建物の老朽化による建て替えや再開発によって、賃借人に立ち退いてもらわなければならないことがあるでしょう。
このときに賃貸物件が住宅ならまだよいのですが、店舗や事務所として貸している場合は立ち退いてもらうのが難しくなります。
なぜなら店舗や事務所は営業活動をしており、この営業活動による収益などの補償も算定しなければいけないからです。
ここでは、店舗の立ち退き料の相場はあるのか、店舗の立ち退き料の計算方法、裁判での判決内容、立ち退き交渉をするためのポイントなどを解説します。
店舗の立ち退き料の計算方法については、以下の3項目を考慮し計算します。
新店舗に移転する費用として考慮しなければいけない主な項目には、以下のものが挙げられます。
なお、敷金のようにいずれ戻ってくる預り金は、費用として考慮しません。
移転することにより生じる売り上げ減少などに対する営業補償として考慮しなければいけない主な項目は以下のようになっています。
営業に対する補償をどれくらいしたらいいのかは判断が難しい項目です。
弁護士などの専門家との打ち合わせをしながら、検討していくことをおすすめします。
賃貸契約により、借家権(借りる権利)を得た借主にとって、この権利は財産的な価値のあるものです。
立ち退きにより、大家は借地権を消滅させることになります。
そのため、借家権を消滅させる対価を補償しなければいけません。
裁判では借家権を認めたり、認めなかったりするケースがあるため、借家権を具体的に計算する方法もありません。
立ち退き料については、確実に立ち退きをさせることができる金額の法的根拠はありません。
また、立ち退き料をいくら払えばよいという明確な計算式もありません。
なぜなら、貸している人と借りている人の個々の事情に大きく左右されるため、立ち退き料が一律いくらでよいという基準を設けることができないからです。
しかし、おおよその立ち退き料の目安はあります。
賃貸物件の種別ごとの相場と裁判になったときの立ち退き料の目安を紹介します。
賃貸物件の種別ごとの立ち退き料の相場は以下の通りです。
店舗の立ち退き料が住居や事務所より高いのは、店舗を改装した費用、店舗に備え付けた造作の買い取り費用などが発生することが多いからです。
裁判になったときの立ち退き料の目安は以下の通りです。
立ち退きがうまくまとまらない場合には、裁判をすることになります。
裁判になった場合、示談での相場より立ち退き料が高くなる傾向があります。
店舗の立ち退きを請求した結果、裁判になった事例が数多くあります。
ここでは、その裁判の事例で立ち退きが認められたもの、認められなかったものを紹介します。
まず、飲食店や学校など立ち退きが認められたケースを紹介します。
事例の前提状況 | 建物の2階に居住する高齢で身体障害を持つ賃貸人が、1階部分で焼鳥屋を営んでいる賃借人に対して立ち退きの請求をした 賃貸人は、常時介護が必要な状態で他に居住できるところはなく、建物の2階だけで賃貸人と介護者が生活するには手狭で、生活をしていくことが困難な状況 |
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裁判所の判断 | 賃借人が建物を使用する必要性よりも、賃貸人が建物全体を使う必要性の方が高い そのため、裁判所では焼き鳥店が立ち退く必要がある |
裁判所の判断に基づく 立ち退き料決定 |
賃借人が改装などを行っておらず工事費などの支出がほとんどなかった 180万円の立退料の支払いによって立ち退くことは正当である |
事例の前提状況 | 専門学校に貸していた建物は、築年数が35年経過しており、状態も悪く雨漏りが発生し、防災の関係においても問題があったため、建物を取り壊し、建て直すことにした |
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裁判所の判断 | 建物の老朽化が激しいため、賃貸人が立ち退きを請求することは正答であると判断された |
裁判所の判断に基づく 立ち退き料決定 |
賃借人の営業を継続する必要性が高い しかし移転することによる営業利益の損失、移転にかかる費用などの補償は必要 当初の立ち退き料提示は2,640万円 2,640万円を4,000万円に増額することにより立ち退きさせることができる |
