立ち退き料とは、物件の賃貸人)が賃借人に対して「物件の明渡し」を求める際に、その代償として支払う金銭のことです。
立ち退きは、通常であれば期間満了の6カ月~1年前に通知する必要があります。
しかし、場合によっては急な立ち退きを求められるケースもあるでしょう。
また、立ち退き料は「所得」に該当するため、受け取った側には税金が発生します。
税金の計算方法を間違えると、今後の資金計画に影響が出る可能性もあるため注意が必要です。
この記事では、引っ越し費用は一時所得として控除できるのかについて解説します。
また、立ち退き料にかかる税金の計算方法、確定申告の方法などについてお伝えしますので、今後の参考にしてください。
目次
結論からお伝えすると、立ち退きに伴う「引っ越し費用」は一時所得として立ち退き料から控除することができます。
立ち退きを要求された賃借人は、新しい引っ越し先を探し、移転するために費用がかかります。
たとえば、以下の費用が挙げられますが、これらも控除することが可能です。
先述した通り、立ち退き料は「所得」に該当するため、原則として税金が発生します。
所得とは、収入から経費を差し引いた金額のことです。
つまり、受け取った立ち退き料から経費を差し引いて、手元に残った金額に対して税金がかかるということです。
したがって節税するためには、引っ越し費用等が経費として控除できるかが重要なポイントになります。
立ち退き料にかかる税金は、賃貸借契約の内容や立ち退き料を誰から受け取るかなどによって、発生する税金の種類が異なります。
立ち退き料は、大きく分けて以下3つの税金がかかります。
税金の種類 | 条件 |
---|---|
所得税 | 個人が立ち退き料を受け取った場合 |
法人税 | 法人が立ち退き料を受け取った場合 |
消費税 | 賃貸人以外から立ち退き料を受け取った場合 |
ここでは、立ち退き料にかかる税金の種類を知るとともに、所得税の計算方法をお伝えします。
個人が賃貸人(オーナー)から立ち退き料を受け取る場合は、「所得税」が発生します。
所得税は10種類の所得区分に分類されていますが、立ち退き料が該当するのは以下の3種類です。
項目ごとに概要や具体例、計算方法を解説します。
譲渡所得とは、不動産の売却や有価証券など資産の譲渡によって生じる所得です。
立ち退き料が譲渡所得に該当するのは、借地権等の権利が消滅する対価として立ち退き料を受け取った場合です。
たとえば、自分が借りているマンションを明け渡すことによって立ち退き料を受け取った(借地権の消滅にかかる対価)場合は譲渡所得となります。
なお、譲渡所得は以下の計算式で求められます。
計算式
譲渡所得=立ち退き料(収入)-移転費用(経費)-特別控除額
特別控除には2パターンあります。
事業の休業による補填として立ち退き費用を受け取った場合は、事業所得となります。
主に、立ち退き対象となった物件を店舗や事務所として利用していたケースが該当します。
事業所得は、以下の計算式で求められます。
計算式
事業所得=総収入額-必要経費
なお、総収入額は「事業で得た利益+立ち退き料のうち事業の休業による補填として受け取った額」の合計です。
慰謝料のような意味合いで受け取った立ち退き料は、一時所得に該当します。
また、これまでに紹介した譲渡所得と事業所得どちらにも該当しない場合は「一時所得」として扱います。
一時所得は、以下の計算式で求められます。
計算式
一時所得=総収入額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最大50万円)
同年に、立ち退き料の他にも一時所得の対象となる収入があった場合、それらの金額を合算して総収入額を算定します。
そこから収入を得るために支出した金額を差し引き、さらに最大50万円の特別控除を差し引くことで一時所得を求めることができます。
立ち退き料を法人として受け取った場合は、所得税ではなく「法人税」が課せられます。
法人税は、法人の所得に対して課せられる税金ですが、個人所得とは異なり所得区分がありません。
したがって、所得の発生理由に関係なく、すべての所得が合算され、法人税額の基礎として計上します。
なお、法人税の税率は次の通りです。
区分 | 適用関係 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
2016年4月1日以降 | 2018年4月1日以降 | 2019年4月1日以降 | 2022年4月1日以降 | ||||
普通法人 | 資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | 15% | 15% |
