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立ち退き料とは、賃貸人(大家)都合で賃借人(入居者)に退去してもらう際、賃借人の引越しや損害などを補てんする金銭です。
賃貸人の都合で退去してもらうため、賃借人が次に入居する賃貸物件の初期費用や引っ越し代金などの立ち退き料を支払うのが一般的です。
とはいえ、立ち退き料の支払いは、法律上規定されていないため、支払い義務が生じるわけではありません。
場合によっては立ち退き料が発生せずに、退去せざるを得ない場合もあります。
しかし、円満に退去してもらうために支払うケースがほとんどです。
賃貸アパートを解体し、賃借人を退去させる場合、賃貸人は立ち退き料を極力抑えたいと考えます。
しかし、賃貸アパートを解体する場合、賃借人に立ち退き料を払わずに退去させるのは難しいと考えた方がよいでしょう。
賃借人は借地借家法により住む権利を保証されているため、立ち退きに応じない権利も持っています。
立ち退きをさせると、この権利を剥奪する結果になるため、退去させる正当な事由に加えて立ち退き料の支払いが必要です。
立ち退き料は、立ち退きの正当な事由を補完する役割があります。
しかし、立ち退き料には金額計算・立ち退き料支払いの法的根拠がなく、立ち退き料を決定する場合は裁判の判例内容を参考にします。
一方、賃借人に退去してもらう際、立ち退き料が不要となるケースもあります。
ここでは4つのケースを紹介します。
入居者に契約違反があった場合 | 数カ月の家賃滞納や第三者へ又貸し、許可を得ずに改築など、賃貸借契約の規約違反があった場合は、解約ではなく、債務不履行による解除として扱われるケースが多く、立ち退き料は不要となります。 |
定期借家契約の期間満了の場合 | 契約期間の更新がなく、期間が満了によって賃貸借契約が終了する定期借家契約の場合、契約期間満了時の立ち退きに関しては立ち退き料は発生しません。 |
一時使用目的賃貸借契約の場合 | すでに取り壊し予定がある旨を賃貸借契約時に賃借人が知っているうえで入居するなど、一時使用目的賃貸借契約の場合は立ち退き料が発生しないケースもあります。 |
建物に重大な危険が発生した場合 | 自然災害などによって、物件に重大な危険が発生した場合、立ち退きしてもらう正当な事由に該当し、立ち退き料が不要となるケースもあります。 |
立ち退き料は、賃借人が契約違反を行って一方的に契約解除できる場合や、定期借家契約または一時使用目的賃貸借契約などの場合、不要となるケースが多いです。
立ち退き料は、立ち退きによる賃借人の損失を補償する意味を持つため、立ち退き料は賃借人の損失を合計した金額になります。
一般的にアパートの取り壊しによる立ち退き料の相場は、家賃の6~10カ月分と言われています。
それでは、どのような損失を考慮しなければいけないのかを紹介します。
アパートの立ち退き料の内訳は次の通りです。
上記の内訳は、入居者が引っ越しをする際に実際にかかる費用であり、立ち退きによる引っ越しがなければ発生しなかった費用ばかりです。
これ以外にも立ち退きの経緯や入居者の状況によって、慰謝料や迷惑料として立ち退き料の金額が上乗せされる場合があります。
例えば、立ち退きしてもらう理由が「大家の家族が引っ越してくるので、部屋を空けてほしい」といった個人的な理由の場合には、入居者に納得してもらうのは難しいでしょう。
このような場合、通常の立ち退き料より金額を上乗せして、多めの立ち退き料を支払うケースがあります。
ここでは、立ち退き料の計算方法を3つ紹介します。
上記の計算方法は、不動産の鑑定評価で用いられる借家権の求め方です。
借家権とは、建物を借りる際に生ずる賃借人側の権利を指し、入居者が不当に退去させられないように保護するのを目的としています。