事例の前提状況 | 公認会計士・税理士事務所に貸していた建物は、築年数が45年ほど経過しており、耐震性の調査を行った結果、震度6や震度7の地震が発生した場合、建物が大きく損壊するまたは完全に崩壊するという調査結果が出ている 耐震性を上げるためには、耐震補強費用として5,000万円以上になる可能性がある |
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裁判所の判断 | 公認会計士・税理士事務所のため、今借りている場所での営業を必ずしも継続することが必要ではない 立ち退きを請求することは正当である |
裁判所の判断に基づく 立ち退き料決定 |
賃貸人は不動産鑑定を行い立ち退き料442万円と評価 賃借人は不動産鑑定を行い立ち退き料1,244万円と評価 裁判所は賃貸人の評価を採用、結局、金額は500万円という判断になった |
次は、立ち退きが認められなかったケースを紹介します。
事例の前提状況 | 賃借人がピアノ教室を行っていた建物は築年数が65年ほど経過している 大きな地震が発生した場合には倒壊する可能性が高い |
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裁判所の判断 | 賃借人は高齢でピアノ指導のみで生計を立てており転居先を探すことが非常に難しい 賃貸人の申し出た立ち退き料が170万円と少額だった |
裁判所の判断に基づく 立ち退き料決定 |
立ち退き請求ができる正当な事情は認められないと裁判所が判断 立ち退き料が170万円という金額では、正当な事情を補完する役割になっていない |
店舗の立ち退きをスムーズに行うための交渉方法を紹介します。
賃借人に立ち退きを求める事情をはっきりと詳細に伝えます。
なぜ立ち退きが必要なのか、いつまでに立ち退きを行いたいと考えているかということです。
説明を曖昧にしたり、大家側の計画や意図をごまかしたりすると、後々の交渉が難航します。
賃貸人から立ち退きのお願いを一方的にされただけの場合、賃借人には不満が溜まります。
不満を解消することに加えて、賃借人が立ち退きについてどのように考えているかを聞き出すことがポイントです。
店舗の移転について、立ち退き料を賃貸人から提示する必要があります。
賃貸住宅と違い、賃貸人だけで立ち退き料を決定することは難しいので、総額でどれくらいにするのか賃借人と話しておくことが大切です。
また、敷金や保証金などの預り金がある場合には、賃借人へ返却する意思があることを伝えるのもよいでしょう。
立ち退き料の増額を提示されたときに、金額を増額する譲歩の範囲内を決めておくだけではなく、様々な事柄に対して譲歩する意識を持つことがポイントです。
立ち退き以外にも、移転先に支払うお金が準備できない賃借人に対して、賃貸人が新店舗の手当を行う、あるいは立ち退きの実施日を延長するという譲歩です。
このように多方面で様々な検討を行うことにより、スムーズに立ち退きができることがあります。
賃借人の立ち退きに対する意思がわかってきた段階で、口頭ではなく文書での条件提示を行います。
口頭だと、貸借人はまだ交渉の余地があるように感じやすいですが、文書で伝えられれば、これで折衝が終わりという意識づけができます。
また、「言った、言わない」という状況も防げるため、重要な決め事は文章で残しておくことが望ましいといえます。
裁判など、交渉決裂の場合の代替案を考えておきましょう。
交渉がうまくいかなかった場合は、相手から高額な立ち退き料を支払わないと退去しないと言われる場合があります。
店舗の立ち退き交渉は、トラブルにつながりやすく、なかなかスムーズに終わるものではありません。
そのため、前もって代替物件を探しておくことや、店舗が移転することによる損失を調査するなどして、賃借人の不満を溜めないような交渉を考えておく必要があります。
今回ご紹介した確認事項や、立ち退き交渉のポイントなどをしっかりと踏まえた上で、店舗の賃借人と交渉してください。
たとえ、店舗の賃借人と仲がよいとしても、店舗の立ち退き交渉は複雑なため、弁護士などの専門家と打ち合わせをしながら進めていきましょう。
ちなみに、以下の記事では大家都合の立ち退き料の相場や退去までの流れ、発生しやすいトラブルについて説明しています。
賃貸物件の建て替えなど、大家都合による立ち退きの要請を検討している場合は、ぜひ併せてご覧ください。