賃貸物件の退去時に発生する「退去費用」に関して、不安を抱えていませんか。
本来支払う必要のない原状回復費用まで請求されるような事態は、本来あってはなりません。
しかし、正確な知識がなければ、不当な請求を受けてしまう可能性もあるでしょう。
この記事では、国土交通省のガイドラインに基づき、支払わなくてよい退去費用の範囲や、納得できない場合の適切な対処法、さらには弁護士や専門機関への相談先も詳しく解説します。
この記事を読めば、不必要な出費を防ぎ、正当な権利を守るための知識が得られ、安心して退去手続きを進められるでしょう。
引っ越しにはお金がかかりますが、賃貸物件の退去費用も大きな負担になります。
退去費用の大部分は、賃貸物件を元通りにして返却するための原状回復費用とハウスクリーニング費用です。
しかし、退去費用は高額になりやすい、賃貸借契約に関する知識が多くない、等の理由でトラブルも多く発生しています。
そのため、国土交通省は退去費用に関する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を定めています。
ここでは、退去費用の中の原状回復費用、ハウスクリーニング費用とガイドラインについて解説します。
原状回復費用は、賃貸物件の賃借人(入居者)が退去時に、賃貸物件を元通りにして返還するためにかかる費用です。
賃借人は賃貸物件を元通りにして返還する義務がありますが、完璧に入居時の状態には戻せません。
賃貸である以上、賃借人の使用による床や壁の傷み、設備の劣化は想定されており、その損耗(そんもう)は賃料でカバーされています。
原状回復費用は、これらの通常損耗を超える部分を修繕する費用として請求されます。
本来であれば、賃借人が退去時までに原状回復すれば問題ありません。
しかし、通常は退去日直前まで住んでいるため、修繕工事が必要な場合などは退去日までの修繕は難しいでしょう。
また、3月など入退去が頻繁な時期であれば、賃貸人が他の部屋と一緒にまとめて行った方が安くなるケースも考えられます。
コストやスケジュールの面から考えても、原状回復は賃貸人に実施してもらう方が適切でしょう。
ハウスクリーニング費用は、床・壁・水回りなどをプロに依頼して清掃してもらう費用です。
特約で部屋の広さに応じてハウスクリーニング費用が決められているケースもあります。
通常の掃除をしていれば不要と考えられますが、次の賃借人を募集するためという賃貸人側の事情もあります。
賃貸人側の事情であれば、賃借人・賃貸人のどちらが負担すべきか検討することもできるでしょう。
この点については後述します。
賃借人が原状回復すべき範囲に関するトラブルが多かったため、国土交通省は原状回復の範囲についてガイドラインを作成しました。
民法上の契約には「契約自由の原則」があり、私人同士の契約内容は双方の合意があれば自由に決められます。
そのため、賃貸借契約も退去費用をどのように設定しても自由です。
契約自由の原則があるとはいえ、賃借人・賃貸人のどちらがどこまで原状回復を行うかについてのトラブルが多く発生していました。
そこで、国土交通省は退去時のトラブルを未然防止するため、妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとして取りまとめました。
ガイドラインは1998年3月にとりまとめられ、平成16年2月、平成23年8月に裁判事例およびQ&Aの追加改定が行われています。
ガイドラインは、退去時の原状回復を「居住や使用による建物の価値減少のうち、故意・過失、注意義務違反、通常の使用を超える損耗・毀損の修繕」と定義しています。
ガイドラインはあくまで賃貸借契約作成時の参考資料のため、ガイドラインと違った内容でも契約内容が優先されます。
しかし、契約書に記載のないケースの負担範囲を判断する際には役に立つ資料です。
ここでは、「退去費用で支払わなくていいもの」をガイドラインに従って紹介します。
ガイドラインでは、通常損耗には原状回復費用を支払わなくていい、とされています。
賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられる傷みや損耗は、通常損耗と呼ばれます。
テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ、家具家電を設置した跡のへこみなどは通常損耗とされています。
経年劣化による故障等も支払わなくていいとされています。
経年劣化とは、時間経過による品質低下を指し、日照による変色や傷みが該当します。
日照による畳の変色やフローリングの色落ち、古くなってエアコンが壊れた、などは経年劣化として賃貸人の負担とされています。
地震で破損したガラス、網入りガラスの亀裂(構造により自然に発生したもの)は賃借人に責任がないため、賃貸人の負担とされています。
賃借人が通常の清掃を実施していれば、ハウスクリーニングは次の賃借人確保のためであり、費用は賃貸人の負担が妥当とされています。
