ある日突然家主から「立ち退き要求」があったら、皆さんはどう対応しますか?
現在、アパートやマンションなどを借りて住んでいる人は、もしかしたらこのような事態に遭遇するかもしれません。
しかし、ご安心ください。
日本の法律では基本的に賃借人を保護する形のルールとなっており、家主側の一方的な理由で家を追い出されることはありません。
今、仮に現在立ち退き要求を家主側から受けているとすれば、そこにはきちんとした正当事由があるのかを確認してみましょう。
本記事では、「建物の老朽化」は立ち退きの正当事由になるのかについてご紹介していきます。
この記事を最後までお読みいただくと、立ち退きの正当事由について理解が深まります。
さらに、家主側から突如立ち退き要求を受けても冷静な対応ができるようになるでしょう。
目次
借地借家法に於いて家主側が賃借人を退去させるには、正当事由が必要です。
正当事由とは、法的には大変難しい解釈が多く、正当事由を巡っては裁判で争うこともあります。
まず、正当事由の詳細について「借地借家法第28条」を見てみましょう。
(借地借家法第28条)
建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
つまり正当事由は、下記で紹介する5つの要素について鑑み、総合的に判断されることになります。
では、今回の建物の老朽化の場合、最もポイントになる要素はどこになるのでしょうか?
答えは、④の建物の現況についてです。
建物の現況とは、その建物自体の状態を指します。
つまり、新築であれば建物外壁や内装は新しく、耐久性や耐震性も問題ありません。
しかし、建物は高温多湿や風雨にさらされるなど長年過酷な環境下に置かれることで、徐々に経年劣化が生じます。
また、柱や梁など構造体が痛むことで耐震性などにも問題が生じ、もはや安全性を担保できる建物ではなくなってしまいます。
家主にとって、倒壊の危険性が高い建物に賃借人を居住されることはできません。
よって、今回の立ち退き要求に繋がっているわけです。
では実際に、建物の老朽化が原因で正当事由が認められるには、どのような点がポイントになるのでしょうか?
建物の老朽化を正当事由となる場合の基本的なポイントは、「適度な維持管理をこれまで行ってきたか?」となります。
つまり、建物は外壁や内装などの維持管理を定期的に行っていたにも関わらず、「経年劣化に勝てなかった」ということです。
仮に、適切な維持管理を怠った上で建物が劣化したから出て行ってほしいというのは、正当事由にはならないという解釈となります。
では、適切な維持管理をこれまで行ってきたという前提のとき、建物の現況ではどのような点がポイントになるのでしょうか?
正当事由が認められるためのポイントについて3つご紹介します。
まずは、建物の老朽化具合です。
経過年数や残存年数、また躯体(建物の骨組み部分)や柱、構造壁などの劣化具合、雨漏りや配管の水漏れなど日常生活に支障が出ているかがポイントです。
つまり、建物の自体の耐久性や耐震性に難があり、快適性が損なわれている建物であるのかがポイントのひとつとなります。
次に、補修自体が可能な建物であるのかとなります。
極端なことを言うと、今にも崩れ落ちそうな建物であれば補修は不可能と言えます。
また、「補修が可能であったとしても、建物の耐震化や耐久性の向上など建物全体の補修費用が莫大になってしまうのか」なども重要です。
つまり、建て替えをする費用とあまり変わらない、もしくは補修するには莫大な費用がかかり過ぎるなどになります。
最後に、建物が立地する地域に適した住宅であるのかです。
たとえば、冬場は雪が多いところに立地しているにも関わらず、壁などに隙間が多い住宅では賃借人の快適性は担保できません。
また、閑静な住宅街であるにも関わらず廃屋のような見た目の建物であれば、地域に適した住宅とは言えないケースもあります。
よって、建物の老朽化で正当事由を求めるには、以上に紹介した項目を総合して判断されます。
ここで、上記⑤について考えてみましょう。
これは一般的に立ち退き時に要求される立ち退き料についてとなります。
立ち退き料は、原則家主側に負担する義務はありません。
しかし、一般的に立ち退きでは、賃借人の引っ越しなどに掛かる実費と迷惑料として立ち退き料が支払われることが大半です。
立ち退き料は、実質立ち退きの和解金のような立ち位置でもありますが、立ち退きの正当事由を補完する意味合いで支払われます。
立ち退き交渉は、一般的に弁護士を立てて行うと、話し合いを円滑に進めやすくなります。
