一般的な賃貸住宅では、家賃滞納すると強制退去させられる恐れがありますが、市が管理・運用する市営住宅の場合も同様です。
生活が苦しくて家賃滞納しそうな人や、既に滞納している方は、いつ強制退去させられるかという恐れを感じながら過ごさなければいけません。
そのため、その可能性がある方は、強制退去までの期間と流れを事前に理解しておく方がよいでしょう。
この記事では、市営住宅で家賃が支払えない時のリスクやデメリット、強制退去までの流れ、対処法を紹介します。
目次
市営住宅は、民間の賃貸住宅と比較して家賃が安い特徴がありますが、それでも家賃を支払えない人も多いです。
もちろん「家賃滞納者が多いため、自分も大丈夫」なわけではありません。
すぐに対処しなければいけませんが、ここでは、市営住宅の家賃を滞納している人の数と、家賃が支払えない理由について紹介します。
市営住宅に住んでいる方の中で、家賃を支払えない人の割合は、全体の12%前後です。
以下の表は、総務省が発表した公営住宅の供給等に関する行政評価・監視 結果報告書のデータをまとめた表です。
平成25年度 | 26年度 | 27年度 | |
---|---|---|---|
入居戸数 | 1,918,154人 | 1,897,211人 | 1,879,374人 |
家賃滞納者数 | 235,229人 | 231,265人 | 207,232人 |
割合 | 12.2% | 12.2% | 11.0% |
上記の通り、平成27年度では約20万人以上の方が家賃を支払えない状況にありました。
もちろん、以前のデータのため、入居戸数と家賃滞納者数に増減があるでしょう。
しかし、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の「賃貸住宅市場景況感調査」によると、民間の賃貸住宅の家賃滞納率は、0.3%〜0.8%ほどです。
比較してわかる通り、家賃が安い市営住宅であっても家賃滞納者は多いということが現実に見られます。
市営住宅の入居者で家賃が支払えない理由は様々に挙げられますが、主に以下の要因が考えられます。
市営住宅の場合、抽選方式とポイント方式を併用して入居者を抽選から選定しています。
その過程では、入居者の収入が一定の基準以下であり、年収に合った家賃の物件かを審査します。
入居希望者は市営住宅に住む前に、収入に見合った家賃の物件であるのかをしっかり調べられるということです。
つまり、市営住宅の家賃を滞納する方は、入居時より収入や生活環境の変化が生まれたケースが多いことがわかります。
前述した通り、市営住宅に住んでいる方は、民間の賃貸住宅の入居者よりも家賃滞納率が高くなっています。
そもそも市営住宅と民間の賃貸住宅の入居者によって収入が異なる点も、家賃滞納する大きな要因として考えられるでしょう。
市営住宅の家賃は、入居世帯の収入や市町村、広さや築年数によって決まります。
上記の計算式で算出した場合、民間の賃貸物件より家賃が安くなるのが一般的です。
市営住宅は、入居者の収入が低くなるほど、家賃の低い物件に住める特徴があります。
ここでは、居住できる物件の家賃の算出方法を紹介します。
家賃算定基礎額は収入によって変動します。
収入(月額) | 家賃算定基礎額 |
---|---|
~104,000円 | 34,400円 |
104,001~123,000円 | 39,700円 |
123,001~139,000円 | 45,400円 |
139,001~158,000円 | 51,200円 |
158,001~186,000円 | 58,500円 |
186,001~214,000円 | 67,500円 |
214,001~259,000円 | 79,000円 |
259,001円~ | 91,100円 |
参考:公営住宅法施工例の改正に伴う入居収入基準等の改正について
収入(月額)は以下の計算式で算出します。
各種控除 | 控除対象者 | 控除額 |
---|---|---|
同居者控除 | 同居する親族(本人を除く)及び遠隔地扶養親族(婚約者・内縁の方も含む) | 38万円 |
特定扶養親族控除 | 扶養親族(配偶者は除く)及び遠隔地扶養親族のうち16歳以上23歳未満の方 | 25万円 |
老人控除対象配偶者控除 | 70歳以上の配偶者がいる場合 | 10万円 |
老人扶養親族控除 | 70歳以上の扶養親族がいる場合 | 10万円 |
