「家賃を滞納しているけど、いつか時効で消えるのだろう…」と考えていませんか?
家賃滞納には5年の消滅時効がありますが、時間経過だけでなく時効の援用も必要です。
さらに、時効完成までには時効が中断されるリスクもあります。
この記事では、家賃滞納に関わる消滅時効の仕組みや、時効を援用する具体的な方法、さらに時効が中断される可能性があるケースについて解説します。
消滅時効を正しく理解すれば、自分の家賃滞納がどのような状態にあるかが分かり、今後の適切な方針が見つけられるでしょう。
家賃を滞納すれば、時効で消滅すると思う人もいますが、何年間未払いが続けば消滅時効になるのでしょうか。
ここでは、消滅時効の概要と家賃滞納の起算日について解説します。
消滅時効とは、一定期間行使しなかった権利(債権)が時間経過によって消滅する制度です。
以前は消滅時効成立までの期間が債権の種類によってまちまちでしたが、2020年の民法改正で変更され、5年または10年に変更されました。
一般的な債権は、債権者が権利を行使できると知った時から5年、もしくは権利を行使できる時から10年が経過すると、時効で消滅します。
家賃は一般的な債権に含まれるため、家賃滞納から5年が消滅時効の期間です。
家賃の時効が消滅する場合の起算点と範囲は、次のとおりです。
滞納家賃の起算日はその家賃の支払期日にあたり、支払期日から5年経過後に滞納家賃の消滅時効期間を迎えます。
2024年8月31日が支払期日の場合は、2024年8月31日が起算日となり、2029年8月31日に消滅時効が完成します。
家賃債権は毎月発生するため、古い順に消滅時効が完成します。
○カ月分、○年分と、まとめて消滅時効が成立するのではない点に注意が必要です。
家賃保証会社が保証人の場合は、家賃を滞納すると家賃保証会社が大家さん(賃貸人)に家賃を代わりに支払う「代位弁済」を行います。
家賃を肩代わりした家賃保証会社は、入居者に対して肩代わりした家賃を請求する権利(求償権)を持ちます。
家賃保証会社が滞納家賃を代位弁済した場合は、代位弁済した日が起算日となります。
たとえば、2024年の1月31日・2月29日が支払い期日の滞納家賃を家賃保証会社が2024年6月30日に2カ月分を代位弁済した場合、起算日は2024年6月30日です。
2カ月分を一度で代位弁済されると、起算日も同じく代位弁済の日になる点にも注意しましょう。
家賃保証会社がいつ代位弁済したかをどのように把握すればいいのか不安な人もいるでしょう。
通常は代位弁済した旨と日付が入居者宛に通知されるため、代位弁済の日が確認できます。
賃貸人(債権者)としては、入居者が家賃滞納したまま消滅時効が完成するのをただ待っているわけではありません。
債権者は、消滅時効の完成を妨げる「消滅時効の中断事由」によって消滅時効の完成を阻止します。
ここでは、消滅時効の中断事由として代表的なものを解説します。
なお、改正民法で時効の中断は、時効の更新と完成猶予に分類されました。
時効の中断には、「時効の更新」と「完成猶予」の2種類があります。
時効の更新は、更新事由により時効がリセットされ、再度0からカウントがスタートする制度です。
たとえば、支払期限から4年経過した滞納家賃(残り1年)について、一部弁済(承認:更新事由)すると、時効が更新されます。
時効が更新されると、せっかく進んでいた4年という時間が0にリセットされ、消滅時効の起算日が「一部弁済した日」となります。
したがって、消滅時効成立までには再度5年間が必要となります。
また、裁判所の手続による更新であれば、10年間が新しい時効期間となります。
時効の完成猶予は、猶予事由によって時効の進行を一度ストップさせ、時効の完成を猶予する制度です。
滞納家賃について、賃貸人から内容証明郵便による催告(裁判外の催告:猶予事由)されると、消滅時効の進行がストップします。
裁判外の催告であれば、6カ月間時効のカウントが停止します。
そして6カ月後には、止まっていた時間から再度消滅時効が進み始めます。
たとえば、支払期限から4年経過した滞納家賃(残り1年)について、内容証明郵便による催告(裁判外の催告:猶予事由)がなされたとします。
この場合は催告された4年経過の時点で消滅時効の進行がストップします。
