マンションが老朽化したことにより空室が目立ってきたからマンションを建て替えたい、という方はいらっしゃいませんか?
立ち退きはなんだか難しそうだからマンションの建て替えはできないのではないか、という思いもあるでしょう。
しかし、立ち退きの対策方法などを理解した上で、一般的な金額の立ち退き料を支払えば、退去をさせることは可能です。
ただし、一般的な金額というものには、根拠が必要です。
立ち退き料には、退去させることに対する各種補償の意味があるためです。
本稿では、そもそも立ち退き料とは何か、立ち退き料の計算方法、立ち退き料にはどのような補償の意味があるか、賃貸マンションの建て替えまでどういった流れになるのかを解説します。
目次
立ち退き料とは、大家が賃貸物件を貸している人に対して、強制的に退去させることへの対価として支払う金銭のことです。
大家の都合で入居者を退去させ、退去するにあたってかかった費用の補填・慰謝料などを総称して立ち退き料と呼んでいます。
賃貸借契約を締結したときに、2年間の賃貸借契約としているので、2年経てばあっさりと退去してもらえるのではないか、と思う賃貸経営者の方がいるかもしれません。
しかし、借地借家法によって賃貸借契約は更新されることが原則となっています。
そのため、大家から契約解除を申し入れることはできず、退去させる際には更新をしないことをあらかじめ入居者に伝えた上で、立ち退き料を支払うことが一般的となっています。
立ち退き料の計算には、具体的な計算式が存在しません。
そして、相場というものも示しづらいのが特徴です。
そのため、立ち退き料は以下のことを考慮して総合的に算出します。
引っ越し費用や荷物の片付けなどの退去するための費用と、新しく住む物件の仲介手数料やインターネットなどの設備導入費用などの入居する費用を補償します。
これらの費用はあくまで実費でどのくらいかかるのかという考え方をします。
マンションの賃貸借契約があるため、賃借人にはマンションを借りる権利があります。
住まいを借りる権利は、借地借家法で認められた権利です。
この法律で認められた権利を失うのは、賃借人にとって大きなマイナスになります。
そのため、このマイナス分の補償をしなければいけません。
なお、賃料が世間一般の相場より安く貸していた場合、入居者にとっては家賃が少なくて済む権利を消されたことになります。
相場より今貸しているマンションの賃料が安い場合は、立ち退き料が高くなる可能性があります。
仮に、立ち退きしてもらう人がマンション内で店舗や事務所として利用していた場合などが該当します。
営業についての補償は広範囲に渡るため、高額の立ち退き料が発生することがあります。
次に、賃貸マンションの建て替えによる立ち退き料の内訳を詳細に説明します。
移転の費用と考えられる主な項目は以下の通りです。
移転に関係する費用 | 引っ越し代金や荷物の輸送や、内装の取り壊し費用など |
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新居の初期費用 | 新しい物件の家賃と退去する部屋の家賃との差額、礼金、仲介手数料、火災保険、地震保険など |
通信関係の費用 | 新たな電話回線を引く費用やインターネット等の通信費用など |
迷惑料 | 新しい物件に移転する際の精神的ストレスなどを考慮した費用 |
移転の費用に関しては、退去する方が支払うであろう実費を考慮します。
この実費がどれくらいかかりそうかを計算することにより、ある程度は費用のめどがたてられます。
権利を消滅させる対価の補償としては、主に以下の計算式を用います。
なお、消滅してしまう権利のことを借家権と呼びます。
移転先の賃料が月額10万円だとして、退去するマンションの賃料が8万円した場合
36万円~48万円(借家権) = (10万円(移転先賃料) – 8万円(退去賃貸物件賃料)) × 1.5年~2年
となります。
この考え方は、事例の1つと捉えてください。
この計算方法通りになるかどうかは、その他の要素も複雑に絡んできます。
その他の要素に当てはまるケースは以下の通りです。
たとえば、建物が老朽化して住むのに危険な状態になってきた場合は立ち退き料が減る可能性がありますが、建物の危険度が高ければ高いほど減額の割合が大きくなる傾向があります。
入居者が高齢で立ち退きが難しい状態となれば、金額が増える可能性もあります。
