住居は人が生活するための基盤となるため、もし突然の立ち退き要求を受けたら生活上困ってしまう人がほとんどでしょう。
賃借人が住居に住み続ける権利は法律上保護されており、賃貸人の一方的な都合だけでは退去させられません。
ただし、立ち退き拒否が認められるかは当事者双方の事情から総合的に判断されます。
必ずしも賃借人の権利が優先されるとは限らないため注意しましょう。
ここでは、賃借人からの立ち退き拒否や強制退去となる場合の流れなどを解説します。
目次
賃借人が立ち退きを拒否できる理由は、賃貸契約で弱い立場にある借主を保護するための「借地借家法」があるためです。
借地借家法では、賃貸契約における賃借人の立場が強く保護されています。
賃貸人の一方的な都合のみで賃借人に立ち退きを求める行為は認められず、立ち退きを求めるための正当事由が必要です。
立ち退きを要求する理由が正当事由として認められなければ、賃借人は立ち退きを拒否して居住を続けられる可能性が高いでしょう。
賃借人が立ち退きを拒否する際の理由は、主に以下の3つです。
それぞれについて確認していきましょう。
賃借人が立ち退きを拒否する理由が、単純に物件を気に入っているための場合もあるでしょう。
物件を気に入っている背景は、以下のように様々です。
物件を気に入っていて立ち退きを拒否したい場合は、その意思を強く主張し続けましょう。
立ち退きを拒否する人の中には、転出するためにかかる費用や手間をかけたくない人も少なくありません。
賃貸人からの要求で立ち退きする場合、転居先の物件を探し、荷物をまとめて引っ越しをする必要があります。
また、転居先の契約金や引っ越し費用など、立ち退きによってかかる初期費用も多く、支払いの負担を考えて拒否する人も多いでしょう。
自身の負担に見合う立ち退き料が受け取れるよう、賃貸人との交渉が必要です。
転居先探しに不安があり、立ち退きを拒否したいケースも考えられます。
居住中の物件と同じぐらい住みやすい物件が見つかるか、物件を見つけた後に入居審査が通るのかといった不安を抱く人は多いでしょう。
特に、賃借人が高齢である場合は、転居先における入居審査が通りにくくなる可能性が否定できないため、不安は大きくなりがちです。
賃貸人が賃借人へ立ち退き要請をするためには、正当事由が必要です。
正当事由とは、賃貸人が賃貸借契約を解除あるいは賃貸借契約の更新を拒絶するための道理にかなった理由を指します。
立ち退きが認められる正当事由は、借地借家法で定められています。
正当事由かどうかを判断する主な基準は、以下の通りです。
正当事由として認められる項目は多いため、本章では一部を紹介します。
たとえば、賃貸人に介護が必要になり、介護してもらう家族に同居してもらうため賃貸物件に呼ばなければならない場合です。
介護のために家族を呼ぶ場合は、正当事由が強いと考えられます。
一方、ただ単に家族を呼びたいだけでは正当事由が弱く、立ち退き要請が裁判所に認められないケースも珍しくありません。
たとえば、賃貸物件を売却しないと賃貸人が破産するケースです。
実際に賃貸人の生活が困窮しており、物件の売却資金がなければ破産せざるを得ない場合は、正当事由として認められるかもしれません。
しかし、単に空き家にしたほうが高く売れるだけならば正当事由としては弱いでしょう。
賃貸物件が老朽化してきたために、賃借人を立ち退かせて建て替えるのは正当事由に該当します。
賃貸物件が老朽化し、大地震が発生すると崩壊してしまうような状態の場合は、立ち退き要請の正当事由が強いとされます。
しかし、建物が耐震補強してある、あるいは基礎も建物も耐久性が残っている建物の場合は、老朽化していても正当事由は弱いと判断されるかもしれません。
賃貸人より立ち退き要請が来ても、すぐに立ち退く必要はありません。
立ち退くまでには、以下のような手続きや対応があるためです。
ここからは、立ち退きをするまでの主な流れを詳しく解説します。
賃貸人から内容証明郵便などで立ち退きを求める旨とその理由などが通知されます。
通知を受けた場合、速やかに立ち退き交渉を進める方法を探す、弁護士に相談するなどの行動を開始しましょう。
賃貸人からの通知には、立ち退き説明会の開催の案内が記載されている場合があります。
立ち退き説明会には必ず参加して、立ち退き要請の理由や立ち退き料の金額、立ち退きの期限を確認しましょう。
立ち退き説明会が開催されない場合は、賃貸人に直接立ち退き要請の理由・立ち退き料の金額・立ち退き期限を聞きましょう。