障がい者控除 | 障害者手帳が交付されている方(特別障害者控除対象者以外) | 27万円 |
特別障がい者控除 | 重度の障害のある方がいる場合 (身体1~2級,精神1級,療育A判定) | 40万円 |
ひとり親控除 | 納税者がひとり親であるときに適用される | 35万円まで |
寡婦(夫)控除 | 所得税法上寡婦または寡夫控除の適用を受けている方 | 27万円×人数 |
世帯収入が少なく、適用となる控除が多くなるほど、家賃算定基礎額が低くなります。
係数は全部で4つあり、それぞれ値が異なります。
係数は、各自治体によって異なります。
人口が多い都心部などは、市営住宅の需要も多く、申込者の収入も高いため、係数の値も高い傾向にあります。
既に家賃を滞納している方や、今月の支払いが難しい人は、事前に家賃滞納のリスクなどを把握しておいた方がよいでしょう。
ここでは、市営住宅で家賃滞納した場合のリスクやデメリットを紹介します。
市営住宅で家賃を3カ月滞納すると、強制退去させられるリスクが高くなります。
家賃滞納をしてから1カ月〜2カ月ほどで、入居者へ催促状や催告書が送付されてきます。
催促状を無視したまま3カ月間経過すると、内容証明郵便が届きます。
内容証明郵便には、滞納分の納付書や賃貸借契約の解除通知、物件の明け渡し予告が同封されていることが一般的です。
内容証明郵便は、過去の家賃滞納の催促を行ったことを証明する書類であり、後の強制退去のための訴訟時に用いられます。
内容証明郵便はいよいよ強制退去の準備に入ったと認識できるでしょう。
すぐに強制退去の要請を受けるケースはありませんが、家賃を滞納し続けると、居住許可の取り消しがされ、強制退去させられる可能性も高いです。
市によっては、家賃滞納をすると遅延損害金(または損害賠償金)が発生する可能性があります。
遅延損害金は、期日までに支払いがなかった場合に発生します。
一般的には、滞納分の家賃に対して最大14.6%の利率と延滞日数を掛け、365日で割り返して算出します。
たとえば、家賃10万円を2カ月滞納し、14.6%の利率のケースであれば、遅延損害金は2,400円となります。
もちろん利率は市によって異なる上、そもそも発生しない場合もあります。
しかし、延滞日数が長くなるほど金額も大きくなるため、入居時に確認しておきましょう。
家賃滞納をすると、連帯保証人に支払催促が届きます。
市営住宅に入居する際は、原則、連帯保証人が必要です。
しかし、自治体によっては、入居者が60歳以上の方や障害者、生活保護者などであれば保証人が免除される場合もあります。
近年では保証人を求めない自治体も増えていますが、家賃滞納によって保証人へ催告書が送られ、期限を指定して納付請求されます。
このように、連帯保証人に滞納分の請求がされるリスクがあります。
家賃滞納を行っていると、自治体から電話、訪問、呼出での納付指導を受けます。
平日だけでなく、休日や夜間も行われるため、必然とストレスを感じる人も多いです。
実際に国土交通省でも、家賃滞納者に対して初期段階で早期接触し、納付を呼び掛けています。
また、滞納時に備えて入居時に本人からの収入調査の同意書を求められるケースも多いです。
入居者の口座情報等の調査を行うため、弁護士へ調査を依頼し支払えるか確認もしている自治体も存在します。
市営住宅で家賃滞納をすると、いつまでに強制退去させられるのでしょうか。
おおまかな流れは以下の通りです。
上記の通り進むと、家賃滞納から6カ月前後で強制退去となります。
ここでは、具体的な強制退去までの流れと期間について紹介します。
期日までに家賃の支払いを行わなかった場合、賃借人に対して催促の連絡が届きます。
はじめは、催促状などが届きますが、3カ月滞納すると催告書より期日を指定して納付請求されます。
催告されても家賃の納付をしなかった場合、電話や訪問によって納付指導されるため注意が必要です。
また、賃借人と電話や面談ができない場合、連帯保証人に連絡が届きます。
一括納付が難しい場合、遅くてもこの時点で分割納付ができないか相談してみましょう。
もちろん家賃滞納する前に相談するのがよいですが、今後どのように支払っていくのかを決める必要があります。
分割納付などで合意ができ、確実に支払えば強制退去は免れます。
納付指導を3回以上行っても家賃滞納が続く場合、最終納付催告及び明渡し請求予告の通知がされます。