裁判など更新事由がなく6カ月経過すると、再度4年経過(残り1年)から時効が進み、当初の支払い期限から5年6カ月後に消滅時効が成立します。
裁判で滞納家賃が認められると「時効の更新」となり、更新後の時効期間は判決が確定した日から10年となります。
入居者(債務者)が家賃滞納(債務)の存在及び支払い義務を承認すると、消滅時効が更新されます。
債務の承認に該当する行為は次のとおりです。
家賃を一部でも支払うと債務の承認に該当し、時効が更新(リセット)されて0日から再スタートします。
家賃滞納を認める書面への署名・捺印は債務の承認に該当します。
賃貸人に対して「来月の○○日には溜まった家賃を支払う」と伝えた場合は、口頭でも債務の承認に該当し、時効が更新する可能性があります。
支払督促は、賃貸人が簡易裁判所に申し立てて行う手続きです。
支払督促の申立を行うと時効の完成が猶予され、支払督促が確定すると時効が更新されます。
支払督促は簡易裁判所が行う手続きの一つで、債権者(賃貸人)が申し立てた内容に従って、債務者(入居者)に支払いを命じる手続きです。
支払督促の書面は簡易裁判所から郵送で送られますが、特別送達という形式で送付されます。
受取拒否をしても他の送達手段で完了されるため、実質的には受取拒否できないと言えます。
支払督促の送達を受けると、入居者は2週間以内に簡易裁判所に対して異議申立てをする必要があります。
異議申立てをしなければ、そのまま支払督促が確定し、時効が更新されます。
更に、支払督促は時効が更新されるだけでなく、賃貸人は民事裁判無しで強制執行を行うための手続が可能となります。
そのため、簡易裁判所からの支払督促が届いた場合は、無視せず、必ず異議申立てや賃貸人への連絡など、何らかの対応をしましょう。
内容証明郵便による催告(裁判外の催告)は前述のとおり、催告があった時から6カ月間時効の完成が猶予されます。
催告は債権の履行を請求する意思通知のため口頭でも有効ですが、後々の証拠とするために通常は内容証明郵便で行います。
また、裁判外の催告は再度行っても時効の完成猶予の効力はなく、複数回催告しても完成猶予の効力が発生するのは1回目のみです。
内容証明郵便などで滞納家賃を支払わなければ、民事裁判(裁判上の請求等)が提起されます。
支払督促と同じく、裁判中は時効の完成が猶予され、裁判が確定すると進んでいた時効がリセット(時効の更新)されます。
民事裁判は債権回収の最終手段として行われます。
裁判が確定した場合は、強制執行手続が可能となり、給与や預金などの財産が差し押さえられる可能性があります。
また、裁判の確定判決は更新事由のため、消滅時効の期間はリセットされ、裁判確定後から10年に更新されます。
家賃の支払い期限から5年または10年が経過していても、自動的に消滅時効が成立するわけではありません。
時効の援用をして初めて、滞納家賃が時効消滅したと言えます。
ここでは、消滅時効家賃滞納に関わる時効の援用の概要、時効援用の方法について解説します。
家賃の消滅時効が完成するためには、以下の4つの要件が必要です。
まずは時効の援用以外の要件について詳しく見ていきましょう。
滞納家賃の消滅時効の期間は支払い期限から5年です。
しかし、5年経過しても他の要件が揃っていないと、消滅時効は完成しません。
未払い家賃を一部でも支払うと時効の更新事由(承認)に該当し、支払った時点から再度5年の経過を待たなければなりません。
また、賃貸人に支払いの意思を伝える、滞納家賃を認める合意書に記名捺印する行為も更新事由に該当し、時効が更新されます。
裁判所での手続きは、裁判上の請求、支払督促、強制執行などです。
これらの手続が行われていると時効の完成猶予事由に該当し、滞納家賃の支払い義務が認められると時効の更新事由に該当します。
時効の援用とは、時効期間が経過した後、債権者(家賃の場合は賃貸人)に対して、「時効を援用します」という主張です。
ここでは、時効の援用について詳しく解説します。
消滅時効は前述の3つの要件を満たしていれば完成しますが、法律効果が自動的に発生するものではありません。
債権者に時効の援用を主張して初めて、消滅時効の効果(滞納家賃債権の消滅)が発生します。
時効の援用方法は、特に法律で決まっていないため、書面・口頭どちらでも時効の援用を行えます。