立ち退き要請の理由や立ち退き料の金額などは、立ち退き交渉で非常に重要です。
賃貸人から立ち退き要請理由などを聞いた後、立ち退き交渉を進めます。
立ち退き交渉をするときには、正当事由の強弱を正確に判断しなければなりません。
正当事由の強弱により、立ち退き料の金額が変わるためです。
正当事由の強弱が判断できない場合は、立ち退き交渉代行を弁護士に依頼しましょう。
弁護士に代行を依頼すると、賃貸人から譲歩案を引き出しやすくなります。
立ち退き交渉がまとまったら、立ち退き期限までに立ち退きをします。
立ち退く際には、立ち退き交渉でまとまった立ち退き料を受け取ってから立ち退きます。
退去の強制執行は、以下の流れで行われます。
建物明渡し訴訟から判決まで約3カ月~6カ月、強制執行の申立てから実行まで約1カ月かかります。
以下のような立ち退きを拒否するコツを把握しておけば、立ち退き料をしっかりと受け取れます。
ここからは、立ち退き拒否をするときのコツを詳しく解説します。
立ち退き料をもらう前に退去すると、立ち退き料を受け取れません。
立ち退き交渉が順調に進んでいても、立ち退き料を受け取る前に賃貸物件から退去しないようにしましょう。
賃借人は借地借家法に守られており強い立場にあるため、立ち退き交渉内容に納得できるまで交渉を続けましょう。
賃借人が立ち退き交渉に応じずに交渉が長期化すると、賃貸人はできるだけ早く立ち退きを完了させたい思いが強くなります。
立ち退きを早く完了させたい場合、立ち退き交渉の譲歩案を提示する可能性が高くなります。
立ち退き交渉の譲歩案として、立ち退きまでの間の家賃の無料や、賃貸人による新居の手配が期待できるでしょう。
譲歩案を引き出すためにも、賃貸人を感情的にさせない程度の交渉を続けてください。
なお、賃借人自身で立ち退き交渉をする場合には、交渉過程を書面で残しておく必要があります。
立ち退き交渉中の話を記録して、賃貸人とのトラブルを避けるためです。
もし可能であれば、交渉過程を記録した書面に、記載内容が正しいと証明するために賃貸人の署名と、賃借人の署名を残しておきましょう。
立ち退き拒否をするときには、弁護士に拒否や交渉を任せるのがよいでしょう。
賃貸人は賃借人が一般個人の場合に、無理難題を押し付ける場合があります。
しかし、賃貸人は法律の専門家である弁護士に対して、無理な要求は突き付けられません。
弁護士に依頼すると不必要な交渉の時間を削減でき、立ち退き交渉の時間を短縮できます。
また、弁護士は法律のプロであるため、法律に則った立ち退き交渉ができます。
一般個人で交渉をすると、不利になる発言や、トラブルに発展する発言をしがちです。
立ち退き交渉を有利に進めたければ、早めに弁護士に依頼しましょう。
立ち退き拒否のデメリットは、以下の通りです。
それぞれの質問について解説します。
立ち退き拒否をすると、最終的には賃貸人から建物明渡し訴訟を提起される可能性があります。
賃貸人がどうしても建物を使用しなければならない強い理由がある場合、裁判で争う可能性が高いでしょう。
もし裁判で争う場合、手続きによる労力や精神的な負担もかかり、弁護士に依頼する費用も発生します。
敗訴した場合、最終的には退去の強制執行が実行されます。
賃貸人に強い正当事由がある場合、ある程度の妥協点で譲歩した方がデメリットは少なくなるでしょう。
賃貸人との関係が悪化してトラブルが起きた場合、弁護士へ相談しましょう。
弁護士は法的な知見や過去の判例から依頼人の利益が最大化するようトラブルの解決にあたってくれます。
事態がより悪化する前に、立ち退き問題のトラブルに精通した弁護士へ相談するのがおすすめです。
なお、賃借人が勝手に鍵を変えたり家財を勝手に処分したような場合、警察へ相談しましょう。
警察は民事不介入の原則のため私人間の争いに介入できませんが、危害を加えられている場合は犯罪として対応してくれます。
入居物件からの立ち退きを求める通知が届いても、すぐに立ち退く必要はありません。
まずは、賃貸人の主張する立ち退きの理由が正当事由のあるかを確認しましょう。
賃貸人に正当事由がなく、一方的な都合による場合、賃借人からの立ち退き拒否は認められる可能性が高くなります。
立ち退きの要請が正当事由に基づく場合であっても、新住居で生活を始めるために立ち退き料を請求できる場合がほとんどです。
立ち退き料の交渉は個人では算定が難しい場合がほとんどであるため、弁護士への依頼がおすすめです。
立ち退き料の算定や交渉を弁護士へ依頼すれば、賃貸人も支払いに応じる可能性が高くなり、スムーズに交渉を進められるでしょう。