借家権を算出して立ち退き料を算出する場合もあるため、ひとつずつ紹介します。
ただし、アパートの立ち退き料では、上記の計算方法を使うことはほとんどありません。
アパートの立ち退き料については、「立ち退き料の計算例」の項目も参考にしてください。
収益還元方式とは、差額賃料還元方式とも呼ばれています。
引っ越し先の賃料から現在の賃料を差し引いた金額に対し、現在価値を求めるための係数(複利年金現価率)をかけて算出します。
複利年金現価率は、国税庁の「令和5年分の基準年利率について」で確認できます。
例えば、現在の賃料は8万円で移転先の賃料が10万円の場合、毎月2万円の差額が生じます。
複利年金現価率を0.01と仮定すると、借家権は200と分かります。
収益還元方式では、差額分の賃料を1年や2年間にわたって補償する考え方で計算します。
割合方式とは、借地権割合と借家権割合を土地の価格にかけて借家権を算出する方法です。
借地権割合とは、土地の価格に占める借地権の価格が占める割合を指します。一方、借家権割合とは、土地や建物の相続税評価額を計算式に算入する割合です。
借地権割合は国税庁の「財産評価基準書」で確認でき、おおよそ60%〜70%が多いです。
借家権割合は、全国一律で30%と設定されています。
ただし、建物も築年数が経ち、価値が0に近い場合は計算式に上乗せしません。
収益価格控除方式とは、自用としての土地建物価格から借地としての土地価格を差し引いて借地権を算出する方法です。
賃貸人が利用した場合の不動産の価格から、借家として利用している場合の不動産の価格を差し引いて借地権を算出する方法です。
借家として貸すと不動産の価値が下落する場合は、自用として利用した分の差額が借地権に相当する考え方になります。
そのため、不動産を貸し出すと価値が下がるのであれば、立ち退き料も高くなります。
例を挙げて立ち退き料の計算をしてみましょう。
事例立ち退く住居の家賃は月額8万円、新居の家賃は月額10万円とした場合
この計算式で計算した金額に、迷惑料・慰謝料を上乗せした金額が立ち退き料の基準になります。
今回の計算では、およそ家賃の10カ月分の計算になり、大体家賃の6〜10カ月分で収まるとわかります。
アパートの取り壊しによる退去の流れは以下の通りです。
アパートの解体計画を決めた場合には、まず賃借人に対して説明会が開催されます。
なぜアパートの解体を行うのか、また退去の期限などを確認します。
アパートの解体開始予定日のおよそ半年前に開催されるケースが多いようです。
また立ち退き料の基本計算は先述した通りですが、賃借人に特別な事情がある場合は立ち退き料の上乗せが必要です。
上乗せする事情としては以下が考えられます。
賃貸人は賃借人の状況を確認してどれくらい補償するかを考慮する必要があります。
提示した内容で立ち退き合意が得られればよいのですが、スムーズにいかない場合はお互いに譲歩を検討しましょう。
敷金を期間に関係なく全額返還する、賃貸人が賃借人の新居の手配をするなどの案を考えておくとよいでしょう。
賃貸アパートの全世帯から退去の合意が取れたら、順次退去を開始します。
立ち退き料の支払いは基本的に退去の完了後ですが、引越し費用や転居先の初期費用を考慮し事前に支払う場合もあります。
全ての立ち退きが完了したら、賃貸人は解体業者に連絡をして解体を開始します。
立ち退き完了までには、賃貸アパートの入居者への説明から6カ月~1年程度の期間がかかります。
立ち退きには時間がかかると思い、余裕をもった計画を立案しましょう。
貸主が立ち退き料を支払ってくれない場合は、弁護士へ相談しましょう。
立ち退き料を支払ってもらえない場合、借主は立ち退きを拒否できますが、貸主とトラブルになる可能性も高いです。
また、賃貸借契約書に「立ち退き料は支払わない」と記載されていても、借地借家法により特約事項は無効となります。
