 入居者を直接把握しているため、一番先に相談する |
連帯保証人 | 保証会社を利用していない場合、家賃の支払いが滞った際に支払い責任を負う 滞納が続くと直接連絡される可能性が高いため、相談も兼ねて先に状況の説明を行っておくとよい |
公的な支援窓口 | 市区町村の福祉課や生活困窮者自立支援窓口などの行政の窓口で、経済的な困難や生活全般の問題について相談できる 役所以外にも、社会福祉協議会やNPOでも地域に根ざした生活支援や相談活動を行っている |
弁護士・法テラスなどの専門家 | 法律の専門知識を基に、アドバイスや代理交渉を行う すでに法的トラブルに発展しそうな場合には早めに相談する |
また、連帯保証人ではない家族や親戚、友人も身近な相談相手になります。
一時的な資金援助を受けられる可能性だけでなく、精神的な支えになり、打開策が見つかるきっかけとなるかもしれません。
適切な相談先を見つけることも大事ですが、滞納が続く前に、早い段階で対処すると家賃滞納のリスクを最小限に抑えられます。
ここでは、具体的な3つの対策について解説します。
家賃の支払いが難しいと感じたら、まずはできるだけ早く賃貸人や管理会社に連絡し、事情を正直に説明して相談しましょう。
貸し手側が心配するのは、「家賃が回収できないままになってしまうこと」です。
時間がかかっても必ず支払う意思を示せば、分割払いや支払い猶予など柔軟な対応を受けられる可能性があります。
その場合は「いつか支払う」ではなく、いつまでにどのような方法で支払うのか、無理のない現実的な範囲で具体的な提案をすると、交渉も比較的スムーズです。
どうしても自力で家賃を用意できない場合は、家族や親戚友人に一時的な立て替えを相談する方法もあります。
支払期日までに家賃を用意できれば、督促や遅延損害金の発生、信用情報への影響を防げます。
後後後々トラブルになり関係が破綻しないように、お金を借りる際は返済方法や返済日を明確にし、書面ややり取りの記録を残しておきましょう。
家賃の支払いが困難になった場合、まずは公的な支援や貸付制度の活用を検討しましょう。
たとえば「住居確保給付金」は、一定の条件を満たせば家賃の一部または全額を一定期間支給してもらえる制度です。
また、「一時生活支援事業」では、緊急の生活困窮に対して一時的な宿泊や食事の提供などを行っています。
こうした公的支援を活用し、まずは家賃滞納を回避しましょう。
家賃滞納がすでに長期化しており、強制退去や差押さえなど法的トラブルに直面しそうな場合には、弁護士や法テラスに相談しましょう。
貸主との交渉や法的手続きの代理、債務整理などの専門的な支援を受けられます。
法テラスでは、収入や資産が一定基準以下の場合に無料で3回まで法律相談を受けられるほか、弁護士費用などの立替制度も利用できます。
もし対処が間に合わず家賃滞納が解消しなかったときに、現実として迫ってくるのが契約の強制解除による「強制退去」です。
裁判の結果で明け渡しの判決が出ても自主的に退去しなかった場合、「明け渡し催告」から約3週間後の期限到来日に強制執行による強制退去が行われます。
強制退去の後に待ち受ける可能性のある状況についても知っておきましょう。
強制執行では、執行官の指示の下で執行補助者が室内の荷物をすべて運び出し、鍵の交換が行われて退去させられます。
強制退去になると、住まいを失う上に荷物を保管先に強制的に運び出されるため、自分の自由にはなりません。
さらに、家賃が支払えないほどの状況で次の住まいを得るのは難しく、家賃滞納の履歴が信用情報に残れば次の賃貸契約も困難です。
強制退去後も滞納家賃や遅延損害金、強制執行にかかった費用等の請求が残ります。
また契約内容によっては、家賃の倍額を損害賠償として請求されるケースもあります。
滞納からの強制退去に伴う金銭的負担による経済的なダメージは大きく、生活を立て直す妨げになるでしょう。
前述の通り、強制退去後は新たな住居を見つけることが非常に難しくなります。
そのため、家族や友人宅に一時的に身を寄せるか、家族名義で賃貸契約を結んで引っ越すのが現実的な選択肢でしょう。
しかし、もし次の賃貸契約で家賃滞納を回避できたとしても、支払いに困窮した理由が一時的なものでない限り、今後も家賃滞納のリスクが続くことになります。
経済状態の改善の目処が立たない場合には、生活保護を申請や、自立相談支援機関の窓口に相談して生活の再建を図る手段も考えられます。
家賃を滞納し続けた結果起こる様々なデメリットを避けるためにも、家賃が払えないかもしれないと感じた時点でできるだけ早く相談し、具体的な対策を講じることが大切です。
事態が深刻化してからでは選択肢が大きく狭まるため、早めの対応が自分自身を守る最善策となります。
適切な相談相手が見つからない、あるいは法的トラブルに発展しそうな場合には、弁護士への相談がおすすめです。