逆に、他に住むところがあり、ほとんど立ち退きする賃貸物件に住んでいない場合は、立ち退き料が減少します。
このように、立ち退き料の金額は大家・入居者側それぞれの事情を鑑みて決定することになります。
マンションの立ち退き料は、移転の費用と借家権の消滅対価を足したものになります。
退去する部屋は住居として考慮しているため、営業権の補償については加味していません。
立ち退きに関しては専門家に相談することが大切です。
特に、店舗などがあり営業権の補償が必要になる場合は必ず相談しましょう。
立ち退き料の金額が一般住居の入居者に比べ、多額となるケースが多く発生しています。
ここからは賃貸マンションの建て替えの流れと、おおよその期間を説明します。
賃貸マンションの建て替えの計画は、余裕を持った立案が不可欠です。
マンションの立ち退きや、マンションの建築に必要な期間を考えると、事業として3年以上かかると考えるとよいでしょう。
立ち退きがすんなり終わればよいのですが、退去には時間がかかるとみておいた方が安心です。
また、賃貸マンションの建て替えの事業計画には、立ち退き料も経費としてみておきましょう。
正確な金額の立ち退き料を経費としてみておかないと、収益率が思ったような数字にならなくなる可能性があります。
賃貸マンションの入居者募集を不動産管理会社に委託している場合は、新規入居者募集を打ち切るように伝えましょう。
入居している人が増えれば増えるほど立ち退き料は高額になり、立ち退きに時間がかかってしまいします。
入居者募集をストップすることにより、空き家が増え、賃料収入が少なくなることに抵抗があるという方には、定期借家契約がおすすめです。
定期借家契約は、相場の賃料より月額賃料は安く設定する必要があるものの、決めた期間しか入居者は住めない契約です。
そのため、決まった期間が経過した後、立ち退き料は必要なく退去してもらえます。
賃貸マンション建て替え計画が決まったら、早々に入居者全員に対して立ち退きを実施することの説明を行いましょう。
立ち退きの説明は早ければ早い方がよいでしょう。
立ち退き実施日に近い日付で説明されても、入居者は移転先などに苦慮してしまいます。
金銭的な部分と、気持ちの部分の両方に配慮しなければいけません。
立ち退き料の支払時期については、原則、建物の明け渡し日と同日にします。
また、大家と入居者の同意があれば、立ち退き料の支払時期は変えることができます。
たとえば、明け渡し前に立ち退き料の半分を支払い、残りを明け渡し当日に支払うということも可能です。
入居者からすると、新しい住まいの初期費用の支払いは前の部屋の明け渡し前に支払わなければいけないため、明け渡し日より前に立ち退き料を受領したいと考えます。
しかし、明け渡し前に立ち退き料を支払うことは、大家にとってはリスクになるので気をつけましょう。
なぜなら、先に支払った立ち退き料を入居者が使ってしまい、明け渡し日になっても退去してくれないということもあり得ます。
このようなトラブルが発生しないように、支払い期日についてはしっかりと検討しましょう。
賃貸マンションの解体には1ヶ月から6ヶ月ほどかかります。
また、マンション建築工事には9ヶ月から18ヶ月ほどかかります。
解体する期間も、建築する期間もマンションの規模に大きく左右されますので、あくまで期間は目安です。
入居者の退去からマンション解体、新築マンション竣工まで3年以上、長いときは5年以上かかる大プロジェクトとなるケースもあります。
賃貸マンションの建て替え計画は、腰を据えて行うという意識が大切です。
賃貸マンションの建て替えに関する立ち退き料について解説しました。
立ち退き料には、入居者に対する補償という意味があります。
この補償をしっかりと支払えば立ち退きは可能です。
補償内容を把握せず、立ち退き料の金額をあいまいに設定するとトラブルになりかねません。
賃貸マンションの建て替えは計画立案の段階から、立ち退き料も詳細に検討し、計画の経費としてみるようにしておきましょう。
また、入居者にも早目の退去説明をすることで、入居者の不安を軽くすることができます。
こういった入居者の説明などの配慮も、賃貸マンション建て替え計画に盛り込み、トラブル防止に努めていくことが大切です。
入居者に対して十分に配慮し、間違いのない金額である立ち退き料を支払うことによって、円滑に計画が進んでいくことでしょう。