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普通借家契約とは、借主の生活を長く安定させることを目的とした賃貸契約の形式です。定期借家契約と区別するため”普通”という言葉が使われています。アパートやマンションの契約で広く採用されており、三大都市圏における賃貸物件では94.7%が普通借家契約での契約となっています。
この契約では、貸主が更新を拒否する場合に正当事由という合理的な理由が必要になります。「建物の老朽化・耐震性の問題で建て替えの必要がある」「借主による契約違反があった」などがあると、貸主は更新を拒否できるとされています。
普通借家契約は、長く暮らすことを前提に住まいを探す人にとって安定性が高く、契約内容を理解しておくことで更新や立ち退きに関する不安を減らしやすくなります。
普通借家契約と並んで利用される形式に定期借家契約があります。言葉は似ていますが、契約の仕組みが全く異なるため、両者の違いを理解しておくことが重要です。
| 項目 | 普通借家契約 | 定期借家契約 |
|---|---|---|
| 更新の扱い | 更新が前提で、自動更新の物件が多い | 更新の仕組みがなく、期間満了で終了 |
| 契約満了後の扱い | 住み続けられる | 退去が必要になる |
| 更新拒否の要件 | 正当事由が必要 | 正当事由は不要 |
| 説明義務 | 一般的な契約説明 | 「期間満了で終了する」ことを文書で説明する必要がある |
| 借主の保護 | 強い | 普通借家より弱い |
| 家賃の傾向 | 相場並みが多い | 割安に見える物件もある |
| 長期居住の向き・不向き | 長く住みやすい | 長期居住には向かないことが多い |
定期借家契約は契約期間の終了とともに退去が必要になる仕組みのため、生活を安定させたい人には向きにくい契約形式です。この特徴が「やめたほうがいい」という意見につながっています。
ただし、短期滞在や単身赴任のように居住期間が決まっている場合は合理的な選択肢になります。とはいえ、長く住む前提で住まいを探すなら、普通借家契約の方が安心感は高いといえます。
多くの賃貸物件が2年契約になっているのは、法律上の扱いと暮らしやすさの両面からみて、最もバランスが良い期間だからです。普通借家契約では、契約期間を1年未満に設定すると、借地借家法の規定により「期間を定めない契約」と扱われます。この扱いになると、解約の予告期間や細かなルールを契約書で決めにくくなり、貸主や管理会社にとって非常に不都合が生じます。そのため、1年未満の期間で普通借家契約を結ぶケースはほとんどありません。
一方で、3年以上の長期契約にすると、転勤や家族構成の変化に対応しにくく、借主のライフスタイルと合わないことも多いです。そこで「短すぎず、長すぎない期間」として2年契約が広く定着しました。
なお、1年未満で契約したい場合は、マンスリー賃貸や数カ月単位の定期借家契約が選ばれることが多く、期間満了後は原則として退去する前提になります。気に入った物件に長く住みたいなら、普通借家契約の物件を選ぶ方が安心です。
普通借家契約では、1年未満でも途中解約できます。ただし、契約書に「短期解約違約金」の特約がある場合は注意が必要です。
短期解約違約金とは、入居から一定期間内に退去すると家賃の0.5〜2カ月分ほどを支払うという取り決めで、フリーレントや敷金・礼金ゼロなど、初期費用を抑えた物件でよく見られます。最近では、特別に割安な物件でなくても短期解約違約金を設けるケースが増えています。
一方、更新後の解約や、2年目の更新を行わず退去する場合には、違約金はかかりません。ただし、ほとんどの物件には「解約予告期間」が設けられているため、解約通知後すぐに退去したい場合でも、退去日までの家賃は支払うことになります。騒音など周辺トラブルが理由の場合は、まず管理会社に相談し、それでも改善しなければ「物件側の問題」として違約金の免除を交渉する余地もあります。
短期での退去は費用が大きくなるため、契約前に特約と解約予告期間を必ず確認しておくことが大切です。
普通借家契約は、契約期間が満了しても継続して住めることを前提とした仕組みです。そのため、貸主の判断だけで「更新しない」と言われても、すぐに退去することにはなりません。更新を拒否するには、貸主の側に正当事由とよばれる合理性のある理由が必要になります。たとえば、建物の老朽化により建て替えが避けられないケースや、借主に契約違反があった場合などが該当します。