賃貸借契約時に立ち退き料の支払有無についての説明を受けていたとしても、貸主都合による退去は、立ち退き料を支払ってもらうのが一般的です。
自分で貸主に交渉しても構いませんが、トラブルのもとになるため専門家に相談するのをおすすめします。
立ち退き料は、賃貸人と賃借人が合意できる金額で決まります。
賃貸人としては「安く抑えたい」、賃借人は「できるだけ多く請求したい」と考えており、立ち退き料がまとまらず、交渉がうまくいかない可能性も高いです。
交渉をスムーズにすすめるためにも、ここでは賃借人側が立ち退き料の交渉を成功させるコツを紹介します。
賃貸人との立ち退き交渉では、立ち退き料だけでなく、引っ越し先の代替物件の提供も交渉しましょう。
自分で引っ越し先の物件を探しても良いですが、仕事で多忙な方や、お子様がいる家庭では物件を探す時間もなく、期限までに見つけられない可能性があります。
期限内に引っ越し先が見つかっていなかったとしても、借主は退去しなければなりません。
退去告知を受けた際、賃貸人に物件の情報を複数依頼しましょう。
依頼時に希望エリア、間取り、家賃などを伝えておくと、気になる物件を厳選でき、内見回数を抑えて選べます。
ただし、賃貸人が所有する物件を紹介され、立ち退き料が減額となる可能性があるでしょう。
借地借家法での財産上の給付は、所有している他の物件をあてがう行為も該当するためです。
とはいえ、良い物件を紹介してもらう条件で立ち退き料の減額に応じる姿勢を見せ、スムーズに話がまとめられる可能性はあります。
立ち退き料ばかりを重視するのではなく、引越し先での生活を考慮し、上手に交渉しましょう。
賃貸借契約期間は、契約違反や家賃滞納をしないようにしましょう。
立ち退き交渉時や入居中に契約違反や家賃滞納をすると、強制的に退去させられ、立ち退き料がもらえないリスクも高いです。
例えば、ペット不可物件であるのにペットを飼育していたり、居住用として契約しているのに事務所利用などは契約違反に該当します。
契約違反を行っていると立ち退き料をもらえずに契約解除となり、退去させられます。
また、家賃も数カ月滞納していると、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されたと判断される可能性も高いです。
その結果、立ち退き料を支払われずに立ち退きを求められる場合があります。
賃借人は普段から契約違反と家賃滞納はしないように注意しましょう。
貸主側の事情も考慮すると、立ち退き交渉がスムーズに進みます。
交渉なので自分の主張が100%通らない場合があります。そのため、相手の意見を汲み取り、折り合いを付けるようにしましょう。
特に、立ち退き料に関しては、お互い意見が異なる場合が多いです。
賃貸人は引っ越し先の物件の家賃を低くして、立ち退き料をできるだけ安く抑えたいと考えるのに対し、賃借人は新築物件などに引っ越しできるチャンスなどと考えている人もいらっしゃいます。
その結果、意見の折り合いがつかず、立ち退き交渉が難航する可能性も高まるため、貸主の意見も尊重してあげましょう。
まずは、立ち退きしてほしい理由をしっかり確認し、貸主の事情を汲み取るところから始めましょう。
アパートの退去時には、原状回復費を賃貸人に支払いますが、取り壊しによる立ち退きの場合は免除してもらえます。
原状回復とは、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損の復旧」をすることです。
通常暮らしている中で発生する経年変化や通常損耗については、原状回復を行う必要がありません。
例えば、家具を設置して床に傷がついたところや、冷蔵庫やテレビの後ろの黒ずみ(電気やけ)などは、貸主負担で原状回復します。
しかし、子どもがクロスに落書きしてしまったり、家の中で遊んでエアコンなどを破損させてしまった場合は、入居者負担で原状回復を行う必要があります。