本章では、建物の老朽化が立ち退きの正当事由として認められるケースを具体的に紹介していきましょう。
過去の判例をもとに紹介していきます。
建物の老朽化に加えて、耐震性能が不十分であることで正当事由が認められた判例があります。
該当の建物は東京都中央区に所在し、昭和49年に建設された9階建ての鉄筋鉄骨コンクリート造りでした。
本件建物は、従来ひび割れや雨漏りなどの経年劣化が見られ、耐審診断では「十分な耐震性を有していない」と判定されています。
単に建物が古いだけでは、正当事由は認められない可能性が高かったでしょう。
しかし、耐震補強工事費用を行うと新築工事費用の半額程度に達することが判明しました。
建物を取り壊して新築工事を行ったほうが、経済合理性を有すると認定されています。
つまり、耐震補強工事を行ったとしても既に経年劣化がある建物の寿命は短く、建て替えを行ったほうが合理的で社会通念上無駄がないと判断されました。
これは、家主側の正当事由が認められた判例となっています。
参照元:東京地裁平成22年12月27日/建物の耐震強度不足による立ち退きの判例
正当事由が認められるのは、老朽化に加えて建物の安全性を脅かす危険性があることや社会通念上合理的ではないときです。
つまり、老朽化+αで複合的な要因が重なると家主側の正当事由が認められる可能性が高まります。
なお、先述では耐震強度不足によって正当事由が認められましたが、耐震強度不足があれば必ず認められるということではありません。
正当事由は、裁判所が様々な状況を鑑み総合的に判断を下します。
建物の老朽化による立ち退きで、立ち退き料を交渉するにはコツがあります。
また、家主側から立ち退き要求があるということは、一刻も早く出て行ってほしいという気持ちの表れでもあります。
最終的には立ち退きに同意するものの、交渉次第では立ち退き料を多く貰うことができるでしょう。
では、下記に立ち退き交渉のコツについてご紹介していきます。
家主側に立ち退きが必要な理由を聞き、正当事由の有無を確認します。
なお、一般的に正当事由と立ち退き料には以下のような関係性があります。
つまり、立ち退きの必然性が社会通念上高ければ立ち退き料は低めです。
一方で、立ち退きの必然性が低ければ立ち退きは賃借人にとっては不利益になるため、立ち退き料は高めとなる傾向があります。
仮に立ち退き料が低く設定されていれば、賃借人側は提示された金額に即座に納得せず、次で紹介する意思を一度伝えておきましょう。
一度、家主側には立ち退きの意思がないことを伝えておきます。
つまり、立ち退きの意思がないように振る舞うことで立ち退き料のアップを目的としています。
また、物件の必要性をアピールするのもよいでしょう。
たとえば、経済的に他の賃貸への転居はできない、重い病気を患う親の介護で実家に近いこの家が必要などです。
家主側もできるだけ早く立ち退き交渉をまとめたいと考えています。
賃借人側に立ち退きの意思がないことを伝えられれば、早急に交渉をまとめようと立ち退き料の増額を検討するでしょう。
家主側の再度の提示を待って、交渉を進めていくようにします。
立ち退きによる引っ越し代などの実費や損害等についてまとめておきます。
賃借人が立ち退きに掛かる主な実費は、以下に挙げたとおりです。
また、損害額については、引っ越し先との差額家賃や店舗運営であれば休業中の営業収入などが該当します。
これら請求を裏付ける根拠となる、見積書や契約書などを準備しておきましょう。
立ち退き交渉は弁護士に依頼します。
ここまでお伝えした内容を立ち退き交渉の素人が行うことは、大変難しいことです。
特に正当事由の判断などは、弁護士など借地借家法に詳しい専門家の意見が必要となります。
よって、立ち退き交渉に強い弁護士への依頼がおすすめです。
立ち退き交渉から立ち退き料を受け取るまでの流れをご紹介します。
立ち退き料の目安は一般的に家賃の5~6ヶ月分と言われています。
よって、立ち退き料の交渉では、家賃の半年分を目指して交渉を進めるとよいでしょう。
なお、立ち退き料は一般的に部屋を引き払い、鍵を家主側に返却する当日に振り込まれるケースが大半です。
建物の老朽化は、賃借人の安全性が担保できないおそれがあるため、正当事由として認められるケースは多いでしょう。
また、社会通念上正当事由としては強い事項にはなるので、立ち退き料は当初低めに設定されることが想定されます。
立ち退き交渉は素人では難しい部分が多くあるため、交渉自体は弁護士に依頼し進めていくことで満足のいく交渉結果を得られるでしょう。