しかし、後々訴訟になった場合に備えて、内容証明郵便によって時効援用通知書を送ります。
内容証明郵便だけで不安であれば、民事裁判を提起して時効の援用を主張する場合もあります。
時効の援用は、滞納家賃の債務が消滅するかどうかの最後の重要な手続きです。
起算日や期間を間違えていると、時効がリセットされてしまい、すべて台無しになってしまいます。
自信のない方は、時効の援用で失敗しないように弁護士などの専門家に相談しましょう。
家賃滞納を放置すると、家賃の請求以外にも以下のようなリスクがあります。
賃貸物件の入居者は借地借家法という法律で守られていますが、家賃の滞納が続くと立ち退きを迫られます。
家賃滞納の場合は、3カ月の滞納が信頼関係を破壊したとして強制解除できる一つの基準と言われています。
そのため、多くの場合、家賃を滞納して3カ月が過ぎると「賃貸借契約解除の通知」の内容証明郵便が送られます。
賃貸借契約の解除が有効だとしても、すぐに賃貸人から強制的に追い出されるような事態にはなりません。
賃貸人が家賃滞納を原因として、裁判所などを通さずに入居者を追い出すような行為は「自力救済」と呼ばれ、民法で禁止されています。(自力救済禁止の原則)
したがって、賃貸人は催告、内容証明郵便による督促・賃貸借契約解除通知でも家賃滞納が続けば、明け渡し請求訴訟を提起します。
明け渡し請求でも退去しない場合には、裁判所の職員(執行官)が強制執行を実施し、入居者を退去させます。
家賃保証会社が入っている場合に家賃を滞納してしまうと、家賃保証会社が立て替えて支払う代位弁済を行います。
代位弁済が行われると、家賃保証会社は立て替えた家賃を入居者に求償します。
信販系の家賃保証会社が入っている場合、家賃を滞納してしまうと他の賃貸物件への入居審査が難しくなる恐れがあります。
家賃保証会社には信販系、全国賃貸保証業協会(LICC)系、独立系があります。
信販系の家賃保証会社の場合、家賃を滞納した事故情報を信用情報機関に登録し、加盟会社の中で共有しています。
そのため、他の賃貸物件の入居審査で審査落ちする可能性が高くなります。
信販系の保証会社であれば、信用情報に事故情報が載る可能性が高く、クレジットカードの審査が通りにくくなると考えられます。
家賃滞納に関するよくある質問とその回答をまとめます。
家賃滞納の履歴は、家賃保証会社が入っているかどうかで変わります。
家賃保証会社が入っている場合、信販系・LICC系の保証会社であれば加盟している信用情報機関に事故情報が登録されます。
登録情報は家賃の滞納が解消されてから5年で登録情報が削除されると言われています。
信用情報機関に非加盟の独立系と呼ばれる家賃保証会社であれば、信用情報を共有していないため、その保証会社以外の審査には影響はないでしょう。
家賃保証会社が入っていない場合は、信用情報機関と無関係なため、家賃を滞納しても信用情報に登録されません。
家賃を滞納していても、催促されない場合があります。
通常は、家賃を滞納すると電話か普通郵便で催促されますが、管理会社や賃貸人がうっかり忘れているかもしれません。
請求方法は決められた手順がありません。
催促などの前触れもなく内容証明郵便や簡易裁判所からの支払督促が届く可能性もあります。
家賃滞納を理由として賃貸借契約を強制解除できる一般的なラインが家賃滞納3カ月と言われています。
その後に訴訟を提起し、裁判・強制執行手続の期間を考えると、強制退去までには最低5カ月はかかるでしょう。
ただし、家賃滞納が5カ月許されるかと言えば、話は別です。
家賃滞納をどこまで許してくれるかは、賃貸人次第です。
払う意思があれば、ある程度待ってくれる可能性もあります。
追い出されないためにも、正直に誠意をもって相談してみるのも解決につながる一つの手段です。
家賃滞納の消滅時効は、支払期限から5年経過で完成し、時効の援用により法律効果が発生します。
しかし、消滅時効完成前に、家賃の一部支払いや支払督促・裁判提起があれば「時効の中断」が起こり、時効の完成猶予、時効の更新が発生します。
家賃滞納の消滅時効は、消滅時効の制度を正しく理解し、適切に対処することが重要です。
消滅時効が完成しているかどうか気になる、時効が成立したので確実に時効を援用したい、という場合は弁護士に相談しましょう。