借主に特別な問題がないにもかかわらず、「気分で更新しない」という扱いは認められていません。法律は借主の生活を安定させるという考え方を重視しているため、更新拒否のハードルは高めに設定されています。また、貸主が更新を拒否したい場合は、6カ月前までに更新しない旨の通知が必要です。
実際には、貸主側の事情だけで退去を求めることは難しく、立ち退きを求める場合も「立ち退き料」の提示を行い、借主の不利益を補う形を取ることが多いです。借主としては、突然の退去を迫られる心配はほとんどなく、契約内容と法律の仕組みを理解しておけば、落ち着いて対応できます。
普通借家契約では、契約期間が満了したときに「更新料」を支払う物件が一定数あります。更新料とは、契約を続けるために借主が貸主へ支払う費用のことで、地域や物件の種類によって金額に差があります。
更新料以外にも、更新時期には保証会社の更新費や火災保険の再契約が必要になることがあり、契約を継続する際の費用をあらかじめ確認しておくことが大切です。
更新料の金額は、物件ごとの契約内容や地域の慣習で大きく変わります。とくに関東圏では更新料の文化が根強く、家賃1カ月分を基準に設定する物件もよく見られます。一方、関西圏では更新料自体が存在しない物件も多く、更新時に追加費用が発生しないケースも珍しくありません。
また、分譲賃貸や築浅物件などでは「家賃0.5カ月分」「家賃1カ月分」が設定されやすく、築年数が古い物件や競争の多い地域では「更新料なし」の条件が増える傾向があります。
更新料の有無は法律で強制されているわけではなく、契約自由の原則に基づいて決まるため、募集条件や契約書の条文をきちんと確認することが重要です。
更新時には、更新料以外にも思わぬ費用が発生することがあります。代表的なのが、保証会社の更新費と火災保険の再契約費用です。保証会社の更新費は年1回の支払いが多く、5,000円〜1万円ほど(家賃の10〜30%程度)が相場です。保証会社を利用している場合、家賃保証を継続するために必要な費用として設定されています。
火災保険も2年更新が一般的で、1〜2万円前後が目安です。保険は入居条件として指定されていることが多く、未加入や更新忘れは契約違反と扱われるため注意が必要です。
このように、更新のタイミングでは複数の費用が発生する可能性があります。毎月の家賃だけで判断すると予想外の出費につながるため、契約前に「更新時の総費用」を必ず確認しておくと安心です。
普通借家契約の更新には大きく分けて「自動更新」と「合意更新」の2種類があります。どちらの方式かによって手続きや必要な費用が変わります。契約書にどの方式が採用されているかを確認しておくと、更新のタイミングで慌てずにすみます。
自動更新とは、契約期間が満了しても特別な手続きを行わず、そのまま契約が継続する仕組みです。貸主と借主のどちらからも更新拒絶の通知がなければ、契約が同じ条件で続きます。
自動更新の物件では、更新料の支払い案内だけが届くケースもあり、書面で再契約を行わない場合があります。更新料の有無や金額は契約書の特約で定められているため、前もって確認しておくと安心です。
また、更新後は再び解約予告期間に従い、いつでも解約できます。たとえば「1カ月前に伝えれば解約できる」と書かれていれば、更新後の3年目や4年目の引っ越しでも違約金は不要です。
自動更新が採用されていない契約では、「合意更新」という手続きが必要になります。これは、貸主と借主が改めて契約内容を確認し、更新契約書に署名する方式です。合意更新の場合であっても、貸主が更新を断つには正当事由が必要です。単に「貸主の都合が変わった」という理由では認められません。
更新契約書には、家賃の改定や更新料の金額、今後の解約予告期間などが改めて記載されます。書類の内容は細かく確認し、疑問があれば管理会社に早めに相談することが大切です。このタイミングで損害保険や火災保険などの更新・再加入手続きが必要なことも多いため、併せて確認しておきましょう。
合意更新は手間がかかる反面、契約内容を整理する良い機会でもあります。更新後は、再び通常どおり生活を続けられ、必要があれば解約予告期間に従って引っ越しもできます。
普通借家契約では、貸主が「更新しない」「退去してほしい」と伝えても、借主が必ず従う必要はありません。以下のポイントを押さえておくと、貸主との話し合いを有利に進めやすくなります。