ただし、特約で「賃借人は退去時にハウスクリーニング代を○万円支払う」と書かれている場合は、ガイドラインよりも特約が優先される点に注意してください。
ガイドラインで、退去時に賃借人が支払う必要があるとされているものは次のとおりです。
故意または過失での毀損は具体的に次のようなものです。
落書きなど故意のものは当然として、一般的な想定を超えた利用による毀損は賃借人の負担が妥当とされています。
タバコ、ペットのにおいなどは壁や天井の張り替えになる場合があり、原状回復用が高額になりやすいと考えられます。
また、禁煙、ペット禁止の物件の場合には用法違反となり、別途損害賠償請求される可能性もあります。
賃借人が退去費用として支払う場合は、対象物の耐用年数・経過年数が考慮され、耐用年数経過時に1円となるように算定します。
カーペット、壁のクロス、クッションフロア、エアコン、インターホンなどは耐用年数が6年とされています。
また、襖紙や障子紙など経年劣化を考慮しないものもあります。
退去費用が思っていたより高額で納得できず、支払わないとどうなるでしょうか。
支払い期限を過ぎると督促が行われ、保証会社の代位弁済が行われる可能性があり、最終的には裁判に発展する恐れがあります。
ここでは、退去費用をめぐって裁判になる場合の経過について説明します。
退去費用については、賃借人が退去した後に賃貸人がリフォーム業者に依頼をかけるため、1カ月程度で請求書か精算された明細書が届きます。
退去費用が敷金未満であれば、精算された残金が返金されます。
1カ月経っても退去費用の請求や精算された明細が届かない場合は、管理会社・賃貸人が忘れている可能性があります。
問題なく完了していればよいですが、後から高額な請求が来ることもあり得るため、管理会社や賃貸人に退去費用の確認をしましょう。
退去費用に納得ができず退去費用を支払わず、支払期限が過ぎると賃貸人や管理会社から督促の連絡が入ります。
退去費用に納得ができない場合でも、督促を無視すると問題が大きくなってしまいます。
「退去費用の金額に納得ができない」「思った以上に高額だったので、支払い期日を延ばしてほしい」など、主張を伝えましょう。
退去費用の支払いがなければ、管理会社などは保証会社か連帯保証人に請求します。
近年では、ほとんどの賃貸住宅の入居時に保証会社が入ります。
保証会社は家賃だけでなく、退去費用も保証しているため、保証会社は賃借人に代わって退去費用を立て替えて支払います。
この支払いを代位弁済と言い、あくまで立て替え払いのため、保証会社から賃借人へ立て替えた金額の請求(求償)が行われます。
保証会社が代位弁済した場合には、手数料や遅延損害金も発生するため、元の退去費用より負担額が増えます。
親族などの連帯保証人がついている場合は、連帯保証人に請求して支払ってもらうケースもあります。
この場合も代位弁済となり、連帯保証人は保証会社と同じように賃借人へ求償できます。
保証会社や連帯保証人からの求償に応じない場合は、裁判に発展する可能性があります。
特に保証会社は債権回収のプロのため、淡々と手続きを進めるでしょう。
保証会社によっては信用情報に登録される場合もあり、クレジットカードや銀行の借入に影響が出てしまうかもしれません。
また、裁判になってしまうと裁判費用もかかるため、できるだけ早い段階での解決が必要です。
退去費用に納得いかないときの対処方法を紹介します。
まずは入居時の賃貸借契約書を確認し、退去費用に関する特約などを確認します。
特約で退去費用について書かれている場合は、特約に従って支払う必要があります。
合意して賃貸借契約書を交わしているため、ガイドラインの内容よりも特約が優先されます。
特約に退去費用が書かれていない場合、もしくは特約で想定していない事態が起こっている場合は、ガイドラインを参考にします。
賃貸借契約書とガイドラインを確認して、退去費用が高すぎると判断した場合は、賃貸人・管理会社と直接連絡を取って交渉します。
交渉では、「退去費用が高すぎる」という主張をするだけでは交渉にならない点に注意しましょう。
どの部分が不要な請求か、「ガイドラインではどう書かれている」「○万円なら妥当」など、こちらの考え方を主張しましょう。
また、入居時に既にあった汚れや不具合などの修繕費用も請求されている場合は、当時の写真などを提示して交渉します。
退去費用について交渉ができない、納得できない場合には、消費者ホットラインや弁護士、法テラス、行政書士などに相談しましょう。
相談する場合は、退去時の状況や請求されている退去費用、賃貸借契約書の内容を具体的に説明しましょう。
現状が詳しく伝わるほど適切な回答がもらえるでしょう。
国土交通省のガイドラインでは、通常損耗や経年劣化による退去費用は支払う必要がありませんが、故意や過失による損傷は賃借人の負担です。
特約があればガイドラインよりも優先されますが、納得できない場合は、賃貸人や管理会社と交渉しましょう。
督促を無視すると保証会社の代位弁済や裁判に発展するリスクがあり、信用情報に影響する可能性もあります。
必要に応じて消費者ホットラインや弁護士に相談し、早めに対応しましょう。