最終納付催告にも応じないと、居住許可の取り消しと物件の明渡すような内容が記載された内容証明郵便が届きます。
このタイミングで納付しなければ、いよいよ本格的に強制退去の手続きへ移行するため注意しましょう。
期日までに物件の明渡しを行わないと、訴訟手続きに移行します。
訴状を裁判所に提出されてから約1カ月後に第1回口頭弁論日が行われます。
口頭弁論日では訴状に記載した事実について、家賃滞納の催促している内容証明郵便などの証拠を基に裁判所で立証されます。
滞納者は、その立証に対して反証できますが、明確な反証ができない人は参加しないケースが多いです。
参加しなければ、原告側の言い分を認めたと判断され、滞納者は敗訴となり、確定判決が言い渡されます。
訴訟が終わった後は、強制執行が申し立てられ、強制退去させられる可能性があります。
強制執行とは、法律上の権利によって借主を強制的に退去させる手続きです。
おおよそ訴状を提出されてから3カ月後に実行され、滞納者は市営住宅から退去しなければいけません。
もちろん、滞納者や連帯保証人に資金力がある場合、預金や給与などの差し押さえによって滞納を解消できる場合もあります。
そのため、家賃滞納を行ったからと言って100%強制退去させられるわけではありません。
しかし、金銭的な問題で家賃を支払えない状況の方もいらっしゃるでしょう。
次の項では、市営住宅の家賃が払えないときの対処法を紹介します。
ここでは、市営住宅の家賃が支払えないときの対処法を紹介します。
住居確保給付金制度とは、離職や廃業などで家賃の支払いが困難となってしまった方に、家賃を助成する制度です。
仕事を辞めたなどの理由により、収入が減少して家賃が支払えない方などが利用できます。
また、給与所得者だけでなく自営業者やフリーランスも対象者です。
支給額は市区町村ごとに定める額を上限に、家賃額を原則3カ月間まで支給されます。
ただし、誰でも利用できるわけではなく、対象者の要件が以下のように定められています。
対象者要件 |
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申請は居住している地域の自治体のホームページで面談予約し、必要書類を提出して審査を待つ流れとなります。
家賃の支払いが困難な方や、すでに家賃滞納している方は、本制度の利用を検討してみましょう。
公営住宅では、家賃の支払いが困難となった方を対象に、「家賃減免制度」を設けています。
一定期間に渡り、家賃の減免や徴収猶予等の負担軽減措置を受けられます。
家賃免除制度の対象となる方は、各自治体によって異なります。
一般的には、収入が低い世帯や病気や離職などによって収入が低下した方、家計を担っていた方の死亡した場合などが対象です。
免除額も自治体によって異なり、所得に合わせた減額率(10%〜80%)が定められています。
一方で、すでに家賃滞納を行っている人は対象外としている場合もあります。
本制度は滞納する前の対策であるため、家賃の支払いが難しいと分かった時点で、自治体へ確認してみましょう。
市営住宅の家賃が支払えない状態となった際、運営している公的機関に相談してみましょう。
家賃減免制度はもちろん、分割払いなどに対応してくれる場合があります。
市営住宅の場合、市役所や区役所などが相談先です。
担当者と面談し、家賃が支払えない理由や状況を説明すれば、支払期日を延期してくれる場合や、分割支払いに応じてもらえる場合もあります。
ただし、分割支払いであっても遅延損害金が発生する自治体もあるため注意しましょう。
また、分割支払いに応じてもらったのにも関わらず、支払いを滞納し続けると強制退去になる可能性もあります。
そのため、家賃滞納になりそうと分かった時点で、即座に公的機関へ相談し、対処方法を決めるようにしましょう。
必ず分割支払いなどに応じてもらえるとは言い切れませんが、公的機関は入居者を守るために最善を尽くしてくれます。
市営住宅は家賃滞納を3カ月以上行うと、強制退去させられる可能性があります。
また、退去だけでなく、遅延損害金が発生するため、より金銭的に苦労するでしょう。
家賃の支払いが困難となった際は、市営住宅を運営している公的機関に分割支払いや免除制度の利用ができないか相談してみましょう。
また、市営住宅の入居者に対しては、家賃滞納への対処法が多く設けられています。
家賃が支払えない理由で催促状を放置していると、強制退去となるため、即座に市へ相談しましょう。