アパートを取り壊しする予定がある立ち退きであれば、原状回復する必要がないため、貸主へ原状回復費を免除してもらう交渉を行いましょう。
立ち退き交渉をする際は、敷金を先に返却してもらうようにしましょう。
敷金は賃貸物件を借りるときに賃貸人へ預ける保証金を指し、賃貸借契約時に家賃の1カ月や2カ月分を支払っているケースが多いです。
もちろん敷金0円で賃貸借契約を締結していれば、返還されません。
敷金は退去時の原状回復費や滞納分の家賃に充当されます。
過去に家賃滞納などで充当されなければ、原状回復費にも充てる必要がないため、返還してもらえます。
ただし、引っ越し先の敷金に関しては、賃借人に返還されるため、現状の敷金との差額分を支払われるケースが多いです。
立ち退き交渉をする際は、敷金についても借主と話し合いを行っておきましょう。
立ち退き交渉次第では、退去までの賃料の支払免除をしてもらえる場合があります。
賃料収入は賃貸人にとって大きな収入源となるため、そもそも免除されないのが一般的です。
しかし、「賃料免除をしてもらう代わりに早期に退去する」などの条件で合意できる可能性もあるため、交渉次第では家賃を支払わなくて済む場合もあります。
ただし、賃料免除をする代わりに立ち退き料を支払わない条件を提示される場合もあります。
立ち退き料は一般的に家賃の6〜10カ月分ほどで、立ち退き告知は6カ月前と定められています。立ち退き料をもらえる方が賃借人にとってはメリットが大きいケースが多いため、比較してどちらが得になるのか、または家賃の免除と立ち退き料をもらえる双方の条件に合意してくれるか交渉してみましょう。
取り壊した後に新築アパートが建築される場合、再入居の確約を交渉するのも一つの方法です。
賃貸人にとっては入居者の確保ができ、賃料収入が確定するメリットがあるため、立ち退き料や次の入居時の初期費用を安くしてくれる場合もあります。
しかし、アパートを解体して建て替えするとなると、おおよそ6カ月〜1年ほどの工事期間がかかるため、その間は違う物件に引っ越ししなければいけません。
また、違う物件に引っ越ししても、一般的に賃貸借契約期間は2年間であり、途中解約すると違約金が発生します。
定期借家契約であれば短期間の入居が可能です。
そもそも定期借家契約ができる物件数が少ないため、タイミングよく新築アパートに入居できない可能性も高いです。
完成時期に合わせた期間、入居できる物件があれば、再契約を検討してみてもよいでしょう。
立ち退き料の交渉は、難航する可能性も高く、意見の相違からトラブルになる可能性も高いため、弁護士への相談をおすすめします。
当事者同士で立ち退き料の折り合いがつかないと、最悪の場合、裁判まで発展し、時間と労力を費やしてしまいます。
あらかじめ双方の仲介役として弁護士に相談し、適切な立ち退き料の交渉を依頼していたほうがよいでしょう。
また、立ち退き交渉は、原則弁護士しか行えません。
知り合いの不動産会社などに依頼すると、弁護士でない者が弁護士行為を行う非弁行為に該当し、懲役や罰金を支払う場合にもなりかねません。
さらにトラブルが発生した際、法的な観点からの対処ができない可能性も高いため、弁護士に相談しましょう。
アパートが取り壊される場合、基本的に貸主は借主に立ち退き料を支払わなければなりません。
アパートの立ち退き料は、家賃の6~10ヶ月分が相場と言われています。
立ち退きの経緯や状況によっては、通常の立ち退き料に慰謝料や迷惑料を上乗せして、多めの立ち退き料を支払う場合もあります。
立ち退きを要求される側である借主は、納得できる立ち退き料を支払ってもらえるよう工夫が必要です。
立ち退き料の相場や計算方法を理解し、効果的な交渉を行いましょう。
立ち退きはトラブルが起きやすいため、立ち退き交渉に不安がある場合は専門家である弁護士に相談をおすすめします。