大家から立ち退きを依頼された場合、借地借家法の第28条に該当していなければ、退去する必要はありません。
借地借家法28条には、建物賃貸借契約の更新拒絶等ができる正当事由に関する要件が明記されています。
一般的に、正当事由に該当しているからこそ立ち退きを要求されますが、賃借人は正当事由が適切なのかを見極める必要があります。
この記事では、借地借家法第28条の概要と立ち退きの正当事由について、過去の判例を紹介します。
目次
そもそも借地借家法第28条とは、どのような内容が記載されているのでしょうか。
また借地借家法自体がメジャーな法律ではないため、ここでは借地借家法について紹介します。
借地借家法とは、建物や土地の所有権にまつわる賃貸人と賃借人の権利を明確化した法律です。
賃貸借に関する権利や契約の更新、解約、存続期間などについて定められており、民法より優先して適用されるという特徴があります。
民法では、賃借人より賃貸人の方がより守られる立場とされています。
そのため、賃借人が契約更新できない場合や、突然立ち退きを求められ不利益を被ってしまう場合も考えられます。
借地借家法は、そのような賃借人を保護するための法律でもあると言われています。
借地借家法第28条では、建物賃貸借契約の更新拒絶の要件と判断基準を定めた条文が明記されています。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
賃貸人は賃借人に立ち退きを求める際、相当な理由が必要であり、これを正当事由と呼びます。
正当事由が認められなければ、賃借人は立ち退きに応じる必要はなく、そのまま居住できます。
では正当事由に当てはまる要因とは、どのような内容が挙げられるのでしょうか。
次に、正当事由について詳しく解説します。
借地借家法28条から正当事由を判断する要因は、以下の項目が挙げられると解釈できます。
ひとつずつ紹介します。
賃貸人と賃借人の双方の言い分を確認し、どちらがより土地建物を必要としているかによって判断されます。
一般的に、建物の使用の必要性は、それぞれ以下のような項目が挙げられます。
賃貸人側 | 賃借人側 |
---|---|
•自己使用 •売却 •建て替え |
•居住 •営業 |
たとえば、高齢者の親が住む場所がなく、その土地を利用せざるを得ないケースなどは、賃貸人の方が必要としていると判断される場合があります。
賃貸人自らの使用を目的としていれば、正当事由として認められる可能性は高いです。
しかし、賃貸人が多くの不動産を所有しており、当該建物を使用する必要性が低い場合などは、正当事由は否定されやすい傾向にあります。
一方、賃借人の場合は、その建物でなければいけない必要性から判断されます。
賃借人がその建物を借りて営業を行っている場合などは、賃借人の生活にも大きな支障をきたしてしまうため、認められない場合も多いです。
建物使用の必要性は、正当事由の中でもメインの判断要素となるため、双方の主張から慎重に判断されます。
賃貸借に関する従前の経過では、賃貸借契約の内容や家賃、更新料の支払い状況など、立ち退き要求されるまでの事情を考慮します。
たとえば、賃借人が家賃滞納をしていた場合や、更新料を支払っていない場合は、正当事由として認められる場合があります。
賃貸借に関する従前の経過では、主に以下のような事情を考慮して判断されます。
建物の利用状況では、賃借人が契約違反を行っていないか、どれくらいの頻度で建物を利用しているかが判断されます。
たとえば、賃借人が契約違反を行っており、再三の注意を行っても改善しない場合、正当事由として認められる場合があります。
また、建物を借りていてもほとんど使っていない場合、利用状況が低いと判断される可能性も高いです。
建物の現況では、以下のような事情が考慮されます。
築年数が古くなった建物は、今後発生する大地震などに耐えられないため、建物の現況から正当事由になるのか判断されます。
老朽化した建物は、過去の地震により耐震性が低下している場合や、給排水設備などが破損して修理自体が困難な場合が多いです。
それらの要因を総合的に考慮し、正当事由に該当するかを判断します。
新築アパートなどを建築する方の多くは、建物の老朽化や耐震性を立ち退きの正当事由として主張するケースが多くなっています。
老朽化といわれる築年数に明確な基準は定められていませんが、一般的に築30年以降は建て替え時期とも言われています。
そのため30年以降の建物に居住している方は、立ち退き要求される可能性があると認識しておきましょう。
財産上の給付とは、立退料や代替物件の提供を指します。
立退料は正当事由を補完する要素ともいわれ、賃貸人から賃借人へ提供があったのかがポイントです。
また、立ち退きを要求する上で、代替物件の提供があったのかも判断材料の一つです。
賃貸人は、賃借人が次に引っ越しする物件の費用を立退料として負担します。
立ち退きによって、住居や店舗を移転せざるを得ない場合、立退料を支払えば賃借人の不利益を補填する役割にもなります。
もちろん他の正当事由として挙げられる要素が強ければ、立退料を支払わずに退去させられる場合があります。