立ち退きや更新拒否の話が出た際に、まず確認したいのは「どの契約形式で締結しているか」です。普通借家契約であれば、契約期間が終わっても自動更新になることが多く、簡単に退去する必要はありません。一方、定期借家契約であれば、期間満了で確実に終了するため、退去を前提に動く必要があります。
契約書には、更新の仕組み・更新料の有無・更新時期などが細かく書かれています。契約当初に不動産会社から説明を受けていても、時間が経つと記憶が曖昧になりやすいため、問題が起きたときは必ず原本を確認しましょう。
更新拒否や立ち退きの可否を左右する中心的なポイントが正当事由です。正当事由は、貸主と借主の事情を比べながら契約終了の妥当性を判断する考え方で、貸主の都合だけでは成立しません。
これらの事情について、貸主と借主の必要性のバランスや、これまでの契約の経緯、建物の利用状況、立ち退き料の提示の有無などを総合的に判断します。「正当事由が弱い」と判断できる場合は、借主が更新を主張でき、退去せず住み続けられる可能性もあります。貸主の説明が曖昧な場合は、理由の根拠を丁寧に確認しましょう。
立ち退きや更新拒否に関するやり取りは、後々の誤解やトラブルを防ぐために、必ず記録を残すことを意識すると安心です。口頭での説明は解釈の違いが生まれやすく、後から「そんな説明はしていない」と言われるおそれがあります。
メールでのやり取りや、話し合いの内容をまとめたメモなど、後日確認できる形で残しておくと有効です。日時・内容・相手の発言などを丁寧にメモしておくと、紛争になったときに状況を整理しやすくなります。
貸主からの立ち退き要求に納得できない場合や、正当事由の判断に迷う場合は、早めに弁護士へ相談すると安心です。法律の専門家であれば、契約内容や貸主の主張を客観的に分析し、借主がどのように主張すべきかを教えてくれます。
立ち退き料が提示された場合でも、その金額が適切かどうかを判断するのは難しいものです。弁護士に相談すれば、妥当性の検討や金額の交渉も任せられ、借主が不利な条件で合意してしまうリスクを減らせます。
理不尽な更新拒否や突然の退去要求で悩んでいる場合は、早めに専門家へ相談して、適切な対応を進めましょう。
普通借家契約では、1年未満の契約期間にすると借地借家法の規定により「期間の定めがない賃貸借」とみなされる可能性があります。期間の定めがない契約になると、解約の予告期間などのルールを細かく設定しにくくなり、貸主にとって管理が難しくなります。
また、3年以上の契約期間にすると、借主にとって引っ越しのタイミングを調整しにくいという問題が出てきます。1年未満は短すぎ、3年以上は長すぎるという事情から、貸主・借主の双方にとって扱いやすい「2年」が広く定着した形です。
更新しないと告げられても、必ず退去しなければならないとは限りません。普通借家契約の場合、貸主が更新を拒否するには正当事由が必要です。正当事由とは、貸主と借主双方の事情を比較しながら、契約を終えることが妥当かどうかを判断する考え方です。建物の老朽化による建て替えが必要な場合や、借主が契約違反を続けている場合などが判断材料になります。
単に「貸主の都合」だけで退去を求めても認められないため、更新拒否を告げられた場合は理由を確認し、納得できないときは相談窓口に頼る方法もあります。
借主からの途中解約は可能ですが、契約書の内容によって費用が変わります。特に注意したいのが短期解約違約金です。フリーレント、敷金・礼金ゼロ、家賃割引などの特典が付く物件では、入居後すぐに解約すると違約金がかかるケースがあります。相場は家賃0.5〜2カ月分で、6カ月未満は家賃1カ月分、6カ月〜1年未満は0.5か月分など段階的に設定されることもあります。
一方、特約がない場合は違約金が発生しません。ただし、多くの物件で「解約予告期間」があり、1カ月分の家賃は支払う必要があります。解約を考えたら契約書の特約を必ず確認しましょう。
普通借家契約は、借主が落ち着いて生活を続けられるように考えられた契約形式です。しかし、「更新を認めないと言われた」「立ち退きを求められた」「違約金に納得できない」などの場面では、契約書の内容や法律の理解が不十分だと判断を誤りやすくなります。とくに、正当事由の有無や更新拒否の適法性は専門的な要素が多く、自分だけで結論を出すのは簡単ではありません。
普通借家契約をめぐるトラブルが生じたときは、早い段階で弁護士へ相談し、生活の安定を守るために適切な対応を進めましょう。相談先に迷ったら、立ち退き交渉に豊富な実績を持つ「VSG弁護士法人」にお気軽にご相談ください。無料相談で詳細をお伺いしたあと、立ち退き料の増額に尽力させていただきます。