適用除外事業者 | 19% | 19% | |||||
年800万円超の部分 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% | |||
上記以外の法人 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% |
税率は法人格によって異なりますが、一般的に800万円以下は15%、800万円超の部分は23.2%です。
入居者が賃貸人から立ち退き料を受け取る場合は非課税です。
一方で、賃貸人以外の第三者から立ち退き料を受け取った場合は「消費税」の課税対象となる可能性があります。
ただし、第三者から立ち退き料を受け取った場合でも、以下の2つの要件を満たさなければ、課税対象にはなりません。
消費税に関する判断は、専門的な知識が必要になるため、不安な方は弁護士や専門家に相談することをおすすめします。
立ち退き料の受け取りは、「譲渡所得」「事業所得」「一時所得」いずれかの所得区分に該当し、課税対象となるため原則、確定申告が必要です。
しかし、確定申告をする前に、以下の点についてあらかじめ確認しておきましょう。
項目ごとに解説します。
一時所得には、50万円という特別控除が設けられているため、立ち退き料を含む総収入額が50万円以下であれば課税されません。
また、給与所得者(会社員)で、一時所得の金額が20万円以下であれば、原則として確定申告を行う必要はありません。
特別控除額を上回る場合は、所得税が課せられるため、確定申告が必要です。
一時所得で所得税の確定申告が対象外となった場合でも、一時所得が1円以上あるなら住民税の申告は必要です。
住民税は、確定申告を行えば自動的に税務署から自治体へ送付されるため、別で申請する必要はありません。
ただし、一時所得が20万円以下で、住民税のみを申告する場合には市区町村の窓口で申告する必要があります。
忘れずに申告を行いましょう。
それでは、一時所得を得たときの確定申告の書き方や必要書類、提出方法を確認しておきましょう。
確定申告で重要となるポイントは、以下の5つです。
項目ごとに見ていきましょう。
確定申告の期間は、受け取った翌年の2月16日~3月15日までの1カ月です。
ただし、初日と最終日が土曜・日曜・祝日の場合は翌日に繰り上げされるため、注意してください。
万が一この期間内に申請が間に合わなければ、加算税が課せられます。
また、期限までに納付しなかった場合は延滞税がかかる可能性があるため、注意が必要です。
確定申告を行う際は、以下の書類が必要になります。
なお、給与所得者と個人事業主で一部異なりますので、漏れがないよう事前にしっかり確認しておきましょう。
給与所得者、個人事業主共通で必要な書類は以下の通りです。
次に、給与所得者と個人事業主それぞれが必要なものは以下の通りです。
給与所得者の場合、年末調整を行うため確定申告は必要ありません。
ただ、年末調整で控除できない寄付金控除や雑損控除、および医療費控除の申請をする場合には確定申告が必要です。
一時所得を申告する際は、以下の手順で確定申告書を記入しましょう。
なお、確定申告書は国税庁のホームページ「確定申告書等作成コーナー」で作成し、電子申告することも可能です。
詳しくは、国税庁 確定申告書等作成コーナーをご確認ください。
確定申告書の提出方法は、「税務署へ直接提出する」「税務署へ郵送する」または「e-Taxを利用して電子申告する」という3つの方法から選択することができます。
ただし、税務署によっては期間中かなり混雑するため、e-Tax(電子申請)を利用した申告がおすすめです。
e-Taxを利用すれば、所得金額や税金の計算はすべて国税庁のサイト内で行われるため、計算ミスのリスクが低減できます。
参考:国税庁電子申告・納税システム 「e-Tax」
「混雑を避けたい」「平日仕事を休めない」「パソコンが苦手」という方は、郵送での申告を検討しましょう。
確定申告書に不備があると、再度提出する手間がかかります。
確定申告書を提出する前に、以下の点を確認しておきましょう。
特に、申告期間は1カ月と短いことや、期間内に申告しないとペナルティが課せられる可能性があるため、必ず期間内に申告できるよう早めに準備を進めておきましょう。
立ち退き料を受け取ると、所得税や法人税の課税対象となり、税金の計算や確定申告をしなくてはなりません。
税金計算や確定申告に関することで不安がある場合は、弁護士や税理士などに相談することをおすすめします。
専門家のサポートを受けることで、トラブルのリスクを低減し、スムーズに手続きを進めることができるでしょう。