しかし、現在の物件から近くの物件に移転する際の立退料を支払えば、正当事由が認められるケースも多いです。
立退料は、主に以下の項目に含まれる費用です。
居住用物件 | 事業用物件 |
---|---|
•差額分の賃料(約1年~2年分) •引っ越し業者の費用 •新居の仲介手数料・礼金 など |
•差額分の賃料(期間は要相談) •引っ越し業者の費用 •新居の仲介手数料・礼金 •新居の内装工事費用 •移転期間中の損害金 など |
立退料は建物や賃貸借契約によって大きく変動するため、弁護士などの専門家に確認して交渉しましょう。
ここでは、立ち退きの正当事由として認められた判例を3つのケースに分けて紹介します。
賃貸人の自己使用を理由とする立ち退き要求の判例を3つ紹介します。
事例<判例1>
賃貸人は、家族と住むには手狭になったマンションを売却し、貸し出している居宅への引っ越しを検討していました。
賃借人は建物をすでに使用していなかったため、立ち退きを要求します。
賃貸人から十分な立退料も用意されたため、正当事由として認められ退去しました。
事例<判例2>
賃貸人は転勤から戻ってきたタイミングで、賃借人へ立ち退き要求をしました。
転勤後はアパートに暮らしていましたが、賃借人は転居しても生活に支障をきたさないほどの経済力を持ち合わせていました。
正当事由をより確実なものにするため、立退料を支払うという条件で正当事由として認められ退去したケースです。
事例<判例3>
健康状態が不安な状態となっている賃貸人は、息子夫婦と同居するため、二世帯住宅の建物に居住している賃借人へ立ち退きを要求します。
賃借人は居住を続けている状態で一定の必要性がありましたが、賃貸人の方が建物の必要性が高いと判断されました。
賃貸人は既に受け取っていた更新料を返還するのとともに、立退料を支払うという条件で、正当事由が認められた判例です。
賃貸人の自己使用を理由とする立ち退き要求では、賃借人がその物件への必要性が低いと判断された場合、認められるケースが多いです。
一方で、賃貸人が別宅などの不動産を所有していると、正当事由としては認められない可能性もあります。
賃貸人が「営業目的」での自己使用を理由とした立ち退き要求の判例を2つ紹介します。
事例<判例1>
賃貸人は自社物件を建築するため、借地で貸しているパチンコ店に立ち退きを求めます。
しかしパチンコ店は立ち退けば廃業となるため、相当の立退料を支払う必要があると裁判所は判決します。
結果、賃借人の営業利益や権利金なしなどを総合的に考慮し、8億円の立退料を支払う条件で正当事由が認められました。
事例<判例2>
賃貸人は新聞販売店を営んでおり、従業員のための宿舎を用意しようと検討しています。
自分が所有している土地に建築しようと考え、賃借人に立ち退きを求めます。
立退料6,450万円を支払って退去してもらった判例です。
賃貸人が「営業目的」での自己使用を理由にした立ち退き要求では、相当の立ち退き料が必要となるケースが多いです。
特に賃借人が事業を営んでいるとなると、営業利益や差額分の賃料も大きくなるため、立退料も高額になります。
建物の老朽化に伴う建て替えを理由とした立ち退き要求の判例を2つ紹介します。
事例<判例1>
築40年となったアパートは、さまざまな箇所が劣化・破損している状態でした。
この状態では新たな入居者を確保するどころか、建物の倒壊リスクも高いと判断できるほどです。
賃貸人は建物を解体し、土地の一部を売却して、その資金で新たな家を建築しようと考えます。
賃借人の中には高齢者、年金暮らしの方もいましたが、賃貸人も高齢で、子どもの介護が必要な状態です。
結果立退料を支払う条件で、正当事由として認められた判例です。
事例<判例2>
建物が各所に老朽化とともに不具合が認められ、ホームインスペクション(住宅診断)によって問題ありと診断されます。
倒壊してしまっては元もないため、解体して建て替えするため、賃借人へ立ち退きを求めます。
賃借人はテナントだったため、立地が重要でした。
建物から徒歩数分程度の距離に位置する代替物件を提示し、なおかつ立退料を支払って正当事由として認められた判例です。
老朽化している物件を建て替えしようとする方も多いですが、賃借人の身体的な安全にも配慮されます。
賃借人が病気を患っており、引っ越し自体が困難な場合は、正当事由として認められる可能性も低くなります。
借地借家法第28条には建物賃貸借契約の更新拒絶等ができる正当事由に関する要件が明記されています。
正当事由は、建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情が最も判断される要素です。
賃貸人の所有物件であっても、賃借人の必要性が高ければ正当事由は認められず、退去する必要はありません。
一方で、過去の判例を見ると、賃借人がその建物である必要性が低いと、立ち退きの正当事由は認められやすくなる傾向にあります。
特に老朽化している建物は、今後倒壊リスクが高いため、よく用いられる正当事由の一つです。
賃貸人から立ち退きを要求された際は、どのような理由で退去を要求されているのか、しっかり確認して対処しましょう。